2015-02-25
参議院
菅野雅明
国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会
菅野雅明の発言 (国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会)
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○参考人(菅野雅明君) それでは、本日いただきましたテーマの日銀の量的・質的金融緩和の効果と課題という点についてお話し申し上げます。
ただいま岩田理事長の方からかなり日銀の政策についてコンプリヘンシブな御説明をいただきましたので、私のプレゼンテーションといたしましては、私が特に関心を持っております日銀の出口政策のところに時間を特に割きたいと思いますが、まずその前に、私が考えております日銀の政策の効果という点について簡単に見てみたいと思います。(資料映写)
二〇一三年四月四日に日本銀行の黒田総裁はこの量的・質的緩和を導入を発表されまして、そのときの記者会見で、ここに書いてございます三つの波及経路というのを指摘されました。リスクプレミアム縮小効果、これは長期金利が下がったり株価が上昇する効果です。そして、二番目にポートフォリオ・バランス効果、これは銀行の貸出しが増えたり投資家のリスク資産の比率が増える、そういう効果です。三番目が期待インフレ率の上昇効果、これは実質金利低下から設備投資等が増える効果と、こういうことですけれども、ちょうど間もなく二年がたとうといたしております。
細かいことは省きますが、私の直感も含めて申し上げますと、①については、実際に長期金利が下がり株価も上がっていますので八十点と。二番目につきましては、確かに銀行貸出しは少し増えておりますが、銀行はそれでは不十分で、もうどこもかしこも運用難の状況ですので、まだこれは二十点。三番目の期待インフレ率上昇効果、確かに実質金利は下がっておりますが、まだ設備投資等は十分に増加しているとは言えないということで、四十点というふうに思っております。
これをもう少し別の角度から見ますと、この日銀の政策に最も敏感に反応したのは為替です。皆様御存じのとおりです。そして、円安が起こりました。その結果、株価、そして、まだ一部ではありますが、不動産の価格が上がり始めております。ただ、設備投資、個人消費等の需要項目ですね、こちらの方は十分に反応していないということかと思います。
ただ、過去二年間を振り返ってみますと、この間に日本の企業、家計の景況感は、それ以前に比べるとかなり改善を見ております。一部中小企業等で必ずしも十分に恩恵が行き渡っていないところはありますが、ただ、マクロ的に見れば確実に景況感が良くなっておりますので、これは日銀の政策の貢献があったというふうにも言えるかと思います。
もちろん、一方、コストもございます。債券市場では流動性が低下し、債券市場から発生するメッセージですね、金利ということで市場がどう見ているのかが分かるわけですけど、それが封殺されているという問題があります。また、金融システムの安定化、これは先ほど岩田理事長の方からも御指摘がありましたように、資産価格がむしろ上がり過ぎる、実体経済と離れて上がり過ぎるのではないかという懸念。そしてもう一つは、金融機関の収益がかなり圧迫されていますので、実は金融機関の経営が不安定化するリスクもございますので、この辺がコストとしてはあるかもしれません。
では、全体としてどういう評価ができるかというと、実は、まだ出口という問題がありますので、そこを見るまでは全体の評価はできないということだと思います。簡単に申し上げますと、うまくソフトランディングできればこれはめでたしめでたしということですけれども、その出口のところでつまずいてしまう、あるいは非常に大きなコストを払わないといけないということになると、これではこれまでのプラスはもう全て相殺されてしまうということになりますので、やはりその出口のところをどう考えるかというのが重要になると思います。
その出口の話をする前に、ざっと期待インフレのところだけを少し取り出して見てみました。
こちらの、皆様から向かって左側の方のチャートというのは、市場で計測される期待インフレ率ということです。細かいことは省きますけれども、これは、長期間にわたって、今後十年間、市場がどのようなインフレ率かという、どう見ているかというものがここに示されています。
ここでお分かりのように、二〇一二年の終わりから一三年の初めにかけて、それまでのマイナスからプラス一%ぐらいまで急速に上がりました。これは明らかに期待インフレ率が変わったわけです。ところが、その後は、多少凸凹はありますけれども、一%を挟んだ動きということであります。最近少し一%を下回っていますが、これはちょっと原油価格が下がったことに過剰に反応しているという面もありますので、ここはちょっと割り引いて考える必要がありますが、ただ、言えることは、市場は、一%のインフレというのは何とか達成できそうだと、ただ二%はなかなか難しいよねというのが市場からのメッセージというふうに考えておりますし、私はこれは非常に重要なメッセージだと思っております。
次に、この右側のチャートですが、これは日銀が行っておりますアンケート調査の結果でございます。生活意識アンケート調査という結果ですが、これを見ると、この上の平均値というところと中央値というところを御覧いただくと、日銀の政策に全く関係なく、ほとんど影響ないと。ですから、家計から見ると余り期待インフレ率は変わっていないということかと思います。
三番目が、この左側の、企業がどう見ているかということです。昨年から日銀は短観で企業の期待インフレ率を聞いております。企業の販売価格見通しというのがあるんですが、この黄色い線のところを御覧いただきますと、二〇一四年十二月、一年後が一・〇、三年後が一・七、五年後が二・〇%です。これは一年間の変化率じゃないんですね。今から見て例えば三年後にはあなたの企業の販売価格は何%上がっていますかということで、一・七%です、五年後には二・〇%ですというふうに答えているわけですので、そうすると、その例えば一年後から三年後にどれだけ変わるかというのは、この表のとおり解釈すると、実は二年間で〇・七%ポイントです。ですので、一年にすると〇・三五%。三から五年後は、一年間は〇・一五しか上がらない。むしろ企業も、少なくとも二%に毎年どんどん上がっていくというふうには思っていないということですね。
あと、後ろの方にちょっと書いたんですが、こっちは後にします。
エコノミストがどう考えているかというと、これブルームバーグという通信社がやった調査があるんですが、日銀が言う二〇一五年度を中心とする期間に二%程度のインフレが実現すると思いますかという問いに対して、三十三名のエコノミストのうちイエスと答えたのは二名、三十一名はノーというふうに答えております。エコノミストも、そういう意味で、なかなかやはり二%のインフレは、少なくとも日銀が言っているように二年程度では難しいということかと思います。
そうなりますと、日銀が二%を早期に達成しようと、今、黒田総裁は記者会見でもそのようにおっしゃっていますが、そうであれば、日銀は追加緩和をするだろうというのが自然の成り行きでございます。そして、これもブルームバーグのアンケート調査によると、七四%のエコノミストが年内に追加緩和ありというふうに答えているわけです。
これが私の評価と今実際に現状でどのように市場、家計、企業、それからエコノミストが考えているかというようなことですね。
次に、このチャートは私どもJPモルガンの今年のインフレ率予測を示してございます。下のピンクの部分がエネルギーによる押し下げ効果、寄与度がマイナスになっておりますが、これによりますと、今年の四―七月辺りにコアCPIの前年比がマイナスになりそうだと。ただ、そんな大きなマイナスではないわけで、その後、原油価格が少し持ち直しぎみになると年の終わりにはまた一%近くに近づいてくると。ここにはありませんが、二〇一六年には一%台の半ばぐらいまでは上がってくるかなというふうには見ております。ただ、それでもまだ二〇一六年にもなかなか二%には届かないというように私どもは考えています。
では、二%って永遠に到達しないのか、あるいは到達するのかという点ですけれども、私どもは二%はいずれ達成可能だろうというふうに思っております。
こちらのチャートの右側、有効求人倍率のチャートをお示ししてございます。ただいま足下で有効求人倍率は一・一五倍、すなわち求職数に対して求人数が少し上回っているような状態までようやく回復はいたしておりますが、ただ、所定内給与という、いわゆる基本給、ここの前年比はまだ〇・二%ぐらいということで、さすがにマイナスはなくなりましたけれども、まだまだ賃金の上昇圧力は弱い状況です。
ただ、この有効求人倍率のチャートは非常にスムーズに動いていますので、このまま先延ばししますと二〇一七年ぐらいには有効求人倍率が一・五倍ぐらいに到達いたします。この一・五倍の有効求人倍率というのは、一九九〇年、日本の資産バブルの一番ピークだったときですけれども、このときの有効求人倍率に並びます。これはかなり労働市場が加熱した状況を示しております。
この後も幾つか分析があるんですが、ここは省略させていただきますと、実はこのぐらいになると賃金上昇率も大体二%ぐらいのところに動きますので、今後前向きの循環が続けば、二〇一七年ぐらいには賃金が二%になり、そしてその後少し遅れてインフレ率が、私どもは二〇一七年の後半から一八年ぐらいになると二%のインフレというのがその頃見えてくるのではないかなというふうに思っております。
あと、次に出口政策についてお話しさせていただきたいと思います。
では、二%が視野に入ってきますと何が起きるかというと、まず長期金利が上がってまいります。現状〇・三%強ぐらいの十年債、十年国債の利回りですけれども、さすがに出口が近づいてきますと、その出口の先にある長期金利の水準というのは二%はもう超えてくるという、すなわちインフレ率より当然高くならないといけないわけですから、幾ら日銀が国債を買おうと金利はじわじわ上がってくるということになります。
ただ、問題は、この上がる金利のスピードが非常にスムーズに上がるのかどうかということですが、もう既にアメリカが出口から出ようとしているわけですが、その経験を見るとなかなかスムーズというわけにいかないと。やはり中央銀行の一挙手一動を見て市場がやや過敏に反応して、長期金利が非常に大きく振れやすくなるという可能性というのはあるのではないかなと思います。
じゃ、それなら日銀はもっと買えばいいだろうと、日銀が買えばそんなにボラティリティーが上がらないだろうということはあるかもしれないんですが、ただ、これは金融の緩和になってしまいます。日銀が国債を買うということはその分市中にもっとお金が出ることですから、二%のインフレが近づいたところで更に日銀が国債を買うともっとインフレになってしまうという悪循環になりますので、これも日銀にとっては非常に制約があるわけです。
したがいまして、特に出口に近づくときには、市場といかに呼吸を合わせて出ていくかと。市場との対話というのが非常に重要になってまいります。その点、現在、アメリカの中央銀行であるFRBは、もう極めて一語一語誤解されないように非常に神経を使っているということが言えるかと思います。
ただ、現在日銀は、出口政策に関しましては時期尚早というふうに言い続けております。多分、期待インフレ率を上げるためには出口政策はまだ議論しない方がいいということかもしれませんが、もうそろそろその封印は解かれてしかるべきだろうと思います。その将来のショックを和らげるためには、今すぐに出口戦略は、封印は解くべきだというふうに思っております。
ここで、先ほど岩田理事長の方からもちょっとお話がありました、日銀のバランスシートと日銀の収益について簡単にちょっと図示してみましたので、御覧いただければと思います。
日銀は二〇一五年度のバランスシートは発表していませんが、約八十兆円足した、一四年末に八十兆円乗っけたような形で絵を描きました。仮にですが、この段階で日銀が政策金利を、今〇・一%ですが、これを二%に上げるとすると、超過準備はこのとき二百三十四兆円ですので、これに二%掛けると四・六八兆円、四・七兆円というのが年間の支払利息になります。一方、長期国債がこのとき二百八十兆円強日銀持っています。大体この平均利回りが、その時点のちょっと金利にもよってはっきりしませんけれども、大体〇・五から〇・六%ぐらい、もうちょっと低いかもしれませんが。そうするとこれは一・四兆円ぐらいになります。もちろんその他の資産がありますのでもう少し収益はありますが、支払利息が四・七兆円、国債からの収入は一・四兆円プラスアルファですので、これでは日銀は赤字になります。
そして、先ほど岩田理事長の方からも、そういうときに備えて政府とちゃんと事前の協定を結ぶべきだと。それはそう思いますが、ただ、それでは実は不十分なのではないかなというふうに思います。
すなわち、日銀の赤字を政府が補填すればいいというのは簡単な話ですが、果たしてそれで国民あるいはマーケットの信認は得られるでしょうか。政府の財政状況がぴかぴかで、財政赤字が非常に少ない、債務残高が非常に少ないという状況の下であればそれでも話は済むかもしれませんけれども、現在のように政府債務のGDP比率が非常に大きい、二三〇%というふうに大きいときには、これ日銀に赤字補填をするということは、これはもっと国債を増発するということになるわけです。
そしてさらに、今、日銀の資本金というのは六・七兆円ですので、これを何度も何度も続けていたら、日銀の自己資本が毀損されてしまって、日銀が債務超過になるということですね。果たして、じゃ、この債務超過が起きたときに何が起きるんでしょうかと。実は、これはまだどの先進国も実験はしたことがないので日本が最初にやることになりますので、今から、じゃ、どうなると、これははっきりしたことは言えませんけれども、普通に考えると、政府の財政赤字が大きいときに更にもっと中央銀行に補填するというのはどう考えても常識的に考えると何か変だなということだろうと思いますので、場合によっては海外への資本逃避あるいは実物資産への逃避みたいなものが起きるという可能性があります。
そして、実は政府が日銀の赤字を埋めるというのは、これは国民の側から見ると、国庫納付金が減るということですので、これは増税と同じ効果があります。すなわち、政府が補填するのではなくて、これは国民が補填しているんですね。それも、しかも後世の国民がですね、これ、後ずっとツケが残りますから。自分たちの次の代にツケを残していくという政策にほかならないので、そう安易にやっていいものでは決してないというふうに思っております。
先ほど岩田理事長がおっしゃられたように、FRBでは、スタッフペーパーですけれども、出口政策が出る前に、僕今日持ってきておりますが、こういうペーパーを発表しています。そして、これは我々の言葉で言うとストレステストと言うんですが、金利が上がったときに日銀の収益がどう変わるかというのをちゃんと計算しています。そして、アメリカの場合には、金利が上がっても二〇一五年までにこのQE、量的緩和をやめれば大丈夫ですよと、FRBは赤字になりませんというのを、これもスタッフペーパーですが、出しています。ところが、日銀はまだそういうものは、少なくとも、内部ではあるかもしれませんが、我々はまだ見ていないと。したがって、日銀はこのストレステストの結果を国民に公表すべきだと。どういうリスクがあるのかを国民に知らしめた上で、追加緩和をするのかしないのか、そしてどの時期に量的緩和の縮小に向かうのかを説明すべきだというふうに思っております。
最後に、全体のそういう意味で評価ということを申し上げますと、なかなか日銀の政策だけを単純に評価することは実は難しいと思っています。私は、量的・質的緩和政策の最大の目的は時間を買うということにあると思います。日銀が痛み止めあるいは麻酔薬を打っている間にしかるべき政策、重要なのは財政の健全化と成長戦略、これを同時に完全実施することができれば、これは日銀が量的・質的緩和をやって時間を買った成果という形で大いに評価されると思います。ただ、日銀の痛み止め、麻酔薬もいつかは切れるときが来ます。それは二%インフレが達成されたときですけれども、その間に歳出削減などの手を緩めてしまって成長戦略も余り進まないというようなときには、結果として時間の浪費になり、日銀の出口政策はますます困難になってしまうということです。
結論を言いますと、出口政策に関して日銀とアメリカの違いは、まさにその財政状況の違いです。アメリカは量的緩和を縮小しても海外の投資家がむしろ国債を買いに殺到しました。これはアメリカの財政に対する信頼があるからです。そして、むしろ長期金利は低下しています。日本の場合には債務残高が非常に高いわけで、果たして出口で投資家からの信認が得られるかどうか。その保証は今のところ全くないと思っています。出口戦略に関するリスクというのは、これは予想できるリスクで、自然災害以上に予想できます。かつ、このリスクが顕現化した場合の経済的混乱というのは非常に大きなものがあると思います。
したがいまして、私は、政府あるいは国会は一種のプロジェクトチームのようなものを設置して、このリスクを小さくするにはどうしたらいいのか、あるいはリスクが顕現化した場合にはどのような措置が考えられるか、今から検討すべきだというふうに考えます。
以上でございます。