前田裕司の発言 (法務委員会)

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○前田参考人 おはようございます。弁護士の前田裕司でございます。
 私は、この委員会で審議されております裁判員法に関する法案を検討いたしました法制審議会の委員を務めておりました。その前の、法制審議会での議論の整理をいたしました、法務省に設置されました裁判員制度に関する検討会の委員も務めておりました。いずれも、日本弁護士連合会の推薦の形で委員となった者でございます。
 その当時、日本弁護士連合会には裁判員本部という組織ができておりまして、私は、その裁判員本部の副本部長という立場にございました。裁判員制度の見直しが議論されるに当たりまして、裁判員本部の中に三年後検証小委員会という組織を立ち上げたのでございますが、私は、その小委員会の委員長という立場で、日弁連の改革提言の取りまとめをした者でございます。
 そのような立場から、裁判員制度に関する検討会におきましても、日弁連の取りまとめました改革提言を提案いたしました。その内容を一々御説明する時間はございませんので、項目だけ申し上げておきたいというふうに思います。
 一つは、裁判員裁判の対象事件に被告人の請求する否認事件を加えるということです。
 それから、有罪を言い渡す場合の評決要件、現在は裁判官一名を含む裁判官と裁判員総数の過半数ということでございますが、これを裁判員の過半数及び裁判官の過半数というふうに改めること、有罪要件のハードルを高くするということでございました。
 それからもう一つは、死刑という量刑判断をする場合には評決要件を全員一致とすること、これも提案をいたしました。
 また、裁判員の現行の守秘義務を緩和すること。
 それから、裁判員やその経験者の負担軽減の措置を法律において定めること。
 それから、これは公判にかかわるルールでございますが、裁判員に対する刑事裁判のルールに関して、現在は裁判員選任の手続の段階で裁判長が説明いたしますが、これを改めて公判廷においても行うこと、公判における事実認定の手続と量刑の手続とを峻別する手続二分をとること、少年の逆送事件におきましては、少年の立場に配慮した公判における特別の規定を設けることというようなことでございました。
 ただ、残念ながら、裁判員制度に関する検討会で提案をいたしましたけれども、法制審議会での議論の対象とすることはできなかったわけでございます。
 しかし、裁判員制度というのは全く新しい刑事司法制度でございますから、その運用状況をつぶさに検証して、改革すべき課題があれば積極的にその改革を図って、よりよい裁判員制度を実現し、これを真に国民全体に根づかせていくということは非常に重要なことだと考えております。
 したがいまして、今後とも、裁判員裁判の実証的な検証を行って、一定の期間経過後には再度制度を見直すということを法律で明確にしておくということは必要なことではないだろうかというふうに考えております。
 さて、先ほど大澤参考人もお話しになりましたけれども、今回の改正案の中で、法制審議会で最も議論を呼びましたのは、長期の審理期間を要する裁判員裁判の除外規定の問題でございました。
 検討会や法制審議会で議論がなされております時点での裁判員裁判で最も長期の事件は、さいたま地方裁判所で行われました、殺人三件が併合された事件でございまして、その裁判員の職務従事期間が百日でございました。その後、尼崎の事件で、神戸地方裁判所、百三十二日間の職務従事期間というのもございましたし、先月末に東京地方裁判所で判決のありましたオウム真理教関連事件では、実審理日数が四十日を超えるという最長の事件もございました。
 ただ、いずれの裁判員裁判におきましても、裁判員の方を初め、法曹三者の努力によりまして、審理は滞りなく終わっておるわけでございます。したがいまして、現時点で見る限りは、裁判員の方の負担が大き過ぎて、裁判員裁判から除外をしなければ審理ができないような案件はないというのが共通の認識であろうかと思います。
 検討会におきましても、法制審議会におきましても、これまで実施されてきたような長期の審理期間の事件を除外すべきだというような意見は全くございませんでした。そのような意味での、本法案の立法事実はないというのが出発点ではございました。
 しかし、裁判所による裁判員への呼び出し状の送付に関する改正案が別途かかっておりますけれども、そのような法律を新たに設ける契機となりましたのが、東日本大震災でございました。大震災によって長期にわたり郵便の配達もできないというような、立法時には想定しなかったような事態も生じたわけでありまして、それを我々は目の当たりにしたわけでございます。
 そういう事態がございましたので、審理に長期を要する案件に関しましても、法曹三者ができる限りの努力を行いまして審理期間への配慮をしたといたしましても、職業として裁判にかかわるわけではない一般市民の方がそれを担い切るということが到底不可能なような長期の審理案件が全く生じないのかと言われれば、その保証はないわけでございます。
 そういう意味で、そのような万が一の事態に備えて国家としてそのような法整備を図っておく必要があるのではないかと問われれば、これを否定することはできません。したがいまして、そのような趣旨であるとするならば、特に反対すべき理由もありませんので、私も、検討会におきまして、総論的には賛成をしたわけでございます。
 ただ、問題は、それをどのような具体的な要件で規定するのかということでございました。
 そもそも、裁判員制度というのは、司法の国民的基盤を確立するということの重要な方策として採用されたものでございます。その制度趣旨からいたしますと、裁判員裁判の対象事件をふやす方向で検討されることはあっても、一旦対象とされた事件を仮に除外するということになりましても、極力限定的なものにしなければならないということになるのでありまして、これも委員共通の認識だったのではないかというふうに考えております。
 そこで、法制審議会におきまして、どのような具体的な規定になるのかと注目しておりましたところ、当初出されました事務局案は、著しく長期の審理期間または著しく多数の公判日数の事案について、裁判員選任手続に入る前の公判前整理手続の経過または結果によって、裁判所が除外決定をすることができるという規定でございました。
 確かに、著しく長期ですとか著しく多数という用語によりまして、除外事例を限定する趣旨が含まれる表現とはなっておりました。しかし、最終的には、公判前整理手続の結果を踏まえた上で、全てが裁判所の裁量に委ねられるという規定でございました。そのため、法制審議会や検討会では除外すべきではないとされました、現在行われてきたような案件につきましても、当該事件の裁判所が、裁判員に過重な負担をかけるのではないかというふうに考えた場合には、裁判員選任手続を経ないで、公判前整理手続の段階でこれを除外することもできるという規定ぶりになっていたわけでございます。
 また、裁判員としての職務というのは、国民の参政権と同じような一定の権限を国民に与えるものというふうに考えていいかと思いますが、裁判員裁判から事件を除外するということになりますと、その国民の権限行使を制限するという側面が生じるわけでございます。しかし、当初の事務局案のように、裁判員選任手続を経ないで、公判前整理手続の段階で裁判所が除外決定できるという規定でございますと、裁判所が国民の意向を離れて、国民の権限行使を制約するのかという批判を生みかねない内容でございました。
 そこで、私は、法制審議会の一委員として修正案を出したわけでございます。
 それは、一旦必ず裁判員候補者を呼び出して、その選任手続の経過や結果を踏まえて、裁判所が除外するかどうかを判断したらどうかという案でございました。裁判員選任手続に入っても裁判員がなかなか集まらない、あるいは辞退者が続々生じるというような事態が生じまして裁判体を構成できないというような状況が生じたときには、これは、裁判員裁判の対象事件から除外してもいたし方ないだろうということで誰しもが納得せざるを得ないのではないかと考えたからでございます。
 すなわち、私の案は、選任手続に入ることを必要的な要件とするものでございました。
 ただ、この修正案に対しましては、裁判員選任手続を経て除外事例を決定するという事案が集積された段階ではほかの事例を参考にして判断できるのではないか、そういう事態が生じて以降も必ず裁判員選任手続に入る必要があるのかという御意見がありました。確かにそのとおりでございまして、私自身も、そのようなときにまで選任手続にこだわることはないというふうに考えて、その意見を述べました。
 そのような議論経過を経まして出されましたのが、現在の法律案でございます。
 この法律案でも、規定の上では、必ず選任手続に入るという規定にはなっておりません。したがいまして、私の指摘した問題が全て解消されたわけではないのではございますが、法制審議会には、最高裁判所の刑事局長、東京地方裁判所の刑事部所長代行という立場の委員の方もおられまして、その裁判官委員の方々が、現在は除外すべきような事案は生じていないのですから、とにかく、この法律が施行された後は、まずは、裁判員選任手続に入って、その状況を見た上で判断をすることになるでしょう、そのような運用をすることになるでしょうというふうに言明をされました。また、事務当局も、その趣旨の説明をされました。
 そこで、そのような御意見を信頼して、選任手続に入って判断するという裁判所における運用がなされることを前提として、私も最終的には賛成に回った次第でございます。したがいまして、当初からそのような運用上の保証がないということになりますと、私が賛成をしたその基礎が失われるということになるわけでございます。
 いずれにいたしましても、現在は、関係者の皆様方の努力によって、裁判員の負担が大き過ぎて、裁判員裁判から除外しなければならないという案件はないのでございますから、この法律が施行された後、今後、万が一そのような事態が生じましても、とりあえずは、裁判員選任手続に入った上で裁判所が判断をされる、これがこの法律の運用のかなめではないかというふうに考えておる次第でございます。
 私の意見は以上でございます。(拍手)

発言情報

speech_id: 118905206X01220150512_004

発言者: 前田裕司

speaker_id: 1140

日付: 2015-05-12

院: 衆議院

会議名: 法務委員会