鎌田耕一の発言 (厚生労働委員会)
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○鎌田参考人 おはようございます。私は、東洋大学の鎌田と申します。よろしくお願いいたします。
このような重要法案の国会審議において意見を述べる機会をいただき、まことに光栄に存じます。
私は、大学で労働法という科目を担当しておりますので、本日は、労働者派遣法改正案について、主に法政策的な観点から意見を述べたいと考えております。
細かな改正案の内容に入る前に、検討に当たっての基本的な視点、考え方についてお話をしたいと思います。
私は、労働者派遣制度の法政策を考える場合、三つの観点から検討する必要があると考えております。
一つは、労働者派遣事業の役割は何か、労働者派遣事業というのはどのような意義があるのか、これが第一の点であります。
第二に、派遣労働者の利用は、その受け入れる企業にとっては外部人材の活用ということでございますので、その企業に属する長期雇用労働者にとってはその職場を脅かす側面もあります。そうしたことから、派遣法は、制定当初から、常用雇用代替防止という基本原則を持ってまいりました。
第三に、派遣労働者の保護はどうあるべきかという点でございます。言うまでもなく、派遣労働者はさまざまな課題を持っておりますけれども、この派遣労働者の保護という観点は、平成二十四年法において「目的」の中に加えられているということでございます。
このような三つの論点はどれも派遣法の基本的な課題でありますが、考えてみますと、第一の視点、労働者派遣事業の役割と申しますのは、これは派遣事業者の側からの問題、観点。第二の、常用代替防止というのは、派遣先の労働者側からの見方。そして第三の、派遣労働者の保護というのは、言うまでもなく派遣労働者自身の観点ということになりまして、実は、この三つの観点をそれぞれ考えていきますと、なかなか相互に対立する面がございます。そうしたことから、この三つの観点を法政策の中で追求する中で、いろいろ複雑なルールを派遣法の歴史の中で導入してきたという経緯がございます。
こうしたことが現行法の現状でございますが、改正案について冒頭一言その意義を申しますと、今申しましたような、三つの観点からさまざま複雑に入り組んだルールを、わかりやすいシンプルなルールに置きかえていること、それから、派遣労働者の保護の観点を、特に雇用安定という観点でより進めているという点で、私はこの改正案を評価したいというふうに思っております。
では、次に、今申しました三つの観点について、側面について、やや詳しく、改正案と絡めてお話をしたいというふうに思っております。
まず、労働者派遣事業の役割をどう考えるのかということでございます。
この点につきましては、まず、労働者派遣事業が職業仲介、マッチングに一定の役割を果たしているということは、恐らく大方の意見の一致があるのではないかと考えております。
一九八五年に、職安法四十四条が労働者供給事業を禁止している中で派遣法が成立し、労働者派遣制度が法的に容認されたというのは、この労働力の需給調整機能を評価した点にあるというふうに思っております。
また、国際的に見れば、ILO百八十一号条約が一九九七年に成立をいたしますが、ここでも労働市場において労働者派遣事業が果たしている役割を肯定的に認識したこと、そして、こういった認識が各国において労働者派遣制度を法的に受け入れる動向につながっていったのではないかと考えております。
こうしたことから、労働者派遣事業は、英語で言うところのテンポラリーワーク、派遣労働の臨時的、一時的な労働という側面を見据えながら、これを希望する労働者と、それから、臨時的、一時的な労働需要を持つ企業とを仲介する役割を果たしているというふうに申せましょう。
ただし、実は、この派遣事業の役割は、これにはとどまらないということでございます。
これも立法の経緯の中で明らかになっていることでございますが、そもそも、派遣制度を法的に容認する理由の一つは、労働者供給事業が使用者性が曖昧である、果たして派遣先が使用者なのか、派遣元が使用者なのか、この曖昧さが派遣労働者の保護においてマイナスであるということから、この派遣制度というものが法的に容認されている。
では、どのように考えたのかと申しますと、派遣元事業主を雇用主として位置づけ、この派遣元事業主が派遣労働者の雇用責任を担うんだ、こういった観点がここでは求められていたわけであります。
こうしたことから、派遣元事業主の雇用主としての責任ということが重視されていたわけですが、ところが、立法当初におきまして、一般派遣事業と特定労働者派遣事業という二つの区分がなされまして、とりわけ、特定労働者派遣事業、常用労働者のみを雇用する派遣事業でありましたが、これについては届け出制ということで、緩やかな規制にとどまったわけです。この点が、後年になって、私は見込み違いであったのではないかと思います。常用労働者、つまり雇用の安定を図るような雇用が派遣労働者にとってプラスになる、だから届け出制という考えでありましたが、実はそうではなくて、非常に幾つかの点で問題があったということでございます。
今度の改正案は、この特定労働者派遣事業を廃止し、全ての労働者派遣事業を許可制のもとに置いたということは、先ほど申しましたように、派遣事業の雇用主としての責任、そしてその信頼性を高めるという意味で、非常に大きな前進ではなかったかというふうに思っております。
次に、常用代替防止の点に話を移したいと思います。
常用代替防止は、これもまた非常に議論の多いところでございます。これを維持するのか、あるいはこれを廃止するのか、さまざまな意見が述べられているところでございますが、改正案は、常用代替防止の政策を維持するという立場に立つものだと思います。この点において、私はこの考え方をやはり支持したいというふうに思っております。
その理由は、日本のいわゆる雇用慣行、新卒一括採用、それから定年までの雇用保障、勤続年数に応じた昇給、それから企業内教育訓練といったようなことを保障する雇用慣行が、日本においては依然として基本的な雇用システムとなっております。就業形態の多様化が進んでいる中で、これを損なうような利用の仕方というのは、やはり一定の制限があるべきだというふうに思うからであります。また、職安法四十四条が労働者供給事業を禁止して、その例外として労働者派遣制度を認めたという立法的な経緯も考慮に入れる必要があろうかと思います。
問題は、常用代替防止をどのように実現していくかという点であります。
現行法は、これについて、いろいろな経緯がございまして、やや複雑なルールをとっております。いわゆる専門二十六業務の派遣においては、派遣期間の制限がない、常用代替防止の例外としております。これに対して、非二十六業務については、業務単位の期間制限を置いている。この専門二十六業務と非二十六業務の区分に基づく規制というのは、この改正の契機となりました国会の附帯決議で指摘されますように、実務においては大変な混乱をもたらしていた、こういうことでございました。
改正法は、専門二十六業務の区分を廃止し、全ての派遣に受け入れ期間制限を設けたわけでありますが、私はこれを評価したいというふうに思っております。
その理由は、まず、専門業務と申しますが、技術革新、あるいは職務内容の変化が目まぐるしい現代において、何が専門的業務なのか判断が難しいということでございます。仮に個々の専門業務を指定したとしても、その業務範囲においてどこまでが専門業務なのかということは、やはり非常に判断が難しい。ところが、こうした判断が難しい専門業務を前提として、期間制限がある、ないという極めてドラスチックな差を設ける規制を置くのは、非常に大きな混乱をもたらすことになろうというふうに思っております。
次に、期間制限の話に移りたいと思います。
現行法は、業務単位で最大三年に限定しております。業務単位と申しましても、この業務区分が明確でない我が国においては、その境界は曖昧であります。
また、業務単位の期間制限でありますと、例えば、一人の派遣労働者が二年派遣就業しますと、次の派遣就業は一年しか働けない、こういうようなことで、派遣労働者の視点から見ると、もう少し雇用機会を保障してほしい、こういうふうに考えるところであります。
改正案は、御存じのように、個人単位と派遣先事業所単位の二つの期間制限を導入しました。個人単位の期間制限を設けたということは、このような業務単位の曖昧さをなくすということと、派遣労働者の立場からいうと、三年間という一定の期間雇用機会を与えるということになろうかと思います。ただし、三年を上限とするわけですから、もっと働きたい人にとっては不満があるかもしれません。
このような問題に対しては、改正案は、雇用安定措置、雇用安定化の措置として、派遣元に幾つかの措置を義務づけることとしております。この点については、私は大変重要な改正であるというふうに思っております。法的には相当踏み込んだ派遣元の責任、雇用安定化の責任を法律で定めたということでございまして、大変重要だと思っております。
ただ、個人単位で期間制限を置きますと、個人をかえれば恒常的に受け入れができるということになってしまって、常用代替防止の観点から問題が出てきます。そこで、事業所単位の三年を上限とする期間制限を導入しております。
このような上限を設けておりますが、過半数組合または過半数代表者の意見を聴取した場合、さらに派遣期間を延長することができるということでございまして、こうした観点で、わかりやすい、そして、労使のコミュニケーションを生かすような期間制限のあり方を導入したということで、評価したいというふうに思っております。
この事業所単位の期間制限につきましては、意見聴取が有効に機能しないのではないか、あるいは、歯どめにならないのではないかという御指摘があります。そうした懸念もわからないではありませんが、派遣先が意見聴取を行わずに期間延長をいたしますと、これは期間制限違反ということになりまして、派遣先による労働契約申し込みみなし制度が適用となることになります。そういう意味では、この意見聴取というのはかなり重たい手続ということになりまして、企業は相当慎重な対応が求められることになろうと思います。
最後に、派遣労働者の処遇の問題であります。
派遣労働者の処遇の問題は、派遣労働の特性を考慮に入れなければなりません。派遣労働者の処遇というのを決定するのは派遣元事業主でありますが、しかしながら、この処遇を決定するための要素は、派遣先、派遣元の労働者派遣契約によって影響を受けるわけです。ところが、派遣先、派遣元の関係は民事契約でありますので、労働法の適用がない。こうしたことから、派遣労働者の処遇を改善するというのはなかなか難問であるというのは事実であります。
こうした中で、現行法は、派遣先の社員との均衡を考慮して待遇を決定すべきだというふうに言っております。これに対しては、均等待遇原則の導入こそが大切なのだという御意見があります。
私は、均等待遇原則を否定するものではございません。しかし、ヨーロッパのような職種別労働市場、そして、その職務に即した賃金相場が社会的に産業別協約などで形成されている社会と日本を同列に論ずることは、なかなか難しいというふうに思っております。わかりやすく言えば、日本における正社員は職能給中心でありまして、職務に即した賃金の均等というのは、なかなかすぐには実現できないところでございます。
そう考えますと、現状では、均衡配慮というやり方でより実効性を高めていくことが大切ではないかと考えております。改正案は、そのために幾つかの工夫をしております。
一つは、派遣先の均衡配慮、派遣元が均衡配慮する上で派遣先社員の情報が不可欠でありますが、それを、情報の提供を行うようにしております。また、均衡配慮したというけれども、一体どのように均衡配慮したのか、この説明をちゃんと派遣元が派遣労働者にするということ、これによって派遣労働者がチェックをできるようにするということでございます。
さらに、改正案は、派遣元に対してキャリアアップ措置を義務づけております。派遣で働く方はなかなかキャリアアップが難しい中で、このキャリアアップ、それから教育訓練、職業能力開発、そして、自分の将来にわたるキャリアをどう考えるか、この点についてさまざまな支援が派遣元に課せられるということになりまして、これは、派遣労働者の職業生活を考える上で大変重要な改正であろうというふうに思っております。
以上、簡単ではございますが、改正案は、派遣元事業主の雇用責任の強化、それから、わかりやすいルール、そして、派遣労働者の雇用の安定化とキャリアアップ、この点で大きな前進をしているということで、私は改正案の内容を高く評価したいというふうに思っています。
ありがとうございました。(拍手)