中野麻美の発言 (厚生労働委員会)

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○参考人(中野麻美君) 貴重な時間を意見陳述のために割いていただきまして、心から感謝を申し上げます。
 私は、非正規雇用、とりわけ派遣労働者の賃金等の実態を踏まえて、雇用形態、派遣労働者であることを理由とする不合理な取扱いを禁止すること、また、均等待遇確保に向けた是正措置を講じるべきであること、それに当たって留意すべき点は何かといったようなことについて意見を申し上げます。
 私の資料は二部あります。それで、スライドになっている囲みのいろいろグラフが書いてあるものと、それからその解説版というやつです。スライド一とか二とか書いてあるのは、これはスライドの番号でして、ページ番号ではありませんので、よろしくお願いをいたします。これに沿って解説をしていきたいと思います。
 まず、実態です。スライドの二から二十一までなんですけれども、派遣労働ネットワークの調査によりますと、賃金は下がる一方でした。生活の見通しが利かないどころか、これでは子供を産み育てることなどできません。そして、性別、常用型、登録型、派遣先社員との間に何重にもわたる格差があります。最近では、賃金は上昇傾向を示していますけれども、派遣料金は上がっても賃金はダウンする傾向もあります。また、下がらなくても、物価上昇していますので生活は苦しくなっています。賃金は細切れ化して、派遣では仕事と生活の両立はできない、子供を産めば仕事を失い、仕事がないから保育所に預けられない、預けられないから働けないという悪循環に置かれています。
 スライドの二十二です。均等法や労働者派遣法が制定された一九八六年以降の法体制というのは日本型雇用慣行に親和的でありまして、契約の違いでしかない正規と非正規を身分固定化してしまいました。そして、登録型派遣は、均等法では救えない女性の働き方の選択肢として、仕事と生活の両立のために契約本位に専門技能を発揮して働けるということで容認された形態でしたけれども、実際には全く真逆でした。
 そもそも、契約区分の要素というのは性中立性に疑問があります。職務とか人事ローテーション、配置、そして将来への期待によって格差を設けること自体、合理的な根拠が本来的に問われるべきであったというふうに思います。
 職務の外形だとか人事ローテーションの有無や幅が違うから格差も当然といったことは神話でしかありません。それを示すものが、三つのシートに掲げておきました職務評価の結果です。これは、二十五、二十六、二十七にスライドで掲げておきました。
 まず、転勤がなく補助定型業務に位置付けられた社員、国内外の転勤があって基幹判断業務に位置付けられた男性社員とを比較したものでありますけれども、二十五と二十六のスライドを見ていただいても、仕事の困難度には余り変わりはないということがお分かりいただけると思います。この二つのコースの間の賃金差は五〇ポイントでございます。
 スライドの二十七に飛びますけれども、労働市場の二極化、格差と貧困というのは、日本型雇用慣行を下敷きにした経済分配システムの合理性を問うものでした。転勤条項は間接性差別となる基準というふうに厚生労働省令で規定されているわけですが、これに留意して不合理な格差を解消するという新しい制度が必要になっていると思います。
 多様な正社員構想というのは、正規と非正規の二分された労働市場の改革を眼目としていまして、日本型雇用慣行から離れた新しい正社員像を広げて、同時に、非正規雇用からの転換の受皿というふうに位置付けられるものであると私は理解しております。しかし、これには副作用がある、それに留意する必要があると思います。
 特に、非正規雇用からの転換の受皿というふうに位置付けられるとなりますと、正社員の低賃金化が進むのではないか、また、これらの副作用による影響で、仕事への誇りであるとか努力しようとする意欲が損なわれてしまったり、あるいは職場での連携が希薄化して生産性が低下するのではないかといった懸念が強く出てまいります。
 スライドの三十ですけれども、こういった状況の中で非正規、特に派遣労働者が負っている格差というのを派遣労働者のなぜということで示しておきました。
 職場に長く貢献しているのに真っ先に調整の対象になる、雇用継続への期待は法的に保護されない。同時に、同等に力を発揮しているのに生活が見通せない賃金で、将来発揮する役割というものも見通せない。働いて生活を維持しているのは皆同じなのに、通勤手当など諸手当の支給もなく、そのほか福利厚生でも差別されている。同じ人間なのに、出産、育児、介護の権利が保障されづらく、団結権であるとか団体交渉権の保障が実質的に機能していない。こういったことは人間の生活と人格的尊厳に関わるものです。
 スライドの三十一に書いておきましたけれども、働き手の力の源泉とは何か。仕事に挑む自尊というものを核心とする人権の保障にあるのではないかと思います。アンケート調査結果でも賃金の格差への不満が大きいわけですが、これは、生活が苦しいことと併せて、賃金等の待遇はその人の仕事や働き手の人格的な価値を象徴しているからではないのかというふうに思います。
 労働者の職務に応じた待遇の確保に当たり留意すべきことが三つあります。第一に、雇用形態による不合理な格差を撤廃することに向けた法制度を整備するという明確な目標を持つべきです。第二に、この課題をあらゆる差別、特に性別、年齢、障害による差別の禁止を徹底させる課題と有機的に結合させなければいけません。第三に、日本型雇用慣行を構成している包括的な労働関係、これに構造化された差別を取り除くこと、誰にも保障されるべき普遍的な雇用関係の在り方というものを確立する、これと不即不離の関係に立つものとして政策を推進しなければならないと思います。
 合理性判断には、職務の価値評価あるいは間接差別の法理、そして合理的配慮の欠如といったような観点を組み入れて、雇用上の地位、賃金等待遇の不合理な格差を契約上是正する義務を派遣元、派遣先に負わせるべきです。
 この間行われてきた雇用改革というのは、基本、第一に正規雇用への転換あるいはみなし、第二番目に均等待遇の保障、そして第三に受皿としての正規雇用改革という三つの歯車を起動させようとするものですけれども、まだまだうまく機能していないという問題があります。特に、派遣労働は特有の問題を抱えています。それは、雇用と使用責任が異なる主体に分離しているということ、それから登録型派遣の法的関係の特殊性といったものからくるものです。
 今回の労働者派遣法見直し法案も、そういった限界があって、均等待遇保障の目的からすると極めて不十分だというふうに私は捉えております。これは、スライド三十五に今回の見直し法案の概要というものを図式化しておきました。
 スライドの三十六に、派遣労働者に均等待遇を保障すべき法的根拠は何かということで、三点挙げておきました。一つは、派遣労働者の人格的尊厳、人権の保障の要請です。第二番目に、労働者派遣法の基本趣旨である常用代替防止の徹底ということが根拠になります。そして第三に、配分的正義の実現です。
 特に今回は、期間と業務を組み合わせて正規と派遣との競合を回避する規制から、根本的にこれを見直して、正規雇用と派遣の競合可能性というものを格段に高めるという内容になっています。そうしたところでは、配分的正義の実現は制度の大前提だというふうに考えるべきであって、むしろ、こういった制度が実現しているところでこの労働者派遣法の改正を論じるのであればともかくとして、それを全く棚上げにしてこの改正が論じられるということに非常に強い違和感を感じます。
 スライドの三十七ですけれども、派遣労働関係の特殊性を踏まえて、あらゆる差別の禁止と派遣労働者であることを理由とする不合理な差別を解消する制度の確立、それを図式化しておきましたけれども、こういったものをイメージして政策を進めていくことが求められるのではないかと思います。
 派遣労働者の格差というのは、先ほども申しましたように、性別、常用型、登録型、派遣先に直接雇用された労働者との間に多重的に存在しています。常用型、登録型の格差解消の可能性を検討したとしても、労働契約法二十条はほとんど機能しないと思われます。それは、登録型という契約の特殊性から、将来にわたる職務であるとかあるいは人事ローテーションの枠組みの同一性といったようなことを問題にされてしまうと、格差の合理性を問う前提を欠いているとしか考えられない、そういった労働形態だからです。
 しかし、職務関連性のある賃金につきましては、職務に必要な技能、仕事の困難度というのは同等であるのかどうかという視点から見直すことができますし、人事ローテーションの有無、範囲の違いが仕事の困難度に連動するかどうかという観点からの見直しはしていくべきだと思いますし、また、格差はワーク・ライフ・バランスへの配慮の欠如によって生じていないかどうかということが問われていくべきだと考えます。そして、就労・生活支援のための賃金であるとかあるいは福利厚生については同一の権利が認められてしかるべきだというふうに考えます。
 スライドの四十一に、派遣先社員との均等・均衡処遇に必要な法制度として踏まえるべき基本というものを示しておきました。先ほど、均衡ということを入れることについての意義というのがありましたけれども、格差が不合理であるという場合に、どれほど不合理であるのかと、その程度を勘案して柔軟に判断していくということも必要な観点なのではないかと私は考えております。
 そして、まず第一に、派遣社員であることを理由とする不合理な格差、取扱いの禁止を明確にすべきです。これぐらい何らかの形で法制化するということが緊急にできないものであろうかというふうに疑問に思っているところですが、この禁止というのは、派遣受入れから就労の継続、終了、そして賃金等待遇上の取扱いの全てが対象にされるべきものでありますし、それらの責任は派遣先、派遣元に、両者に義務付けられるべきであると考えます。
 第二番目に、合理性判断の枠組みとしては、少なくとも以下の差別を取り除く観点が必要だと思います。一つは、職務の同価値性判断というものを前提にするということ。二つは、人事ローテーションの有無、範囲は、職務との関連性、合理的関連性といいますか、そして同価値性、それから合理的配慮の観点から検討が加えられるべきだということです。
 そして三番目に、使用者側に説明義務、主張立証責任を負わせるということだと思います。合理性の主張立証責任は、対象となる労働条件ごとに派遣先、派遣元の各責任主体がそれぞれ負担するというのが合理的であると考えます。そして、労使の取組を可能にする制度というものにこういった考え方をつなげていくということではないかと思います。
 第四に、どこまで是正するかという問題があります。それが同一価値労働同一賃金であるのかどうかといったような問題につながっていくわけですけれども、比較対象者を誰にするのか、同一価値労働に対して同じ賃金を支払うという原則を是正義務の内容とするのか、是正するのは正社員の職務関連賃金だけなのかといったことをきちんと整理をしていく必要があると思います。
 しかし、私は、比較対象者が存在しなくても、当該労働者が正社員だったら支給される賃金に是正するように契約内容を修正するという法制化というのは可能ではないかというふうに考えております。そういった方向で検討するということが求められていると思います。
 是正に向けた設計図を描く上で、二〇〇八年のEU指令は参考に値するものだと思います。日本において形成されてきた派遣労働の位置、あるいは正規雇用の構造的な問題を踏まえて、制度改革を急いでいただきますようにお願いを申し上げます。
 以上です。

発言情報

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発言者: 中野麻美

speaker_id: 26658

日付: 2015-08-19

院: 参議院

会議名: 厚生労働委員会