武蔵勝宏の発言 (外交防衛委員会)

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○参考人(武蔵勝宏君) 同志社大学の武蔵でございます。
 本日は、本改正案の文官統制の見直しをめぐりまして、配付させていただきました資料に基づきましてお話をさせていただきます。
 戦前の日本で軍部の暴走を止められなかったのは、統帥権の独立によって、軍の作戦用兵や組織編制について内閣や議会の統制が及ばないなどの憲法上の欠陥があったからである。さらに、軍部大臣武官制を通じて、軍部が国の政策や政治にまで介入したことが軍部独裁の原因となった。戦後の防衛庁、防衛省では、こうした反省に立って、文民である防衛大臣が軍政、軍令事項の双方に指揮監督権を持つ仕組みが採用された。この防衛大臣を補佐するのが文官による内局と制服組による幕僚監部である。両者の関係は並列的であり、政府も内局が幕僚監部を統制する上下関係にあるわけではないと説明している。
 しかし、実際には、内局は、設置法八条において、防衛省の所掌事務である防衛及び警備の基本及び調整、自衛隊の行動の基本、自衛隊の教育訓練の基本、自衛隊の組織、定員、編成、装備及び配置等の基本に関することを所掌している。一方、統幕は、設置法二十二条によって、統合運用の見地からの防衛及び警備に関する計画の立案、行動の計画の立案、行動の計画に関し必要な教育訓練、編成、装備、配置等の計画の立案等を所掌する。基本に関することとは、軍事専門的、技術的事項を含めた政策的な見地から、政策的、方針的な大枠を内局が策定することを意味する。
 この両者の関係を防衛大臣の補佐の観点から整理したのが設置法の十二条です。内局の官房長及び局長は、その所掌事務に関し、防衛大臣を補佐するものとして、その補佐事項は、陸海空各自衛隊又は統幕に関する各般の方針や基本的な実施計画の作成について防衛大臣が各幕僚長に出す指示や、各幕僚長が作成した方針及び実施計画についての防衛大臣の承認、そして各自衛隊又は統幕に関する防衛大臣の一般的監督に及ぶ。こうした十二条に基づき、内局と幕僚監部の間の事務調整手続として保安庁訓令第九号が継承され、橋本首相の指示により九七年六月三十日に廃止するまで施行されてきた。
 同事務調整訓令では、一、長官が幕僚長へ指示する方針や実施計画の案の作成については内局が立案する、二、幕僚監部が長官に提出する方針や実施計画を内局が審議する、三、幕僚監部が作成した方針等の実施状況の報告は内局を経由して長官へ提出することが規定され、幕僚監部に対して内局が大臣補佐を通して実質的な統制権を有してきたとも言われてきた。同訓令は廃止されたものの、別途定められた既存の訓令等によって、その基本的な事務処理の要領は変更されていない。
 これに対し、各幕僚長は、自衛隊法九条二項で、隊務に関し最高の専門的助言者として防衛大臣を補佐する立場にあることから、内局が、自衛隊の行動運用に関する隊務に関しても、その方針や実施計画作成に関与することについて軍事的合理性を損なうとの批判がかねてから存在してきた。
 今回の法改正のきっかけとなったのは、二〇〇七年に発覚したインド洋給油量取り違え事案や翌年のイージス艦「あたご」の衝突事故などを踏まえ、防衛省改革会議が内局の運用企画局を統幕に一元化することを打ち出したことにある。給油量取り違え事案の原因には、海上幕僚監部と内局の双方に同様の組織があり、両者の連携、調整のまずさがあった。イージス艦「あたご」の衝突事故では、内局との調整に手間取り、防衛大臣への報告が事後となり、初期対応が遅れた。また、東日本大震災や北朝鮮ミサイル発射等への対応の教訓も踏まえ、部隊運用の一元的・迅速的対応がより求められるようになったことが、今回の法改正で統幕への運用機能の一元化を行うことになったとも指摘されている。
 もっとも、今回の改正案では、設置法八条の内局の所掌事務から自衛隊の行動に関する基本を削除することは見送られた。運用機能を全て統幕に一元化するのではなく、運用企画局の廃止後も、運用に関する法令の企画立案機能等は防衛政策局へ移管され、内局に残ることとなったからである。自衛隊の行動の基本に関する内局の所掌事務が変更されないのならば、なぜ十二条を改正する必要があるのか。
 これまでの国会答弁では、外局の長として防衛装備庁長官が新設されることや統幕に運用機能が一元化されることなどを挙げているが、現行十二条の趣旨自体に変更はないとして、改正の必要性に関しての明確な説明がなされていない。また、改正十二条でも現行十二条に列挙された三項目を含む防衛省の所掌事務全般に補佐の対象が規定されているとして、現行十二条のこれまでの内局と幕僚長の関係は変わらないとも答弁で説明されている。
 しかし、改正十二条では、現行十二条の指示、承認、一般的監督の文言は削除されており、現行法と同様の官房長、局長の補佐の役割が担保されるかは新十二条だけでは明らかではない。少なくとも、運用企画局が廃止されることにより、現行十二条において防衛大臣が各幕僚長に対する自衛隊の運用の実施計画の指示を起案する役割は、運用企画局長に代わって統幕長が担うことになる。
 この変更は、防衛省内における意思決定の重要な変更を伴うものと考えられる。例えば自衛隊の国際平和協力業務の場合、これまでは、防衛大臣が行う実施要項の策定や行動命令の起案は運用企画局が統幕と連携、調整しながら作成していた。しかし、一元化後は、大臣への補佐は統幕長が担うことになる。この場合、内局は、法令等の改正を伴うものや閣議決定を伴う重要なものについては引き続き担当するものの、その他の事案については、内局は総合調整に関する所掌事務に基づいて関与し得るだけで、軍事専門的見地からの統幕長の補佐が当然優先されることになると思われる。部隊の実際の運用に関して統幕が自らに対する大臣の指示を起案するというのでは、極端な場合、自己に都合の良い指示を起案することになりかねない。
 運用機能について統幕に一元化することは、有事におけるオペレーションなどで指揮命令系統を一本化し、大臣への報告やその指示が迅速になされるという効果も期待できる。しかし、平時においても、作戦オペレーションと同様の迅速性が求められると言えるだろうか。また、自衛隊の海外への派遣決定などをめぐっては、慎重を期す意味でも、運用機能を統幕に一元化することは性急な決定を招くことにならないか。統幕の所掌事務の追加により、部隊の運用に関する連絡調整や防衛大臣に対する状況報告は統幕に一元化され、内局に対しても必要な連絡調整が行われるとされているものの、迅速性や効率性を優先することによって内局に対する連絡が事後になり、情報共有が徹底できなくなる可能性もある。それでは内局による政策的見地からの補佐や総合調整機能は有効に働かなくなる。
 実際には、自衛隊の国内外での運用が常態化した現在では、平時、有事それぞれの事態において運用企画局と統幕が連携して情報共有や共同で対応を行う業務が機能しており、現在の内局と統幕の二元体制が重複によって非効率であるとの批判は必ずしも当を得ていない。運用の現場では、内局と幕僚監部の相互の密接な協力がなければ事態に対応することができないからである。すなわち、現行の十二条があるから自衛隊の運用に関して何らかの支障が生じているとの立法事実は存在しないのである。
 以上の問題点を踏まえると、現行十二条で限定的に掲げている項目を防衛省の所掌事務全体にわたることに明確化すること、また政策的見地からの大臣補佐と軍事専門的見地からの大臣補佐の調整、吻合という趣旨をより明確化するというだけの言わば入念規定的な意味合いに十二条を改正する必要性はないと考えられる。
 他方で、日本のように、内局が軍令事項にまで関与するのはほかの国の防衛機構にない仕組みでもある。しかし、アメリカの国防長官府は、行政部門だけでなく、緊急事態対処計画の作成、見直しに関する政策指針作成や当該計画の見直しについて国防長官を補佐することとされており、統合参謀本部と緊密に協力、調整しながら、軍の作戦にも関与している。軍事作戦は軍人が高度な専門知識に基づきオプションの作成を独占的に行っている分野であり、軍事専門家でない文民政治家は、軍からの具体的な作戦案が提示されないと作戦の具体化を進めることは難しい。そうした点で、アメリカの国防長官府が有事の際の軍事作戦の代替案を国防長官に対して提示する機能をも有することは、文民指導者の意思決定の優越性を確保する上で必要なことと指摘されている。
 現在の日本において、内部部局の定員中、制服組の定員が僅か四十八名という構成は、英米仏独の国防組織の中枢機構の内部部局と比較して極端に少ない。内局の防衛政策局事態法制課などにも制服組を配置し、文官の軍事専門的知識の不足を補うとともに、内局としても統幕の案を軍事的観点からもチェックできる仕組みを残しておくべきである。
 作戦運用の重要案件については、今後も内局幹部と幕僚長をメンバーとする防衛会議で決定されることと変わりはないとされている。しかし、運用機能を統幕に一元化することで軍令面での内局の大臣補佐機能が弱体化することは確実であり、そうした点で、十二条の改正を見合わせ、内局と統幕のチェック・アンド・バランスの関係を維持することこそが必要である。その上で、内局と統幕が連携して大臣を支える組織を構築するための文官、制服組の一体感の醸成を優先して進めていくべきであろう。
 以上です。

発言情報

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発言者: 武蔵勝宏

speaker_id: 12516

日付: 2015-05-28

院: 参議院

会議名: 外交防衛委員会