中山慈夫の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(中山慈夫君) 中山慈夫でございます。
本日は、参考人として意見を申し述べる機会をいただきまして、ありがとうございます。
私は、弁護士としてこれまで労働者派遣法に関わる案件の紛争処理、あるいは様々な相談に関わってまいりました。こうした実務経験を踏まえた観点から申し上げますと、今回の改正労働者派遣法案は基本的に妥当なものと考えておりますので、速やかに成立させ、施行すべきものと考えております。
その主な理由を申し述べますと、次のとおりでございます。
まず、改正法案で実務上最も評価すべき点は、派遣期間制限の見直しだと思っております。
現行の派遣期間制限につきましては、御承知のとおり、業務区分による二本立てとなっておりまして、いわゆる二十六業務については期間制限がなく、それ以外のいわゆる自由化業務につきましては原則一年、最長三年という期間制限がございます。しかし、この二十六業務と自由化業務との区分は実務において実に不明確で曖昧なケースが多く、この点につきましては、平成二十四年に改正された現行の法律制定のときの国会の附帯決議でも、派遣関係当事者にとって分かりにくい、それを分かりやすいように検討せいと、こういう指摘がなされていたところでございます。
この点をもう少し具体的に述べますと、二十六業務であっても、それに付随的な業務は一〇%を超えると二十六業務と認めないというのが行政の考え方でして、いわゆる一〇%ルールが取られておるわけです。さらに、この二十六業務に付随する業務でないと、無関係な業務を少しでも行わせればこれは直ちに自由化業務だと、こういう扱いをすると、こういうことになってございます。
派遣の現場で、果たして二十六業務自体なのか、その付随的業務なのか、あるいは無関係な業務なのか、その境界線が問題とされてきたわけですが、さらに、近時、行政において二十六業務の範囲をより厳格化して、これを取り締まるというか指導監督すると、こういうことが平成二十二年からございました。同年の二月に専門二十六業務派遣適正化プランがその契機となりまして、同年の五月に二十六業務についての質疑応答という、これは局長通達の位置付けですが、これが出まして、二十六業務全般についてその専門性等を、きめ細かいというか、実務の対応としてなかなか難しい内容の基準というものが厳しく出されました。
例えば、従前は問題なく行われていたファイリング業務とか事務機器操作業務などは、かなりの専門性がないと二十六業務と認めないという考え方を取りまして、行政指導がかなり厳しく行われました。これによって派遣現場が相当混乱して、二十六業務か否かをめぐり、行政と派遣労働者、さらに派遣先、派遣元との見解が相違することも多々ございまして、また、特に、行政の指導が出されて二十六業務が否認されるということになりますと、直ちに期間制限違反の問題が生じまして、派遣関係三者の間で紛争が生じて、ケースによっては予期しない派遣労働者の離職を伴う深刻な事態も生じていたところであります。これは、当時の、私がいろいろ実務でやっていたときの実感でございます。
もとより、その派遣元、派遣先企業が派遣法のルールを遵守するのは当然ではありますが、本来の二十六業務であっても、実際に派遣現場での業務というのは、例えば、納期とか取引先の要請とか周りの仕事の配分とか、日々全く定型的で規則的、機械的な業務を行わせるというのは、これは現実にはできないわけですから、この問題の根本は派遣期間制限を業務単位で考えるという現行法のルール自体にあると思いましたので、私はこのルールを基本的に変えることが急務であると考えておりました。
かかる観点から、今回の改正法案につきましては、派遣の期間制限では、業務の区分というのを取らずに、派遣労働者が有期か無期かで雇用されているのか、そして、有期雇用の場合には、人単位及び事業所単位という客観的な指標によって期間制限のルールを当てはめようと、こういうことになっておりますので、この点は私は大いに評価しているところでございます。
それから、二点目で評価すべき点として申し上げたいのは、改正法案における派遣労働者の支援に関する一連の措置でございます。その内容につきましては御承知のところでありましょうから、このうち二点を指摘させていただきます。
一つは、派遣元事業主に教育訓練など派遣労働者のキャリアアップの施策を具体的に義務付けたというところでございます。
これは、派遣元事業主に計画的な教育研修、キャリアコンサルティングの実施などということが掲げられておりまして、詳細は告示等で更に具体化される予定と聞いております。また、これに対応して、派遣先に対しても業務遂行に密接に関連した教育訓練の実施の配慮義務というのが定められております。
これらの派遣労働者の教育訓練などにつきましては、現行法でもそれなりの規定はありますが、これは抽象的で努力義務にとどまっていたわけです。もっとも、実務では、大手の派遣会社など、独自に派遣労働者に対する教育研修、そういうことを行っている例はございますし、また、派遣就労自体もOJT教育の意味合いもあるわけですが、派遣制度として見れば、派遣というのは臨時的、一時的な位置付けだと、こういうことで、派遣法制定以来、派遣先の常用雇用に代替しないことを基本としてきたために、派遣労働者の職業能力の向上という考え方自体が派遣法ではどうも具体的にはなっていなかったわけです。
実務においても、派遣労働者は労働力の提供者というイメージが強くて、その職業キャリアに着眼する意識は希薄だと思われがちです。改正法案において教育訓練など派遣労働者のキャリアアップの施策が盛り込まれたことは、そういう意味で私は大変画期的なことであって、派遣制度の仕組みにおいてこれは新たな視点を与えるものという評価をしてございます。
それから、この支援措置として二つ目は、有期で雇用されている派遣労働者に対しての雇用安定措置であります。これも有用であると考えております。
これは、御承知のところだと思いますが、有期雇用の派遣労働者が一年以上三年までに当該派遣就労を終了する際に、派遣元の方は、この改正法案では新たに派遣先への直接雇用の依頼あるいは新たな派遣先の提供、派遣元での無期雇用などの措置をいずれかとるようにと、こういう定めになっています。
これは、実は派遣元事業主にとっては大変厳しい措置でありまして、特に中小零細の派遣事業者にとってはどの選択肢も容易に講じられないという不満も現場で聞いております。特に、派遣元が派遣先へ直接雇用の依頼をしても直接雇用が実現しない場合は他の先ほど申し上げた措置を講じなければならないと、こういうことになっているわけでありますから、これは零細な派遣事業主にとっては大変厳しいところです。
したがって、かかる雇用安定措置と申しますのは、派遣元事業主の事業運営上大きな負担を強いるものでありますが、改正法案がそれでも派遣労働者に対する支援を優先して、雇用安定措置を事業主の責任として位置付けたというところに意義があるのではなかろうかと考えております。
以上、指摘した派遣期間制限及び派遣労働者のキャリアアップ、雇用安定の措置ですが、特に改正法案の派遣期間制限については常用代替防止との関係でも問題になると思われますので、この点について簡単に触れておきたいと思います。
まず、期間制限がなくなる無期雇用の派遣労働者について見ますと、一方で常用代替防止の観点から問題だと、こういう見解もあろうかと思いますが、他方で派遣労働者にとっては派遣が継続されることによる雇用の安定とその間のキャリアの蓄積がなされるわけですから、派遣労働者はそこでのキャリアアップにより自らの判断による転職あるいは派遣先への直用の機会もより増えるはずであります。こうした派遣労働者の保護も考慮しますと、常用代替防止を強調、優先する考え方というのは適当ではないというふうに私は考えております。
それから、有期雇用の派遣労働者について見ますと、一方で、三年ごとに人が替われば同じ業務を派遣労働者で継続できるんだと。これについては、常用代替防止の観点から、既に改正派遣法案でも事業所単位で三年を期間制限ということにして、これを延長する際にも派遣先の従業員代表に対する事前の意見聴取が要件となっております。そういう手当てをしております。
それから、これは実務において私が感ずるところですが、派遣先事業主の立場で見ますと、効率的かつ継続的な事業展開において、正社員、直用社員とそれから派遣社員、どういう業務をそれぞれ配分しようか、頼もうかという場合に、おのずとその役割分担を企業が考えて、派遣に適した業務を派遣労働者に担ってもらうというケースが通常だと思います。特に、企業組織におけるノウハウの蓄積ですとか技術の伝承などを考えますと、企業が単純に三年ごとに派遣労働者をごろごろ替えていくとは限りませんので、この点でも常用代替防止だけを強調することには賛成できません。
それから、最後に指摘したいのは、改正法案では派遣事業の健全化を思い切って行っておるという点であります。
派遣事業の健全化につきましては、届出制の従来の特定労働者派遣事業を廃止して全て許可制による行政が監督する派遣事業しか認めないと、こういうことになっております。特定労働者派遣事業者につきましては三年間の経過措置、それから零細事業主向けの許可要件の緩和が予定されていると聞いておりますが、特定労働者派遣事業が全部そのまま新たな許可制の事業へ移行することができるかというと、これは恐らく難しい。したがって、相当数は統廃合されるものと私の方は推測しております。
現在、届出制の特定労働者派遣事業の事業者数というのは約五万六千ということになっております。派遣事業者の七五%を超えておるわけです。しかも、特定労働者派遣ですから派遣労働者は全て常用雇用ということになっております。したがって、今回の派遣事業の健全化というのは、特定労働者派遣事業者にとっては死活問題であって、大きな痛みを伴う制度変更と言わざるを得ないわけです。
しかし、この特定労働者派遣事業における派遣法違反事案も非常に多いのは十分私ども理解しておりますので、今回の改正法案による派遣事業の健全化策というのは派遣業界の将来を見据えた大きな英断だというふうに私は思っております。
以上、申し上げましたが、今回の改正法案は、派遣期間制限を分かりやすくして、労働者派遣における常用代替防止と派遣労働者の保護、支援措置との調和を図るという新たな派遣ルールを創設して、併せてこれを確かなものとするために、それを支える派遣事業の健全化を図るものだというところで私は妥当だと考えております。
以上です。御清聴ありがとうございました。