藤原帰一の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(藤原帰一君) 本日は、参議院国際経済・外交に関する調査会にお招きいただきまして誠に光栄に存じます。藤原帰一でございます。
本日は、国際政治の中でも、特にテロまた中東について御専門の方がこの後お二人おいでですので、大きな枠組みのようなことを中心に申し上げることになろうかと思います。とはいいながら、だらだらしゃべるのもなんですから、このレジュメ一枚物がありますけれども、大まかに言えば(4)のところですね。
今、安全保障の課題で大きいものを二つに分けますと、第一は破綻国家と国際介入の課題です。破綻国家は統治をする力を失った政府を指しておりまして、現在では破綻国家という言葉を嫌って脆弱国家と呼ぶことが増えました。これは厳しい言い方をすれば学術的な概念ではなくて、現実に破綻国家が増えてきたので、そういう言い方は何だと言われるような状況になったんだと、そうお考えになって結構だと思います。
ここでの問題は、権力が非常に弱い政府、そこで、しかもテロ組織などが成長していった場合に、ただ脅して相手を屈服させるというやり方が効かないんですね。抑止、つまり何かやったら仕返しをするぞという脅しを事前に明確に伝えることで相手の行動を抑えることが極めて困難な領域です。ということは、こちらは戦争をするか放置をするかというとても嫌な選択に迫られることになってしまう。この破綻国家問題がいろいろなところで噴き出しているのは御案内のとおりだと思いますが、シリア、さらにイラクの一部、またほかにもリビア、ソマリア、そして今大きな問題となっているイエメンなど、様々な地域で権力の真空に近い状態が生まれてしまいました。これ一つ。
それから二つ目ですけれども、ここで地域覇権というちょっと聞き慣れない言葉を使っています。これについては後で申し上げますけれども、中国とロシアの台頭によって国際関係どう変わっていくのか。気の早い人は、世界の主役がアメリカから中国に替わる、いや、ロシアなんだ、国際政治全体の覇権の問題で議論される方もおいでになりますが、これは詳しいお話をすることができないので結論だけ申し上げてしまえば、恐らくそういうことじゃない。世界全体の覇権がどう動くかということよりも、東アジア地域における中国の地域覇権、また旧ソ連地域を中心とした領域におけるロシアの地域覇権、これが次第に拡大する、これをどうするかという問題があります。
(1)に戻りますけれども、これも大きな話ですが、今我々がどんな時代に生きているのか、東西冷戦が終わってからの時代を十数年、前半と後半に分けて考えてみましょう。
東西冷戦が終わって最初の十数年間は、国際関係が比較的安定している、資本主義という経済的な制度、民主主義という政治的な制度を中核として、ヨーロッパ、アメリカの圧倒的な軍事的、経済的影響力が保たれ、それによって国際関係も安定するという、今から見れば希望的な観測が流れていた時代であります。歴史の終わりなんという元気のいいことをおっしゃる方もいらっしゃいました。フランシス・フクヤマですね。今はその時代ではないということなんですね。
もし資本主義と民主主義という二つの制度によって世界が安定を保つということになれば、これはリベラリズムの国際政治の考え方が文字どおり実現しちゃうことになる。アダム・スミスのように自由貿易によって国際関係が安定するとか、あるいはイマヌエル・カントのように共和主義の成立によって世界が安定するとか、そういった非常に理想主義的な考え方がヨーロッパやアメリカで広く持たれた時代ですけれども、それが後退したのは二つの転機によるものでした。
一つは、アフガニスタンとイラクへの介入です。アフガニスタン、イラクへの介入が勝ったのか負けたのか、なかなか判断付きづらいと思いますけれども、大事なことは、冷戦が終わって最初の十年間は国際政治を揺るがすと考えられていなかった世界の周辺における紛争が世界の中心の安全を脅かす、同時多発テロ事件ですね。そして、軍事的に優位なんだから抑え込めるだろうと思ったんだけれど、占領でつまずきます。占領によって多くの犠牲を払うことになり、結果的には不十分な成果のまま撤収することになってしまう。周辺への介入とその挫折という問題を抱えてしまったわけです。
もう一つは、世界金融危機です。これは文字どおり、今日は頭出しさえできないんですけれども、冷戦が終わってから最初の十年は、新興経済地域に大変な勢いで資本が流れていった時代です。安定した先進国の経済は、成長率はたかだかゼロから四%の間しか見込めない。成長率が見込めるのは新興経済圏ですから、そこにお金が流れた。流れたんですけれども、しかし非常に不安定です。そして、世界金融危機を引き金として、基本的に現在でも続いていると思いますが、新興経済圏でのバブルが崩壊するということが続いている。今、新興経済圏の中で比較的持続した安定を保っているのは中国だけであり、その中国も今減退しているさなかなんですね。
この市場の拡大に対する希望的な観測も破れていったのとほぼ同じ時代に、中国とロシアが軍事的にも経済的にも台頭し、同時に、それまで欧米諸国との安定した関係を第一にするという政策から外れていきます。力が付きましたから、それまでのような欧米との協調第一という路線を取る必要がなくなってくる。これが権力の台頭という問題ですね。ここのところをどう捉えるか。
現在の時代ですけれども、私は権力競合という言葉を使っています。国際政治の概念では、覇権の交代、主役が替わることを権力移行と言っています。権力移行という言葉は使う必要がありません。最終的にはそうなる可能性があるかないか私は分かりませんが、現在その状況ではない。
しかし同時に、中国とロシアを中心に、それまでのヨーロッパやアメリカの影響力に挑戦をする主体が出てきた。競合関係が生まれたわけですね。それだけで大きな問題が生まれるんです。例えば国連で何かを決めようというときに、冷戦終結の最初の十年間では拒否権の発動が非常に少ない。これが、その後になると、言うまでもなく急増することになります。前もありましたけど、今はもう国連で、安全保障理事会で案件を出すこと自体が難しい。シリアがいい例ということになります。
細目について、破綻国家についてここで申し上げるのは僅かにとどめておきましょう。ただ、ここで申し上げておきたいのは、アラブの民主化と破綻国家との関係、とても嫌な問題ですね。
民主化が行われた後、民主化を求めた人たちの思いどおりの政府ができ上がることはまずないと言っていい。むしろ、民主主義ってこんなものなのかという制度になるんですが、ところが、中東・北アフリカにおける民主化の流れでは、ほかのラテンアメリカ、東南アジア、あるいは旧ソ連、東欧諸国と違う大きな現象が現れました。これは、民主化によって破綻国家が生まれてしまうという変化であります。
それは言うまでもなく武力弾圧を続けたからですけれども、武力弾圧を続けることに対抗して軍事介入をする側も、軍事介入する意思が乏しいときには当然リビアのようにすぐ兵力を撤収するわけですね。その後に権力の真空が生まれてしまう。また、逆に、その介入をするのが嫌だと、それをしない場合には、現在のシリア、イラクで御覧のように、統治の崩壊が起こる中で急進武装勢力が割拠する状況になってしまいます。このようにアラブの春がアラブの冬に変わっていくわけで、この過程で武力が拡散します、内戦が戦われますから。
民主化というのは、普通武力を持っていない人間ができるだけ人を集めて闘うわけですけれども、戦闘じゃないですね、ところが、相手が兵隊を使えばこれは武器で応じるしかない。となると、人を集めるという運動よりは、軍事の専門家、テロリストといった人たちが集まることになってしまう。武力が拡散した後で強い政府をつくることができなければ武力の拡散が続く。ここで新政権は、リビアでさえそうですけれども、武装解除を試みますけれども、できない。できないということは、武力を持った集団が国内に割拠した状態が長続きするということになってしまいます。これは、権力の破綻が長期化する非常に大きな条件になるわけですね。
そして、ここで国際介入をする、しない。ここの中にはイラク戦争に御賛成の方も反対の方もおいでだったと思いますけれども、大きな流れで見ますと、アフガニスタン、イラク、この二つでは非常に積極的な介入をしているんですね。相手の政府を倒すことまで見込んだ軍事介入をする。しかし、転機が訪れた。というのは、占領で破綻しましたから、軍事介入する意思が非常に弱くなる。軍事介入する場合も、小規模で短期間に撤収することを考える、地上軍はできる限り送らないという方向になってくる。つまり、占領する意思が乏しいんですね。占領で失敗しましたから、占領する意思が乏しいという状況が生まれたんですけれども、このことが、仮に軍事介入をした場合でも後に破綻国家を残す可能性を増やしてしまいました。
次の問題ですけれども、どのような場合に介入するのか。当然のことながら、独裁政権に自由を脅かされている人たちは犠牲者ではありますけれども、しかしながら、その政権を倒すために軍事介入するのか。すべきだというのがもちろんイラクのときの議論になっていましたけれども、今は逆転して、各国の自衛と関わりが乏しい状況では介入しない方向に動いています。ですから、破綻国家は基本的に放置される流れになっている。その中で、国連が果たす役割は小さくなりました。これはすぐ後で申し上げることですけれども、権力の競合と結び付いたお話になります。
現在、アメリカの政策は大きく御存じのとおり変わっておりまして、イラクへの軍事介入を再開しましたけれども、ちょうどカーター大統領と似ているんですが、カーター政権もベトナム戦争の後、軍事介入をしない路線をずっと取った政権でしたが、アフガニスタン侵略の後、方針を一転する。一転するんですが、任期のさなかには成果が出ません。結果的にはレーガン候補に大統領選挙で大敗を喫することになる。
今どの辺にいるかといえば、オバマ政権がイラク、さらにシリアへの軍事介入に転じたんですけれども、目立った成果が生まれていない。むしろアメリカの政策に対するフラストレーションが高まっている。これはアメリカの国内でもそうですけれども、後ほどほかの先生からお話があろうかと思いますが、サウジアラビアを始め、地域各国とアメリカの関係にもこれが波及するという見取図です。
時間が随分なくなりましたから、中国、ロシアに移っていきましょう。
中国、ロシア、両方とも、東西冷戦が終わった後、欧米諸国との安定した経済的な関係を第一に進めてきました。ロシアの場合にはエリツィン政権が一番だったと思いますが、プーチン政権も最初の四年ほど、やはりアメリカ、さらにEUとの協調を第一にする方針を取ります。中国の場合も、これも御案内のとおり、トウ小平時代の経済台頭の路線をその後の政権も基本的に引き継ぐ。
しかし、力が付いてきた。力が付いてくると、今度は競合が生まれます。これまでの言うなりにならないということになる。それが権力競合の問題ですが、中国とロシアでどちらがより短期的な危機をつくり出すのかということについて言えば、おまえは中国に甘いんだという議論をされるのを覚悟で申し上げれば、これは間違いなくロシアの方が大きな問題です。というのは、ここでの地域覇権の意味が違うからなんですね。
中国は、東西冷戦が終わったときにも国家の解体は経験していません。もちろん、外洋地域における様々な勢力の拡大を目指していることは不思議な埋立てなども含めて既に御案内のとおりでございますけれども、これは言ってみればプラスアルファ。もちろん、中国側は明代の時代の勢力圏を回復するんだという元気のいいことを言っていますけれども、これは近代に入ってからの領土を奪われた存在じゃないんですね。
ロシアは全く違います。ロシアは東西冷戦の言わば負け組であり、東ヨーロッパの諸国がモスクワの影響力から離れるばかりか、ソ連に加盟していた共和国が独立して、そしてバルト三国のように、事もあろうにNATOに加盟するような国も現れる。敵になっちゃったわけですね。ですから、ロシアの場合には、新たな勢力圏を獲得する、増やすということではなくて、奪われた勢力を回復するという目的が出てくるわけです。
これは単なる領土的な野心の問題ではない、むしろ国内政治と密接につながっているわけでございまして、国内でロシアのRTR、国営放送を御覧になりますと、ロシアの外のロシア人がいかに迫害されているか、いじめられているか、こんな報道ばっかりされているわけですね。ウクライナはそのような報道が繰り返された相手でしたけれども、嫌なことを申し上げれば、リトアニアについても同じような報道があります。
リトアニアにはこの危機は広がらないと私は今のところ希望的な観測を持っているんですけれども、それは、ウクライナには派兵しないしウクライナには軍事支援はしないけれども、それは、ウクライナは要するに政治的に極めて脆弱で、そこに支援をしてもざるになるからだ。しかしながら、リトアニアを始めとしたバルト三国はNATOの加盟国です。EUにも加盟しています。リトアニアはユーロさえ、三つ目ですが、導入しました。ここでロシアが介入したということになれば、NATOの安定性に関わる問題なので、リトアニアには手を出させないよというところでオバマ政権が動いているというのが現在の基本的な見取図です。ということは、逆に言えばウクライナは見捨てるということですから、ですから、ウクライナの情勢がどんどん悪化する中でロシアの影響力が拡大するということですね。
中国は今どこにあるのか。中国は決して我々が望ましい政策を取っているわけじゃもちろんありませんけれども、現在の状況を一口で申し上げれば、習近平の下で、党が政府を、また党が軍を統制するという方向に大きく動いています。これは、政府が党から自立し、さらに軍が政府、党から相対的な自由を拡大していった胡錦濤時代とは正反対なんですね。胡錦濤時代には政府と軍の関係が非常に悪化しておりまして、政府が弱かったんですね。それを変えていくために党がコントロールをするという方向に言わば逆戻りしてしまった。トウ小平と全く同じことをやっているんです。
その結果、中国の民主化はかつてなく絶望的な状況になっていますけれども、同時に、軍に対する統制はかつてよりは回復した状況になっていると思います。このことは、我々が望む政策を取るということではありません。ではありませんが、しかし、交渉の余地がある主体になっているということですね。
あと三分となりました。突然、日本の選択に飛ぶことになりますが、この議論との関係から申し上げておけば、破綻国家との関わりで日本はどんな出番があるのか。テロに屈しないとか、元気のいい言葉は言葉として結構なんですが、具体的に何をするのか。
ここで、例えば軍事介入の一環を日本が担うという議論は、もちろん議論としてはあり得る。ただ、実戦経験が乏しい。憲法九条の問題じゃありません。実戦経験が乏しいというよりほとんどない軍隊を送ることは、憲法改正などに向けた動きとしてはシンボリックに国内政治上の意味はあるかもしれませんが、現場で持つ意味は大したことはありません。
ここで何が重要かといえば、何よりも破綻国家の拡大を食い止めなくちゃいけない。それをしていく上で日本が比較優位があるところはどこかといえば、難民支援です。難民支援は、UNHCR、緒方貞子先生、そしてJICAなどの活動もあって、難民支援では随分実績を収めてきました。
これは、非軍事領域にとどめるという意味ではありません。むしろ、難民支援という意味は、難民が出ていくような状態を防ぐ前に、まず難民が安定した状況を獲得できる、そして、その地域が安定しているだけじゃなくてテロの拠点にならないように十分な統制が実現した状態をつくっていって、面としてそれを広げていくということです。
現在、ヨルダンの難民キャンプは既に破綻した状況にかなり近づいておりますし、トルコの場合には、国連の難民キャンプを受け入れなかったものですから、トルコの中にかなりの急進勢力が入ってしまったというふうに推定されています。この辺り、トルコ国境での難民支援活動はトルコが国連が入ることを嫌がるから難しいというのは、御案内の方はこの中に多いと思いますけれども、この危機はこれから広がります。というのは、イスラム国に対する戦闘の重点がシリア北部に動くことはまず間違いないから。そして、問題なのはトルコとシリアの国境です。こういったところでは、日本は相対的には役割を果たすことができるだろうと思います。
本当にあと一分になりました。
中国、ロシアに対してということで、何を用心すべきか。基本は抑止です。相手の行動に対して事前に報復を予告することで行動を抑える。
それで解決できない問題が一点あります。小規模紛争のエスカレートです。例えば、尖閣の沖合で日中が衝突した。この場合に、アメリカが日本を支援するとは限りませんね。その状況で、希望的な観測に沿って中国が急進的な行動を取る可能性がある。ウクライナも典型的な例です。ここでは、紛争のエスカレーションにおける抑止の限界を我々は目の当たりにすることになる。
としますと、抑止は重要なんですが、同時に、抑止ばかりではなくて、それとは別の紛争のエスカレーションを止めるための手だてが必要だということになります。
もっと申し上げることはございますけれども、時間が来ましたので、お話は以上とさせていただきます。
ありがとうございました。