大西斎の発言 (憲法審査会)
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○参考人(大西斎君) 九州産業大学の大西と申します。
この度は、参議院憲法審査会での発言の機会をいただき、厚くお礼を申し上げます。
時間の都合でレジュメの論点全てに触れることができないことを最初にお断りさせていただきます。また、日本国憲法の改正手続に関する法律を国民投票法と述べさせていただきます。
元来、憲法改正権と国民主権は不可分な関係に私はあるというふうに思っております。芦部説でも、主権の権力性とは、具体的には憲法改正を決定する権能といいます。それだけに、国民主権を担保する意味からも、平常時から十分論議した、国民的コンセンサスが得られた国民投票法を的確に準備しておく必要があります。憲法改正に伴う議会の発議があれば、制度上いつでも国民投票が適切に実施される状況でなければならず、そうでなければ、国民主権が担保されないばかりか、憲法改正の必要性が生じた場合にデュープロセスにのっとった改正が行われないおそれも考えられなくはありません。
現状の国民投票法は附則三条一項の期間を経過しており、今回の改正案が一日も早く成立することは急務と言えましょう。できることなら、日本国や日本国民の将来のためにも、議員の皆様方がお力を合わせて、検討課題の先送りを極力することなく、改正案がより完備されたものになることを望む次第でございます。
次に、三つの検討課題に対する意見陳述を行いたいというふうに思っております。
まず、投票年齢ですが、よく、十八歳以上に選挙権を認めているのは世界の九割近くの国がそうであるからと言います。私は、本来は、二十歳で成年とするという我が国の伝統文化が守られてしかるべきだと思います。それは、司法上の責任能力の問題や権利と義務との関係からも言えます。また、十八歳と二十歳は大学でいえば一年生と三年生に該当する年齢ですが、成熟度の面で見ると、私は相当違うように感じます。当然個人差はありますが、毎日若い方を見ていると、十八歳より二十歳の方の方が相対的に落ち着きや社会的視野の広まり、判断力においてより社会人としての適性が満たされているように思います。
そのような点を加味すれば、我が国が培ってきた二十歳の参政権を簡単に変更していいものでしょうか。改正案では十八歳以上の投票権が現実味を帯びてきただけに考えさせられるものがあります。
ただ、現行の国民投票法が成立する際に十八歳以上の国民に投票権を与えるということに政治的な判断があったとしたら、ここで十八歳の年齢にこだわり過ぎて国民投票法の完備がこれ以上遅れることの方が問題多いと思うだけに、ここでは、なぜ二十歳ではなく十八歳なのかという問題提起にとどめさせていただきたいと思います。
次に、二点目といたしまして、公務員や教育者の国民投票運動についてでございます。
八党合意の四では、公務員への規制が強まると、萎縮効果により憲法二十一条の表現の自由が阻害されるおそれがあるから配慮を求めるとあります。しかし、憲法二十一条の関連で公務員の国民投票運動の自由が必要以上に認められるとしたらいかがでしょうか。確かに、憲法二十一条を尊重したり、公務員の萎縮を最小限にするということは大事かもしれません。しかし、百地章教授も述べているように、選挙と国民投票、どちらがより高次の政治的公正性が求められるかといえば、私は明らかに国民投票ではないかと考えます。
法治国家としての頂点にある憲法を改正する国民投票が公正に行われてこそ、主権者である国民の意思が立法、行政、司法を始めとした国家制度や国民の権利保障の在り方に反映されるからです。当然、選挙制度の在り方も憲法の規定に基づいて行われるものでもあります。それだけに、政治的に中立であるべき公務員が過度に憲法二十一条の表現の自由の主張を唱えて国民投票運動に参加することになれば、行政の中立性は損なわれ、行政の信頼が失墜いたします。
また、国民投票法が目的とするところは、国民が投票する場合の自由意思の尊重と公正な国民投票の実施であります。公務員が、個人であれ組織であれ、投票の自由尊重に必要以上に影響を与えることは看過できないと言えましょう。憲法は国の最高法規であり、国の存立をも左右する特質を持つことを考えるならば、より公正な国民投票が必要であります。必然的に、公務員には政治的中立性の面からも一定の制約が必要になることは言うまでもございません。
続きまして、公務員の勧誘行為、意見表明と地位利用について述べたいと思います。
国民投票運動は公正であることが何より求められます。国民投票法第百三条は、公務員や教育者に対して地位利用の投票運動を禁止していますが、罰則規定がありません。この点、国家公務員法百二条一項、人事院規則では公務員の政治的行為は制約されており、違反した場合には罰則の対象となります。また、公職選挙法百三十六条の二においても、公務員の地位を利用した選挙活動などを禁止しており、違反した場合には罰則があります。
八党合意の二において、百三条の公務員の地位利用の罰則規定が今後の検討課題になったことは大変遺憾であります。国民投票運動をできるだけ自由闊達に行うという趣旨から罰則が設けていられないようですが、これでは国民的なコンセンサスが得られないと思います。発議者の船田代議士のさきの五月二十八日の御答弁にありましたように、罰則を設ける方向で今後是非とも論議を深めていってくださるように切望するものです。
また、改正案百条の二は、八党合意の四の点を重視する余り、非常におおらかな規定と言えます。中でも、国民投票法における勧誘において、公務員の国民投票運動の規制の在り方に関する見解でいうなら、切り分け論がどのような場合に成立するのか、疑念に思っております。憲法改正の国民投票における純粋な勧誘とそうでない場合の区分けが、選挙の場合のようには簡単にいかないのではないかと危惧するからです。場合によっては、司法を交えた政治的な混乱を来すことさえ予想されます。
私は、公務員は権力の担い手であって、その特権的地位から生み出された権力が国民に与える影響力は多大なものがあると考えております。また、権力を有する者に対する国民の信頼感があるだけに、より公正と中立性が求められます。表現の自由があるからと公務員が殊更改正法案百条の二で認められた国民投票運動を行い、結果として国民投票に大きな影響を与え、国の政治を方向付けることになっていったとしたら、公務員の本質的性格である政治的中立性や、憲法十五条二項の公務員が全体の奉仕者であることの趣旨からも逸脱していると言わざるを得ません。
それだけに、私は、適用除外不要説、制約可能性説の立場から、改正法案百条の二で勧誘行為を公務員に認めること自体が問題と捉えております。例えば、それは私はこう思うというふうな公務員の方の意思表示とは違い、勧誘行為の場合は、私はこう思うのだからあなたもこの考えに従ってくださいというように、第三者を自己の見解に誘う行為をいい、公務員の中立性から逸脱した行為と考えられます。憲法二十一条との関連で認められるのは、せいぜい意見表明までではないでしょうか。
さらに、次に、(5)の改正案附則四の組織的勧誘運動についてお話をさせていただきたく思います。
先日の本院での、五月二十六日の北村経夫議員、二十八日の熊谷大議員の質問にも関連してまいりますが、私はかつて県立の高等学校において教諭として教鞭を執っていたことがございます。当時その県では、教職員組合の組織率がほぼ一〇〇%で、選挙になると組織的な運動が展開していました。私の周りでは、自分たちの反対候補が当選したら自分たちの権利が奪われるを合い言葉に、支持候補者の演説会への動員、支持者カードの記入、ポスター貼りなどなど、かなり際どい選挙運動が組織立って行われておりました。選挙戦によっては、三万にも満たないその町で、空き家を借り上げ、電話機を十台ほど置き、そこに市内の小中高校の教員が勤務時間中に学校を抜け出し、交代で支持者カードや電話帳を用いて選挙運動の電話掛けを行っていました。
生徒の前で人の道を説いている教員が、自分たちの権利保持や政治的信条から法令を無視した組織的選挙運動は、今思い出しても一種異様な光景でした。
校長の中には、選挙を通じて自分たちの主義主張を実現するのは大切なことだと、朝の朝礼時に教職員を前にして公然と言う方も見えました。組織立った選挙戦を展開すればどれほどの威力を発揮するか、私自身目の当たりにしてまいりました。その結果、当時当選が厳しいと言われていた候補者が当選したりもしました。
選挙戦と国民投票運動とを同列には扱えませんが、あれだけの組織力をもって、もし憲法改正国民投票運動を行い、自分たちの組織にとって都合の良いキャンペーンを全国規模で打ったとしたらいかがなものでしょうか。
教育者の影響力は一般の方が考えている以上に大きなものがあります。君が代にこだわりのある教員が、式典で斉唱時に起立をしないように担任クラスの生徒を教化して、卒業式に見事にそのクラスだけ全員立たなかった事例も過去に見てきております。
批判能力の乏しい純真な若者ほど教育者の教育に感化されやすいものです。まして、改正案では投票年齢も十八歳以上に引き下げられることが現実的になってまいりました。高校生にも投票権があるわけですし、同じ高校生、十五歳から十七歳の十八歳に近い生徒が控えております。私はこの点も含めて大変危惧いたしております。
組織的勧誘運動などは附則四で検討課題になっておりますが、その影響力が国民投票運動に及ぼすことを考えていただき、国民投票運動の公正な実現のためにも組織的勧誘運動などに罰則の整備を是非ともお願いしたく思います。
組織的勧誘運動は認められませんが、改正案百条の二として活動すれば合法であります。自由意思を持った教育者個人の集合体の組織として行動したにすぎないと言われたら、罰則規定があってもどこまで適用できるか疑問であります。その意味でも、前述したように、改正案百条の二の勧誘行為を公務員、教育者に認めることを再考していただければと願う次第でございます。
以上、時間の都合で国政への国民投票については割愛させていただきます。
本改正案の一日も早い成立を切望するものです。
御清聴ありがとうございました。