高井康行の発言 (法務委員会)

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○高井参考人 おはようございます。
 ただいま御紹介いただきました弁護士の高井康行でございます。本日は、刑事司法制度全体にかかわる重要な法改正について意見を申し上げる機会をいただいたことについて、大変光栄に思っております。
 まず、私の経歴についてざっとお話し申し上げますと、昭和四十七年から約二十六年間、検事をしておりました。そして、平成九年から弁護士となって、現在に至っております。
 検事時代は、東京地検その他で主に捜査を担当しておりましたが、暴力団の絡む組織的な事件、地方の知事その他首長の贈収賄事件、あるいは大型の経済事件等を担当しておりました。弁護士になってからも、大型の談合事件や粉飾事件、贈収賄事件等、主に企業が関係する事件を中心に弁護をしてまいりました。要するに、組織的な事件あるいは企業が絡む事件について、検察官と弁護人という正反対の立場から経験をしてまいったということであります。
 私は、そのような経験を踏まえた法律実務家として、本法律案には積極的に賛成する立場であります。あえて申し上げれば、本法律案が目指しているような制度改正は、本来であれば、もっと早期に検討されるべきであったとすら考えております。本日は、本法律案に盛り込まれているいわゆる合意制度を中心に、賛成の立場から意見を申し上げたいと思います。
 まず最初に、我が国の刑事手続全体を見直すことが不可欠であるということについて意見を申し上げたいと思います。
 よく、我が国の刑事手続は取り調べが中心であると言われております。厳密に言うと、この取り調べには二つの過程が含まれております。一つは、被疑者ら関係者に本当のことを言おうという気にさせる、動機づけをする、そういう説得をする過程、もう一つは、その説得によって本当のことを言おうという気持ちになった関係者から具体的な事実を聞き出す、そういう過程であります。取り調べというのは、この二つの過程が連続的、あるいは並行、あるいはないまぜになって進んでいくというのが日本の取り調べの特徴であります。この議論をするときには、日本の取り調べにはそういう特徴があるということを踏まえて議論をしないと、正しい方向には行かないというふうに考えております。
 そして、これまでの我が国の刑事手続では、誰がどういうことをしたか、要するに犯人は誰かということですね、あるいは、その行為が刑法のどの構成要件を充足するのかということを確定し、それを立証するためには、基本的には、関係者の供述に依拠せざるを得ない。関係者から供述を得る以外の方法で今申し上げたことを立証するという手段が非常に限られておりました。
 加えて、我が国の刑法を初めとする実体法の構成要件には、その犯行をするときにどういう目的であったのかとか、どういう故意であったのかという、いわゆる主観的要素が多く含まれております。これらの主観的要素というのは、本質的には、供述によってしか立証ができません。
 これらの特徴を考えると、今までの我が国の刑事司法手続というのは、被疑者ら関係者から真実の供述を得なければその機能を十全に発揮できない、そういう要素を持った制度であったというふうに思っておりますし、検察官としてもそのように感じておりました。
 問題は、その供述を得るための手段としてどのようなものがあるのかということになるわけですが、これまでは、真摯に反省して真実を話すように説得する、そういう方法しかなかったんですね。その結果として、説得過程を含む取り調べと、その供述内容を録取した供述調書が非常に重視されるという状態が生まれていたわけであります。
 ある時期までは、被疑者が、あるいは参考人が自白する場合が比較的多かったわけですね。このような取り調べ中心の制度でもそれなりにそれで機能していたわけです、自白が得られるから。しかし、社会状況等の変化もあり、被疑者が、あるいは関係者が犯罪の全容を正直に話すということが少なくなりました。その傾向は、組織的な犯罪においてより顕著だったというふうに思います。
 例えば、私が検事に任官した昭和四十七年、それ以降しばらくの間は、覚醒剤の自己使用あるいは単純所持の事犯からその入手先を、いわゆる突き上げるといいますか、所持犯から入手先を聞き出し、その所持犯が正直に本当のことを言うために、その流通過程にかかわった被疑者が覚醒剤の譲渡として起訴されて有罪になるということは普通にあったんですね。本当に普通にありました。
 ところが、だんだんだんだん年代を経るうちに、被疑者が入手先を正直に言わなくなった。例えば、死んだ人を言う、架空名義を挙げるというようなことで、全く突き上げ捜査ができなくなったということがあります。私が東京地検の副部長をしていた当時には、覚醒剤の所持犯あるいは単純使用事犯から譲渡犯が検挙されるという例は本当にまれになっていたということであります。
 このように、被疑者ら関係者を説得して真実の供述を得ることが非常に難しくなっているにもかかわらず、依然として供述を得る手段としては説得しかないという状況が、無理な説得行為あるいは強引な取り調べをする一因になっていたというふうに思います。
 最近は、メールの利用が盛んになっているために、捜査官にとって運がよければ、そのメールの読み込みによって行為者や共謀関係、意図、目的等を立証することが可能な事例もないわけではありません。しかし、そのような、メールだけで事件の全容を立証できる案件というのはそれほど多くあるものではありません。メール等を解析したとしても、それに基づいて供述を得なければ全容を解明することができないという事案がほとんどであります。ましてや、重大な犯罪を決行しようというときに、メールで共謀するというようなことは普通は考えられないわけでありますね。
 こういうような状況を踏まえますと、抜本的には、供述によらなくても犯人識別や共謀関係を特定、立証できるような実体法の改正を含めた新たな手立てを講じるべきときが来ていると私としては思うのでありますが、ただ、現時点でそれをそのまま実行するということは無理であろうと思います。
 そうであれば、無理な説得行為あるいは強引な取り調べを排しつつ、罰すべきは罰して正義を実現し、国民生活の安寧を維持するためには、少なくとも説得にかわる手段を導入するということは不可欠であるというふうに考えております。
    〔委員長退席、伊藤(忠)委員長代理着席〕
 本法案で導入されることになっている合意制度は、従来の説得にかわるもの、あるいはそれを補完するものとして非常に有益であるというふうに考えます。この制度の導入によって、捜査全体における説得を伴う取り調べの比重を低減できるということは明らかでありますし、困難になっている違法薬物の流通経路あるいは犯罪組織の全容の解明が可能になるというふうに思われます。
 そのほかにも、この合意制度に期待できることがあります。それは、任意の虚偽供述の防止あるいは排除ということであります。合意制度については、任意の虚偽供述を誘発するのではないかという御意見があるようでありますが、私は、むしろ、合意制度のもとでは、検事が任意の虚偽供述を見抜けなくて誤った起訴をするという事態を回避できるようになるというふうに考えております。
 これまでも、捜査においては、ある被疑者が共犯者の存在を自白した場合、その自白が真実の自白なのか、自分の罪を軽くするための任意の虚偽自白なのかを見分けることは、非常に重要な課題でありました。私も、検事時代には、被疑者が共犯者の存在を自白したときには、常に眉唾で聞いておりました。徹底的な裏づけ捜査をしなければその供述は採用しないという姿勢で捜査に当たってまいりました。決裁官になってからも、後輩の検事にはそのことを口を酸っぱくして申し上げてきました。
 取り調べをする検事にとっても、その供述や供述態度だけから、その被疑者が真摯に反省しているのか、あるいは自分の罪を軽くするためにうそを言っているのかを見分けることは、なかなか難しいものであります。もちろん、徹底した裏づけ捜査をすれば、その供述が虚偽かどうかは通常明らかになるわけでありますが、残念なことに、ついうっかり、その自白が真摯な反省の結果なされたものだというふうに思ってしまって、裏づけ捜査が不十分になり、虚偽の供述であるということを見抜けなかったという例がないわけではありません。決裁官として、その自白調書が真摯な反省の結果なされたものを録取したものなのか、あるいは意図的に作出されたものなのかを、自白調書を読むだけで見分けるということもなかなか難しいものがあります。
 本法案においては、録音、録画制度が導入されるわけでありますが、録音、録画によって任意の虚偽供述を排除することはできません。録音、録画が排除できるのは、不任意の虚偽供述、これは排除できます。しかし、任意の虚偽供述は排除できません。これは、今後この問題を考える上で非常に重要なポイントだと思っております。
 これに対し、合意制度の場合は、一定の有利な取り扱いを約束されてなされた供述であるということは、取り調べ検事はもちろんのこと、第三者からも、決裁官からも明らかになるわけでありますから、当然、裁判所も信用性を厳しく問うことになります。したがって、検察官としても、裏づけ証拠が十分に存在するなど、積極的に信用性を裏づけるべき事情が十分にある場合でなければ、これを立証に用いることはできないというふうに考えます。
 そのため、このような合意制度に基づく供述については、検事も決裁官も、通常の供述に比べてより慎重に信用性を判断することになり、その供述については、通常の供述に比べ、より一層徹底した裏づけ捜査をすることになります。したがって、もっともらしい供述をしたとしても、それが虚偽であることは極めて容易に露見するというふうに考えることができますし、それが虚偽であれば、その供述から新たな信用性のある証拠が出てくるということは普通ないわけですね。したがって、仮に合意制度のもとで虚偽供述が行われたとしても、それによって誤った起訴がなされる可能性は十分に排除できるというふうに考えております。
 さらに、合意制度のもとでは、虚偽供述をした場合の罰則規定が設けられますし、その手続には弁護人が関与するということにもなっているわけですから、そもそも合意制度のもとで虚偽供述が行われる可能性は極めて少ないものと考えます。
 次に、合意制度によって得られた供述について、合意内容が必ず明らかにされることは、その供述によって起訴された第三者及びその弁護人にとっても有益であると考えます。それは、第三者の弁護人も担当裁判官も、その供述が一定の有利な取り扱いを約束されてなされたものであることを認識できるわけですから、当然、慎重な反対尋問、慎重な証拠判断がなされることになります。そして、その供述以外の証拠があるのかという判断をすることになります。したがって、より慎重な判断をされることになって、その点で、いわゆる心配されるような事態は起きないということになります。
 また、通常、共犯者の自白によって起訴された被告人の弁護で共謀を争う場合、弁護人として難渋するのは、その共犯者の自白が真摯に反省した結果なされたものではなく、意図的に作出されたものであるというその動機を立証することであります。これまで、第三者の弁護人としては、共犯者の動機が不純なものであるということを立証するためには多大な労力を要しました。しかし、合意制度のもとでの供述であれば、そういう約束のもとで行われた供述であるということは、労せずして立証することが可能であります。そういう意味で、この制度は、第三者の弁護人にとっても極めて有益であるというふうに考えます。
 もう一つ、この合意制度は、弁護人に新しい弁護手段を与えるものであります。これまで、自分の依頼人が真摯に反省して、共犯者を含め事件の全容を供述しているにもかかわらず、それにふさわしい処遇を受けられなかったという例を経験している弁護人は多くいます。しかし、この合意制度ができれば、自分の依頼人の反省の情に見合う処分を確保することができるという意味で、極めて有益であります。
 以上、申し上げたように、今までの刑事司法制度では、財政経済事犯あるいは薬物犯罪等、組織的な犯罪の全容を解明し摘発することがますます困難になっていくことは明らかであります。一方、これらの組織犯罪の全容を解明し、罰すべきは罰することは、国民の強く要望するところでもあります。この国民の要望に応え、我が国の刑事司法制度に対する国民の信頼を維持するためには、合意制度等新しい制度の導入が必要不可欠であるというふうに考える次第であります。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)
    〔伊藤(忠)委員長代理退席、委員長着席〕

発言情報

speech_id: 118905206X02720150701_002

発言者: 高井康行

speaker_id: 8377

日付: 2015-07-01

院: 衆議院

会議名: 法務委員会