山下幸夫の発言 (法務委員会)
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○山下参考人 皆さん、おはようございます。
ただいま御紹介いただきました日本弁護士連合会の国際刑事立法対策委員会委員長をしております山下でございます。
きょうは、参考人ということで、日本弁護士連合会のこれまでの、この法律のもとになっている現行法並びにこの改正案に対する意見ないし会長声明を踏まえまして、この改正案のうち、特に政府原案に対する意見を述べさせていただきます。
今回審議されております公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律の一部を改正する法律案というのは、平成十四年に制定されたこの法律、いわゆるテロ資金提供処罰法と呼ばれている法律でございますが、以下、これを現行法と言わせていただきます、この現行法の改正でございます。
日本弁護士連合会は、現行法の制定時に、平成十四年四月二十日付の意見書におきまして、その法案に反対する意見を述べております。そこでは、そもそもこの法律は、国連のテロ資金供与防止条約の国内法化のための法律でありますが、条約が求める規制の範囲をはるかに逸脱し、その処罰の範囲を著しく拡大するものであるということ、構成要件が曖昧で不明確であるということ、予備の幇助を独立犯として処罰し、その未遂犯も処罰しようとするもので、刑法の共犯規定の例外を定め、刑事法制に重大な影響を与えるものであるから法制審議会で審議されるべき法案であるのに、その手続を経ないで法案を提出されたということなどを反対の理由として指摘しております。
本改正案の政府原案は、この問題のあった現行法を改正しようというものでございます。
本改正案の政府原案に対する改正点は、以下の二つの点でございます。
まず第一に、現行法においては資金の提供が処罰対象となっておったのですが、この提供の対象を、資金に限らず、その実行に資するその他の利益、すなわち物質的な利益にまで広く拡大するという点でございます。
第二に、これまで、公衆等脅迫目的の犯罪行為を実行しようとするいわゆるテロ企図者に対して直接資金を提供する行為及びそのような者に資金を提供させる行為を処罰しておりましたが、改正案の政府原案は、いわゆるテロ企図者に対して直接資金等を提供する一次協力者間の提供行為及びその提供を受ける行為、一次協力者に対する二次協力者の資金等の提供行為及びその提供を受ける行為、二次協力者に対するその他協力者の資金等の提供行為及びその提供を受ける行為まで、法定刑を少しずつ軽くしながら、その処罰範囲を拡大しようとしております。
しかしながら、この改正案の政府原案には、次のような問題点があると考えられます。
まず、提供の対象を資金から物質的な利益にまで拡大しようとする点については、現行法第二条の「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする目的」という曖昧な文言と相まって、提供行為についての構成要件がますます曖昧となり、捜査機関による恣意的な運用がなされるおそれを拡大することになるという問題があります。
次に、資金等の提供者について、一次協力者に資金等を提供する二次協力者、二次協力者に資金等を提供するその他協力者にまで処罰範囲を拡大しようとする点については、処罰対象者を著しく拡大するものであります。
現行法であるテロ資金提供処罰法は、公衆等脅迫目的の犯罪行為を実行しようとするいわゆるテロ企図者に対して直接に提供行為を行う予備行為の幇助を独立犯として処罰する規定を設けております。
そもそも、刑法の解釈論として、予備の幇助が認められるかどうかは一つの論点であり、これを否定する見解もあるところでありますが、現行法では、資金の提供行為に関して、予備行為の幇助を独立犯として処罰する規定を設けたということであります。
既に述べましたように、日本弁護士連合会の意見書においては、現行法第一条の公衆等脅迫目的の犯罪行為の規定の仕方が曖昧で不明確であるということを指摘しておりました。
本改正案の政府原案は、いわゆるテロ企図者に対する資金等の提供行為を一次協力者の行為と捉えた上で、さらに、その一次協力者に対する資金等の提供行為を新たに処罰しようとしております。これは、いわば予備行為に対する幇助の幇助を処罰しようとするものであります。
そもそも、予備行為や幇助行為という概念は、非常に外延が広くて曖昧なものであり、運用次第でその処罰範囲が不当に拡大するおそれがあります。それでも、現行法では資金の提供行為という限定がありましたが、本改正案の政府原案では、これを物質的利益の提供にまで広げようとしておりますので、処罰範囲が広がり過ぎるおそれがあることは否定することができません。
本改正案は、さらに、一次協力者に対する資金等の提供をする者を二次協力者として、その二次協力者に対するその他協力者の資金等の提供も新たに処罰しようとしています。これは、いわば予備行為に対する幇助の幇助の幇助を処罰しようとするものです。これにより、そもそも予備行為や幇助行為という概念が非常に外延が広く曖昧なものであることと相まって、その処罰範囲はさらに拡大することになります。
いずれの罪についても、「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする目的」という目的規定や、「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行のために利用されるものとして、」という限定はされていますが、その要件も極めて曖昧であり、適切な限定になっているとは考えられません。
このように、本改正案の政府原案は、現行刑法の共犯規定と比較して、正犯の行為からはるかに離れた行為を処罰しようとするものであり、その処罰範囲は著しく広範に過ぎると考えられます。本改正案の政府原案が成立すると、構成要件が不明確であり、著しく広範な処罰範囲を定めることから、テロ対策という極めて政治的な判断から、恣意的な不当逮捕、勾留がなされる危険性が増大することになると考えられます。
テロリズムを予防するための措置の必要性と、国際社会の中で我が国がその役割を果たすことが重要であるということは言うまでもありません。本改正案が、政府間組織であるFATF、金融活動作業部会からの勧告に基づいていることも承知しているところであります。
しかしながら、テロリズムの予防のためには、市民の基本的自由を侵害することがないよう、基本的人権に十分に配慮し、尊重することが必要であり、テロ対策のための目的と手段のバランスをとることが必要であると考えられます。
現行法及びその改正案の政府原案は刑事立法であり、その恣意的な運用によって国民の身体の自由が侵害されることがあってはなりませんし、処罰範囲が過度に広範で、不明確な処罰規定が存在すること自体によって、国民の自由な活動が萎縮させられるおそれがあります。テロ対策のための目的と手段のバランスがとれていないという点で、本改正案の政府原案には問題があると言わざるを得ません。
現行法が成立した後、一件も適用例がないとされています。これは、国内法としての立法事実がないことを示しており、少なくとも、我が国において、本改正案の政府原案のような改正をしなければならないという立法事実は存在していないと考えられます。
本改正案の政府原案にはこれまでに述べたようなさまざまな問題点があり、本改正案の政府原案には反対せざるを得ないと考えております。
日本弁護士連合会は、平成二十五年四月十七日付の会長声明において、本改正案に反対し、広く国民の意見を聞いて徹底的に審議を尽くすことを国会に対して求めているところであります。
以上で私の発言を終わります。ありがとうございました。(拍手)