辻山幸宣の発言 (地方創生に関する特別委員会)
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○辻山参考人 おはようございます。地方自治総合研究所で所長をやっております辻山でございます。
慌ただしいお呼び出しで、詳細にわたる検討がまだできておりません。そこで、今回は、私なりに考えている、まち・ひと・しごと創生法案等についての意見を述べさせていただきます。
とはいうものの、今自分で言いながら、まち・ひと・しごと、言いにくいなと思うんですね。何人かの友人と話をしたときにも、間違えて、ひと・まち・しごとと言っておりましたけれども、やはり「ひと」が上に来た方がいいんじゃないかなというようなことも考えておりまして、この法律のタイトルについても御検討が可能であればお願いしたいものだなというふうに思っているところでございます。
さて、今、辻参考人からも、さまざまな人口減少の傾向等についてお話がございました。
今回の法案の第一条に、「人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、」云々というふうにあります。言ってみれば、日本創成会議のレポートに言われている人口減少、消滅自治体論というものを背景にした今回の法案だったという気がしています。
去る六月には、いわゆる骨太の方針、経済財政運営の指針においても、五十年後も人口一億人の目標というものを設定しよう、こういうことを言っています。この背景には、言ってみれば、人口減少が日本社会に大きな問題を引き起こす、放ってはおけない、だから人口減少にストップをかけないといけないという認識があるように思われます。
さて、御承知のように、我が国は、明治維新を実行したとき、人口は三千二百万人余りでございました。それが一億二千を超え、そして今減少に向かっているわけでございますけれども、果たして、例えば人口が一億人を切ったら、我々のこの社会にどのような困難が襲ってくるのか。
想定されることは、もちろん私も幾つか考えました。例えば税収が減るとか、さまざまな問題が発生するだろう。しかし、人口がどれくらいになったらこういう困難があらわれるのだという意味での研究も検討も余りなされておりません。ただ減ることを恐れ、ただ減ることをとめるというその一点だけでいいのかどうか。
同時に、この問題は市町村にとっても、一体人口がどれくらいになったら市町村行政というものは立ち行かなくなるんだ、こんな議論はまだきちっとなされておりません。もちろん、市町村という基礎自治体と住民の数というものの観点、これまでも例えば適正人口規模論とかそういったものが登場したりしておりましたけれども、実は、確立した研究業績というものは示されていないという状況にあるのでございます。
その点での検証といいましょうか検討を放置したまま、とにかく人口減少ストップという政策でいいのかどうかということの再検討は必要だというふうに思っております。
さらに、先ほど辻参考人も触れましたが、私たちの国は過疎対策を大変たくさんやってまいりました。法律的な手当てもなされてまいりましたし、自治体ごとの努力もなされてきたところであります。一九八八年には、竹下内閣のときに、ふるさと創生事業をやりましたね。このような取り組みを通じて、何とか過疎から脱却したい、これ以上の人口減少をとめたいという思いは、実は地域にございました。
しかし、にもかかわらず、今日のように人口の問題に直面しているのはなぜか。この間提供されてきたさまざまな政策、これは一体何だったのかということの検証作業が必要なのではないかという気がしております。そのことをきちっとやらないままに、また、いわゆる今回の地方再生というようなスローガンの政策がまかり通っていく。恐らく、その先には、同じ結果、つまり失敗ということも念頭に置かなければならないことになりそうでございます。なぜ数十年にもわたる過疎対策が成功しなかったのか、ここにこそ、この法案の成否を分ける鍵があるんだという気がしております。
さて、そろそろ、まち・ひと・しごと創生法案の中身について触れることにいたしますけれども、この法案が示しているもので唯一具体的なのは、創生総合戦略をつくる、国がまず総合戦略をつくる、これを勘案して都道府県でもつくったらどうだい、つくる努力をしてもらいたい、市町村は国の総合戦略と都道府県の総合戦略を勘案して市町村ごとにつくってもらいたい、努力してもらいたい、こういうことになっているわけでございます。
さて、そこで、こういうことが取り沙汰されています。この間、第何次の地方分権改革とか、何次かというのは確定できませんけれども、近年の地方分権改革においては、いわゆる義務づけ、枠づけということの見直しを進めてまいりました。今回のこの総合戦略についても、いや、策定の義務づけはしていない、だから、義務づけ、枠づけの議論には当たらないというような言説があります。つまり、自治体に戦略の策定を義務づけていない、自治体の創意に任せているんだ、こういう話でございます。
ただ、この地方再生という政策全体が、まず計画をつくって、その計画の中に盛り込まれた事業、これに見合った財政の手当てを考えていくということになりそうであります。この辺は余り詳細にはまだ示されていないんだろうというふうに思いますが、そのようなことが既に自治体の中にも認識されつつあって、ということは、義務づけしなくても、計画づくりをやるということに邁進する自治体がふえるであろうというふうに考えられるんですね。ということは、義務づけしていなくてもこぞって策定に手をつけるという、一種の義務づけの変形のようなことがここで実現していくんだということになります。
そうすると、要するに、成功の見通しとかあるいは計画の緻密性とかというものを欠いた計画でとにかく手を挙げるという自治体がふえてくると、必ずやこの事業は失敗し、下手をすると消滅を早めてしまう可能性さえもあるのでございます。
したがって、この計画策定を通じた誘導、そして、そこへ金をつけていくという手法の相当な見直しが必要だと私は思っております。
先ほど申しましたが、五十年後に人口一億人を下回らない、五十年後と言っているにもかかわらず、この地方創生は五年という年限を想定しているようでございます。余りにも短期的過ぎないか。人口がふえるというようなこと、例えばそのことに成功したとしても、五年、十年でその成果が出てくるようなものではなかろうという気がいたします。
週刊誌などでは、来るべき統一自治体選挙に向けて地方向けのメッセージを発しているんだというようなことも言われておりますけれども、それでは余りにも早計に過ぎないか。やはり、じっくりと中長期的な視野を持って、国民的議論を積み上げていった上に、これから地方は、そして私たちの暮らし方はどのようにすればいいのか、そういう合意をつくっていくことが必要ではないかという気がしております。
法案の次の問題は、法案第二条の第二号というところに、日常生活、社会生活の基盤となるサービスについて、需要、供給を長期的に見通しつつ、住民負担の程度を考慮して、事業者、住民の理解、協力を得ながら、現在、将来における提供を確保していく、こういう書き方になっておりますけれども、この条文の解釈というものをどうしていくかということが一つございます。
既に述べましたように、あの過疎法以来、地方創生に取り組んだらどの自治体も人口維持ができるということにはなりません。当然ながら、法案の中にも含まれている、自治体同士の競争という状態も想定されるわけでございます。問題は、人口がどんなに減少していっても、そこに今いる住民たちに必要なサービスを自治体が提供していく、持続的に提供していくという体制を充実すること、このことがまずもって急務なんだという気がしています。
そのためには、私の私見でありますけれども、地方一般財源の充実、今回のまち・ひと・しごと創生法案においても国の財政措置ということが義務づけられているようでございますけれども、まさに、国からの財政出動によって地方の動きをコントロールするのではなくて、自治体自身が多彩な計画を、事業を生み出して、その地域を再生させていく、そういう位置関係にあるべきだと考えています。
それで、どうするんだという話になりそうですが、例えば、地方交付税の総額決定は、いわゆる法定率というものが決まっていて、一定の、国税収入に対して百分の何十何、つまり何十何%とやっているわけですね。
御承知だと思いますが、何と一九六六年、今から四十八年前に実は交付税法は改正されていまして、所得税、法人税及び酒税の収入額の百分の三十二、三二%を交付税財源として地方へ回す、こういう条文になっています。その後、新たに消費税等が創設されたりして、若干条文は変わりましたけれども、この三二%、所得税及び酒税についての三二%は何と四十八年間も変わっていません。私は、一種の立法怠慢または立法不作為、問題があるのではないかというふうに考えておりまして、この法定税率を引き上げることが、実は地方一般財源の充実ということにつながっていく。
もちろん、国全体として財政が逼迫しておりますので、今のような地方財政対策という形で、つまり借金含みになっておりますから、この税率だけでいくとは思いませんけれども、しかし、その姿勢をきちっと示して、そして自治体に、安心してさまざまな施策に取り組むことができるような、そういう条件を整えるべきではないかというふうに考えています。
最後に一点申し上げます。
それは、さきの国会で成立した地方自治法改正法との関係でございます。
さきの自治法では、その改正動機というようなものは、恐らくこのまち・ひと・しごと創生法案と変わりがないだろうというふうに見ることができるわけでございますけれども、どんなことを決めたかといいますと、自力で公共サービスを提供し続けることができなくなった市町村は、地方中枢都市と言われる、人口もあり集積もある、その中心都市と連携協約を結んで、公共サービスをそこから提供してもらうというような道を開いたわけでございます。それは、今回の創生法案の第二条第六号にもうたっています。地域の実情に応じ、地方公共団体相互の連携協力による行政運営の確保ということを言っています。
さらに、地方創生本部が作成したまち・ひと・しごと総合戦略の趣旨という文書がございますが、この中にも、もっと具体的に、「地域と地域を連携する」「地方中枢拠点都市及び近隣市町村、定住自立圏における「地域連携」の推進」ということがうたわれています。地方創生も連携を軸にして考えて、広域連携ということであります。
そこで考えていただきたいのでありますけれども、このことは何を意味しているかというと、必要な行政サービスを提供できない自治体は、近隣の中枢拠点都市と連携して持続的にサービスを提供していく道を選ぶんだということを言っています。つまり、周辺自治体の行政機能を中枢都市に集めて、そしてそこへ財政的なてこ入れをしていく、これがまさに地域の経済を牽引する地方中枢都市という構想でございます。
私はこれをなぜ問題にしているかというと、結局、人口が減り消滅自治体と指定されたようなそういう市町村は、中枢の大都市にすがってしか生きていけないような地方制度でいいのかどうかということなのでございます。それだったら、むしろ、都道府県の代替執行という補完行政、そちらの方を選ぶべきではないかと実は考えています、個人的にですが。
理由は何かというと、市町村の住民は同時に都道府県の住民であって、その主権の発動は、実は住民自身が決定できるのです。つまり、都道府県の補完を受けようという決定を市町村住民がしても、そこには主権関係の乱れはないと言えますが、中枢拠点都市に機能と財政が集中して、そこにぶら下がる周辺は、住んでいる人たちの自己決定、自治の権利はどこへ行ってしまうんだろうか、このことを今大変危惧しております。
そういう意味では、地方創生という名のもとに、人口減少、消滅可能性をちらつかせて自治を奪うことだけはやめにしていただきたいということを最後に申し上げて、陳述を終わります。
どうもありがとうございました。(拍手)