2015-02-25
参議院
早川英男
国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会
早川英男の発言 (国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会)
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○参考人(早川英男君) それでは、日本銀行の量的・質的金融緩和とその効果について私の所見を述べさせていただきたいと思います。
なお、私は特にチャート等を投影いたしませんので、お手元にございます私のレジュメを御覧いただきながらお話を聞いていただければと思います。
それと同時に、最初に一言だけお断りしておきますけれども、今の岩田参考人、菅野参考人も同じでしたけれども、金融政策の話をするときに金融政策だけの話をするわけにはいきません。どうしても財政とか成長戦略、そうしたことにも言及せざるを得ませんので、そうしたことも含めてお話をさせていただくということを申し上げておきたいと思います。
一ページ目でございますけれども、一ページ目というのは量的・質的金融緩和ってどんなものだったかということでございますので、皆さん多分御承知でございますので、御説明するには及ばないと思っています。ただし、一々、量的・質的金融緩和という言葉をずっと言っていると随分長いですので、今後、英語の略称である、日本語だと異次元緩和という俗称がございますけれども、英語ではQQEと言われていますので、これでお話をさせていただきたいと思います。
もう一ページおめくりいただきまして、私がまず申し上げたいのは、いわゆるQQEを始める前の段階でどういう理論的な問題等があったかということです。申し上げたいのは、このQQEというのはある種の実験的な性格を持つ政策であるということであります。と申しますのも、短期金利がゼロになってしまった後に長期国債等々を買ったりする形で政策効果を及ぼすという政策は非伝統的金融政策と呼ばれるわけなんですけれども、実を言うと、この非伝統的金融政策がどういう効果を持つかについて、経済学界に明確なコンセンサスはありません。そういう意味でQQEは実験的であると申し上げているわけであります。
まず、理論的にどういう話になっているかということなんですけれども、現在の標準的な経済理論で想定されている効果というのは、次に申し上げるようなものではないかと思っています。
この説明は、去年の春の金融学会で東大の植田先生が使われた分類をそのまま使わせていただいておりますけれども、QQEにはいろんな要素があって、まず、植田さんの言葉で言うとQE0というふうな、これ単にマネタリーベースを増やす効果であります。これについては、少なくとも理論的にはないというのが一応学界のコンセンサスであります。実際にFEDのバーナンキ議長も、ここでのQEというのは、狭い意味でのQEには効果がないというのはもう明言されておられます。
二番目が、これはQE1と言われているものでありまして、これはリーマン・ショックの直後にFRBが行ったような政策、すなわち金融市場が混乱しているような状態で住宅ローン証券とかそうしたものを買い入れる政策であります。これについては、理論的にも効果があるというのが一般的な理解であります。FEDはこのときQEと混乱されないようにあえてクレジットイージングという言葉を使っていますけれども、これについては効果があるというのが一般的。
もちろん、これは最初にアメリカがやったというよりは、その前例をたどると、実は一九九八年の金融危機のときに日銀がCP・社債オペをやったのが多分その前例になると思いますけれども、こういった政策であります。よくバーナンキが大恐慌の研究の成果を生かして量的緩和をやっているということが言われますけれども、それは多分正しくなくて、バーナンキの大恐慌研究の直接的な応用というのは多分このQE1に当たるだろうと思っています。
もう一つがQE2と呼ばれているものでありまして、これは長期国債を大量に買うというものです。アメリカでは二〇一〇年以降、QE2、QE3という形でこれが行われました。これについても、実はみんなが物すごく合理的だと仮定しちゃうと、理論的にはこれも効果がないというのが一応理論的な結論なんですが、これはちょっとやっぱり言い過ぎであって、通常は、これはある程度の長期金利の低下効果をもたらすだろうというのが一般的な理解であります。
と考えますと、日銀の今回のQQEというのはどういうものかというと、金融市場の混乱というのは余りないですので、QE0とQE2を足したものであるということが一般的な理解になると思います。もちろん、だから長期金利の低下効果はあるわけですけれども、スタート時点の長期金利がかなり低かったので、まあ効果はあっても少ないだろうというのが理論面から出てくる結論であります。
一方、もう一ページおめくりいただきまして、しかし、現実はどうかという話になると、例えば為替市場においては、ソロス・チャートと呼ばれていて、各国のマネタリーベースの比較から為替レートが動くんだということを信じてトレードを行っている人がたくさんいます。もちろん理論的に言うとそれは間違いだということになるわけですけれども、皆さん多分御存じだと思いますけれども、ケインズの美人投票の論理というのに従えば、それは間違っていてもみんなが信じているんだったら自分も信じた方が得だというロジックがあるので、実際にはそういうことが起こり得るということになります。実際、アメリカのQE2とかQE3はドル安とかアメリカの株高をもたらしたように見えます。
以上申し上げたことは何か不思議なことを言っているように思われるかもしれませんけれども、それをうまく表している言葉が、実は去年バーナンキ議長が退任する直前に、これはブルッキングズだったと思いますけれども、こういうふうに言っています。ザ プロブレム ウィズ QE イズ イット ワークス イン プラクティス、バット イット ダズント ワーク イン セオリー。要するに、いや実際には効果はあるんだけどね、理論的には効果はないんだよ、これが問題なんだということをバーナンキは言っているわけであります。
そうすると、じゃ、理論的にはともかく、実際に効く可能性があるんだったらやってみればどうだという議論が当然あるわけなんですが、そこについて、僕、ちょっとここには非伝統的金融緩和の倫理的側面なんてやや大仰な言葉を使ってしまいました。通常は金融政策というのは最もテクニカルなポリシーであって、ある種、倫理とかそういう深遠な問題とは関係ないはずなんですけれども、実はこういう問題があります。
例えば、もし市場参加者の誤解によって効果を持つような政策というのを中央銀行はやっていいのかという議論があります。これ実はお医者さんがプラシーボといって偽薬を使うことがあるんです。単なる砂糖を飲ませるということがあるわけですけれども、実はこれ医学的にはプラシーボは効くというふうに言われる事実があります。そうすると、お医者さんがそのプラシーボを使うのと同じと考えていいのかというのが一つの議論だろうと思います。
もう一つは、これも今お二方から詳しく御議論がありましたので詳しく説明する必要はないと思いますけれども、QQEの出口で日銀は巨額の損失を被る可能性があるということです。
それは、これも今、菅野さんからお話がありましたとおり、最終的には国民負担です。そうすると、民主主義の大原則に遡って考えると、本来、ある種の課税というのは国会の議決を経ずして課税することはできないというのが民主主義の大原則なわけですが、そういうことを例えば中央銀行、いかなる意味でも国会の議決を得ていない者がやってよいのかという問題があります。
これ難しいのは、最初から副作用がありますと言ってしまうとお薬は効かない可能性があるので、一番最初の時点で目をつぶるという可能性はありますけれども、それをもう二年も続けていて、何も説明しないで追加緩和をしていくというのは果たして許されるのかというのはかなりシリアスな疑問だと僕は思っています。
いずれにしましても、こういう問題がいろいろあるわけですが、何はともあれ実際にやってみました。やってみた結果、何が分かったかということでありますけれども、まず第一に、そのQQEの成果という点では、もう皆さん改めて申し上げるまでもございません、大幅な円安、株高が実現したということであります。
もちろん、マーケットが動き出したのは、実際に日銀が金融緩和を始める前、むしろ二〇一二年の十一月に衆議院が解散されて、安倍政権ができるということがほぼ予想された時点でマーケットが動き出したわけであります。
そして、その二〇一二年の秋というのはどういう時期だったかというと、一つは、要するに欧州情勢が落ち着き始めていて円高要因がなくなりつつあった、あるいは日本の貿易赤字が予想外に拡大していたということがあります。と同時に、実は二〇一二年は七か月余りの短い景気後退があったわけですが、それが二〇一二年の十一月に底を打っていました。そういう意味では、ある種、為替にしても株にしてもマーケットの潮の変わり目にあったというふうに思いますけれども、さりとて実際にアベノミクスとかQQEがなければ、あれだけの円安、株高になったとは思いませんので、やっぱりそれなりに効果があったということは間違いないと思っています。
もう一つは、やはり何といってもデフレ脱却が実現したということであります。もちろん円安に伴うコストプッシュ要因が大きかったのは事実でありますけれども、一三年の後半、おととしの後半から約一年半、消費者物価の前年比はプラスを続けていますので、デフレというのが物価の持続的下落というふうに定義されていることを考えれば、デフレが終わったということは明らかだろうと思っています。これはいずれにしても非常に大きな成果であったと思います。
一方で、次のページで、QQEないしアベノミクスの誤算もあったというふうに思っています。
一つは、デフレから脱却しても成長率はなかなか高まらなかったということであります。御承知のように、リフレ派と呼ばれている人々は、物価が下がるから消費が先送りされるのである、それからデフレで実質金利が高いから設備投資が出ないのである、デフレ下で円高になって輸出も伸びないのだという説明をしていたわけであります。現在はデフレは終わりました。実質金利は明確にマイナスです。大幅な円安です。ですから、消費も投資も、設備投資も伸びて高い成長になるはずですが、実際にはそうなってはいないということであります。
もちろん、一三年度の実質成長率は二・一%でしたから、これはまあまあの数字であることは間違いありませんけれども、このうち〇・五%は公共投資の寄与でありますし、恐らく消費増税前の駆け込み需要、これは消費と住宅合わせて〇・七%くらいあったんではないかと考えていますので、この二つを抜くと、実は実力は一%足らずであった。一方、御存じのように、一四年度は恐らくマイナス成長になるわけでございますので、それを考えれば、デフレさえ終われば高成長になるという話ではなかったということは明らかだと思います。
と同時に、大企業が収益改善したにもかかわらず、輸出はそんなに増えませんでしたので、中小企業への発注は大したことはありませんでした。設備投資は増えましたけれども、これも大したことはありません。賃上げも、もちろん久々のベースアップがあったわけでありますが、残念ながら円安による物価上昇あるいは消費増税による物価上昇を埋め合わせるだけの力はなかったということだと思っています。だからこそ、去年は特に家計あるいは中小企業あるいは地方といったところについては、むしろ円安のメリットよりもデメリットあるいは消費増税の影響の方が上回ってしまったということでございます。
もう一つは、やっぱり成長天井が予想以上に下がっていたということだと思います。先ほど労働需給の改善の話は菅野さんからお話ありましたけれども、もうアベノミクスがスタートして一年ぐらいでほぼ完全雇用が達成されて、むしろ人手不足になってきた、まあそれ自体はいいことなんですけれども、しかし、それがそんなに早く達成されてしまったというのは、やはり労働人口の減少によって潜在成長率が下がっていることにほかならないと思っています。
内閣府の試算では現在の潜在成長率は〇・六%と、六ページでございますが、ことになっています。私自身はもうちょっと低いのではないかと思っていまして、今日銀では〇・二%程度と試算しているようですけど、いずれにしても〇・六と〇・二比べても大してはありません。いずれにしても低いということだけは間違いないということでございます。と同時に、後ほど申し上げますけれども、潜在成長率が下がってしまうと財政バランスの維持が難しくなるという問題が出てくるということでございます。
それから、三番目の誤算は、これも比較的最近の話になりますけれども、原油価格の下落もあって、QQE始めてちょうど二年になる今年の四月ぐらいの物価上昇率は多分ゼロぐらいになってしまう可能性が高いと思っています。
もちろん、お二方からもお話ございましたとおり、原油価格下落は大幅な減税に等しい効果を持ちますので、日本経済にとっては大きなボーナスではあります。ただ、一部の方は、原油価格というのはこれは相対価格なのであると、したがってマネーを十分増やせばそんなことは関係なくて物価は上がるのだという議論をされている方がおられましたけど、これは少なくとも短期にはそういう事実はないということでありますので、時限を限ったインフレ目標の達成は難しくなったということでございます。
七ページ目でございますが、QQEというのは元々実験的なものであったと考えると、実際の経験から学ぶということは極めて大切であります。以上の成果と誤算を踏まえて常識的に考えると、学ぶべき教訓はこんな形になるのではないかと思います。
一番目は、デフレが終わっても成長率は高まりません。成長天井の低下があらわになった以上、供給力の強化が大事だと、そういう意味では成長戦略の策定が極めて重要だということは明確な教訓だと思います。
二番目に、完全雇用はもう実現しているわけですから、財政によって景気刺激することは余り意味がないということになります。むしろ成長天井の低下によって財政バランスの維持が困難になったということを踏まえるのであれば、早期に財政健全化にかじを切る必要があるということ。
三番目に、成長力の強化も財政健全化も進まないうちにインフレ目標だけが達成されてしまうと、日銀の国債の買入れが終わって長期金利が上がってしまうということで、別に二%というのはもちろん急ぐ必要はないのではないかということです。
もちろん、岩田さんからお話がございましたように、僕も二%目標自体は旗を取る必要はないと思いますけれども、元々原油価格等が変化すればインフレ率が変わるのは当たり前であって、それを容認して長い目で目標を達成するというのが現在のインフレ目標政策の国際標準だと理解しています。
という下で、実は昨年の秋に行われたことは私にとっては大きな衝撃でありました。というのも、今申し上げた教訓と全く正反対に、十月末に日銀はQQE強化を行いました。この結果として、国債の市中消化分のほとんどが日銀に買い入れられるという意味で、その財政ファイナンスの色彩が一層強まったということです。と同時に、安倍総理は、今年十月に予定されていた消費増税の先送りを決意した上で衆議院の解散・総選挙に踏み切ったということです。もちろん、当座の萌芽としては、日銀の追加緩和は更なる円安、株高につながりましたし、選挙の結果は与党の勝利ということだったわけでありますけれども、この決定は財政の維持可能性を危うくするおそれがあったのではないかと思っています。現に一部の格付会社は日本国債の信用格付の引下げを行いました。
なぜこれが危険かというと、その一番重要なポイントは、九ページにございますように、二%インフレが達成されたときに果たしてそのQQEの出口をうまく抜けられるかどうかというのは、基本的にその時点で市場参加者が財政の維持可能性を信じてくれているかどうかに依存するからであります。と申しますのも、もしマーケット参加者がそれを信じてくれていさえすれば、あとはこれはもう日銀の腕前次第というものだと思っています。日銀は実は市場調節の手腕についてはそれなりの定評がございますし、それから、日銀が最初にやるわけではなくて、去年実際にFEDは国債買入れの削減、テーパリングを行いましたし、今年は恐らく利上げを行っていくだろうと思われています。日本はそこからしっかり学ぶことができるということがございます。
しかし、逆にマーケットがそれを信じていない場合はどうかというと、まず第一に、信じていないのに国債の買入れをやめてしまえば、恐らく長期金利は急騰する、これは避けられないと思います。逆に、じゃ、それが怖いからといってずっと買い続ける、もう二%インフレになっているのに買い続けるということが行われれば、これは恐らく円安、インフレのスパイラルにつながる可能性が高いと思っています。日銀の黒田総裁は以前の記者会見で、政府の財政健全化への意思や努力について市場から疑念を持たれると対応のしようがないということを言われているわけでありまして、まさにそういう問題に直面するということです。
ただ、実は一つ大きな幸運がございまして、何度も出ておりますけれども、実は原油価格の急落によって、一方において恐らく景気は順調に回復していくと思われます。他方で、インフレ率が二%に達するのは少なくとも今年の春ではなくて、まだしばらく先になります。そういう意味では、QQEの約束が実現しないという意味では不幸ではありますけれども、財政の維持可能性を回復するまでの時間の余裕ができるという意味では日本にとって大変な幸運であるというふうに思っております。
最後に、十ページでございますけれども、そうなると何が大切かということでありますけれども、それは、総選挙の前に総理が、消費再増税は先送りしても財政健全化というのを堅持するということで、この夏までに二〇二〇年度の基礎的財政収支黒字化のための具体的計画を策定するということを言っておられます。これが本当にできるかどうかというのが極めて重要、とりわけQQEがうまくいくかどうかにとっても極めて重要であるということになります。
皆さん御承知のとおり、一月十二日に内閣府が中長期の経済財政に関する試算の改訂版を出しました。二〇年度の基礎的財政収支について、実質二%、名目三%の楽観的な前提の下でも九・四兆円の赤字が残るということでした。一方で、今回は、内閣府の潜在成長率並みの成長を前提にした計算、これベースラインケースと言われていますけれども、計算が出されまして、これ十六・四兆円のプライマリーバランスの赤字ということでございました。
もちろん、成長率を上げていくのは大事ですけれども、これはよく法政大学の小峰さんが言われるんですけど、目標と前提は違う。新入社員が社長になるのを目標にするのは大変結構でありますけれども、社長になることを前提に今日から飲み歩くのでは破綻してしまいますので、前提は慎重であるべきだということだとすると、やっぱりこのベースラインを前提に考えていく必要があり、そうなると、二〇二〇年度の基礎的財政収支黒字化というのはこれは簡単ではありません。
恐らく、消費増税を一七年の一〇%だけではなくて、多分更なる追加増税が必要になりますが、それだけでも恐らく簡単ではありません。社会保障改革を含めた歳出削減、そして成長力強化、それを全部組み合わせた対応が必要になると思います。これは、政府・与党だけではなくて、ほとんどの野党の方々も総選挙で再増税先送りに賛成された以上、皆さんが共通の責任を持ってこの議論をされていく必要があるというふうに考えております。
最後に、最近、財政の状況を見る上で、公的債務残高と名目GDP比率といったストック指標が大事だという議論が行われています。これ大事なことは間違いありません。ただし、足下は、実はQQEで長期金利が抑制されているために、見かけ上これが随分低く出てくるということがございます。もしQQEが終わって正常化、例えば長期金利と名目成長率が等しいという状態の下では、基本的にプライマリーバランスを黒字にしない限りこの赤字は無限に発散していくということでございますので、ここも申し上げた上で、私の意見陳述は終わらせていただきます。