大塚直の発言 (環境委員会)
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○参考人(大塚直君) 早稲田大学の教授の大塚でございます。本日はこのような機会を与えていただきましてありがとうございます。
水俣条約の国内法対応についてお話ししたいと思います。お手元のパワーポイントの資料とペーパーを御覧いただければと思います。
私の調査審議への関与につきましては、ペーパーに記したとおりでございます。時間の関係で、水俣条約の背景とか我が国の状況、水俣条約の概要につきましては省略いたしまして、まず新法案と大気汚染防止法改正案を条約との関係で概観したいと思います。
スライドの七を御覧ください。
国内法化の主要点一でございます。水銀の供給源及び貿易についてでございます。
まず、水銀の供給源につきましては、条約上、締約国は、新規の水銀の一次採掘の即時禁止、既存の水銀の一次採掘の十五年以内の禁止をするように努めるとしています。新法案におきましては、新規、既存を問わずに水銀鉱の掘採を禁止するとしておりまして、条約よりも厳しい対応をしています。
次に、貿易でございますが、水俣条約におきましては、条約上認められた用途への使用等を除き金属水銀の輸出を原則禁止とし、かつ輸入国側の事前同意を条件とするなど厳しい規制をしておりますが、水銀化合物は当面規制しておりません。
我が国におきましては、従来、年に七十から八十トン程度の金属水銀を輸出してきましたが、その多くは非鉄金属製錬の際のスラッジ由来でございます。リサイクルされた水銀である点に特色がございます。
これに対する国内担保措置ですが、条約の締結による輸出の制限につきましては、外為法による措置、政省令改正で確保される予定でございます。
答申に基づく政省令改正の整理といたしましては、輸出については原則禁止とし、最終用途が零細及び小規模金採掘、ASGMのものは全面禁止とし、特定の水銀化合物も輸出原則禁止とし、事前に最終使用者、最終用途が確認できるものに限って承認する、輸出後は事後確認を実施するということでございます。これらの全てにつきまして条約よりも厳しい対応がなされています。
また、非締約国からの輸入につきましては、条約と同様に、条約上許可されない供給源からのものである場合には承認しないこととなります。
次に、主要点の二、水銀添加製品に移ります。
条約上は、まず第一に、附属書Aで、一定の水銀添加製品の段階的な廃止期限を設けて、製造及び輸出入の禁止を規定しています。二つ目として、これらの製品が最終製品に組み込まれることを防止するための措置、さらに三つ目として、条約発効時に知られていない新用途の水銀添加製品の製造、流通の抑制措置をとることとしています。
我が国の現状といたしましては、今の三つに対応する国内法令は基本的に存在しておりません。そこで、新法案による国内担保措置といたしましては、この三つについて新法案で対処することが想定されています。
一つ目につきましては、特定水銀使用製品の製造を原則禁止することといたしまして、さらに、製品の実態、流通の実態等を踏まえて、条約以上の深掘りとか規制時期の前倒しも検討されることを想定されています。政省令でこの点については規定されることになろうかと思います。この点に関して、規制の深掘り等が困難な場合におきましても、水銀含有の有無を表示することによって消費者の商品選択の際に認識できるようにするということによって市場で水銀使用製品を減らしていくというインセンティブを与えるということが重要でございます。
二つ目の点でございますけれども、特定水銀使用製品の組立て製品への組み込みの禁止につきましては、条約の国内法化のために規定が必要となります。
三つ目に、条約発効時に知られていない新用途の水銀使用製品の製造及び流通の抑制につきましては、人の健康の保護、生活環境の保全に寄与する場合を除いて、新用途の水銀使用製品の製造、販売をしてはならないとする基本原則が採用されます。
さらに、条約を超える対応として、水銀使用製品の適正な回収のための各主体の責務といたしまして、市町村は廃水銀使用製品の適正な回収に必要な措置を講じ、事業者は水銀使用の表示等の情報を消費者に提供するなど、各主体の役割が規定されています。
次に、外為法による国内担保措置についても少し申し上げておきたいと思います。
特定水銀使用製品の輸出入の規制が行われ、また、ほかの製品に組み込まれた水銀使用製品の輸出入も規制されます。この点について内外無差別の原則が取られることが想定されています。今後、途上国からの輸入品についても水銀使用製品輸入禁止をする必要があること、試買調査等が行われることなどを指摘しておきたいと思います。
次に、主要点の三に移ります。大気への排出でございます。
これにつきましては、主に大気汚染防止法の一部を改正する法律案で対処することが想定されています。条約におきましては、附属書に掲げる五つの種類の施設からの水銀の大気への排出を規制するための措置をとるとするとともに、排出に関する目録の作成、維持を求めています。
現在、我が国におきましては、水銀は大気汚染防止法に定める有害大気汚染物質の中でも優先取組物質として指定されています。事業者には排出状況の把握と排出抑制が求められています。また、環境省は水銀の排出目録を作成、公表しています。しかし、このような自主的な排出抑制の責務に基づく現在の対応につきましては、条約締結後も継続するということは難しいと考えられます。
そこで、国内担保措置として、大気汚染防止法改正に基づく措置といたしましては、水銀排出施設の設置の届出の義務、排出基準の遵守義務が新規、既存の施設を問わずに課され、さらに、排出基準違反に対して必要に応じて改善勧告等及び改善命令等が発出できるものといたしまして、さらに、水銀排出者に対して水銀濃度の測定、記録、保存を義務付けることといたしております。また、五つの種類の施設以外につきましても、大気汚染防止法改正案では、水銀等の排出量が相当程度である施設につきましては排出抑制のための自主的な取組を求めています。
また、新法案による措置としては、条約の八条七は目録の作成を要請しておりますので、排出に関する目録を新法に基づく計画、この法律の三条、新法の三条でございますけれども、において定めることが想定されています。
次に、主要点の四に移ります。水銀廃棄物以外の水銀の環境上適正な暫定保管についてでございます。
水俣条約は、水銀廃棄物の定義に該当しない一定の水銀及び水銀化合物につきまして、条約によって認められる用途のための暫定的な保管が環境上適正な方法で行われることを確保するための措置をとることとしています。
我が国の状況といたしましては、国内では、廃棄物からの水銀回収事業者一社が年間約五十トンの水銀を保管しておりますが、それ以外は水銀使用製品製造事業者を中心といたしまして数十キログラムから一トン未満程度の比較的少量の保管がなされております。また、水銀の取扱いや保管につきましては、条約の求める措置を規定する国内法令はございません。そこで、新法案において国内担保措置をとることが考えられます。
暫定保管につきましては、毒物劇物取締法と類似した管理指針を置きまして保管状況の報告を求めることが考えられます。新法案は、暫定保管を貯蔵という言葉で表し、国は水銀等の貯蔵に係る環境汚染を防止するための技術指針を定め、必要に応じて事業者に対して環境汚染防止のための措置を勧告することとしています。さらに、定期的に貯蔵状況等を国に報告することといたしております。
次に、主要点の五に移ります。水銀廃棄物についてでございます。
条約は、水銀廃棄物を環境上適正な方法で管理することなどを定めています。
我が国の現状といたしましては、従来は、水銀を含む汚泥、燃え殻等は管理型最終処分場か遮断型最終処分場で処分されておりました。また、金属水銀は貴重な資源として利用されてきました。
ここで注意を必要とするのは、水俣条約上の水銀廃棄物は、バーゼル条約の定義が使用されていますので、有価物も無価物も含む概念であるということでございます。これに対して我が国の廃棄物処理法の廃棄物概念は、基本的に無価物のみを廃棄物としておりますので、今回の水俣条約上の水銀廃棄物は、廃棄物処理法上の廃棄物以外にバーゼル廃棄物も含むということでございます。これにつきましてはスライドの三十を御参照ください。
水俣条約を締結いたしますと、水銀の使用用途等が制限されることに伴って、市況によっては金属水銀等の有価性が失われていくということが予想されます。そのため、国内におきましては金属水銀等についても隙間のない対応を検討する必要が生じます。
これにつきましては、新法案において、水銀含有再生資源として国内担保措置をとることが考えられています。条約上は水銀廃棄物でございますけれども、廃棄物処理法上の廃棄物でないもの、これを新法案では水銀含有再生資源と呼んでおりますが、これにつきましては、新法案は、まず第一に、国はその管理に係る環境汚染を防止するための技術指針を定め、必要に応じて事業者に対して環境汚染防止のための措置を勧告することといたしております。第二に、水銀含有再生資源を管理する者は定期的に管理状況等を国に報告することといたしております。この点は暫定保管、貯蔵に関する規律と同じでございます。
水銀含有再生資源は、具体的には非鉄金属製錬由来のスラッジ等が想定されています。もっとも、水銀廃棄物の管理に関する要件につきましては、条約締約国会議で附属書を採択することとなっておりますので、この点の規制は将来的には改正される必要が生じる可能性もあると思われます。
次に、もう一つの国内担保措置である廃棄物処理法上の水銀廃棄物について申し上げます。
廃棄物処理法上の水銀廃棄物につきましては、まず廃金属水銀等の処理の問題がございます。廃金属水銀等は条約締結後は徐々に有価性を失っていくと考えられますので、これが廃棄物として扱われる場合には、特別管理一般廃棄物又は特別管理産業廃棄物として指定することが考えられています。
次に、水銀を含む汚泥とか焼却残渣につきましては、水銀汚染物と呼ばれていますが、この管理が問題となります。環境上より適正な管理を確実なものとするための措置が必要となります。これにつきましては、水銀又は水銀化合物を一定程度含む水銀汚染物を水銀含有産業廃棄物として指定します。また、特定の施設、具体的には非鉄製錬業の施設などが考えられますが、ここから排出される高濃度の水銀汚染物につきまして水銀の回収を義務付けることが考えられています。
第三に、水銀添加廃製品の管理の問題がございます。これも、環境上より適正な管理を確実なものとするための措置が必要となります。水銀添加廃製品につきましては、一般廃棄物につきましては先ほど申し上げたとおりでございますけれども、産業廃棄物の水銀添加廃製品対策といたしましては、水銀が飛散しやすい又は溶出しやすい廃製品を水銀含有産業廃棄物として指定することが考えられています。
概要の最後の点ですけれども、実施計画でございます。
条約は、締約国は条約義務履行のための実施計画を作成、実行することができるとしています。その国内担保のために、新法案は、国は水銀等による環境汚染の防止に関する計画を策定することとし、そこで水銀対策の全体像や将来像を包括的に示すことが想定されています。
以上が条約と法案との関係についての概観でございます。
それでは、これらの法案を簡単に評価して、若干の課題を述べたいと思います。
水俣条約の特色といたしまして、水銀及び水銀廃棄物の産出、貿易、使用、大気、水質、土壌への排出、廃棄、暫定保管というそのライフサイクルにおける包括的なアプローチを採用したということが挙げられます。今回の新法案、大気汚染防止法改正案はこれに対処するためのものでございますけれども、単に条約の要請を担保するだけでなく、それを超える部分を相当数備えているということに特色がございます。
スライドの三十九と四十に記しておきましたけれども、条約を超えた対応をした点が多数ございます。
まず、輸出につきましては、輸出を原則禁止とし、最終用途がASGMのものは全面禁止とし、特定の水銀化合物も輸出原則禁止とする、事前に最終使用者、最終用途が確認できるものに限って承認する、輸出後は事後確認を実施するというところが条約を超えている対応をしております。
次に、水銀添加製品につきましては、特定水銀使用製品の製造の原則禁止についての深掘り、規制時期の前倒しをする、水銀使用製品の適正回収のための各主体の責務について定めるということをしています。
また、大気への排出につきましては、五種類の業種以外に相当程度排出する施設に対して自主的な取組を求めるということをいたしております。
さらに、ASGMにおける水銀等の使用の禁止とか、附属書Bに規定される特定製造工程における水銀等の使用を禁止しているという点も、条約を超えた対応をしている点でございます。
このような条約を超えた対応をしている点に関しましては、水俣病を経験した我が国が世界の水俣病の発生防止のリーダーシップを発揮すべきこと、さらに我が国の国民性として魚をよく食べるということから説明ができると思われます。水俣条約という名前を冠した条約の国内法化に恥じない対応をしていると言ってよいと思われます。
では、今後の課題として何が挙げられるでしょうか。
まず、直ちに行うべきこととして三点挙げておきたいと思います。
一つは、条約締結後、実施計画を早急に立てて、各環境媒体だけでなく、原料、製品、廃棄物及び環境媒体間の水銀等の移動を含めた計画を打ち出すことでございます。二つ目は、家庭から排出される体温計、血圧計の効果的な回収方法、処理体制を自治体が事業者と連携しつつ構築し、国はこれを支援することでございます。三つ目に、金属水銀の安定化のために金属水銀の硫化施設の設置をすることでございます。
他方、廃金属水銀等の処理体制とか長期的なモニタリングにつきましては、まず、廃棄物処理法に基づいて排出事業者において適切に管理することが重要でございます。そして、廃金属水銀等の長期的な管理のため、国を含めた関係者の適切な役割分担を検討することが必要でございます。この点は中長期的な課題となります。
最後に、新法案に関連する点として、環境法全般との関係で問題となることを一点だけ申し上げておきたいと思います。
先ほど申しましたように、我が国の廃棄物処理法上の廃棄物の定義は国際的な廃棄物の定義とは違っております。水銀含有再生資源は、条約上は水銀廃棄物に該当します。この水銀含有再生資源は、現在は有価での取引が行われているとしても、今後、水銀の市場価値が低落していくことなどによって廃棄物処理法上の廃棄物により近づくことが予想されます。
そうした中で、水銀含有再生資源に関する規律は、水銀等の貯蔵に対する規律に近づけるのではなく、むしろ廃棄物処理法上の水銀廃棄物に近づけるべきではないか、その方が国際的な廃棄物の定義を重視していることになりますし、事柄の性質上も適切であるということを申し上げておきたいと思います。
以上で私の説明を終わらせていただきます。