藤原帰一の発言 (国際経済・外交に関する調査会)

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○参考人(藤原帰一君) 二点お答えいたします。
 第一の抑止の問題は、大変古いジレンマですね。相手に対して攻撃をしたら反撃をするぞと明確な脅しを事前に加えておいたら、攻撃の効果を恐れた相手は攻撃しないだろう、これが二国間の非常に古典的な抑止の在り方です。
 この抑止が緩まる、抑止の安定性が損なわれる状況は二点あります。
 第一は、我々が核の傘とか呼んだりしますけれども、拡大抑止という言い方の方が正確です。核兵器とは必ずしも限らない。つまり、第三国、同盟を結んでいる第三国が関与する可能性ですね。これは自分の国が攻撃されたから反撃をするというのと違って、同盟国が攻撃されたのに対して行動するということになりますから、確実性がかなり下がります。確実性が下がるということは、攻撃する側は同盟国支援をしないだろうと考えて行動をする可能性が生まれるわけですね。これが一つ目です。
 二つ目の問題はシグナルの不明確性であって、必ず相手に反撃をするぞというそのメッセージが明確に伝わらない可能性です。ちょっと何か大学の授業風になってきましたけど、これを今の話に持っていくと大変現実的なことになるわけですね。
 というのは、例えばアメリカと中国の関係を考えた場合に、両方とも正面から大戦争をする意思がないという仮定をしましょう。この仮定は十分成り立つ仮定だろうと思います。ですから、米中直接の戦争は回避したい。同時に、日本に対して何らかの攻撃があったときに、アメリカが日本を支援しなければ同盟の安定性が失われることになります。となると、アメリカは行動せざるを得ないことになる。ここで明らかなジレンマが生まれるわけですね。これが小規模紛争のエスカレートという問題と、それから拡大抑止がセットになった事例になります。
 このような場合には、行動が当然ながら確実ではないので、強気で押しまくる側が相手から譲歩を勝ち取る、瀬戸際政策が成功する可能性があります。力任せに中国が行動をして、結果的には日本もアメリカも後退したという結果になる可能性もある。その結果を恐れれば、自分が戦う意思がない戦争を戦うという結果になってしまいます。
 このような状況で何をしたらいいかといえば、これはポイントは非常に明確なんですね。つまり、大規模戦争の回避についての信頼醸成なんです。
 この問題、例えば領土問題についての合意形成は極度に難しいと言っていいでしょう。もちろん相手の側の肩を持っているわけではありませんけれども、領土についての国際的な合意をつくることは極めて困難です。ギリシャ、トルコを例に取っても幾らでも例がありますね。しかしながら、大規模な紛争にエスカレートすることを回避するようなことはできる。ただ、大規模な紛争にエスカレートすることを回避するなんて合意なんてできやしないんですね。
 そこで、どこにポイントを置いていくかといえば、現在は海上の安全通航というところにウエートを置いているというのが私の理解ですね。これは日本政府もアメリカ政府も求めてきたところですけれども、ニュアンスは非常に明確なんですね。つまり、領土問題を棚上げするわけじゃない、うちの要求をやめるわけじゃないけれども、しかし紛争のエスカレートについては共に回避するというメカニズムをつくるということです。
 米ソ冷戦の時代には、これは核の管理という形でつくられました。核兵器、特に減ったわけじゃありません。だから役に立たないという議論がありましたが、実は東西冷戦が終わる過程で、アメリカ、ソ連、両方とも強硬派を抱えている中で冷戦が緩やかに終わっていくという仕掛けをつくる上では、結果的にはSALT交渉に関わっていたアメリカとソ連の専門家が大きな役割を果たすことになります。つまり、抑止に加えて、簡単に言えば交渉が必要であり信頼醸成が必要だということになります。
 これは、日中間では今のところやっと動き始めたというのが私の認識です。そして、ロシアとの間では、今、メルケル首相が中心となっていますが、残念ながら全く効果が上がっていません。ですから、こちらの紛争はまだ拡大する可能性がある状態というところです。
 長くなっていますけれども、難民についてですね。
 日本の難民支援で大規模なものは何よりもカンボジア難民に対する支援という形で始まりました。これは、政府とそれからボランティア、NGOを含む形で、日本では一番最初の大規模な難民支援と言っていいだろうと思います。それからずっと、その後、アフガニスタンからあるいはコンゴ、さらにソマリアに至るまで相当の活動実績があります。
 その中で何よりも重要なのは、JICAがかなり危険性の高い地域での活動を長期間にわたって継続したということです。これは頭が下がる。危険性が高い、しかも軍隊のバックがあるというわけではないところで長期間の活動を、例えばアフガニスタンで、あるいはスーダン、後に南スーダンになる地域の中でも危ないところで進めてきました。
 そのような実績があった上でなんですけれども、緒方先生が人間の安全保障などという言葉を使いながら、ODAの対象が紛争地域に次第に移っていくところと合わさって、言わば政策としての難民支援というところにまで広がってきたというのが私の理解であります。
 そうはいいながら、先ほどの大野先生のお答えにもつながるんですが、現在の難民支援をただお金と人を増やせばいいかといえば、それはそうではない。というのは、目的は、難民支援とは安定した地域をつくっていくということだからなんです。
 先ほどから申し上げていることですが、テロを根絶する方法はなかなか難しいんですけれども、その一つの条件は、破綻国家において安定した統治をつくっていくことです。そして、外から占領することで安定した統治をつくるという幻想は多分捨てた方がいい。とすると、結局、安定した地域を領土的に緩やかに、しかもその土地の自治を前提としながら広げていくという方法しかないということになります。難民キャンプを広げていくというのは基本的にはそういう相対的な安定した地域を広げるということですから、これは難民支援とそれからかなり強い軍事的な関与とセットになっていなければいけない。ここで軍事的関与という怖いことを言いましたが、重要なことは、軍事的な関与が、紛争の拡大ではなく、むしろ紛争の終結に結び付いているということを明確に示さなければいけないということです。
 最後に、難民について補足ですけれども、私は、難民の受入れ以前に何よりも求められるのは、難民が自分の国に帰って安定した暮らしを営めること、これが第一だろうと思います。また、我々が紛争が悪化しているかどうかを見るときのバロメーターは、難民が出ているのか、それとも戻っているのかということなんです。戻りたいんです。戻りたいけれども安定していなければ戻ることができない。これを紛争のバロメーターとして我々はよく使っています。
 と申し上げた上で、日本の難民支援のこれまでの実績が、国内で難民を引き受けたくないから、だから難民支援しているんだろうという批判にさらされてきたことは事実ですし、多分その事情は実際にあるんでしょうね。ですから、その点では高橋先生と私は同意見でありまして、結果的には大量の難民引受けということにはならないでしょうが、難民をできる限り受け入れず、しかしながら外で難民を支援するというこの使い分けはもうかなり無理になっているんじゃないかと思います。
 長くなって恐縮です。

発言情報

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発言者: 藤原帰一

speaker_id: 15403

日付: 2015-05-13

院: 参議院

会議名: 国際経済・外交に関する調査会