2015-09-08
参議院
神保謙
我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会
神保謙の発言 (我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会)
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○参考人(神保謙君) 慶應大学の神保でございます。
本日は、平和安全法制特別委員会に参考人として意見を述べる機会をいただきましたことに、まず深く感謝申し上げます。
まず初めに、今回提出されている平和安全保障法制整備法案及び国際平和支援法案は、日本の安全保障政策に必要不可欠な法案であるという私の基本的な考え方を述べた上で、現下の安全保障環境の変化を鑑み、現在提出されている法案でもなお不十分であり、仮に法案が成立したとしても不断の体制整備が必要であるという問題意識を私からは表明させていただきます。
まず、基本認識を申し上げます。
冷戦終結後の日本の防衛・安全保障政策は、安全保障政策の変化に応じて大きな進化を遂げてきたわけでございます。九二年のPKO法の成立以来、日本は延べ十四回の国連PKOミッションに一万人を超す自衛隊員を派遣し、既に二十数年間にわたるグローバルな展開をしてまいりました。また、九七年の日米防衛協力のガイドライン及び二年後に成立いたしました周辺事態法の成立以降は、我が国を取り巻く地域で生じ得る紛争に日米共同で対処する枠組みも整えてきたわけであります。また、二〇〇〇年代に入りますと国際テロリズムの時代に入るわけですが、その台頭と拡大に対しても、テロの温床となり得る地域に対する人道復興支援を中心とした国際協力に積極的に関与してきたわけでございます。
こうした過去二十年にわたる日本の安全保障政策の展開は高く評価されるべきであると考えておりますが、今日、そこには二つの新しい、しかも深刻な問題が発生をしているということを指摘したいと思います。
第一は、こうした数多くの自衛隊のミッションの拡大をこれまで既存の法律の改正や時限立法の中で乗り切るという、言わば増改築工事の繰り返しであったということでございます。
今日、私、配付資料を準備しておりまして、配付資料の防衛計画の大綱と脅威認識・政策・制度の空間概念という格子図を御覧になっていただきたいと思います。これは最新の一三年十二月に発表された我が国の防衛計画の大綱に示されている文章を抽出したものなんですけれども、その文章に示されている脅威認識と我が国の政策、これに対応する制度を、グローバル、アジア太平洋、そして日米を中心とした二国間、そして国内という空間軸の中でまとめたものでございます。
これはやや乱暴な分類ではございますけれども、ここで私が示したかったことは、御覧になっていただくと分かるとおり、脅威の性質自体はグローバルから国内に至るまで空間及び領域を横断する性格を持つようになってきているということでございます。そして、近年の政策も徐々に国内から二国間、アジア太平洋地域、グローバルへと横断する志向を持つようになってきているということでございます。
しかしながら、制度について御覧になっていただくと、それは空間別の縦割りによってつくられているものが多いということでございます。ここに、安全保障環境は領域横断になっているにもかかわらず、制度自体は空間の縦割りにとどまっているというミスマッチが生じているということをまず指摘したいと思います。これが第一の問題でございます。
第二の問題は、二十一世紀の我が国を取り巻く安全保障の最大の変化と言ってもよいと思います中国の台頭に関することでございます。それが我が国の安全保障に二つの新しい領域への対応を迫っているということを申し上げます。
一つは、本委員会でも再三にわたり問題提起があったと了解しておりますグレーゾーンと呼ばれる事態でございます。まさに、私の図で申し上げますと、この二国間と国内の間、そして事態でいいますと平時と有事の間、そして法制度でいえば自衛権と警察権の間の切れ目に我が国の主権を侵害する重大な事態が生じているということは本委員会の皆様が共有するところであろうと考えております。
もう一つは、先日の軍事パレード、皆さん御覧になったと思いますけれども、そこでも示された中国の軍事力の急速な拡大が、我が国ひいては周辺国、さらにこの地域に関与する米軍との軍事バランスを大きく変化させているということでございます。特にこの米軍の地域的関与に関する、これ拒否力と呼びますけれども、これが高まっていること、これを専門用語ではA2AD環境と呼んだりしますけれども、このこと自体が東アジアの紛争抑止、紛争対処への方程式を大きく変化させつつあるということでございます。
以上申し上げた二つのミスマッチあるいは新しいドメインの拡大こそが、なぜ今日我が国が確固とした安全保障の法制度を策定しなければならないかという重要な根拠だと私は考えているわけでございます。そして、そこには日本の防衛政策にとって今日最も重要な三つの領域への対応が明確に意識されているわけでございます。
第一は、グレーゾーン事態への対応。これは、平時と有事の中間領域、そして警察権と自衛権の隙間を埋める対応ということになります。
第二は、これは九〇年代からの宿題であったわけでありますけれども、朝鮮半島や台湾海峡での有事を念頭に置いた周辺事態、今法律では重要影響事態における日米の共同対処能力の強化、そしてその延長線上にある集団的自衛権の限定的行使をめぐる問題でございます。
そして第三は、国際平和協力における自衛隊の役割の国際標準化、そしてそれを通して日本が世界の平和維持、平和構築で積極的な役割を果たしていくことという、以上の三つでございます。
そして、この法案自体を見てみると、現在提出されております平和安全保障法案自体は大変複雑に構成されておりまして、多くの国民の皆さんには大変分かりにくいものとなっております。そして、この複雑さを十分に単純化できず、国民の理解を得られていないという状況は、率直に言って政府・与党の皆さんの努力不足を指摘しないわけにはいきません。
せっかくの機会ですので、外部の有識者という立場で招かれている私であればこのように整理するのになという形の視点を幾つか提示をしてみたいと思います。
本法案は、私の理解するところ、先ほど申し上げた三つの領域に対して切れ目のない、シームレスな対応を目指す制度構築の試みというのが一言で申し上げる平和安全保障法案の最大の目的だと考えております。
この切れ目のない対応がなぜ必要であるか。それは、既に述べたとおり、安全保障上の脅威が領域横断的であるにもかかわらず、我が国の法制度が十分に横断的ではないという問題認識から出ているわけでございます。ですから、このシームレスという概念に対する理解が極めて重要だと考えているわけですが、しかも、このシームレスという概念は、私の考えでは以下の四つの領域に及ぶと考えております。
第一は、事態の段階をめぐる考え方でございます。
これは防衛計画の大綱や日米防衛協力のガイドラインでも示されているわけなんですけれども、平時から緊急事態までのあらゆる段階で切れ目のない体制整備をすることが重要だという、こういう考え方でございます。しかしながら、実際にはグレーゾーンと有事の間、そして低強度紛争と高強度、ハイエンドな紛争との間には、制度的、能力的な隙間が厳然として存在しており、これを埋める方策が不可欠であるというのが一番目のシームレスの考え方でございます。
第二番目のシームレスの考え方は、地理的空間に関する概念でございます。
先ほど来申し上げた領域横断的な脅威に対応するためには、我が国はどこまでの地理空間を安全保障上の空間とみなすのか。これは、ここまで委員会でも議論されたとおりだと思いますが、事態の性質に応じて変化する概念でございます。
かつて、これは周辺事態として想定された朝鮮半島周辺の地理的区分ということにとどまらず、二十一世紀の安全保障環境を考えると、特に海洋安全保障、東シナ海から南シナ海、インド洋、そして中東地域に広がる広域空間の戦略的重要性は間違いなく高まっており、さらに、そういった広域空間であるからこそ様々な形態の国際協力や共同行動に参画する必要性が増したというのが、これが空間的シームレスの必要性でございます。
第三の概念は、アクターの連携でございます。
従来の周辺事態法であれば、その協力相手はアメリカに限定をされておりました。しかし、今般提示されている重要影響事態法案では、後方支援の対象国はオーストラリア等の友好国を含めるという設計になっております。これは、仮に朝鮮半島有事で、そうした有事が発生した場合ですけれども、その対応に従事する部隊はアメリカ以外の多国籍の軍になるということはほぼ確実であります。その場合、日本が柔軟に後方支援ができる枠組みを整備できるかどうかということは、これから起こり得る朝鮮半島の危機管理や紛争対処においても、私自身は必要不可欠と考えているわけでございます。これが第三番目です、アクターの連携。
そして最後は、領域横断ということでございます。
特に、先ほど申し上げた中国の拒否力の拡大、A2AD環境。様々なミサイルや戦闘機、潜水艦などを持っているわけですけれども、こうした環境において、アメリカ軍そして日米同盟が中国に対して相対的な優位を確保し続けるためには、実は様々な領域に対する、これは宇宙やサイバー空間を含むわけですけれども、これはアメリカの用語でクロスドメインと言っておりますけれども、クロスドメインの領域で協力を深めなければいけない、様々な領域をシームレスに担保するということが必要だということでございます。
これが切れ目のないということを言っている四つの領域でございまして、これを正確に使い分けて法案の中にどのように反映させるかということが大変重要だと私自身は考えているわけですけれども、現在提出されている平和安全保障法案は、私のレジュメの(2)に示したとおりなんですけれども、例えば自衛隊法の改正は①と③に対して、そして重要影響事態確保法案は②に対してといった形で整理することによって、シームレスという切り口から、なぜ現在この法案が重要なのかということが国民の皆様に対してより分かりやすく説明できるのではないかと考えております。
与党及び政府関係者の皆さんにおかれましては、極端な単純化や便宜的な事例紹介にとどまらず、国民に分かりやすく説明する努力を引き続き継続していただきたいと思っております。
そして最後に、私は現在提出されている法案に強く賛同する立場ではありますが、幾つかの苦言を申し上げたいと存じます。
最大の苦言は、本国会における議論が日本国憲法に対して合憲か違憲かという議論に相当多くの時間が割かれ、日本の安全保障政策の在り方を問う議論自体は十分に展開されてこなかったということでございます。
僣越ながら、私見では、平和安全保障法をめぐる最大の論点は、この法案がシームレスな安全保障体制を確保できているかどうかということにあると考えております。しかも、その点に関して、私は研究者という立場から、現行の提出された法案では十分ではないと考えております。これが、仮に本法案が成立したとしても不断の体制整備が必要だと冒頭に申し上げたゆえんでございます。
絞って三つの論点のみ申し上げます。
第一の論点は、先ほど来申し上げておりますグレーゾーン事態への対応でございます。
これは警察権と自衛権の切れ目を埋める方策ということが焦点となっているわけですけれども、この方法に関しましては、海上保安庁及び警察の能力と権限拡大と、自衛隊による警察権の行使の適用拡大という、言わば下から上へのアプローチと上から下への双方のアプローチがございます。今回の安保法制では、グレーゾーンに対して、上から下、つまり自衛隊の海上警備行動や治安出動の迅速な閣議決定の手続や、平時に活動する米国に対する武器等防護というものを当てはめようとしているわけでございます。
当然、私自身も海上保安庁のみで対応できない事態に自衛隊の出動を柔軟に担保することは重要だと考えておりますが、他方で、もう一方の下から上への作用、つまり海上保安庁の権限拡大については、特に海上保安庁法第二十条、これは警察官職務執行法第七条の規定の準用になっておりますけれども、これに事実上がんじがらめになっている武器使用権限をどうするかということの議論については依然として本国会では欠落したままになっていると考えております。
当該事態に対して、海上保安庁の権限と能力を拡大して、警察権、言わば英語で言いますとホワイトホールを拡大するのか、それとも軍事組織を早期に投入する方がいいのかということを考えるのは、これは日本が国家としてエスカレーション管理をどうするのかということの戦略に関わる問題でございまして、この戦略論こそが法制度に反映されなければいけないと考えているわけでございます。これが第一点です。
第二の論点は、武力行使の新三要件として提示された存立危機事態をめぐる問題でございます。
私は、かねてより日本が集団的自衛権の行使を認めることは当然という立場で議論をしてきました。この観点から、昨年の七月の閣議決定において、武力行使に関する新三要件として、我が国と密接な関係にある他国を含めたことは画期的であると考えております。しかしながら、その後段であります、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるという定義が付加された結果、その行使できる範囲が限定され過ぎた、限定することは反対しておりませんが、それが限定され過ぎたのではないかという懸念を持っているわけでございます。
例えば、これまでの事例研究でもございましたように、日本以外の他国に向かうミサイルを日本のイージス艦が迎撃できるかどうかは、この解釈によれば甚だ疑わしいところだと言わざるを得ません。このままの状況では日米のミサイル防衛に関する共同行動には重大な支障が生じるという可能性を危惧いたします。
時間が参りましたので、最後、簡単に述べたいと思います。
第三は、国際平和協力の改正をめぐる問題でございます。
今回の改正案の焦点となっているのは、PKOの参加五原則に関して、受入れ同意が安定的に維持されていることが確認されている場合、駆け付け警護を含む任務遂行型の武器の使用としたということでございます。この方向性自体は日本のPKO参加を国際標準に合わせていく上で必要不可欠であり、歓迎すべき改正であるというふうに考えております。
しかしながら、問題となるのは、その前提となる受入れ同意が安定的に維持されているという状況認識そのものでございます。
現代の中東、北アフリカ、西アフリカにおける秩序の不安定化は、しばしば広域に偏在する越境型の武装組織、これが特に組織化されているわけですけれども、こうした組織による破壊活動によってもたらされております。これは、国家の分裂等によって紛争当事者が固定的に存在していた九〇年代のPKOの状況とは大きく異なるわけでございます。これらの地域に展開される現代のPKOは、越境型の過激組織のテロ活動や急速な治安の悪化等のこうした事態の変化にも対応することが求められます。より現代の実態に即したPKO参画の法的基盤が今後形成されるということを望みたいと思います。
以上で、二分ほど超過して大変失礼いたしましたけれども、私の冒頭の発言を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。