金子勝の発言 (国際経済・外交に関する調査会)

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○参考人(金子勝君) 慶応大学の金子でございます。
 ほかの方のようにカラフルではなく非常にアナログな三枚の紙が配られておりますので、主たる趣旨はそこに書かれておりますので、追いかけていただきたいと思います。
 最初に、TPPに対して、それだけが選択肢ではないと。しかし、世界的にはFTAなりEPAが次々と進められている状況の中で何らかの判断を求められているというのが正確な状況だと思うんです。
 それはもちろん、アジアの問題でいえば、タイやインドネシアなどの東南アジアの一番大きなマーケットも入っておりませんし、片方では、TPPでは日米がGDPでは圧倒的な比重を占めている。その中で日本がルール作りに参加するといっても、圧倒的に軍事も含めて、経済的な力も含めてアメリカが優位であるということは暗黙の前提になっているので、それに引きずられていくという状況はある程度多くの人は避けられないと思っているわけですね。
 そこの中で必要なことは、自国が自立した判断の下で、国民の利益を考えながら、長い将来、プラスになるかマイナスになるか、メリットやデメリットについて一つ一つ冷静に判断をしていくということが大事だと思うんです。特に、アジアをめぐってはRCEPとTPPのせめぎ合いになっているので、アメリカに付いていくか中国に付いていくかという選択肢ではなくて、一つ一つの交渉の内容についてきちんとした判断をするということが一番求められていることなんだというふうに私は今考えているわけです。そういう意味では冷静な議論が必要だろうと。
 そこの中で、残念ながら、先ほどから出ているように、秘密協議にされてしまいましたので、情報が非常に断片的であると。しかし、断片的な中からも見えてくる判断すべき材料は今の時点でもあるだろうと。
 これから申し上げるのは、最近のアメリカのTPAをめぐる状況の中でどういうことを考えるべきなのか、二番目はISDS条項、三番目が知的所有権、四番目が農業、五番目が安全とルールについて、それから、TPP本体の交渉ではなくて、実はTPPに引きずられて日本側が自主的に譲ってしまっていることがたくさん発生していますので、これらの問題について意見を述べさせていただきたいというふうに思います。
 第一点は、五月二十二日にTPA法案が上院を通過して、懸念されていた為替操作禁止条項は一応否決はされたんですが、下院ではなおまだTPAの法案が通るかどうか分からない状況が続いていると。とりわけてオバマ大統領の基盤である民主党において、報道も既になされていますけど、二〇〇六年から輸出が一番伸びている十の選挙区でも、アメリカ国内でもTPPに賛成しない議員が圧倒的にいると。共和党内部でも反対があるので、上院ほどすんなりはいかないのではないか。
 そこの中で問題になっている為替操作禁止条項というのは、もちろんこれが入れられれば恣意的に運用されてしまう危険性をはらんでおりますので、とても交渉にはならないんですけど、このことが出てきたことの意味を考える必要があります。
 一つは、実はこれは、TPPは関税を引き下げて自由貿易だということに主眼があるのではなくて、実は自国に有利な制度やルールをいかに実現するかというせめぎ合いになっているということだと。だから、関税の問題だけに焦点を合わせるのではなくて、つまり、ルールを握った方が自国の利益になるということをめぐるせめぎ合いだということを認識しなければいけないということを示しているわけです。
 もう一つは、今のを補足すれば、関税よりもそういう為替の方がはるかに影響が高いということなので、そこのところが大事だということと、それは裏を返して言うと、オバマ大統領は二百万人の雇用創出計画を立てているので、アメリカにとって雇用が創出されるものを追求しているのがTPPである。
 じゃ、日本側は、そういう明確な意図を持って、どこでどのように雇用を増やすという国益を守るような態度に本当に立っているのかどうなのか、アメリカに付いていくことが利益なのか、そこのところの判断の違いはしっかり一つ一つについてすることが大事だろう。これは、安全保障のためにTPPを結ぶのではなくて経済的な問題なので、それに従ってシビアにきちんと見る必要があると。
 それから、TPPに関しては、先ほどから出ていますように、秘密協議なので情報が出てこないと。アメリカは、ロビー団体はかなり内容を知っている。日本の国会議員はほとんど何も知らない。アメリカの国内でも、TPAに関して国会議員には少なくとも情報を開示しろという動きが出ている。
 こういう国のルールや制度を変えていくようなことが実際に秘密のまま決まっていく、非常に批准に対しても長いしっかりした議論がされないまま決まるということは、ある意味では民主主義的なルール、議会制民主主義の根幹を崩すことになるので、なるべくこれを広く公開をし、そして議論をしていくというプロセスが必要であると。それは簡単ではありませんけど、議論をほっぽらかして、非常にそれぞれに影響の大きいようなことが勝手に決まってしまうということは望ましくないんじゃないかということを示している。それは、アメリカ国内にも似たような懸念が存在しているということだと思います。
 それから、二番目はISDS条項なんですけど、日本の政府の説明では法制度が整備していない国への処置としてISDS条項が入れられて、そのことは日本の国益にもなるんだという説明なんですけど、これは北米自由貿易協定でアメリカがカナダに向かってこのISDS条項を使ってからは全く意味が転換していて、その説明は妥当ではないというふうに考えられます。
 これは内田さんの事前資料の中でもカナダとメキシコの事例が取り上げられていますけれども、それは幾つも事例が発生をしておりまして、その国が民主主義的なプロセス、つまり皆さんのような国会議員の方々が議論をして決めた法律や規制を、いわゆる世界をまたがっている多国籍企業が相手国政府を訴えて裁判のプロセスでひっくり返すということを意味しているわけです。ある意味で国の主権を脅かすような側面を持っている。このことにはやはり注意をしなければいけない。つまり、法整備が未熟な国に対して、例えばいきなり国有化されてしまったとか、契約を履行しないとか、損害が発生するとかいうことをいわゆる正すための条項ではなくなりつつあると。特に、幾つかの事例を見ると、NAFTAのケースを見ると、多額の賠償支払を強いられたり、特に当該国の安全や環境規制を引き下げてしまうようなケースが間々見られると。
 特にこのことが重要なのは、日本の製造業や農業の分野において、安全や環境というのは極めて重要な競争力の源泉なんだということです。日本の自動車が何よりも世界で売れているのは、環境や安全に対して非常に強いからなんですよね。もし本当に日本の農産物を輸出しようというふうに戦略を立てているならば、環境や安全のところでしか勝負ができないはずなんですね。もちろん味の問題もありますけど。
 そうすると、ISDS条項の問題は、政府の説明と違って、途上国的な国々が相手ではなくて明らかに米国が相手である、アメリカが相手であるというふうに判断をした上で考えなければいけない。そう考えると、日本企業がしばしばアメリカ国内で多額の損害賠償を求められるような訴訟を引き起こされている、その事態が国境を越えて適用されるというのがISDS条項だというふうに考えられると。そうすると、とりわけてアメリカのような訴訟社会でない日本が、十分にこれに対処するだけの能力があると考えられるかどうかです。いや、法律家の方々はあると言う人もいるかもしれませんが、私はとても堪えられない状態だと思う。
 ここで問題になってくるのは、一部のアメリカの、今会計事務所がそうなっているように、アメリカのいわゆる弁護士事務所なりなんなりを雇って、日本の国内で弁護士もそういうものに非常に従属して、そこに多額の金が流れて、そこがサービス業になっていくということが予想されるのが一つでありますし、それから、次々とそういう形でアメリカ国内の国内法の基準が通っていくような事態が、一つや二つ裁判が起きて突破口が切り開かれるとどういうことが起こるかというと、ISDS条項に基づいて訴えられないように、アメリカの国内法に準じた法律や規制を定めるように日本の国会も含めて動くようになる危険性があるわけです。米韓FTAでさえ、韓国は自国の国内法を何十と変更を余儀なくされたわけですので。私は、そういう意味では、このISDS条項についてはきちんと国の主権の問題として、それからいわゆる訴訟費用、訴訟社会のルールの違いを甘く見ないできちっと検討するべきだろうというのが一つであります。
 それから、知的所有権の問題なんですけど、残念ながら日本の企業は国際競争力を非常に低下させておりますし、日本の産業構造は極めて古い、財界の構造を見ても重厚長大の産業が依然として中核を占めていて。これらの企業の利益と、実はアメリカがもう既に、情報産業、バイオ産業、あるいは薬を含めた生命特許を必要とするような産業分野は圧倒的な優位を持っている、そちらが伸びていくということを考えたときに、アメリカが競争力を持つ情報通信やバイオテクノロジーなどの分野で知的所有権保護の名の下に特許権の囲い込みをやることは、日本企業にとっては競争上決定的に不利になるおそれがある。で、日本の産業構造の転換を遅らせる可能性を持っている。
 特に、情報通信産業の特色は、オペレーティングシステムとネットワークを握ると独占的な利益を発生させます。日本の国内で、インターネットの書店や情報検索サイトを含めて、膨大な日本人の個人情報を管理者の名前で集積してそれを利用しておりますから、恐らくこのまま伸びていけば独占的な利益が得られるようになるだろうし、それから、幾つかの遺伝子組換え作物でもこういう生命特許が発生して、そういう農業が横行すると種子の独占と利益ということが発生しますし、後で述べます環境や安全という問題でも大きく関わって利益を損ねていくことになります。
 具体的に、もちろん肖像権の問題とかいろんな問題が絡んで、表現の自由にも絡むんだという議論はあるんですけど、一応あくまでも産業の問題でいうと、製薬産業の特許権を五十年から七十年に延長することにニュージーランドが非常に反対をしているのは、保険財政を圧迫するおそれがあるからなわけです。
 日本政府は、一方で、聖域なき改革と称してジェネリック医薬品を使うんだということを非常に強調しているんですけど、これは全く矛盾する側面を持っていて、特にアメリカはファイザー始めとして非常に強い製薬産業の力を持っていますので、それが特許権を非常に保護された形でその国の保険財政を圧迫していくということは十分にあり得る事態なんですね。これは、後でも述べるTPP外の問題、TPPに引きずられていろんなことが起きていることと重なってきますと、日本の国内で非常に大きな医療の荒廃、特に地域、大都市圏以外のところで非常に医療の荒廃を生んでいく可能性を持っているということをあえて強調しておきたいと思います。
 農業についてなんですけど、一応、二〇一三年四月の十九日に衆議院の農林水産委員会は、重要五品目を守るということを、これを関税撤廃の例外とするということを決議をしております。ところが、その後、死守ラインが五項目五百八十六品目というタリフラインにおっこってきて、本当の意味で国会決議の守るべきラインが非常に曖昧化されている状況にあります。ここはやはり最低限守らなきゃいけないところは守るべきだろうというふうに思います。それは、こういう五百八十六に部分的に分解してしまうと、全体に、あるところを落とすと、例えば乳製品のところを少し外してしまうと実は酪農が成り立たないとか、いろんな波及効果を持つことになります。
 今、政府は減反政策を見直して、それに関連して、飼料米も所得補償の対象にすることによって農家経営を成り立たすという方向が打ち出されているんですけれども、例えば肝腎の豚肉や牛肉の関税を大幅に引き下げると、報道では何%になるという、ちょっと確定した数字ではないのですけれども、幾つか出ていますけれども、それは日豪EPAの影響もあって更にそれから下げる、どこまで下がるのかも合意のラインがよく分からないですけれども、かなり大幅に下げられるということになると、大量の外国産の豚肉や牛肉が入ってきた場合に、こういう飼料米はただでさえ市場ができていませんので、個別の豚肉業者がブランドをつくるために個別の米農家から買っている、契約したりするケースが圧倒的なので、まず政府の立てている農業政策は破綻をいたします。ですので、何かを数字を一項目妥協しているだけでは問題が玉突き状に発生してしまうことを防げないんですね。そこのところを深く考えていく必要があると思います。
 規模拡大ももう一つの対策になっているんですけれども、北海道の農業でさえ、アメリカは平均二百ですし、牧草地含まれていますけれどもオーストラリアは三千ヘクタールですので、日本はおよそ二ヘクタールですので、規模拡大はほとんど、二十にしようが三十にしようが、誤差の範囲にすぎないわけです。それで競争するというのは不可能なんですね。
 それが求められている理由は別にあって、担い手が少なくなっているので農地が荒れないように担い手に集中するという意味での規模拡大はある一定意味があるんですが、米なんかでも、家族経営でやっていれば十五ヘクタールで大体生産のコストの引下げは止まってしまうという指摘もあるように、やたら規模拡大しても、経営そのものを変えなければいけない。極端に言えば、遺伝子組換えの作物を植えて、農薬に強くして、ヘリコプターであるいは飛行機で農薬をまいて、真っ平らなところを大型の機械で耕す、そして移民労働者を雇って安上がりな農業で同じものを大量生産する農業というのが本当にいい農業なのかということは問わなきゃいけないと思うんです。
 そこのところは実際に規模拡大で単純計算しちゃいけないんですけれども、行ったこともないのに規模拡大すれば耕作放棄地がなくなるとかいうようなばかげた議論をしているんですけれども、耕作放棄地は大体日本の場合には段差がありますので、機械が入らないので、そんなものを集めても耕しようがなくなってしまうわけですね。
 そうすると、日本の小規模な農業をどうしたら生かして、どういうふうに競争するかというのは、別の戦略が必要になってくると。むしろ、安心、安全をベースにしながら六次産業化したり、エネルギー産業を農家に兼業として営ませたりという所得を発生させる具体的な方法をきちんと考えないうちに、このTPPで軽率な判断で妥協と称してやることの影響範囲をきちんと見定めないままやることは非常に危険であると。そこもきちんとした検証をしていきながら交渉に臨むべきであるというのが私の意見です。
 もう一つ、安全のルールが重要なんですけれども、これは先ほど言ったように、日本の競争力の源泉です。今、自動車で部品で安全規制を緩めろというアメリカ側の要求出ていますけれども、これは、どんな交渉でも、自国の利益を倫理的、道義的、社会的な正義の名の下に正当化して交渉して勝っていくというのが交渉事です。
 そういうふうに考えると、アメリカで実現できなかったマスキー法をいち早く先取りしてCVCエンジンを開発して、最も燃費の効率の高いエンジンを開発した日本車がアメリカ市場を席巻するという、そういう事態の流れを考えてみれば分かるように、むしろ私たちは安全や環境のルールを強めるように独自の自国の交渉をするべきだと思う、妥協ではなくて。むしろ、遺伝子組換え問題もそうですし、農薬の規制もそうですし、ここで強く自分たちの国が道義的に主張をすることに、訴えることによって、自国の農業を守り、自国の産業の優位を生かすように交渉するべきであるというのが私の考え方です。それは小規模農業や日本の物づくりの優位を生かしていく道であるはずなんですが、少なくとも、そういうところでむしろ妥協をしていくような姿勢になっていることに私はちょっと懸念を覚えております。
 もう時間も過ぎておりますので、最後に。
 TPP交渉の参加の過程で麻生財務大臣が、日本生命と組んでかんぽ生命がいわゆる医療保険分野に進出しようとしたことを止めてしまって、結果としてアフラックの代理店になってしまったという経緯を覚えていらっしゃる方もいらっしゃると思うんです。
 これは交渉事ですので、日米構造協議の過程で、日本は国民皆保険なので、医療保険分野は日本の生命保険や損害保険会社は出られなかったわけですね。そこをアメリカに譲ったわけです。この状況の中で、アメリカは、医薬品、医療機械、医療保険という分野は競争上優位を持っていると考えているわけですね、戦略的に行動しているわけです。
 そこで、混合診療みたいなことをやって、もう神戸の国際フロンティアメディカルセンターで大失敗をしていますけれども、こういうやり方をしていけば、自分たちでそっちへ突っ込んでいることが問題だと。そうすれば、保険外で診療する機関にお金を持っている人は行ける、そうじゃない人は行けない。大都市にそういう機関ができれば、みんながそういう医療を受けたいと思ったら医療保険に入らざるを得ない。すると、ほとんどそれが外資系の保険であるという状態。
 一方で、保険財政をジェネリック医薬品に替えるといっても、特許権どんどん長引かせて、そういう医薬品の方で財政を圧迫してくる。そうすると、国民負担を増やすか。そうすると、真面目に医療をしている地方の中核病院になっているような総合病院とか公立病院とかいうのは、もう経営が成り立たなくなるわけですね。片方は救急医療に協力しないで、保険外診療でもうけ至上で走るわけですから。もう少し、産業の競争力といっても、国民全体の生活の向上を考えながら判断をするべき問題はたくさんあるだろうと。
 そうすると、TPPでは今医薬品の知的所有権だけで、日本側が逆に医療保険分野をどんどん譲ったり混合診療みたいなのを積極的にやったりしておりますけど、幾つかの大手の病院見ていただければ分かりますけど、日本の医療機械は優秀な機械なんですけれども、かなり外国製がたくさん入るようになってきています、ドイツ製、アメリカ製。
 そういうのを見ておりますと、本当に国益というものを口にするならば、産業の実態と利益をもう少し考えた行動や戦略を打ち出してほしいというふうに私は希望しております。
 以上でございます。

発言情報

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発言者: 金子勝

speaker_id: 29845

日付: 2015-06-10

院: 参議院

会議名: 国際経済・外交に関する調査会