内田聖子の発言 (国際経済・外交に関する調査会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(内田聖子君) よろしくお願いいたします。アジア太平洋資料センターの内田聖子といいます。本日はこのような機会をいただきまして誠にありがとうございます。
 私ども、アジア太平洋資料センターという団体は、NGO、NPOでして、主に九〇年代半ば以降のWTOそれから多国間の投資協定など、グローバル化と言われる自由貿易投資協定の流れが進んできているわけですが、この中で企業の活動というのは国境を越えて拡大をしてきたわけです。しかし、一方で、その裏側で起こってきた貧困や格差の問題、環境破壊や人権侵害など、そうした様々な課題を国内外に発信をしてまいりました。二〇一〇年以降はTPPの問題が出てきましたので私たちもTPPに取り組んでまいりましたけれども、私自身は、日本のNGOとして、また海外の市民社会とのネットワークということを基盤に、基本的にはTPPに反対をするという立場から交渉をウオッチしてまいりました。海外の市民社会というのは非常に幅広くて、労働組合や市民団体、それから医療関係者、環境団体、消費者団体など実に多岐にわたります。
 二〇一三年に日本が交渉に入りましたが、その直前から、私自身、交渉の会合の現場に合計三回参りまして、日本が参加した二〇一三年七月にもマレーシアのコタキナバルというところにも行きまして、当時はステークホルダーという登録をすれば一日だけ交渉官のブリーフィングを受けて質問ができる、全ての国の交渉官にですね、という機会もありましたので、そうした活動も行ってきました。
 御存じのとおり、日本国内では今も粘り強い反対や、それから懸念の声というのが続いています。私自身そうした場でお話しする機会もありますので、今日はNGOの立場、それから全国各地でやはり今も心配されている方々の声を代弁するという立場でお話ししたいと思います。
 レジュメと、それからパワーポイントを刷っていただきました。それから、参考資料というのも六点付けさせていただきました。全てはお話しできないと思いますが、始めます。
 まず、なぜTPP交渉がこんなに長々と交渉しているにもかかわらず妥結をしないのか、これは皆さんも疑問ではないかと思います。一言で言ってしまえば、私は、これはアメリカがTPPに入った二〇一〇年以降、早期妥結を目指してきましたが、幾つかの点での失敗、これに起因するものだと思います。
 既に御指摘のように、TPPは非常に幅広い分野で、基本的に関税撤廃、それから非関税分野、これは制度や法律、ルールのところですね、これをグローバル化していくというものですけれども、各国の利害というものは非常に複雑です。日本にももちろん守るべきものがありというように、各国それぞれある。
 これが、参加国全てが対等、平等な中で議論していればまだ駆け引きで最終的に妥結ということもあり得るのでしょうが、やはりずっと交渉を見てきた経験としては、アメリカが一貫して大企業に優先するようなルール、これを交渉の中で主張しているという実態が見えてきています。ですので、こうしたアメリカの主張と、例えばマレーシアのように医薬品のジェネリック薬、安い薬品を国内の国民に提供したいとする政府との間での亀裂は相当深刻で、永遠にまとまらないという構造になっているわけです。それから、TPAの問題というのもありますが。ですので、妥結をしない大きな理由というのはアメリカの失敗。
 それから、やはり日本も遅れて入るという非常に不利益を抱え、矛盾を抱えたまま入ったわけですね。元々関税ゼロにすると決まっている交渉の中に、聖域は守ると国内的には決議をして入る、これは交渉の中では通用しない。つまり、徹底してゼロにしろという圧力が掛かっていますので、こうした矛盾が今私たちの目の前に露呈しているというふうに思っています。
 それから、後半に述べますけれども、各国の議会や市民社会からの意見を見ていますと、もはやTPP交渉というのは、単に経済的な指標でどの産業がどれだけ利益を得るか、GDPがどう上がるかというような議論はもちろんありますが、それを超えて、命や健康、国民の主権、それから民主主義というものの価値の問題として議論されているという実態であると思います。ちょっと、これはまた後で述べます。
 二点目ですけれども、今日資料をお付けしましたが、私は交渉を見ていく中で一番驚いたのは、アメリカの企業、これが交渉会合に常に常にたくさん来ていて、自国の政府はもちろんですが、他国の交渉官にも非常に強いプレッシャーを与えているという実態でした。
 参考資料で、TPPのための米国企業連合一覧というものを付けました。非常に幅広い分野での企業の名前、よく知っている企業がずらずらと並んでいます。こうした企業は、日本が入る前からもう日本は入るということは織り込み済みで、日本が入った後には、日本の農業、輸出産業はもちろんですが、保険や金融という業界、それから運輸等々、やはり日本を大きなマーケットとして進出をするということをもう準備をしてきているという実態は、いろいろなデータからも明らかです。
 ちょっと飛ばしていきますけれども、ですからこういう実態を見て、私自身、日本は守るものばかり強調して入ったという印象がやはりあるんですね。一体何を攻める分野として入ったのかということが、交渉が長引くにつれて非常に疑問として強くなってきています。
 それから、秘密交渉のお話も後でいたします。
 次に、レジュメの二点目ですけれども、懸念事項、これは様々な分野があることは御承知だと思いますし、金子先生の方で農業ですとか医療保険ということは御指摘あると思いますので、私は一点、雇用のことを御指摘したいと思うんですね。
 これ、日本の中では、TPPがもたらすメリット、デメリットという中で、雇用の問題というのはほとんど議論されていないんですね。
 ところが、今アメリカでは、大きな労働組合なども挙げて、TPPが妥結すればアメリカからたくさんの雇用が失われるという激しい反対の声というのが巻き起こっています。これは全く根拠がない不安ではなくて、NAFTAという、アメリカ、カナダ、メキシコが結んだ、一九九四年ですけれども、自由貿易協定の結果、直接、間接的な影響も含めて四百万人から五百万人のアメリカ国内の雇用が失われたというデータも出ています。これは、アメリカの大企業が海外に進出をしたことが一つ、それからメキシコなどからやはり移住労働者がアメリカ国内に入ってきたということで雇用が失われた。この経験をアメリカの人たちは非常に鮮明に覚えていて、TPPは新しいNAFTAだというふうにも評されていまして、ですから、もう二度と政府の自由貿易で雇用が増えるという宣伝文句にはだまされないぞという形で反対運動が巻き起こっているわけですね。
 ですから、日本に置き換えてみるとどうなのかという話です。政府は、中小企業も含めて、TPPによって海外進出というのを非常に積極的に推進しようとしています。大企業ももちろん、海外に工場を移転したり、更に投資を進めて外に出ていくという流れが確かにTPPでできるのだろうと思います。
 では、雇用という面ではどうなんでしょうか。私は、特に地方への打撃というのは大きいと思います。農業をやっている方々の雇用ももちろん喪失してしまうでしょうし、サービス業や製造業というものでも雇用が減ってしまうんじゃないかというふうに思います。そう言うと、政府の見解としては、いや、海外の企業が日本にたくさん投資をして進出をするので働き場は増えるというふうにおっしゃるんですが、それはごく限られた大都市の話であって、例えば農山村地域、それから中規模以下の都市に海外からの進出企業がどんどんやってきて雇用を生み出すでしょうかというような疑念があります。
 問題は、アメリカでは今、自由貿易によって雇用が奪われた場合どうするかという救済措置に関しての議論をまさにTPAの中でやっているんですね。つまり、これは言い換えれば、アメリカ政府自身が、自由貿易の結果、ある程度雇用が奪われるだろうということを認めているに等しいわけですね。TAAと言われる救済措置ですが、例えば失業した人へのトレーニングですとか一定期間の医療保険の給付ですとか、そうしたものについて議論されています。
 翻って、日本ではどうかという話なんですね。私は、やはりいろんな意味でマイナスというのは非常に大きい、ですから反対しているわけなんですが、ただ、そこを現実として認めて、アメリカでさえと言うと変ですけれども、やはりこういう形でケアしていくという議論をしているわけですので、政府それから国会議員の皆さんの中でも、どうした措置をとるのかという現実に沿った議論を是非していただきたいというふうに思っています。
 それから、レジュメの三点目ですが、日本にとってメリットは一体この段階で何だろうかという疑問です。
 交渉が進展するにつれてビジネスの環境も変わってきていますし、交渉の中で、当初予定していた利益というものの形や量も変わってきているんじゃないかというふうに思います。二〇一三年三月の時点で、政府はGDPがこれぐらい伸びるという試算を出していますが、これは大変に大ざっぱなもので、どの産業でどのぐらいの見込みなのかということもはっきりしていませんし、特に今日挙げました自動車の原産地規則問題ということなど、これはちょっと詳しく申し上げられませんけれども、資料を付けておきました。
 要するに、TPPの参加国の中で部品や労働力を調達する、これが原産地ルールですけれども、この基準を、NAFTAで導入された並みの六五%とか七〇%、それ以上でないといけないという提案をアメリカはしているようで、もしこれが適用されれば、中国やタイなどTPP以外の国から部品調達や製造を受注しているような国の日本の自動車は日本産ということにはならない、つまり関税撤廃、削減の対象にならないというような話までごく最近出てきているわけですね。元々、自動車というのは日本にとって攻めの分野であったはずなんですが、これは一体どういうふうになっているのかということが挙げられます。
 それから、今アメリカの議会で議論になっていますけれども、為替操作ですね。これは、日本のこれまでの円安誘導政策、金利政策なども含めてやり玉に上げられています。これは、日本が入る前からアメリカの自動車産業ではもう徹底して、不当に貿易をゆがめている措置だということで攻撃されてきたわけですね。これがもしTPAの中で今後の議論で入って、強い拘束力や罰則規定を伴って可決されて、そしてTPPが妥結されてしまえば、これ日本の今後の為替政策、金利政策というものにかなりの縛りが掛けられる、ないしは、もしやってしまった場合、元に戻したり、あるいは罰則ということにもなりかねないわけですね。
 このように、交渉が長くなるに伴って、そもそも日本が何をメリットとしてきたかというところは非常に危うくなってきているというのが私の見方です。もちろん日本の企業が海外に進出をして利潤を上げていくということは私も否定はいたしませんけれども、幾つかの企業が利潤を上げるということは、すなわち国益なんだろうかという問いが直ちに立つわけですね。
 ですから、例えばコストベネフィットの問題でいけば、マレーシアはこの七月に改めて、自分の国の国益、マイナスとプラスというものを測る調査を今厳密にしていまして、この結果を待って改めてその交渉に反映させるというふうに言っていますし、ごく最近、カナダでも元外務省のチーフエコノミストの方が、TPPで関税撤廃をしていった場合、中長期的な経済メリットについて、果たして本当にカナダにとってこれはメリットなのかというような発表もいたしまして、大変議論を呼んでいるところなんですね。
 ですから、日本にとって何がいいのかということを改めてこの機会に見直していくべきではないかと思います。
 そして、四点目の秘密交渉のことですね。
 これは私、この間、一貫していろいろと調べて国会議員の方々にも申し上げてきましたが、元々TPPほどの秘密交渉を強いた貿易協定というのは過去に例がありません。先ほど、政府は頑張って説明しているというふうにおっしゃっていたのですが、たしかこの調査会でと思いますが、共産党の紙智子議員が外務省の齋木尚子経済局長に御質問されていますね。このような秘密保持契約があるような交渉が過去にあったのかと問われた際に、齋木経済局長は、TPP以外に例はないと答えています。
 ですから、ずっと貿易交渉を見てきた我々からしても、少なくともWTOの頃はいろんなステークホルダー、農業団体や市民団体、労働組合を含めて、政府の交渉担当官の方と顔を見て、突き合わせて、今交渉はこうなっている、テキストはこうだ、相手国はこういうふうに主張しているというようなことを話す場がありました。場合によっては交渉会合に我々も行って、今交渉してきたという担当者の方にすぐブリーフィングを直接受けて、ある種作戦を練るというような場面もありました。そうした経験からすれば、TPPの秘密交渉というのは大変異常な状態なんですね。このことはまず強く指摘したいと思います。
 かつ、この秘密主義自体は、やはりWTOがなかなかまとまらないという、推進している人にとっての失敗、この経験を受けて、次にやるときには絶対に見せない、秘密にしてみんながいろんな意見を言わない間にまとめてしまおうという、主にアメリカなどの意図が反映されているものだと私自身は思っています。
 ですから、私は、日本が交渉に参加する際に、この秘密主義は廃止するということを条件に入ればよかったとつくづく思います。そうすれば、今政府の方も苦労されているということは存じ上げていますが、周辺の説明だけして肝腎な中身は言わない、ですから何回説明やブリーフィングの場を持っても一向に核心に迫った情報が得られないという非常に非民主的な在り方というのが払拭できたのではないかというふうに思っています。
 それから最後に、五点目、これは、国際社会の中で今TPPのような貿易協定がどのような位置付けをされているか、どういう批判をされているかということをちょっと御紹介したいと思います。
 つい最近ですけれども、国連の人権高等弁務官事務所が、貿易が、これは自由貿易という意味ですが、人権侵害を引き起こす危険性があるという声明を出しました。ちょっと英語のままで恐縮ですが、原文も付けておきました。
 これは、国際社会の中では極めて重要な、そして、これまでにこうした指摘というのは幾つかありましたが、具体的にTPPやTTIP、アメリカとEUの交渉、それからTiSAといって、新サービス貿易協定といって、日本も入っているサービス貿易の自由化協定ですね、この三つを具体的に挙げて、こうした貿易協定が行き過ぎてしまえば、これは途上国、先進国を問わず、人々の生きるための最低限のニーズ、人権ですね、に悪影響を及ぼす危険があるという指摘をしています。最低限のニーズというのは、例えば水であったり、それから医療、それから教育を受けるという権利等々、国際社会が長い間築き上げてきた社会的な指標なんですね、という指摘があります。
 それからもう一つは、世界医師会による、同じような趣旨なんですが、やはり貿易協定が人々の健康や医薬品へのアクセス、これを阻害する危険性があるという声明も、これは四月に出されています。これは各国の政府に対する要請ということで、日本政府にも届いているはずですし、日本では日本医師会が提起してプレスリリースなんかもされています。
 ですから、もはやTPP交渉というのは、単なる貿易の話という域を超えて、ともすれば人々の健康や民主主義、知る権利というものを脅かしかねないというのが国際社会の世論として上がっています。
 一つ紹介すると、ヨーロッパでは今、TTIPというアメリカとEUの貿易協定に対して非常に大きな議論が巻き起こっていますし、反対の声も非常に強いです。これもやはり反対の趣旨はTPPに反対している方々と同じなんですけれども、例えばイギリスなどでは、国家が運営している医療保険制度、これが民営化されてしまうんじゃないかというような懸念も非常に強いですし、アメリカの中でさえ、郵便事業がフェデックスとかUPSというようなアメリカの大手民間の運輸会社に取って代わられるんじゃないか、そうすれば困るじゃないかというような声さえ上がってきているという状態なんですね。
 そろそろ最後にいたします。ISDのことは金子先生も述べられると思いますので。
 今私が最大懸念しているのは、TPPが漂流するかもしれないと言われている状況の中ですけれども、仮に漂流をした場合、その後の日本の貿易、それから経済協力体制についてはかなりの打撃になると思いますし、いろいろな面で考え直さざるを得ないという状況があると思います。
 既に中小企業などで、TPPを見越して海外進出しようとか、それから高付加価値の農産物を作って売ろうという事業変更しているようなところもあると聞いています。そうした方々への打撃というか、ケアの措置も含めて、一体どうするつもりなのかということは非常に大きな問いとして問わざるを得ませんし、ごく最近、昨日ですかね、アメリカのケリー国務長官とカーター国防長官が、TPPはアジアの安全保障の問題であると、つまり、中国を抑え込んでアメリカ自身がイニシアチブを取るためにも絶対に妥結しなきゃいけないというようなことまでおっしゃって、記事を書いているんですね。つまり、アメリカ自身がもうTPPは貿易問題じゃないとまでも言っている。これは中国への牽制であると同時に、日本に対しても、日本は必ずアメリカに付いてきなさいよというふうにくぎを刺しているように私は思えるんですね。つまり、端的に言えば、日本はこうしたアメリカが作るようなルールにどこまでお付き合いをしなければいけないのかという非常に深い問いも問われているんだと思います。
 ですので、国会議員の皆さんには、TPPだけではなくて、それが漂流した後のことも見越した日本があるべきアジア太平洋地域での貿易、経済協力の在り方、それから本当の意味で豊かな、国民が安心して暮らせるような社会、それから法律、制度というものを是非積極的に御議論いただきたいと思います。私たちも市民社会として御協力、そして参加もしていきたいと思います。
 済みません、長くなりまして。終わります。

発言情報

speech_id: 118914305X00720150610_005

発言者: 内田聖子

speaker_id: 132

日付: 2015-06-10

院: 参議院

会議名: 国際経済・外交に関する調査会