高橋和夫の発言 (国際経済・外交に関する調査会)

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○参考人(高橋和夫君) 高橋でございます。
 私は、三つの点についてお話ししたいと思います。一つは、いわゆるイスラム国、ここではISとして言及いたしますけれど、ISをめぐる現地の情勢について。二つ目は、ISに対する日本のこれまでの対応について一つ二つ意見を述べさせていただきます。最後に、これからどう立ち向かっていくのかという、三つの点でお話しさせていただきます。
 まず、現状でありますけれど、結論から申し上げますと、ISのピークは過ぎた、しかしながら、まだまだ脅威は残っているということだと思います。
 軍事面で見ますと、昨年末、そして今年の一月にかけて、ISがシリアの北部、トルコ国境の町コバニという都市に対する攻勢を掛けました。コバニに突入し、その一部を占領したんですけれど、コバニに住んでいる、ここはクルド人の町ですから、クルド人の激しい抵抗を受けるということで、ある意味ISが初めて陸上戦闘で苦戦をしたという戦闘になります。
 これに、クルド人を支援するという意味で、アメリカ軍を中心とする有志連合の空爆がこの地域に集中して行われるということもありましたし、同じクルド人ですけれど、イラク北部からクルディスターン自治政府の民兵組織、ペシュメルガと現地では申します。ペシュメルガとはクルドの言葉で死に向かう者と、非常に勇敢な兵士として彼らは知られているんですけれど、日本風に言えば決死隊というようなニュアンスでしょうか。ペシュメルガの支援もありました。
 こんなこともあって、結局このコバニの町から掃討され、多数の遺体を残してイスラム国が撤退すると。これ以前にイスラム国の大きな敗北はありませんでしたし、恐らくこれ以降に大きな陸上戦闘での勝利は想定できないんではないかと思うわけですけれど、イスラム国不敗の神話に傷が付いた戦闘だったと思います。
 そして、今年の三月、イラク中部の都市ティクリート、ここは去年の夏以来、ISが制圧していた都市ですけれど、このティクリートに対するイラク中央政府軍の攻勢がありまして、シーア派の民兵、あるいはイランの革命防衛隊の軍事顧問団、さらにはアメリカ空軍の支援もあって、このティクリートを三月の末、四月の始めにイラク中央政府側が奪回いたしました。ティクリートを守っていたIS側は全滅したわけです。
 そういう意味では、コバニ、ティクリートと二つの大きな戦闘でIS側は連敗したわけで、IS側には神が付いている、負けないんだという不敗の神話は完全に崩れ去ったように思います。そういう意味で、軍事面ではIS側の劣勢は明らかになったと思います。
 経済面で見ましても、ISの収入源の柱と言われているのは石油の密輸出でありますけれど、この石油関連施設への有志連合側の空爆が激しく、ISが制圧している地域の石油産業は大きな打撃を受けたと見られています。これは、例えば夜間のIS支配地域の衛星写真などを見ますとほぼ真っ暗でして、電力が回っていないという事実からも傍証できるかと思います。
 さらに、三月にISの指導者、自称カリフのバグダディが空爆によって重傷を負ったというような情報も流れておりまして、バグダディは、昨年の六月に映像で現れて以来、その後一切公衆の面前に姿を現しておりませんので、バグダディ死亡説もありますけれど、少なくとも大きな傷を負っているというのは事実だと思います。
 こういうふうに、軍事面、経済面、そして政治面でIS側が劣勢に立っているという事実は確固たるものとして判断されます。
 しかしながら、じゃ、これで全く脅威が去ったのかということなんですけれど、まだまだだと言わざるを得ません。イラクにおいては、イラク中央政府軍、あるいはクルドの民兵、あるいは今アメリカ、イラク中央政府が試みておりますスンニ派の部族の抱き込みなどという戦術が取られておりまして、ある意味、アメリカ、イラク中央政府軍はパートナーとしてイラクにおいてISと対決していくというシナリオが見えているんですけれど、シリアに関してはまだまだパートナーとなるべき自由シリア軍が育っていない。あるいは、シリアにおいて、シリアのアサド政権をまず倒しに掛かるのか、あるいはIS対策を重要視するのかということで、トルコとアメリカの間のギャップというのも見え隠れしておりまして、イラクに関してはシナリオが見えているけれど、シリアに関してはまだ先が暗いという状況だと言わざるを得ません。
 また、先ほど板橋先生からお話もありましたように、恐らくこのISの中にはサダム・フセインの軍隊にいた将兵が関与していると思われるんですけれど、サダム・フセインの軍隊には化学兵器を担当する部隊もおりましたので、将来追い詰められた場合、この部隊が少なくとも簡単な化学兵器をまた造る、使うという可能性は否定できないように思われます。また、サダム・フセイン政権は大量破壊兵器を持っていなかったということになったわけですけれど、イラクにはサダム・フセイン政権が廃棄処分にした大量の化学兵器がある意味転がっているわけです。その化学兵器を再利用するというような可能性も視野に入れておく必要があろうかと思います。
 そういう意味では、脅威は去った、大きな脅威、ピークは過ぎたけれど、脅威はまだまだ続いていると言わざるを得ないわけです。
 それから、もう一つの脅威というのは、ISがイラク、シリアでの軍事的な脅威になるというよりは、ISあるいはISのライバル組織と見られているアルカイダなどが世界中のイスラム教徒にテロを呼びかけているという事実であります。この件に関しても既に紹介がありましたけれど、こうした組織に属さない過激化した人が立ち上がってテロを行うというのは、組織に属さないだけに当局としてもなかなか掌握が難しい、阻止が難しいということになります。一匹オオカミ的テロ、ローンウルフテロと呼ばれますけれど、こうしたテロが既にオーストラリア、カナダ、フランス、アメリカで起こっておりますので、今後ともこの一匹オオカミ的テロの脅威は続くものと予想せざるを得ないということだと思います。
 ISの問題は確かにイラク、シリアを舞台として展開されているんですけれど、それは、イラク、シリアというのはある意味、画面でありまして、その光源はヨーロッパにある移民社会の矛盾、移民二世、三世、四世が社会に溶け込んでいないという問題、あるいは中東の他の社会での失業問題ということでありまして、そうした光源がISという画面として我々の目に映っているわけですから、そうした社会問題に取り組まない限り、このISという現象は消え去るかもしれないんですけれど、また形を変えた過激な運動が起こってくるのではないかと懸念されます。
 二つ目のポイントで、日本のISへの対応について、私は二つだけ意見を申し上げさせていただきたいと思います。
 一つは、このISに関していかにして情報を取るかということなんですけれど、日本においては非常に情報が少ないということなんですけれど、たまたまISの関係者と人脈があるということで、IS支配地域に自由に出入りできるジャーナリスト、そしてイスラム法学者がいたんですけれど、この二人の行動が、ある意味、当局の動きによって止められてしまったという事件がありまして、私はこの二人の思想を必ずしもよしとするものではないんですけれど、せっかくこの二人が現地に入って、目撃談を含め情報を持って帰ってくるのに、止めてしまったのは残念だなという印象を持っております。
 それから、第二点目でありますけれど、非常に残念なことに二名の日本人がISによって処刑されるという事件がありました。この問題に関して日本の対応がどうであったのかということは全国民が興味を抱いている点でありますけれど、政府部内で検証する委員会が立ち上げられたということで、私はこの検証をしようという姿勢に拍手を送りたいんでありますけれど、しかしながら、検証するための委員会が政府部内で立ち上げられたのでは、政府が行ったことを政府が検証するわけですから、国民全体から見て、客観的に独立した評価が行われたんだという認識を持つのが難しいように思われます。せっかく検証をなさるんであれば、政府から離れた第三者による独立した委員会であれば、より多くの国民が客観的な評価であるという認識を持ってその報告を受け入れられるのにということで、いささかこの点に関しても残念な気持ちを抱いております。
 最後に、これからどうするかということなんですけれど、二つの点を申し上げておきたいと思います。
 一つは、これまでの日本の対応は、難民に対する支援、そして難民を受け入れている周辺国に対する支援に軸足を置いて展開されてきました。シリアの人口は二千二百万、二千三百万と言われておりますけれど、国内難民を含めると既にシリアだけでも千万人が難民になっている、海外、周辺国に流出した難民は、あるいは周辺国から見れば流入した難民は三百万人と言われています。トルコ、レバノン、ヨルダンなどはもう大変な、あるいはイラクも含め、大変な難民を受け入れるための負担に苦労しているわけです。
 私もヨルダン北部の難民キャンプを視察いたしましたけれど、もう難民キャンプとはいえ、一つの巨大なテントの都市ができ上がっている。そうした都市が幾つも幾つもあるわけで、ヨルダン、レバノン、いずれもそれほど豊かな国ではないわけで、その負担の大きさというものは想像に余りあるものがあります。その中で、日本政府がこうした難民への支援を積極的に行っているということに対しては私は拍手を送りたいと思います。
 ただ、この難民支援、そして難民受入れ国支援というだけでは一つ足りないものを覚えています。それは、国連を始め、これだけの難民が出ている中で、各国が難民を受け入れてほしいという要請を出しているわけであります。
 昨年、欧米など二十五か国が十四万人の難民の受入れを発表しているんですけれど、昨年のデータですけれど、私が見た範囲では、日本が受け入れた、認定した難民はゼロ名であります。これでは、いかにも国際貢献国家、積極的平和外交という言葉をバックアップするには心もとない数字であるかと思います。
 難民を受け入れるというのはある意味大変な負担を伴うわけですけれど、しかしながら、長い目で見れば難民はその国にとって資産になり得るわけで、アメリカのキッシンジャー国務長官もドイツからの難民でありますし、ビル・クリントン大統領時代に最初のアメリカの女性国務長官マデレーン・オルブライト氏はやはりチェコスロバキアの難民であります。難民を受け入れることがその難民を通じてその出身地の情報を取るということにもつながるわけで、積極的な面にも目を向けていただきたいというのが私の一つのお願いであります。
 それから、二つ目の点でありますけれど、これからイラクはどうなるんだろうか、シリアはどうなるんだろうかということなんですけれど、私は、先は読み切れないという謙虚な前提に立って政策を立案すべきだと考えております。
 現在、例えば日本政府はイラクのバグダッドに大使館を開き、非常に危険な状態の中で外務省の皆さん、本当に日本とイラクの外交関係を維持してくださっています。これに対しては敬意の念を表したいと思います。もし仮にイラクの中央政府の力が再び強くなってイラク全体を掌握するようになれば、中央政府と強いパイプを維持しているという日本の外交が大きく報われることになると思います。
 しかし、逆に、残念ながらイラク中央政府は再びイラク全土を掌握することが結局はできないという事態も想定されるわけです。となると、イラクという国が分裂、良くても連邦化という方向に更に進むということになりますと、イラク中央政府以外ともやはり関係を構築しておく必要があるかと思います。
 私としては、というふうに考えますと、イラク北部において自治を行っているクルディスターン自治政府との関係の強化というのが日本の外交の選択の一つとしてあっていいのではないかというふうに考えています。現在、イラク北部は治安も比較的安定しておりますし、経済も繁栄しています。政治も安定しています。ある意味では、ドバイと見間違うほどのバブル状態でもあります。
 クルディスターンの政府としても、日本との関係を深めたいというような意向を持っております。既に、アメリカ、ロシア、ドイツ、イラン、トルコなどが領事館を維持しておりますから、日本政府としてもいち早く、できるだけ早い時期に領事館を設置して、クルドの人々との深い広い関係を構築していくというのは悪くないのではないかと思っています。もし仮にイラクの中央政府の力が強くなって、イラク全体が統一国家という体裁を取り戻すとすれば領事館業務に徹すればいいわけですし、もし仮にイラクという国が残念ながら統一体としての体を成さなくなった場合は、その北部に日本が外交の足場を築いておくというのは長期的には重要な布石かと考えております。
 情報までに申し上げますと、イラク北部のクルディスターン自治政府のマスード・バルザーニ大統領が先週ワシントンを訪れておりまして、オバマ大統領、バイデン副大統領と会談しております。アメリカはもちろん、クルド人の協力の下、ISとの戦いを進めたいという意向からの特別の配慮をしたんだと思うんですけれど、アメリカでさえここまで踏み込んでいるということを考えれば、日本がこの地域に外交的プレゼンスを高めていくことに国際社会からの、あるいはイラク中央政府からの反発も少ないかと考えております。
 私の御報告は以上にさせていただきます。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 高橋和夫

speaker_id: 16204

日付: 2015-05-13

院: 参議院

会議名: 国際経済・外交に関する調査会