川出敏裕の発言 (法務委員会)
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○川出参考人 皆さん、おはようございます。御紹介いただきました川出でございます。このような機会を与えていただきましたことに対して感謝申し上げます。
私は、大学では刑事訴訟法と刑事政策を教えておりまして、先般の法制審議会の特別部会には幹事として参加をいたしました。本日は、特別部会での議論を踏まえまして、法案に賛成の立場から、協議・合意制度について意見を述べさせていただきます。
協議・合意制度の導入の必要性につきましては、ただいま高井先生から御説明があったとおりだと思います。法制審議会に対する諮問の中で「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直し」ということが明示されておりましたが、特別部会においては、それは、従来の取り調べとは異なる形での供述獲得手段を検討すべきであるということを含んでいるという前提で議論がなされまして、協議・合意制度を導入すべきだとする答申に至ったという経緯がございます。
そこで、以下では、そのことを前提に、まず、協議・合意制度の導入に当たって理論上問題となる点について、次に、協議・合意制度の問題点として指摘されている点について、私の考えを述べさせていただきます。
まず、理論上の問題点の第一ですが、これはそもそも、検察官に対して、他人の犯罪事実の解明に協力することと引きかえにその者を起訴しないといった恩典を与える権限を認めることができるのかということです。言葉をかえて言いますと、協議・合意制度というのは検察官の訴追裁量を前提にしたものですが、その裁量権を行使する際に、他人の犯罪事実の解明に協力したという事実を考慮することが許されるのかという問題です。これは、こうした事実を刑事責任を軽減する要素とすることが現在の量刑原則から正当化されるのかということに係ります。
この点について、現行法上明文規定はございませんが、運用上はそのような考慮が行われているとされております。その典型例として挙げられますのが、地下鉄サリン事件の実行役であった被告人について、検察官が死刑を求刑せず、それから東京地裁も、刑法の自首減軽規定を適用した上で無期懲役を言い渡したという事例です。
もっとも、あの判決では、被告人の供述内容が教団による犯罪の解明に貢献したことと並んで、被告人に真摯な反省の態度が見られるということも強調されておりますので、捜査への協力という点が量刑に当たってどの程度の意味合いを持ったのかということは必ずしも明らかではありませんが、捜査への協力を量刑上有利に扱うこと自体は否定されておりません。
このように、他人の犯罪事実の解明への協力ということが量刑上考慮できるのであれば、それを検察官による訴追裁量権の行使に当たっても考慮できるはずですから、そのことを正面から認めて制度化した協議・合意制度も正当化できるということになるだろうと思います。
これが一点目です。
それから、第二の理論上の問題点は、協議・合意制度は、典型的には、恩典と引きかえに他人の犯罪事実に関する供述を得て、それにより立証を行うことを想定したものであるわけですが、こうした供述には、従来、約束ないし利益誘導による自白の証拠能力が否定されるとされてきたこととの関係で、そもそも証拠能力が認められないのではないかという点です。
もっとも、厳密に言いますと、協議、合意のもとで得られる供述というのは、他人の犯罪事実を立証する関係では自白ではありませんが、そこで想定されているのは多くの場合共犯事件ですので、他人の犯罪事実を明らかにするための供述は、いわゆる共犯者の供述ということになります。そして、その場合、みずからの犯罪への関与の部分の供述と他人の犯罪への関与の部分の供述は切り離して評価することが困難なことも多いでしょうから、後者についても自白法則を準用すべきではないかということが問題となり得るわけです。
その上で、約束ないし利益誘導による自白の証拠能力が否定される根拠については争いがありますけれども、それが利益誘導のもとになされるものであるために、被疑者に心理的な圧迫を与えて、虚偽であるおそれが類型的に高いという点がその主たる理由であるところは、ほぼ異論のないところです。
ところで、刑事手続の場面を離れて一般論として考えてみますと、供述を得るために、供述を行った場合には一定の利益を付与する旨の申し出を行うということは、その相手方にとって、真実の供述をすることと虚偽の供述をすること双方の誘因として働き得るものです。それにもかかわらず、従来、自白について、それが一定の利益の供与と引きかえになされた場合には類型的に虚偽であるおそれが高いとされてきたのはなぜかといいますと、それは、身体を拘束されて、弁護人とも自由に会えないような状態で捜査機関による取り調べを受ける中で、自己の刑事責任ですとか刑事手続上の処分にかかわるような利益供与の提示がなされれば、被疑者はその状況から免れたいがためにそれに応じてしまうという認識があったためだと思われます。そうだとしますと、それとは異なる状況がある場合には、利益供与と引きかえになされた供述の任意性について別の評価をすることは可能であるはずです。
この観点から今回の法案を見てみますと、先ほど高井先生から御指摘がありましたように、虚偽供述に対する処罰規定を設けるとともに、協議、合意に基づき、他人の刑事事件に係る公判において証人としての尋問がなされる場合には、それが公判において明らかにされ、そのことを前提に、弁護人が反対尋問をするとともに、裁判官が証言の信用性を判断するということになっております。
加えて、協議、合意には弁護人の関与が必要的とされているということも一定の歯どめになるだろうと思います。つまり、この場合の弁護人というのは、確かに、合意をした被疑者、被告人の弁護人であって、不利な供述をされることになる第三者の弁護人ではありませんが、虚偽である可能性が高い供述をそれとわかっていながら被疑者、被告人にさせるということは、これは弁護の限界を超えて許されないとされておりますので、弁護人は、そのような供述をしないように説得する義務があるはずですし、また、被疑者、被告人の利益を守るという点から考えても、虚偽の供述をすれば処罰されるということになりますから、そうならないように、合意をするのであれば真実の供述をするよう被疑者、被告人を説得することは、当然に弁護人に期待されることだというふうに考えられます。
ですから、このように、法案では、そもそも虚偽供述をさせないための、また、仮に虚偽供述をしたとしてもそれに基づく誤った事実認定がなされないようにするための仕組みが設けられておりますので、従来の利益供与と引きかえになされた自白とは異なり、それが類型的に虚偽であるおそれが高いとは言えない、したがって証拠能力を認めることはできるんだというのが法案の考え方でして、私もそのように考えております。
続いて、このことと関係しますが、捜査・公判協力型の協議・合意制度に対しては、これは、他人の犯罪事実を明らかにするための供述などをすることと引きかえに一定の恩典を受けるものであるので、それを受けたいがために、他人を犯罪に巻き込んだり、あるいは役割を過大にしたりするなどの虚偽の供述をする危険があるという指摘がなされております。
確かに、共犯者の供述には、一般に引っ張り込みの危険があるとされておりまして、恩典の付与と引きかえに供述を行うとなると、その危険がより高まるようにも思えます。そして、先ほど申し上げましたように、その供述が類型的に虚偽であるおそれが高いとまで言うことはできないとしても、個々の事案で虚偽の供述がなされる可能性があるということは否定できないと思います。
問題は、その可能性があるから、およそこうした制度を導入すべきではないと考えるかどうかです。
この点について、法案は、虚偽の供述がなされる可能性があるということを前提に、先ほど申し上げましたとおり、それを防止すること、あるいは、仮に虚偽の供述がなされたとしても、それに基づいた誤った事実認定をしないための措置を設けております。
加えて、最も重要なことは、高井先生が強調されましたように、運用上、捜査機関によって、協議、合意に基づく供述については十分な裏づけ捜査がなされるということです。この点については、本当にそのような裏づけ捜査がなされるのか疑問だという意見もありますけれども、ここでは、その前提として、裁判所の姿勢というのが意味を持ってくると思います。
この点につきまして、特別部会では、この協議・合意制度につきまして、裁判所側から、合意に基づく証言は警戒の目を持って見るんだ、いわば信用性の評価はマイナスから始まるんだということが明言されておりました。裁判所がこのような姿勢で協議、合意に基づく証言に対応するということであれば、十分な裏づけがないままに証言をしたとしても裁判所に信用してもらえないでしょうから、検察官としても、尋問を請求するからには、必然的に十分な裏づけ捜査をするということになると思います。
以上のとおり、虚偽の供述に基づく誤った有罪判決を防ぐ仕組みは整えられていると思いますが、それでは不十分であって、さらなる担保措置が必要だとする意見が特別部会でもございましたし、また、本法案に対してもなされております。そこで、次に、その点について私の考えを述べさせていただきます。
こういった担保措置として第一に挙げられていますのは、合意に基づく供述については、他人の犯罪への関与、犯人性ですね、ここについて補強証拠を要求するというものです。
他人の犯罪への関与について補強証拠を要求するということ自体は、これは虚偽供述に基づく誤った事実認定を防ぐ措置としてあり得るものだと思います。しかしながら、判例は一貫して、被告人の犯人性には補強証拠が不要だというふうにしておりますので、犯人性についても補強証拠を必要とするということは、判例による補強法則の理解とは異なる特別な補強法則を導入するということになります。
もちろん、新しい制度を導入するわけですから、特別な制度を導入してもよいではないかという考え方はあり得るわけですが、そうしますと、今度は、共犯者の自白について補強証拠は不要であるとしている判例との整合性の問題が出てきます。
つまり、協議・合意制度に基づく供述に補強証拠を要求すべきだとする見解は、引っ張り込みの危険があることを根拠とするわけですが、先ほど来申し上げておりますように、協議、合意に基づく供述については、裁判所がその信用性をより慎重に判断するというわけですから、裁判所が誤った証拠評価をする危険は、一般の共犯者の自白の場合よりもむしろ低いということになります。それにもかかわらず、一般の共犯者の自白には補強証拠が不要で、協議、合意による供述には必要だとするのは明らかに不均衡ですので、この立場であれば、共犯者の自白一般について、犯人性の部分を含めて補強証拠を必要とする法改正を行わざるを得ないだろうと思います。
そして、この場合に、犯人性の部分に補強証拠を要求するということであれば、通常の自白も同じ扱いにすべきだということになってきますので、それは結局、判例の立場を否定する形で、補強法則全体について見直しをする、そういう法改正をするということになるわけです。
もちろん、立法で判例と異なる内容を定めることは可能ですから、それがどうしても必要であるということであれば、そうすべきだということになります。しかしながら、協議、合意に基づく供述については、十分な裏づけ捜査がなされることが前提で、補強証拠に当たるものがないままに公判で証言がなされるということは事実上考えられないわけですから、そうであれば、あえて補強法則全体を見直すような法改正をする必要はないというのが特別部会の結論でしたし、私もその点については賛成です。
これが第一点です。
それから、第二の担保措置として主張されておりますのは、協議、合意の過程及びその前後の取り調べの過程について録音、録画をすべきであるという主張です。
この場合、録音、録画がどのような意味で虚偽供述を防止することになるのかということが問題になりますが、これも先ほど高井先生から御指摘ありましたように、被疑者、被告人が自発的に行う虚偽供述は録音、録画によって防止できるものではありませんので、要は、検察官による協議、合意の誘導ないし押しつけ、あるいは一定の供述の誘導、押しつけ、これを防止するということが問題なんだろうと思います。
その観点から、手続の段階ごとに考えてみますと、協議、合意の過程というのは弁護人が関与しますので、検察官による協議や合意の押しつけということは考えにくいわけですから、それを録音、録画する必要はないだろうと思います。それに対して、協議前あるいは合意後の取り調べの過程では、観念的には、一定の供述を得たいがための検察官による誘導や押しつけがあり得るということですので、それを防止するために録音、録画をするということも考えられなくはありません。
しかしながら、繰り返しになりますが、たとえ誘導や押しつけで一定の供述を得たとしても、それを裏づけられなければその供述を使うことはできないわけですから、翻って、そんな無意味なことを検察官が行うことはないだろうと思います。
加えて、合意後の取り調べの段階では弁護人が必ずついておりますので、そういった取り調べがなされれば、当然それは弁護人に伝わるはずで、その観点からも、検察官がそのようなことをすることは考えられないということですね。したがって、この段階においても、少なくとも録音、録画を義務づける必要性というのは認めがたいと思います。
そういう観点から、部会でも、録音、録画をこの段階でする必要はないという結論に至ったということです。
非常に駆け足になりましたが、以上で私の話を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)