橋爪隆の発言 (法務委員会)

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○橋爪参考人 ただいま御紹介にあずかりました東京大学の橋爪と申します。専門分野は刑法でございます。
 このように参考人として意見を述べる機会をいただきまして、大変光栄に存じます。本日は、刑法の一研究者の視点から、今回の改正法案の内容につきまして若干の意見を申し上げたいと存じます。A4で一枚の資料をお配りしているかと存じます。それに即しまして、考えるところを簡単に申し述べたいと存じます。
 当委員会におきます議事録を拝見しておりますと、改正法案をめぐっては刑法上の問題点について御指摘があり、活発な御議論があったように理解しております。私は刑法の研究者でございますので、このような刑法上の問題点に限って、きょうは若干の意見を申し上げたいと存じます。
 恐らく、本改正案につきましては、刑法上、二つの観点からの御懸念があったように理解しております。すなわち、第一に、改正法案においては、処罰の主体が拡大されたことによって、現行法と比較して処罰範囲が大幅に拡大しているのではなかろうかという御懸念、さらに、第二に、改正法案の特に三条ないし五条の処罰規定については、その限界が不明確であり、犯罪構成要件としての明確性の要請に十分に対応できていないという御懸念でございます。
 こういった問題点は大変重要な御指摘ではございますが、結論から申し上げますに、刑法理論としては必ずしも深刻な問題ではないように考えております。
 以下、順次その根拠を申し上げます。
 まず、第一の点でございます。
 まず、現行法の処罰範囲を確認しておきたいと思いますが、現行法第二条におきましては、公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする目的で資金を提供する行為が処罰されており、これが改正法案三条一項において基本的に引き継がれております。
 そして、改正法案では、三条二項におきまして、三条一項の行為者と同一の目的のもと、資金提供者に対してさらに資金等を提供する行為、以下、これを間接的資金提供行為と申し上げますが、この間接的資金提供行為の処罰、また、第四条第一項では、三条一項の罪の実行を容易にする目的による間接的資金提供行為の処罰が提案されておりまして、これは、一見しますと、処罰範囲の拡張をもたらすようにも見えます。
 しかし、これは、現行法におきましても、実は、資金提供罪の共同正犯や幇助犯として処罰可能な類型でございます。すなわち、改正法案三条二項の行為は、資金提供罪の共同正犯が成立し得る局面、また、改正法案四条一項の罪は、資金提供罪の幇助犯として処罰可能な行為の一部を特別に切り取って、独自の構成要件にしたものと解されます。こういった意味におきまして、処罰範囲に関して決定的な変更が生じているわけではございません。
 ただ、唯一大きな変更点は、間接的資金提供行為の処罰時期の早期化でございます。
 すなわち、現在の判例、通説の理解では、正犯者が実行行為に着手した段階に限って共同正犯、幇助犯は処罰可能であると解されておりますので、現行法では、資金提供罪の犯人が、テロを具体的に企図している者に現実に資金を提供しようとした段階で初めて、間接的な資金提供者は資金提供罪の共同正犯または幇助犯として処罰可能でございます。
 本改正法案は、この問題に関しまして、間接的な資金提供があった段階で処罰が可能とするものでありまして、間接的資金提供の処罰時期の繰り上げを想定したものと評価できます。
 確かに、その意味では処罰範囲が広がっていることは否定できませんが、しかしながら、逆に申し上げますと、間接的資金提供の事実が明らかであるにもかかわらず、資金提供者がテロ犯人に資金等を提供するまでは一切処罰ができないということ自体が、実は合理的な限定ではなかったように思います。
 なお、処罰時期を早期化するためには、その分だけ処罰対象を合理的かつ明確に限定する必要が高いと思われますが、本改正法案は、資金提供罪の共同正犯的な行為、幇助犯的な行為を全て処罰するわけではなく、一定の目的における資金等の提供行為のみを処罰対象にしており、処罰対象を明確かつ合理的な範囲に限定することに十分に成功しているように思います。
 なお、改正法案第五条は、一見しますと、かなり広い範囲で資金提供行為一般を処罰対象にしているように見えますが、法案をごらんいただきますと、あくまでも「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行のために利用されるものとして、」すなわち、テロ行為等に利用されることを認識、認容した上で、しかも、テロ行為に利用され得る客観的な危険性が存在する状況において資金を提供する行為のみが処罰対象とされておりますので、処罰範囲が過剰に広範に至るような御心配はないように考えております。
 続きまして、第二の点、すなわち処罰対象の明確性の問題でございます。
 まず初めに申し上げたいことは、本改正案が提案している処罰規定の内容それ自体が明確であることは疑いがない点でございます。すなわち、改正法案は、各犯罪類型ごとに厳格な目的要件を課した上で、さらに、客観的な犯罪行為を資金等の提供行為に限定して規定しております。このような構成要件の内容自体は十分に明確であるように考えております。
 恐らく、先生方の御心配は、三条ないし五条の罪については、主観的な目的の相違によって犯罪類型が区分されており、このような主観面の微妙な相違によって個別犯罪の区別をすることは困難ではないかという点にあるかと存じます。
 確かに、改正法案は、目的といった主観的要件によって構成要件を区別しております。しかし、このように行為者の主観面を重視し、それに見合った刑罰を科すというのは、日本の刑法全般に当てはまる理念でございまして、本改正法案に限った話ではございません。
 また、このように厳格な目的要件を要求し、それを満たす場合に限って処罰をするというのは、処罰範囲を限定する手法として十分な合理性を持つように考えております。
 さらに申しますに、このような主観的目的要件につきましては、あくまでも検察官の方が十分な証拠を収集し、立証活動を行い、また、裁判所が慎重な事実認定によって判決を下すことになりますので、処罰範囲が不明確に広がってしまうとか、あるいは被告人または弁護人の方に過大な負担を課すようなことはあり得ないと考えております。
 私の意見は以上でございます。御清聴まことにありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 橋爪隆

speaker_id: 32582

日付: 2014-10-31

院: 衆議院

会議名: 法務委員会