2015-09-17
参議院
伊藤俊幸
我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会
伊藤俊幸の発言 (我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会)
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○公述人(伊藤俊幸君) 私は、先月まで海上自衛隊の呉地方総監を拝命しておりました伊藤と申します。
本日は、元幹部自衛官として、本法案に賛成の立場として意見を述べさせていただきます。
我が国の平和と独立を守る、これが自衛隊の使命です。平和を守るとは、今の平和な状態を維持し、戦わなくてよいようにすることです。我が国は、外交等あらゆる平和的手段を用いて平和を維持する努力をしています。その平和的手段の一つが抑止力を高めることです。一定の軍事力を持つことで日本を侵略しようとする他国の意図をくじく抑止力、これが、戦後、我が国のみならず世界中の軍隊の主たる役割であります。日米安全保障条約に基づき米軍とともに活動することで、この抑止力は更に強固になっています。
最近、南シナ海の島嶼で中国の施設等が建設され、トラブルになっていることは御承知のとおりです。中国は、一九五〇年代に南シナ海全域を自国領域だと勝手に宣言して以来、一九八七年には海軍艦艇がパトロールを開始し、翌年には各沿岸国と軍事衝突し、あっという間に島嶼を占領してしまいました。
実は、同じことが東シナ海の尖閣列島でも起こっています。一九七一年、尖閣は中国のものだと突然宣言して以来、一九九九年からは海軍艦艇のパトロールも始まっています。しかし、その後十六年がたちましたが、尖閣は占領されていません。また、ベトナムの船舶は、中国の巡視船、海警から国際法違反の体当たりや放水を受けています。一方、尖閣では、その巡視船、海警は、時々領海侵犯はしますが、基本的にはおとなしく徘回しているだけです。
この違いは何でしょうか。そうです。現時点においても、東シナ海では中国に対する一定の抑止が効いていると言えます。海上保安庁や自衛隊による警戒監視、そして日米同盟が島嶼を占領しようとする中国の意図をくじいているのです。
最初に申し上げたいのは、現在議論になっている平和安全法制は、この抑止力を更に強化し、現状を変更しようとする他国の意思をくじくための法律だということです。
次に、独立を守るについて申し上げます。
抑止が効果を発揮できず、他国からの侵略が始まった場合、我が国は、独立を守るため、自衛権を発動し対処することになります。この対処方法を規定するため、武力行使の旧三要件がありました。特に三番目の要件、必要最小限度の実力行使、これは極めて重要です。憲法九条二項で交戦権を否定している我が国に認められる武力行使とは、相手国からの攻撃を排除することだけをいうのです。それ以上の行為、すなわち相手国の領域に入り反撃、攻撃することはできません。
剣道でいうならば、打ってきた相手の刀を払いのけるだけで、反撃に転じて相手の面や胴を打つことはできないのです。相手国からのミサイル攻撃が排除しても排除しても終わらない場合、ミサイル発射基地ぐらいは攻撃してもよいのではないかとの敵策源地攻撃といった議論がありました。これは、攻撃武器たる刀、これを持っている小手ぐらいは打ってもよいのではないかとの議論と解釈できます。
このように、我が国が直接攻撃を受けているまさに日本有事の場合であっても、日本の領海、領空、領土及び公海、そして、その上空に存在し、我が国に攻撃を加えてくる相手国の軍艦、軍用航空機、ミサイル、機雷等を排除することだけを我が国では武力行使と称するのです。したがって、自衛隊に代わって更なる侵略を止めるため相手国に米軍が反撃を加える、これが日米同盟の関係なのです。それくらい、この必要最小限度の実力行使という文言は、交戦権を否定している憲法九条第二項に極めて忠実な要件なのです。
さて、昨年七月の閣議決定で新三要件に変わりましたが、この必要最小限度の実力行使は全く変わっておりません。第一項に、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃の要件が加わりました。この文言の後ろには、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険という、憲法十三条で我が国政府が国政上最大の尊重をしなければならない権利が加えられています。つまり、他国への武力攻撃が我が国の防衛と密接に関係するか否かという判断条件が付いているのです。
では、他国に対する武力攻撃がこれに該当するとはどのような場合でしょうか。これを他国ではなく他国軍隊に対する武力攻撃と読み換えると理解しやすいと思います。例えば、再び朝鮮半島有事が生起したとします。ちなみに、朝鮮戦争は国連軍と北朝鮮が戦ったものです。今も、在韓米軍司令官は同時に国連軍司令官です。もう一度朝鮮半島有事となれば、国連軍が再度立ち上がります。したがって、これまで米軍にしか支援できなかった周辺事態法に加え、国連に寄与する外国軍隊への支援もできるようにしたのが重要影響事態安全確保法です。
さて、この朝鮮有事が波及し、北朝鮮が日本に向けて大陸間弾道弾等を発射すると予測される危険、これが生じたとします。当然、ミサイル防衛のため、公海上にイージス艦を含め各国艦艇が配備されるのでしょう。このように、まだ日本有事ではないものの危険が予測される状態、いわゆるグレーゾーン事態で他国軍隊が我が国を守ることは十分あり得るのです。仮に、この状態で敵潜水艦が当該艦艇を攻撃したとします。旧三要件の下では、日本有事ではないことから、自衛隊は当該潜水艦を排除することはできません。
このように、これまでの考え方だと、我が国を守ってくれているにもかかわらず、他国軍隊に降りかかる火の粉を払ってあげることもできないのです。これをできるようにしたのが存立危機事態の概念です。平素から同盟国や友好国とこれまで以上に緊密な信頼関係を構築することで、抑止力を更に高め、現状変更を試みようとする他国の意思をくじく、今回の平和安全法制の根幹はここにあるのです。
さて、今回、他国で戦争になるという議論があります。これは、国連の中核的考え方である集団安全保障措置についての理解が若干足らないのではないかと思います。七十年前に国際連合ができて以来、国家あるいは国家に準ずる組織が個別の意思を持って他国に対して武力行使をすること、いわゆる戦争という行為は全て国連憲章違反です。戦前においても、不戦条約により戦争の違法化は議論されていましたが、国連憲章第二条四項で、武力による威嚇又は武力の行使、これを慎まなければならないと規定されています。
地球上の全ての国家を一固まりの集団として扱い、もし不当にも他国を侵略した国が存在した場合、その他の国々が集団で制裁を加えてやめさせる、この集団安全保障措置とは、これ以上悲惨な世界大戦を起こさないと当時国際社会が強く誓って確立した平和を維持する基本的な考え方なのです。この典型的な事例が、一九九〇年八月、イラクによるクウェート侵攻後の国連安保理の対応でした。安保理により、非難決議、経済制裁決議、そして武力制裁容認が決議されました。
当時、日本では米国中心の多国籍軍による湾岸戦争と報じられていましたが、国際社会の為政者たちは国連による武力制裁と認識していたのです。ただし、我が国の場合、先ほど来申し上げている必要最小限度の実力行使、この要件により、武力制裁そのものに参加することはできず、支援のみが可能となるのです。また、自衛権行使についても国連憲章は制約を課しております。この武力制裁、これが取られるまでの間だけ認められるもので、かつ国連への報告義務もあります。これは、自衛戦争の名で侵略が繰り返された戦前の反省が国連憲章に込められているのです。
二〇〇一年九月十一日、米国同時多発テロが生起しました。米国やNATOが個別的及び集団的自衛権を発動したことは皆さん御承知のとおりです。しかし、これらは全てテロ発生翌日の安保理決議によって認められたものであります。米国といえども、自国の意思だけで自衛権を発動できないのです。このように、自衛権行使そのものについても、戦前とは異なり、国連憲章に極めて厳格に取り扱われるようになっております。
国連は各国の意思で成り立っております。何らかの形で軍人か軍隊を出すことが求められますが、参加形態は各国に委ねられています。現在の南スーダンPKOも、ブラヒミ報告どおり、いわゆる七章型ですが、日本は、参加五原則にのっとり、六章型当時のままの編成で参加しています。巻き込まれるとの議論は戦後の国際社会の実情を御存じない方の議論だと思います。
以上、我が国をめぐる国際安全保障環境の変化に対応し、平素から抑止力を高めるため、及び国連を中心とする活動に国際社会の一員として積極的に参加することで信頼される日本として友好国を増やすため、なすべきことを盛り込んだ今回の平和安全法制の一日も早い可決を希望いたします。
以上です。