大澤裕の発言 (法務委員会)

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○大澤参考人 皆様、おはようございます。東京大学で刑事訴訟法を教えております大澤と申します。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。
 裁判員法の一部を改正する法律案でございますが、私は、法律案のもととなりました法務大臣からの諮問が法制審議会の部会で調査審議をされた際に、委員としてその議論に加わっておりました。そこで、本日は、部会における議論も踏まえつつ、法律案について意見を申し上げるということにいたしたいと思います。
 今回の法律案による法改正は、白表紙の法律案要綱第一から第四に示されておりますように、大きく四つの事項に及んでおります。
 このうち、第二の重大な災害に関する裁判員となることについての辞退事由の追加と第三の非常災害時における裁判員候補者等の呼び出しをしない措置、これらは東日本大震災の経験を踏まえた法改正であり、法律案のような規定を設けることについて、法制審議会の部会においても格別の議論はありませんでした。
 部会において議論が集中いたしましたのは、第一に挙げられました長期間の審判を要する事件等の対象事件からの除外についてであり、加えて、第四に挙げられております裁判員等選任手続における被害者特定事項の取り扱いのうち、裁判員候補者に対し、裁判員等選任手続において知った被害者特定事項を公にしてはならない義務を負わせる、この点についても若干の議論がありました。
 そこで、以下では、第一の法改正を中心に意見を述べさせていただき、最後に時間があれば第四の法改正にも一言触れることといたしたいと思います。
 さて、裁判員制度の趣旨でございますけれども、裁判員法の一条は、御案内のとおり、「司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資する」ということを挙げております。その言わんとするところは、裁判員制度導入の基礎となった司法制度改革審議会意見書が述べているところ、すなわち、「一般の国民が、裁判の過程に参加し、裁判内容に国民の健全な社会常識がより反映されるようになることによって、国民の司法に対する理解・支持が深まり、司法はより強固な国民的基盤を得ることができるようになる。」そのように述べているところと異ならないものと思われます。このような趣旨、狙いのもと、裁判員制度は、国民の関心が高く、社会的にも影響の大きい一定の重大犯罪を対象事件として設けられてございます。
 このような趣旨との関係でまず問題となりますことは、長期間の審判を要する事件等を裁判員裁判の対象事件から除外するということは、まさに、今申し上げたような制度趣旨と相入れないのではないかという点です。長期間の審判を要する事件は、一般に、国民の関心が高く、社会的にも影響の大きい重大事件であることが多いといたしますと、そのような事件を対象事件から除外するということは、制度の趣旨と正面から衝突するようにも思われます。
 しかし、裁判員法が定める裁判員制度は、司法参加を通じた国民の司法に対する理解の増進、信頼の向上という制度の積極的な目的と、他方で、裁判員等国民の負担の考慮とのバランスの上に組み立てられた制度と言えるかと思われます。例えば、対象事件の限定もそうでありますし、また、裁判員法三条が定める対象事件からの除外、すなわち、裁判員等の生命、身体、財産に危害が加えられるおそれがある場合等の対象事件からの除外、これも、その基礎には裁判員の負担への考慮が働いているかと思われます。今回の法律案の第一の法改正も、裁判員の負担過重を避けることを主な目的としております。裁判員法は、そのような観点からの例外的な扱いを排除するものではないと思われます。
 また、第一の法改正が条文上に挙げております、裁判員の選任が困難、あるいは裁判員の職務の遂行を確保することが困難である場合とは、除外制度が存在しなければ、当該事件について、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正かつ迅速に適用、実現するという刑事裁判の機能が停止してしまう場合と言え、この法改正には、そのような事態を避けるという趣旨も含まれているかと思われます。
 裁判員制度は、憲法上許された制度ですが、憲法上不可欠とされる制度ではありません。憲法の枠の中でさらによりよい刑事裁判を実現するため、立法政策上設けられた制度です。極めて重要な制度でありますが、刑事裁判をよりよくするための制度であるとすれば、その貫徹のため、そもそも刑事裁判自体を機能停止に陥らせてしまうこと、これは制度の逆立ちだと言わなければなりません。
 このように見ますと、第一の法改正のような対象事件からの除外規定を設けることも、裁判員制度の趣旨に照らし、直ちに許されないことではないと思われます。
 そこで、次に問題となりますのは、第一のような法改正にその必要性があるのかという点です。
 裁判員制度の施行から間もなく六年となりますが、この間、御案内のとおり、裁判員の職務従事期間が百日以上に及ぶ事件も複数あらわれております。しかし、これらの事件を含め、裁判員の選任、職務遂行ができなかった例というのは、これまでのところあらわれておりません。
 このことを踏まえ、部会では、第一の法改正について、それを必要とする立法事実がないのではないかとの問題も提起されました。
 しかし、第一のような法改正は、問題が現実化し、刑事裁判が機能しなくなってからでは遅く、将来、これまでの例を超える長期間の審判を要し、裁判員の選任あるいはその後の職務遂行確保が困難となる事件が出現する、そのような可能性も否定し得ないとすれば、それに対する備えを制度上用意しておく必要性というのは、やはり否定できないように思われます。
 審判が長期間に及べば、選任の時点において、辞退事由に該当すると認められる候補者がふえるということは間違いなく、また、選任後の職務従事期間中において、職務継続を困難にするような不測の事態が生じる危険もまたふえると言わなければなりません。御承知のとおり、インフルエンザにより辞任を申し立てた裁判員が解任をされ、その結果、裁判員が員数不足となり、補充裁判員もいなくなっていたことから、最終的に裁判員全てを解任し、手続をやり直すこととなった水戸地裁の例というものがございますが、これなどは、不測の事故が思いのほか容易に起こることを示す例ではないかと思われます。
 法改正の必要性という点では、長期間の審判を要する事件が生じた場合に裁判員裁判が可能となるよう、現行法上の制度で裁判の迅速化を図ることにより対応することができないのかということも問題となります。
 この点で考えられる具体的方策としては、公判前整理手続において争点、証拠を十分に整理し、絞り込むこと、複数事件の併合審理によって審判の長期化が見込まれる場合には、弁論を併合せず審判すること、複数事件の弁論を併合する場合、区分審理制度を活用することなどが挙げられます。
 しかし、争点、証拠の整理、絞り込みを尽くしても、事案の真相を解明し、刑罰法令を適正に適用実現するため、なお少なからぬ争点について多数の証拠を調べざるを得ず、長期間の審判となることを避け得ない、そのような事例が存在し得ることは、理屈の上で否定できないように思われます。また、複数事件の併合審判は、適正な量刑のため、あるいは正しい事実認定のため、それが必要とされる場合がありますし、証人が繰り返し証言を求められることを避け、その負担を軽減するために必要とされる場合というのも存在します。区分審理制度は、複数事件の弁論を併合しつつ、審判の長期化を避け、裁判員の負担を軽減するための工夫として導入された制度ですが、やはり限界があることは否めません。
 司法参加を通じた国民の司法に対する理解の増進、信頼の向上という制度趣旨のもと、よりよい刑事裁判を行うための制度として裁判員制度というものを設けた以上、その対象事件については、可能な限り、裁判員が参加する合議体による審判が可能となるよう、関係者の努力が求められるということは疑いのないところです。しかし、現行法上存在する方策を用いた努力には限界があるということも否めないように思われます。
 このように、長期間の審判を要する事件等の対象事件からの除外を制度化する必要があるといたしまして、最も問題となるのは、その要件をどのように設定するかです。この点では、法制審議会に諮られた要綱(骨子)案は、部会の議論を通じて修正をされ、今回の法律案はその修正を反映したものとなっております。
 重要な修正の一つは、「審判に要すると見込まれる期間が著しく長期にわたること」あるいは「公判期日若しくは公判準備が著しく多数に上ること」に「回避することができない」との文言を付加した点です。これは、対象事件からの除外が、公判前整理手続による争点、証拠の整理、絞り込み、弁論の併合、分離の適切な運用、区分審理制度の活用等、可能な努力を尽くした上、それでも審判の長期化を避け得ない場合のやむを得ない措置であることを明らかにする趣旨のものです。
 重要と思われますいま一つの修正は、裁判員等を「選任することが困難な状況にあるとき。」を「裁判員の選任又は職務の遂行を確保することが困難」と改めた上で、その判断に当たっての考慮事情として、他の事件における裁判員の選任または解任の状況、法二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の経過、法四十六条第二項の規定による裁判員及び補充裁判員の選任のための手続の経過、これを明示した点です。
 除外の要件のうち、「審判に要すると見込まれる期間が著しく長期にわたること」については、それがどの程度の期間を意味するのか、部会でもイメージが議論されましたが、これまで裁判員裁判を行うことができてきた百日程度の期間ではこれに当たらないということは共通の前提に、それでは六カ月ではどうなのか、一年ではどうなのかでは意見が分かれました。
 著しく長期の具体的基準を示すことは、事柄の性質上困難であるばかりでなく、審判に要すると見込まれる期間は審理計画の立て方によって変動し得るということも考慮すれば、著しく長期として仮に一定の数字を立てることができたとしても、その数字で一刀両断的に除外するかどうかを決することには無理が残ります。
 このような中で行われた、先ほど御紹介した二番目の修正は、著しく長期を除外要件の核とし、その具体化を図るというアプローチから、裁判員の選任または職務の遂行を確保することが困難と認められるかどうかを除外要件の核に据え、その判断の考慮事情を明記することで判断に一定の縛りをかけるというアプローチ、そこへの方向転換であったと言えるように思われます。
 裁判員選任の困難、職務遂行確保の困難は、審判に要すると見込まれる期間から直ちに認め得る場合があるということも否定できませんし、対象事件からの除外例が蓄積されたもとでは、他の事件における裁判員の選任または解任の状況から直ちに判断される場合もあり得るとは思われます。しかし、そうでない場合には、当該事件における裁判員等の選任手続の経過が最も確実な判断事情であるということは間違いありません。それを重要な考慮事情に組み込んだこの修正は、除外の判断が全体としてより確実な基礎の上に行われるよう方向づけるものと言え、基本的に妥当なものであるとともに、部会のコンセンサス形成にも決定的役割を果たしたというように思っております。
 最後に第四の点について触れようと思いましたが、時間が来ておりますので、ここまでとさせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 大澤裕

speaker_id: 6515

日付: 2015-05-12

院: 衆議院

会議名: 法務委員会