緒方靖夫の発言 (法務委員会)

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○緒方参考人 おはようございます。緒方靖夫と申します。こうした機会を与えていただきましたことに感謝申し上げます。
 私は、警察による電話盗聴事件の被害者の立場からの話をさせていただきます。
 二十九年前に発覚したかなり以前の事件でありますので、資料を配付させていただきました。通信傍受法の改正を考える上で参考にしていただければ幸いであります。
 私の事件ですけれども、東京・町田市にある自宅の電話に雑音が入ることから、NTTに調査をしてもらった結果、百メートル離れたアパートに我が家の電話線を切断し引き込み、親子電話のようにして有線で盗聴していたという事件が一九八六年に発覚いたしました。東京地検特捜部の捜査の結果、アパートに残された生活の痕跡、指紋、足紋、衣服、布団、録音機器、カセットテープなど多数の証拠が押収されました。実行犯は県境を越えてやってきた神奈川県警の五名の現職公安警察官と特定され、その盗聴チームの構成、手口、指揮系統など、事件の全容がほぼ解明されました。
 検察は、資料三にありますけれども、下線の部分ですけれども、四つの理由を挙げて、特に、警察が相応の懲戒処分を約束し、警察庁警備局長、神奈川県警本部長の辞職など、直接の上司や責任者を更迭したことを理由に不起訴処分といたしました。資料四に挙げておきましたけれども、処分を決定した当時の伊藤検事総長が、退任後、不起訴にした理由をおとぎ話にかこつけて語ったものであります。
 その翌年、八八年九月、私と家族三人は国家賠償裁判を提起いたしました。六年後の九四年の東京地裁の判決は、資料の七のAにありますけれども、少なくとも警察庁警備局長、公安一課長ないし神奈川県警本部長、警備部長において具体的内容を知り得る立場にあったと、国が関与した計画的な日本共産党に対する情報収集であると断じました。
 九七年の確定した東京高裁の判決は、これは七のBですね、電話盗聴が警察の組織的犯行であることを認定した上で、少なくとも九カ月間盗聴された既遂であるとして、国、神奈川県、警察官個人に賠償金の支払いを命じました。さらに、判決は、法を遵守すべき立場にある現職警察官が犯罪にも該当すべき違法行為を行ったという点だけを見ても、本件盗聴事件の違法性は極めて重大だと指摘いたしました。
 警察庁関与の組織的、計画的な犯行という点は、資料五の公務員の職権濫用についての付審判請求への東京地裁、東京高裁の決定でも、また資料六の東京第一検察審査会の不起訴不当の議決でも、資料八の盗聴のために使った公金の神奈川県への返還要求の住民訴訟での横浜地裁の判決でもそれぞれ指摘されているところであります。
 九七年の国賠訴訟東京高裁判決に、被告国は、上告する理由がないと判決を受け入れました。しかし、警察庁と法務省は国会で、この事案についてそれぞれ別の説明を行っております。
 警察庁は、事件当時の山田長官が、警察におきましては、過去においても現在においても電話盗聴は行っていませんと答弁し、今日もこの答弁を踏襲しております。
 他方、下稲葉法務大臣は、平成十年三月十一日の当院法務委員会で、この事件の認識を問われ、神奈川県警の警備部の警察官による共産党の方に対する盗聴事件だと答弁しております。
 このように、警察と検察、法務との間で、私の事件に対する認識が異なっております。警察から、一度も被害者である私と家族に対する謝罪はありません。法を遵守すべき警察が、違法性は極めて重大という判決を受け入れながら、警察庁トップを先頭に、知らぬ存ぜぬを通してきたわけです。警察の中に、法を軽視するという、公権力の行使者として絶対にあってはならない体質を感じさせます。
 通信傍受を実行するのは警察官です。したがって、十数年前の通信傍受の法案審議の際に、私の事件がクローズアップされ、その懸念が払拭されるかどうかが大きな論点となりました。しかし、今日まで、この盗聴事件に警察は関与していないという警察庁の態度は変わっておりません。
 前回の審議では、警察への懸念が強く指摘されたもとで、原案が修正され、一定の制約が設けられました。今度の改正案は、この制約を取り払うだけでなく、対象も拡大されるというものです。事業者から暗号化して警察署、警察本部などの警察施設のコンピューターに伝送させ、警察署、警察本部でさらに暗号化することで、立会人なしの通信傍受を可能にするというものであります。憲法三十五条の令状主義をかなぐり捨てるもので、その点でも憲法違反の法律と私は考えます。
 私の自宅への盗聴は、立会人なしの盗み聞きと言えるだろうと思っております。しかも、この十年余り、通信傍受について国民に十分な情報が開示されてきたわけではありません。私は、当時の懸念が払拭されていないばかりか、強まっていると考えます。
 警察は、みずから行った犯罪を公権力の検察には認め、わびて、不起訴に持っていく一方で、裁判の場で被疑者警察官は出頭拒否を繰り返し、出頭せよとの裁判官の指揮命令にも従わない、法廷を侮辱する態度に終始しました。さらに、国会の場でも、盗聴していないと平然と虚偽を繰り返してきました。こうした組織に通信傍受を委ねていいのかどうか、これは本当に大きな問題だと私は考えます。
 警察においては、通信傍受法が九九年にできる以前から、非合法の電話、室内盗聴が行われてきました。発覚しただけでも約四十件ありますが、私の事件を除いて、被疑者不詳のままでした。そこで押収された盗聴器の幾つかは警察庁が自前でつくったものであり、警察庁には四係という非合法の活動を進める部署があり、そこも含めて一定数の通信専門の職員が働いていることも、私の事件の法廷で明らかになっております。
 次に、盗聴されるということは一体どういう被害なのかについて述べたいと思います。
 私の場合、盗聴は少なくとも九カ月間の既遂とされています。これは、政治活動の自由への侵害であり、同時に、私たち家族の会話が全て聞かれ、家族が丸裸にされたという感があります。盗聴では、電話で話した相手が全て被害者となります。損害の回復というものはあり得ません。
 警察の盗聴には決まりがあります。一、全部聞く、全部聞かなければわからないから。二、全部記録に起こす。三、その日のうちに報告する。どんなたわいのない会話にも注意を集中して聞き逃さない。ここに盗聴工作の本質があります。
 東京高裁の判決は、資料の七のBの下線を引いた部分ですけれども、プライバシー権のじゅうりんによる被害について、こう書いてあります。「憲法上保障されている重要な人権である通信の秘密を始め、プライバシーの権利、政治的活動の自由等が、警察官による電話の盗聴という違法行為によって侵害されたものである点で極めて重大」と指摘して、盗聴の性格を以下のように強調しています。さらに下線の部分ですけれども、「電話回線の傍受による盗聴は、その性質上、盗聴されている側においては、盗聴されていることが認識できず、したがって、盗聴された通話の内容や、盗聴されたことによる被害を具体的に把握し、特定することが極めて困難であるから、それ故に、誰との、何時、いかなる内容の通話が盗聴されたかを知ることもできない被害者にとって、その精神的苦痛は甚大」であると。
 私の場合は、非合法の盗聴です。警察が通信傍受法に基づいて行う場合にも、こうした被害をもたらす可能性が大いにあります。
 私の実感ですけれども、九九年以前には、通信傍受は憲法二十一条により許されないという考え方が支配的だったと思います。その時期でさえも、警察においては盗聴が行われてきたことは事実であります。通信傍受法が成立した後には、非合法の盗聴の可能性も広がったと思います。その法の拡大は、盗聴の裾野をさらに広げていくことになると思います。
 警察の非合法の盗聴などを行う四係の創設にかかわった元警察官は、盗聴の対象は共産党など左翼が多いと言えるが、与党を含めて、国会議員でいえば、可能性として全ての議員が対象になると指摘しています。警察の方が、本人がとっくに忘れている自分の動静を本人以上に把握していることは幾らでもあり、それをおどしに使うことはよくあると述べている、こういうことがあります。
 警察出身者がこうした情報を手にして力を持つということは、これまでも幾らでもありました。一匹オオカミと言われた警察出身者が異常な権力を掌握する力の源は、まさにこうした情報にあります。
 私は、決して反警察ではありません。市民の警察をつくるべきだということを考えてきました。どの社会にも、市民の権利の保障のために公的な力が必要であります。そして、そのために警察は不可欠です。
 二百年以上前のフランス人権宣言には、公的な力は、全ての市民の利益に合致して設けられるべきで、その行使を委託される権力者の特殊な利益のために設けられてはならないとあります。これこそ私は警察の姿であってほしいと強く願っております。
 最後ですが、みずからの犯罪行為をやっていないと歴代警察庁長官が国会で虚偽を繰り返し、法令を軽視し、組織防衛という特殊な利益を優先する警察に通信傍受の実務を一層広範に担当させることは、国民のプライバシー権にとって極めて危険だと考えます。私は、現行の通信傍受法に反対でしたし、実際に多くの問題があったと見ております。したがって、その拡大には強く反対するものであります。
 以上です。ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 緒方靖夫

speaker_id: 18665

日付: 2015-07-29

院: 衆議院

会議名: 法務委員会