佐野円の発言 (憲法審査会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

佐野円君 翻訳者の佐野円と申します。
 発言の機会を与えていただいたこと、心から感謝申し上げます。
 改正国民投票法等の施行を受けて、これからの憲法審査会に望むことをテーマとする意見陳述の申し出に当たり、私が提出させていただいた意見の概要は、次のような簡単なものでした。
 憲法審査会に求めたいことは、第一に透明性です。各会派の議員数の多寡にかかわらず、平等に発言時間を配分するという憲法調査会以来のよき伝統を受け継いでいただき、インターネットでの中継などを活用して、国民に開かれた議論をしていただきたいと思います。
 第二に、立憲主義や憲法改正の限界、最高法規性、遵守義務といった議論の前提となるであろう基本的価値観について、いま一度御確認いただきたいということです。オープンな議論は大切ですが、現行憲法の掲げる理念に異議を唱えられるような場合、特に、憲法をいたずらに軽視、無視するような乱暴な議論の仕方で憲法そのものをないがしろにするようでは、国民にとって建設的な議論とは映りません。
 第三に、集団的自衛権や国家緊急権、環境権など各論に入る前に、投票価値の平等について討議するべきだと思います。現在の国会議員の皆さんは、違憲状態と呼ばれるような選挙で選出されたことを御自覚いただき、これを解消する方法を最優先で討議していただくのが筋だと考えます。
 今読み返してみましても、特に目新しい視座に立つ指摘ではありません。当審査会はもちろん、あらゆる言論空間において既に提示されている観点であり、憲法から容易に導かれる理念に基づくものです。
 これらは、繰り返し指摘される観点ではありますが、昨今の政治情勢、特に憲法をめぐる状況を見ますと、全く陳腐なものではなくて、むしろこのような観点に立ち返ることがかつてないほどの重要な意味を持つ、そういう深刻な状況に直面しているのではないかと私は危惧しています。
 国会での審議、意思決定過程における透明性は、国民の知る権利を最大限保障することによって確保されるものです。ところが、昨今では、質問主意書に対して提供される資料が全面黒塗りであったり、そういう例が散見されます。黒塗りの資料に基づいて適正な審議、討論が可能でしょうか、国政調査権は十分に機能していると言えるでしょうか。特定秘密保護法の施行により、こうした懸念はさらに深刻の度を増しています。
 TPP交渉は、適正な手続に沿って行われていると言えるでしょうか。交渉の内容が開示されないのでは、協定というよりも密約です。漏れ伝えられるところでは、ISD条項やラチェット条項など、主権にかかわる内容が盛り込まれているとのこと。憲法にかかわる問題であり、秘密交渉は断じて許されないと考えます。
 この五月には、世界で初めてTPPに対する違憲訴訟が提訴されました。現職の国会議員八名も原告に名を連ねておられます。司法の場で判断されることになるわけですが、事態の深刻さに鑑みて、憲法審査会の場でも、こうした秘密交渉が憲法上許されるのか、広範かつ総合的に調査し、早急に討議する必要があるのではないでしょうか。
 次に、基本理念の再確認という観点から申し上げます。
 憲政の中枢を担う立場にある方々から、立憲主義や法の支配を軽視するような発言、あるいは改正の限界や最高法規性、遵守義務についての理解が不十分ではないかと疑念の生じるような発言が相次いでいます。
 日本人がつくったんじゃない、みっともない憲法と現行憲法を全否定するかのような党首の発言。立憲主義を昔からある学説ですかとうそぶく首相補佐官。憲法は不磨の大典ではない、法令の一つだ、日本国憲法と言うと立派そうだが、日本国基本法という程度のものだとおっしゃったのは幹事長代行です。そもそも国民に主権があることがおかしいとまでおっしゃる副幹事長。天賦人権論をとるのはやめようというのが私たちの基本的考え方だと言う参議院外交防衛委員長。
 個人の思想、信条の自由、言論の自由は何より尊重されるべきであり、オープンな議論は大変結構ですが、こうした重要な地位にある以上は、批判に対して相当の説明責任を果たすべきだと考えます。
 憲法審査会は、憲法改正原案、日本国憲法に係る改正の発議または国民投票に関する法律案等を審査するという職責を与えられ、その分、果たすべき説明責任も重くなったと言えます。国民主権や基本的人権の尊重、平和主義を含め、憲法の基本理念を尊重し、これを土台とするのでなければ、そのような憲法の根幹を損なうような改憲は改正の限界を超えるものであり、むしろクーデターに近づいてしまうのではないかという懸念さえ禁じ得ません。
 六月四日の憲法審査会では、参考人として出席された三名の憲法学者全員が、集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案を憲法違反と断じました。憲法学界の趨勢からすれば、このことは驚くべきことではなく、至極当然のことと受けとめております。
 私が驚いたのは、その後の政府・与党の反応です。
 総理大臣を筆頭に、あくまで合憲との強弁を繰り返す。たくさんを数じゃないと開き直る官房長官。いざというときに国の安全を守るのは憲法学者ではなく私たち政治家だと、いざというときには政治家の判断が何より優越するかのような政調会長の危うい発言もありました。
 防衛大臣は、現在の憲法をいかにこの法案に適応させていけばいいのかという議論を踏まえて閣議決定を行ったという趣旨の、憲政史上に大きな汚点を残すような発言をようやく撤回しました。しかし、安全保障環境の変化に応じて再び憲法解釈を変更する可能性があるとの認識を示し、法的安定性が損なわれるという批判を受けています。
 枚挙にいとまがありませんが、専門家である研究者の大多数の見解を、全く当たらないと聞く耳を持たず、かたくなに拒絶しようとする姿勢で、果たして国民にとって建設的な議論、熟議ができるでしょうか。多くの憲法学者が支持しないような強引な法解釈に国民がどうして納得できるでしょう。
 憲法審査会では、国の最高法規にかかわる討議をされるわけですので、一層慎重かつ丁寧な、国民に開かれた熟議を切にお願い申し上げる次第です。
 最後に、憲法改正国民投票法について申し述べさせてください。
 多くの附帯決議が付されています。これは、審議が不十分であった証左ではないでしょうか。憲法解釈の変更に関する附帯決議もなされていました。ところが、一カ月もたたないうちに閣議決定がなされてしまいます。
 附帯決議に法的拘束力はないとはいえ、検討が不十分ではないか、余りに軽視されているのではないかと危惧します。
 また、私は、最低投票率もしくは絶対得票率を設けるべきだと考えています。
 憲法第九十六条が、発議につき、総議員を分母にしていること、国民に提案してその承認を経なければならないとの文言、並びに過半数の賛成を要するとの文言から、反対票や無効票は問題にされていないと読めますので、有権者の総数を分母として、賛成が過半数であることが求められているという見解を私は支持したいと思っています。
 以上です。御清聴ありがとうございました。

発言情報

speech_id: 118904183X00520150925_020

発言者: 佐野円

speaker_id: 34832

日付: 2015-09-25

院: 衆議院

会議名: 憲法審査会