2015-06-22
衆議院
森本敏
我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会
森本敏の発言 (我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会)
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○森本参考人 本日は、当特別委員会の参考人として意見陳述の機会を与えられたこと、光栄に存じ上げます。
時間的な制約もあり、また、私は法律の専門家ではありませんので、法解釈というより政策論の観点から、特に重要と思われる問題について、二点に絞ってお話を申し上げたいと思います。
基本的な考え方はレジュメに書いてあるのでございますけれども、まず、一番最初に、多くの国民は、なぜ今この時期にこの一連の安保法制を、採決を目指して国会で審議しているかについて素朴な疑問を持っているんだろうと思います。
事務的に言いますと、昨年七月、武力行使に関する閣議決定があり、今年四月の末に日米防衛協力ガイドラインの合意ができたわけですが、この二つは、そのまま放置すれば、つまり実行できない。
つまり、日本の法制というのは、自衛隊を運用させる、動かすためには、それに必要な法的根拠を明確にするという必要があるわけで、したがって、昨年の閣議決定、そして今年日米間で約束されたガイドラインを実際に実行するための法的根拠をつくるということが事務的に必要で、政府は、これを準備し、予算の審議が終わった後、今次通常国会において審議が始まっているので、まさにこの時期になっている。
これがいわば事務的な理由ですが、それでは、そういう事務的な理由というより、むしろその背後に、なぜ昨年七月閣議決定に至ったのか、なぜことしガイドラインの合意ができたのかということが説明されなければ、なぜ今かということを説明することはできないんだろうと思います。
これは、私は、このレジュメに書いてある2ポツのところの(2)、(3)、(4)を要領よくお話しすることになるんだろうと思いますが、その2の(3)で書いてある、多くの方が指摘されますように、安全保障環境がこの八年から九年、急速に変化し、それも、科学技術の変化や、あるいは武力行使を行う主体が必ずしも国家ではない、しかも予期できない、目的もはっきりしない、様相も不透明であるといった、幾つかの国際情勢の変化に、我が国の領土、国民の安全を維持しなければならないという客観的な情勢が出ているのではないかと思います。
もっとはっきり申し上げると、私は、二〇〇六年ごろから東アジアにおける構造的な変化が起きていて、特に北朝鮮と中国は、相互に関連して、その時期をはかっているわけではないと思いますが、御承知のとおり、二〇〇六年以降、北朝鮮は三回にわたる核実験と数回にわたる弾道ミサイルの発射を行い、その射程がどんどん延び、いつこれが我が国の領域に近づくか、必ずしも相手の意図も様相もわからず、どの程度核兵器がいわゆる弾道ミサイルの弾頭部分に載っているかも必ずしも定かではない。報道も推測も幾つもありますけれども、安全保障というのは、常に、いかなる場合であれ、最悪の事態に備えるためにどのような予防措置をとり、抑止をきかせるかということでありますので、ある一つの情報と推測で政策をつくることはできないわけです。
中国に至ってはもっと複雑で、はっきり申し上げると、二〇〇八年ぐらい、中国は、アメリカに太平洋二分割論を、公式であるか非公式であるかわかりませんが、アメリカ側に提案をしたこの時期から、明らかに太平洋に、外洋に出てくるという行為が毎年少しずつ東側東側に広がっていって、二〇〇八年から二〇〇九年、日本列島を越えて太平洋側、あるいは津軽海峡を越えて日本海に入っていくという活動が広がっていったわけです。
後でお話をすることをやめて、今あらかじめお話をしておいた方がよいと思うのですが、二〇一二年の八月、私がたまたま大臣であったときに、ワシントンにおけるパネッタ国防長官との日米の会談において、日米防衛協力ガイドラインを研究したいということを提案し、当時、事務当局は、防衛省であれ外務省であれ、必ずしも全員がこの意見に賛成するという状況ではありませんでした。明らかに国際環境が変わっているのですけれども、日本側の対応が全く変わらないのであれば、日米防衛協力のガイドラインを見直して新しいものにするほどの必然性というのが見出せないというのが多くの意見でした。
これは民主党時代の一つの限界であったと思いますが、その後、安倍政権になって安保法制懇もでき、安全保障環境だけではなくて、今から申し上げるもう一つの要素があって、日本側の役割あるいは機能の分担を広げていくという決断をして、そのことによってガイドラインの中身が変化できる、つまり修正できるということになり、これは当時の外務省、防衛省の努力もあったと思いますが、御承知のとおり、二〇一三年の十月に行われた2プラス2で正式に日米間でガイドラインの見直しの合意が図られ、昨年十月に中間報告、今年四月の末に最終合意ができたわけです。
したがって、まず、安全保障環境の変化だけでガイドラインの変更が行われたわけではないということで、これはまさに、日本の政策変更というものとセットになって初めてガイドラインの見直しということができたんだろうと思います。
それでは、一体、日本側の政策変化、政策修正というものの背後に何があったのかということについて、これは全く私の臆測なので、必ずしも明白な根拠をお示しすることができないのですが、私が指摘したいと思っている点が二つあって、それが、2の(2)のところと2の(4)のところとに書いてあることです。
第一の問題は、日米安保条約というのは、五一年旧日米安保条約が一九六〇年に改定されたことは御承知のとおりであります。この改定された今の条約第五条には、締約国は、日本の施政のもとにある領域におけるいずれか一方に対する武力攻撃を、自国の平和と安全に対する危険であると認め、それぞれの憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するよう宣言すると書いてあります。
自衛権とは国家の権利であって義務ではありませんが、この条約を結ぶことによって、日本の施政のもとにある領域に対する武力攻撃があったとき、アメリカは日本を防衛する義務を共同運用という形で負うことになり、他方、アメリカの施政のもとにある領域が攻撃された場合、日本は条約上の義務を負いません。この片務性を解消することが、日米同盟の最も大きな、一九六〇年に改定された安保条約の最大のテーマであったと思います。
もっとも、この片務性を解消するために、安保条約は、第六条において、合衆国軍隊に日本の施設・区域を提供し、それを国際の平和と安全のため、日本の平和のために使用することができる便宜をアメリカ側に与えて、五条におけるアメリカの日本防衛の義務とバランスしているという議論がありますけれども、アメリカから見ると、アメリカの兵員の犠牲を負い日本を防衛する義務は、日本が施設・区域を提供するという、アクセスを与える影響とはとてもバランスができないと考えている人がいて、その結果、日米関係が難しくなるとき、必ずアメリカ側からフリーライド論、つまり安保ただ乗り論というのが出てきたわけであります。
日米同盟をいかにしてイコールパートナーシップに近づけることができるか、これは大きな政策課題で、完全に同盟を運命共同体にするためには、多くの方が認められているように、憲法を改正して、相互補助、運命共同体としての共同防衛を結ばないといけないということだと思います。
現在の憲法の枠の中で、できるだけこの片務性を、解消はできないものの、アメリカに対して必要な貢献や、あるいは役割の分担を図ることができないのか、これがガイドラインを見直した第一の理由です。
もう一つの理由は、ここに書いてありますように、国際社会における日本に対する期待、これは、アメリカの期待のみならず、多くのアジア太平洋諸国が持っておる期待。そして、日本が将来にわたりこの地域でリーダーシップを発揮するために、日本は今までにない日本の役割を機能的に発揮する必要があり、しかも、多国間の安全保障協力というのは、まさに一国では国家の安全が維持できない安全保障環境の中で、この多国間安全保障協力に積極的に参加するためには、今の法制度では必ずしも十分ではない。この問題を解決するということがガイドライン見直しの大きな背後要因であったと思います。
この二つの理由があって、二つの法的措置がとられて、これを法律の形にするということが今立法府で御議論いただいている安保法制の背後関係だというふうに私は理解しています。
時間がありませんので、もう一つだけ。
それでは、この安保法制、私は基本的に、我が国の安全保障にとって極めて重要な意味と役割を有する法制であって、しかしながら一方、この法制に対する十分な国民の理解と支持を広げることが何よりも必要であると考えていますが、それを行うためには、この法律をつくるためにできた新しい用語や定義が必ずしもまだ国民の中に浸透しておらず、言葉を聞いただけでもなかなかよくわからない。したがって、当然中身についても理解が広まらない。この問題をこれからの国会審議でどのように具体的な例を挙げて国民にわかりやすく説明していただけるか、これは立法府における審議の大きな課題であると考えます。
同時に、リスクというものの議論がありますけれども、リスクというものは常にあるもので、リスクのあるなしを議論するというより、むしろ、どのようにしてリスクを管理し、管理をすることの前提としては、リスクが起こることを予見し、情報収集を強化し、対策をとり、訓練を行い、訓練を行うための必要な手順をつくり、体制を整え、この法体系を満足にかつ効果的に実施できるような体制を今後どのようにしてつくっていくかということが、この法制をより実効性のあるものにするための措置と手段であるというふうに考えます。
いずれにせよ、私の結論は、今申し上げたように、現状及び将来の安全保障環境の中で、国の存立、国民の安全を効果的に守るために、周辺諸国の脅威に対応する十分な体制が今の法体系でできているのか、私は必ずしもできていないと思います。
同時に、日米同盟は、日本の防衛力とともに安全保障の基盤であり、最も重要な安全保障課題。これはアメリカのリバランスをどのように同盟国として補完し、この地域の抑止と対応の能力をつけることができるか、これがこの法制の抱えている最も重要な命題ではないか、かように感じているわけでございます。
以上でございます。ありがとうございます。(拍手)