笹倉香奈の発言 (法務委員会)

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○笹倉参考人 御紹介にあずかりました甲南大学の笹倉でございます。おはようございます。
 本日は、意見を申し述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
 私は、二〇一二年に、甲南大学から在外研究の機会を得まして、アメリカのワシントン州にございますイノセンスプロジェクト、冤罪の調査を行う組織でありますけれども、そこで冤罪事件の調査にかかわってまいりました。
 この経験を踏まえまして、本日は、司法取引的な制度である合意制度につきまして、この法案のままでは、さらなる虚偽供述を生み、ひいては冤罪を生んでしまう危険性があるのではないかという趣旨の意見を申し述べたいと思います。
 現在導入されようとしている合意制度は、アメリカで多用されている捜査・公判協力型司法取引制度と同様のものを日本でも導入しようとするものでございます。この制度では、当事者間の取引、つまり協議に基づく合意が行われます。しかも、この協議と合意は、当事者、つまり検察官と捜査協力をする被疑者、被告人及び弁護人との間で行われることが想定されています。裁判所はこの過程には関与しない。以上のことから、これはアメリカ型の司法取引を導入しようとするという理解でいいのではないでしょうか。
 しかしながら、この制度の審議過程、つまり特別部会における議論過程においては、アメリカの現状についての分析ですとか検証、検討が十分に行われてきていません。特別部会では、期日外に諸外国の視察に行かれまして、アメリカにも足を運ばれています。しかし、ここ十年ほどのアメリカにおける協力型の取引をめぐる新たな議論については全く検討されていません。
 確かに、アメリカでは、協力型の取引が捜査の必要性から多用されてきています。しかし、ここ十年ほどで、この取引が冤罪を生み、危険であるという認識が高まってきておりまして、それに対する改革の提案ですとか実際の改革が個々の州で行われています。
 このように、実際にモデルとなる制度を使っている国であらわれている現実の問題点を全く見ないまま、不十分な検討で導入するべきではありません。
 アメリカでは、捜査・公判協力型の取引において、何らかの恩典の付与、例えば、より寛大な処罰であるとか不起訴の約束、あるいは身体拘束の回避ですとか寛大な量刑などなどと引きかえに捜査への協力、これは情報提供などでありますけれども、これをする者のことを情報提供者、インフォーマンツ、あるいは、もっと砕けた言い方で言えば密告者、スニッチーズと呼んでいます。
 アメリカの情報提供者は多様な場面で使われていますが、冤罪を生むという観点から最も危険なのは、当該情報提供者が何らかの恩典を受け、他人の公判廷において証言をする場合です。そして、当該情報提供者が自身も拘禁されている者である場合には、その証言が虚偽である危険性が特に高いというふうに言われています。これが、いわゆるジェイルの情報提供者と言われる人たちです。彼らは、みずからも捜査、訴追の対象となっており、身体を拘束されています。これらの供述や証言は虚偽の危険性がとりわけ高く、問題であるというふうにされているのです。
 これから御紹介するアメリカにおけるさまざまな改革ですとか改革の提言も、いわゆるジェイルの情報提供者の証言を中心的な念頭に置いていますが、同様のことは、何らかの恩典を求めて捜査協力を行うという全ての情報提供者にも妥当するはずです。
 アメリカでは、最近、捜査・公判協力型の取引には、大きく分けまして三つの問題点があるというふうに指摘されています。順に御説明します。
 まず第一点でありますけれども、捜査・公判協力型取引が冤罪原因になっているというところであります。
 二〇〇〇年代に入りまして、アメリカの刑事司法には大きなパラダイムの転換がございました。これがいわゆるイノセンス革命と言われるものでございます。
 アメリカでは、一九九〇年代に入りまして、DNA鑑定を多用することによって多くの冤罪が発見されました。きょう現在、三百三十人の人がDNA鑑定によって雪冤を果たし、うち二十名は死刑確定者でした。この事実は、法律家や政治家だけではなく、一般市民にも衝撃を与えました。
 そして、これらの雪冤事件の詳細を分析することによって、一般的な冤罪の原因が明らかになってきています。これによって刑事司法の大きな改革が各法域で達成されていくことになっているというのが、二〇〇〇年代以降のアメリカの状況でございます。
 そして、この過程で、情報提供者の証言が冤罪の大きな原因になっているということが明らかになりました。
 例えば、ノースウエスタン大学ロースクールのロブ・ウォーデン教授の二〇〇四年の研究によれば、当時明らかになっていた死刑冤罪事件の実に四五・九%の冤罪原因が、誤った情報提供者の証言でありました。そして、それは冤罪原因の第一位でありました。
 二〇〇四年、同年ですけれども、カリフォルニア州の報告書でも、州の冤罪事件の二〇%は虚偽の情報提供者の証言によるものであったというふうにされていますし、翌年発表されました冤罪研究者のサミュエル・グロスらによる研究でも、殺人冤罪事件の半数近くは、ジェイルの情報提供者その他、虚偽の証言によって何らかの恩典を受けた者による偽証がかかわっているということが明らかになっています。
 また、本日、今村核先生から資料として配付されていますけれども、二〇一一年に発表されましたブランドン・L・ギャレットの研究は、最初の二百五十件のDNA雪冤事件を詳細に分析しまして、この二百五十件のうち、情報提供者の証言が確定判決の有罪認定を支える証拠となっていたものが五十二件、つまり二一%存在したということを明らかにしています。同書によれば、誤った目撃者の証言や誤った科学鑑定に次ぐ冤罪の原因が、情報提供者の虚偽の証言であります。
 このように、情報提供者の証言が冤罪の原因になってきたということは実証的にも明らかであります。
 捜査・公判協力型取引の問題の第二点は、当該取引過程が妥当なものであったのか、情報提供者の供述や証言が虚偽ではなかったのかについて事後的な検証が行われにくいというところにあります。
 つまり、冤罪の原因になっているということが明らかにもかかわらず、その内実が明らかになりにくいというところであります。取引は当然ながら隠れて行われます。取引の時期ですとか方法、内容は捜査官によって異なりますし、情報提供者と捜査官とのやりとりは記録されていませんし、録音、録画もされていませんため、事後的な検証が難しいのです。
 情報提供者自身も、捜査、訴追側も、第三者の犯罪を立証するような供述や証言によって自分たちも利益を受けるわけですから、彼らが、情報提供者の供述、証言が虚偽のものではないか、あるいは信用性があるのか否かについて解明するインセンティブは低いと言われています。取引の過程は本来的に適正さの確保がなされにくいということになっています。つまり、情報提供者にまつわる問題点は本来的に明らかにされにくいという特色があります。
 第三の問題点は、情報提供者が法廷で虚偽あるいは信用性の低い証言を行う場合にも、事実認定者はそのことを必ずしも見抜くことができないということであります。
 情報提供者が公判廷において証言する場合に、反対尋問などを通してその証言の信用性を判断することができるというふうにおっしゃられていますが、しかし、アメリカにおける最近の実証研究によれば、陪審員は情報提供者の証言の信用性を低く評価するとは限らない、つまり、虚偽あるいは信用性の低い証言もそのまま有罪の証拠になる、なってしまうということが実証的に明らかにされてきています。
 以上のような問題状況が明らかにされることにより、特に二〇〇〇年代以降、捜査・公判協力型取引の改革の動きや提言がアメリカではなされ始めています。
 第一に、証拠開示であります。情報を提供する側にも、ターゲットとされる被疑者、被告人に対しても、適宜の証拠開示が必要であるというふうにされてきています。
 例えば、イリノイ州の二〇〇〇年改正法では、死刑事件においてジェイルの情報提供者を証人にする場合の特別な証拠開示ルールが定められています。例えば、情報提供者の犯罪歴であるとか、恩典の内容、情報提供者が聞いたとする原供述の内容、原供述が行われた日時や場所、情報提供者によって原供述内容が初めて捜査官に伝えられた日時や状況、過去に情報提供者が証言を行った事件、その他情報提供者の信用性にかかわる全ての情報を開示しなければならないとされていますし、同様の改革はほかの州でも必要であるというふうにされています。
 また、一部のアメリカの州では、早期の全面証拠開示制度、いわゆるオープン・ファイル・ポリシーと言われているものですが、これが採用されていますので、これらの州では、情報提供者側、情報を使われる側への証拠開示も早期に全面的に行われるということになっています。
 第二に、情報提供者の証言を使う場合には、それのみでは被告人に有罪判決を言い渡すべきではないという提言であります。つまり、補強証拠を、しかも被告人の犯人性を裏づけるような補強証拠を必要とすべきであるというものであります。
 例えば、テキサス州の法律では、薬物事件の情報提供者の証言やジェイルの情報提供者の証言に補強証拠が必要であると規定し、しかも、補強証拠の範囲は被告人の犯人性についてでなければならないとしていますし、ほかにも、マサチューセッツ州などの諸州において同様の規定がつくられています。
 これらのほかにも、情報提供者の虚偽証言を排除し、あるいは信用性があることを判断するために、公判前に特別の審問を開くという方策、情報提供者の証言については特に注意し詳細に検討する必要がある旨の説示を事実認定者である陪審員に対して裁判官が公開の法廷において行うという方策ですとか、情報提供者によって行われた供述の電子的な録音、録画とその保管などが必要であるとの主張がなされておりますし、実際にこれらを採用している州もふえてきています。
 以上をまとめます。
 アメリカの刑事司法において、捜査協力型の取引は必要不可欠なものとして利用されてきています。しかし、近年、その危険性が明らかになり、批判が高まるとともに、その手続や取引によって得られた証拠の扱い方について、さまざまな改革や改革の提案がなされてきています。それらの動きは、秘密裏に行われる取引の過程を透明化し、適正化し、冤罪を生む危険性をなくそうという方向性を持つ点では一致しています。
 今回の日本の刑訴法改正案に出てきた合意制度において、無実の者を引っ張り込む危険に対する手当ては三つ用意されていると言われます。
 第一に、弁護人の関与であります。
 しかし、これはあくまで引き込む側の弁護人でありますし、ターゲットとなる被告人から見れば、虚偽供述を防止することができるのかは不明であります。
 第二に、合意内容について第三者の刑事事件で当該人物が証言する場合には、合意内容書面の取り調べが請求されます。
 しかし、その合意書がとられた協議、合意の過程あるいはその前段階の取り調べの過程は、前述のように録音、録画が行われません。したがいまして、適正さを確保する担保がございません。
 第三に、虚偽供述に対する処罰規定が準備されています。
 しかし、虚偽供述をした情報提供者が現にいた場合には、結局この規定で処罰をされるということになってしまいますから、それを恐れて、その虚偽供述の事実を隠し通すという原因にもなってしまうかもしれません。
 つまり、日本の合意制度における引き込み供述の危険の手当ては、到底十分とは言えません。合意制度によって得られた供述や証言の信用性をできる限り高めるためには、アメリカで議論されているような証拠開示ですとか補強法則、協議、合意過程あるいはその前段階の取引の過程の録音、録画などの安全策を採用するべきです。それがない以上、このような制度を安易に導入するべきではありません。
 安易な導入は、捜査機関の権限をさらに強化し、新たな冤罪を生むということにつながると思います。我々は、アメリカが司法取引を多用することによって多数の冤罪を生んできたというその失敗にも学ぶべきだと思います。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 笹倉香奈

speaker_id: 16409

日付: 2015-07-01

院: 衆議院

会議名: 法務委員会