今村核の発言 (法務委員会)

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○今村参考人 おはようございます。弁護士の今村でございます。
 私は、弁護士を二十三年間やっておりまして、その間、冤罪事件に多く取り組んでまいりました。無罪事件も十数件ございます。それから、冤罪事件のケース研究も私なりに行っておりました。その立場から、この制度が導入されると具体的にこんなことが起こるんだということを述べたいと思います。
 まず、先ほど笹倉先生がおっしゃったアメリカでの事例ですけれども、アメリカでは、いわゆるスニッチ、密告者による悲惨な冤罪事例がたくさんあるということが明らかになっています。同じ拘置施設にいた者が被告人が犯行を告白したのを聞いたと証言して、有罪となるわけですね。その後、DNAテストが行われて、無実が明らかになった事例もたくさんあるわけです。
 例えば、この中で一例だけ挙げますと、元被告人は、ウィリアムスンというマイナーリーグのプロ野球選手、それからデニス・フリッツという生物学教師、お二人が被告人にされるんですね。一九八二年に起きた強姦殺人事件です。
 このウィリアムスンと同じ施設にいた女性が、ウィリアムスンから犯行告白を聞いたと、犯行の詳細を語るわけですね。例えば、彼女の遺体の肛門からコーラの栓が出てきたとか、こんなことを言うわけです。しかし、実際はケチャップのふただったから間違っているんですけれども、検察官に促されて、いや、ケチャップのふたですというふうに言い直すわけですね。それから、フリッツについては、やはり同房者が、ある日、フリッツが涙を流しながら、僕らは彼女を傷つけるつもりは決してなかったんだ、俺には娘がいるからこのことは黙っていてくれというふうに口どめしたというふうに証言するわけです。それなりに具体的な証言になっていて、信用されて、有罪になるわけですね。
 しかし、九九年、ウィリアムスンの死刑執行の寸前に、人身保護請求が認められて、DNA鑑定が行われて、無実が明らかになる。
 こうした事例が、笹倉先生の翻訳されました先ほどのギャレットという研究者の本、第一号事件から第二百五十号事件を分析した事件の中で五十二例あるということです。
 このウィリアムスンについてのスニッチは、自分の罪は、偽造小切手の行使だったりとか、全然関係ない罪なんですよね。それについては、不起訴になったりとか、非常に軽い処罰を受けたり、恩典を受けているわけです。それが動機でうその供述をする。
 日本に類似事例がないかといいますと、やはりあるんですね。日本に司法取引制度は導入されておりませんが、事実上の闇取引が行われたと思われる事件として、引野口事件という事件があります。
 これは、二〇〇八年、福岡地裁小倉支部で無罪になった事件ですけれども、北九州市内の火災でNさん宅が焼けて、瓦れきの下からNさんの炭化した死体が発見されるんですね。心臓には胸椎骨に達するような包丁での刺し傷があって、これは失火じゃない、殺人、放火事件だということで、身の回りの面倒を見ていた妹さんが、勝手に預金を引き出したということで窃盗罪で捕まって、放火、殺人の取り調べを受けるんですよ。
 その取り調べの一方で、警察は、同房者Mに被告人とされたKさんの言動を探らせて、ナイフ一本でああなると思わなかった、マッチ一本でああなると思わなかったとか、私は刺しました、二回刺しました、首を刺しましたみたいな供述をしたと、その段階でこれはうそか本当かはわからないですよ、私は聞いたんですというふうに捜査協力させるわけですね。
 その一方で、このMは、窃盗の余罪が八件あったんですけれども、七件が不起訴になって、一件だけ起訴されて執行猶予判決を得るという恩典を受けるわけです。
 このM供述がもとになって、では、もう一回、右の首を刺したというんだったら右総頸動脈を調べてみようと見たら、ちょうど何か直線状のちょっとした切れ目があったから、ああ、こいつは本当のことを、犯人じゃなきゃ知らないことを言っているということで、鑑定医が意見を改めたりして、起訴されちゃうわけです。
 しかし、このちょっとした傷というのは、頸動脈の、体表側から見て裏側にあるんですね。これは、前からぶすっと刺して、表側を傷つけないで奥側を傷つけることはできませんよね。だから、そんなことはあり得ないんですよ。これは、放火事件ですから、血が沸騰して水蒸気爆発を起こして、ぱんと破裂して血管の一部がとれた事件だということが明らかになって、無罪になるわけですね。
 この小倉支部の事件は、まさにアメリカのスニッチの事件と同じでして、恩典を受けて、全く赤の他人、自分と全然関係ない他人の罪を明らかにして自分の罪を軽くしてもらうということがされた事件です。
 ほかにも村木事件というのを、ちょっと意外に思われるかもしれませんけれども、考えてみますと、これは共犯者が無実の村木さんをいわゆる引っ張り込んだケースだというふうにされています。
 起訴されたとき、村木さんは、上司の方が、私は村木さんに虚偽の公的証明書の作成を指示しました、部下の方は、村木さんに指示されてつくりましたという供述をして、それから、何かいいかげんな、凛の会とかいうにせの障害者団体の人は、村木さんからにせの証明書をもらいましたみたいな、みんなうその供述なんですけれども、それで周りを固められているわけですね。
 この中で特に私の注意を引いたのは上司の方の証言で、村木に指示をしたと。では、あなたは共犯じゃないですかと。そうしたら、その人も起訴されなきゃおかしいのに、村木に指示したみたいな参考人調書をいっぱいとられて、起訴も何もされていないんですよ。絶対おかしいです。これは司法取引に決まっていますよ。こういうことがやられる危険がある。
 おまけに、今回、虚偽供述罪というものができました。虚偽供述罪ができますと、公判で捜査段階と違う供述をしにくいんです。なぜなら、虚偽供述罪で検察に起訴されるから。村木さんの事件は、上司も部下も、みんな公判で供述をひっくり返しましたよね。検察で勝手にこんな作文をされましたとみんな言ったんですけれども、そんなことを平気で言えるようになるのかどうか、私は心配です。
 それから、日本版司法取引について、他の法制との違いについて、ドイツの法制との違いだけ、研究者に教えてもらったことを述べますと、ドイツでは、全く関係ない他人の罪を明らかにして何で自分の罪の責任が軽減されるのか、刑法理論上わからないという議論が非常に行われて、自分の罪と他人の罪は牽連性、ちょっと難しい言葉ですけれども、牽連性がなければならない、そういう立法になっていますね。日本みたいに、全然関係ない他人の罪を明らかにして自分の罪を軽くしてもらおうなんていうばかな制度はないですよ。
 それから、日本の司法取引に歯どめはない。
 弁護人の同意、これは皆さん言われたとおり、弁護人というのは、これは他人の罪を明らかにする人の弁護人なわけですよね。その人には誠実義務というのがあって、その被告人の利益に奉仕しなきゃいけない。他方、真実義務もあるとされていますけれども、真実義務なんかはないんだという議論が最近では多数説ですね。だから、これは同意するに決まっているんですよ。全然抑止に絶対なりません。
 それから、虚偽供述罪には先ほどの危険があることに加えて、検察が今まで、無罪になった事件で、偽証した証人を訴追した例というのは皆さん知っていますか。私は寡聞にして知らない。それと同じようなことが行われるんじゃないか。抑止にならない。
 それから、郷原先生も御指摘されていましたけれども、協議、取り調べ、合意の過程が記録化されていない、録音、録画されていない、私の立場からいえばそうなんです。
 だから、スニッチなんていいかげんなやつですから、利己的な動機でうそをついている可能性が十分にあるんだけれども、でも信用されてしまうのは、犯人でなければ知らない情報がその供述の中に含まれているからなんですよ。だから、本当のことを言っているんだというふうに思われる。だけれども、それは捜査官に教えてもらったからかもしれないじゃないですか。
 だから、そこは、捜査官からの情報の提供があったのかなかったのか、情報の起源がどこにあったのかを明らかにするには、その供述過程を記録化するしかないんですよ。これの手当てがない中で、こんな制度はできるはずがないと私は思っています。
 それから、最後に申し上げたいのは、文書が公開されるから大丈夫なんだみたいなことを何かおっしゃる方もいらっしゃるんですけれども、文書は確かに公開される制度になっています。でも、こんなものは大したことないですよ。それで反対尋問をやれとか言われたって、別に大してできやしません。
 それから、闇取引というのは、では、この協議・合意制度は禁じているかというと、禁じていないですね。やっちゃいかぬと書いてないんですよ。
 アメリカで、実際、先ほどのギャレットの事例を見ますと、二十八名のスニッチの事案で、司法取引したというふうに証言したのは二人だけです。あとは全部闇取引なんですよ。アメリカでも、取引をしたらその取引は開示しなきゃいけないというルールはあるんですよ。だけれども、二十八名中二名しか正式な取引がなくて、あとは闇取引なんです。
 闇取引がおいしい理由というのは、ギャレットによると、一つは、取引をしたということを開示しなくて済むからですよね。それで信用性に傷がつくのを防ぐ。それからもう一つは、実際に証言を聞いてみるまで、本当に俺が思ったような証言をしてくれるかなという心配があるんですよ、検察側としては。証言を聞いて、確かに、うん、いい証言だ、俺も約束するよみたいなことをやりたいわけですよね。
 それを別に禁じてはいないわけですから、日本でも先ほどの引野口事件みたいな闇取引というのは無数にあるわけですから、これは闇取引の裾野を単に広げるだけではないかと私は思います。
 アメリカでは、スニッチによる相次ぐ誤判が深いショックを与えて、制度改革が提唱されている。弊害が明らかになっている今、この同じ制度をまねして導入する理由というのはどこにあるんでしょうか。私は断固反対です。
 以上です。(拍手)

発言情報

speech_id: 118905206X02720150701_010

発言者: 今村核

speaker_id: 27038

日付: 2015-07-01

院: 衆議院

会議名: 法務委員会