湯元健治の発言 (国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(湯元健治君) 日本総合研究所の湯元でございます。
 本日は、このような場でお話をさせていただく機会を頂戴いたしまして、大変有り難く、光栄に存じております。
 それでは、お手元に配付させていただいておりますレジュメに基づきましてお話を申し上げたいと思います。(資料映写)
 まず、私の方からは、我が国経済、デフレを脱却して、少子高齢化あるいは人口減少という状況が続く中でも持続的な経済成長を続けていくためにはどのような努力が必要かという観点から、現時点でのアベノミクスの評価あるいは今後の課題というところを交えて私見を述べさせていただきたいと存じております。
 まず、デフレ脱却の定義ということなんですが、これは内閣府が定義をしているわけでございますが、今、現時点で日本経済の現状はもはやデフレではないという判断をされているところでありますけれども、まだデフレ脱却という宣言にまでは至っていないわけであります。デフレ脱却の定義というのはデフレに後戻りしないというふうに判断されるということで、物価指標等がプラスになっているから脱却というような即断をするようなことはしていないということであります。
 実は、デフレ脱却を判断するために四つの指標をベースに判断をしているというふうに認識しておりますが、一つが左側のグラフにありますコアコアCPI、GDPデフレーターという物価関連の指標でございます。これは、双方ともゼロからプラスに出ているという状況であります。
 それからあと二つは、ユニット・レーバー・コストという、企業が単位当たり生産を行う場合に掛かる労働コストでございます。これとGDPギャップ、これは需給ギャップとも言われておりますが、この二つの指標を見ておるわけでありますが、ユニット・レーバー・コストはコスト面からインフレになっていく環境になっているかどうかということで、これはプラスの方に上がってきていると。それから、一方でGDPギャップ、需給ギャップの方はまだマイナス圏にあるということで、需要不足、供給過剰という状態が続いているということであります。
 この指標から見ると、四つのうち三つがプラスに転じているということで、何となくデフレ脱却が近いというようなイメージもあるわけですが、ただ、注意していただく必要がありますのは、消費者物価の方は、コアコアCPIの方は消費税の影響を除いて出しておりますけれども、ほかの部分は、まあちょっとテクニカルに除くのが難しいということもありまして除かれておりませんので、消費税の影響で上に出ているという側面もありまして、今年四月以降、消費税の影響がなくなって以降、こういったデータがどうなるかということをきちっと見ていく必要があるんだろうと思っております。
 それから、もう一つ重要なことは、デフレからインフレへの転換という際にどういうプロセスを経てインフレになっていくかということなんですが、二つのパターンが大きく分けますとあり得るかなと思っておりまして、一つはコストプッシュ型ということで、コストが上がって収益が企業のサイドでは圧迫されますので、製品価格を値上げして実際に消費者物価が上がっていくというコストプッシュ型インフレ、それから二つ目がディマンドプル型インフレということで、需要が非常に好調だと、物が売れて売れて仕方がないと、こういう状況になって、値上げしても消費者が買ってくれるという形でインフレが進むという進み方であります。
 何を基準に後戻りしないと判断できるのかというのは、これは私の私見ではございますが、コストプッシュ型よりはやはりディマンドプル型のインフレになっていくということが後戻りしないということの大きな条件になっていくんじゃないかなと思っておりまして、少なくともこれまでのインフレはもちろんコストプッシュ型の色彩とディマンドプル型の色彩が入り交じっている部分はありますが、どちらかといえば、やはり需給ギャップがまだマイナスにあるというところからも明らかなとおり、コストプッシュ型インフレの色彩の方がやや強いということでございまして、結論的には、まだデフレ脱却には時間が掛かるだろうということでございます。
 そもそも、そのデフレというものの本質について、消費者物価等の物価指標は下がる、景気が落ち込むとかそういうことも含めて、そういった表面的な現象というものがありますけれども、私自身、このデフレの本質とは何かと突き詰めて考えてみますと、特に、企業などの経済主体が積極的にリスクを取らず、リスク回避的な行動をし続けるということであります。将来物価が下がるということが予想されているわけですから、余り積極的に打って出てもいいことはない、できるだけ縮小均衡で、シュリンクをしていこうと、そういう判断にどうしてもなってしまうということであります。
 これを端的に表しておりますのが、二つグラフ載せさせていただきましたが、左側の部分は制度部門別の貯蓄投資バランスというものでありまして、特にこの赤で表しています企業部門の貯蓄投資バランスが上の方に、プラスに出ております。これは、企業が投資よりも貯蓄の方が多いという状況で、通常の経済状態ですとこれはマイナスに出るのが普通なんですが、ちょうど一九九八年以降プラスが続いているということであります。デフレが一九九八年以降続いているということとまさに合致しているわけでございまして、こういった貯蓄投資バランスのデータから見ましても、まだすぐに貯蓄超過から投資超過に転じるという兆しはない、すなわちデフレ脱却に至るという兆しはまだ大きくは見られていないということであります。
 同様に、右側のグラフのところを御覧いただきますと、これは企業部門のROAという収益率の改善の要因を分析したものでありますが、結論だけ申し上げますと、どうしてこのROAが改善してきたのかということは、一つは低金利と借金の返済、それから二つ目に人件費を抑制してきた、三つ目に設備投資などを圧縮してきたと、つまり縮小均衡によって収益率を上げてきたということであります。
 そして、このROAという概念ともう一つ別にROEという、自己資本利益率という概念がありまして、こちらは外人投資家がかなり重視している経済指標でございますけれども、このROEを見ますと、日本企業は大体平均で大企業で八・五%ぐらいと言われておりますが、欧米諸国は一五%、二〇%というふうに言われておりまして、ここが低いのが一つの日本企業の弱点、問題点だという指摘がなされてきたわけですが、このROEを積極的に引き上げていくためには、実は、レバレッジと言いまして、積極的に外部から負債を取り入れて、つまり借金をして投資を行っていき、その投資が果実を生むという形で利益率を引き上げていくことが必要だということでありまして、企業部門のスタンスを見る限りにおいてはまだそういう状況に至っていないということであります。
 したがいまして、デフレ脱却というのはどういうことかというと、やはり経済主体が積極的にリスクテークをしていくことだというふうに考える次第でございます。
 そういう中で、先ほど小峰参考人からも日銀の金融政策についての御評価があったかと思いますが、私なりにも、少し重複する部分があるかもしれませんが、申し上げたいと思います。
 最大の目的というのは、やはり市場や企業や家計の期待を変化させるということが最大の目的だろうと思っております。そういう中で、期待インフレ率という概念がありまして、これをいろんな尺度で測って見ております。細かいところは、技術的なところは省略いたしますが、結論的に見ますと、それぞれある程度インフレ期待が上昇している、市場においても家計においても企業においても上昇してきているということが見て取れます。
 右側の図は、ちょっとこれは専門的なので省略いたしますが、フィリップス・カーブというインフレ期待の変化を表す分析でありますが、これにおいても、ややデフレ期と比べると上昇している、つまりインフレ期待が高まっているということが見て取れるわけでございます。
 ただ、これは私の私見ではございますが、このインフレ期待の高まりというのが日銀の異次元緩和ということのアナウンスメント効果によって高まってきたのか、あるいは、日銀の金融緩和の結果として生じた円安による物価上昇圧力あるいは消費税の引上げによる物価上昇圧力、こういう形で現実の物価が上昇した結果としてインフレ期待も高まってきたのかというと、どちらかと言えば後者の方ではないかなと。現実に、現実の物価上昇率、最近は下がってきておりますけれども、それに応じて一部短期のインフレ期待は下がってきているというような状態になっていることからも明らかなのではないかというふうに思うわけでございます。
 もっと申し上げますと、実は、日銀の金融緩和の大きな目的はインフレ期待を高めることだということではあるわけですが、インフレ期待さえ高まれば経済が非常にいい状況になるのかどうか、あるいは、実際にインフレ期待が高まって物価が上昇するだけで経済が良くなるのかということでいうと、昨年のその状況、消費税の影響が大きかったということではありますが、物価が上昇しただけで賃金がそれに追い付いてこないという状況になりますと経済には大きなダメージが及ぶということでありまして、大事なことは、インフレ期待を高めるということもさることながら、成長期待というものを高めていく、企業サイドで経済が先行き成長するという期待が高まれば、それによって先ほど言ったような投資が増えていくという循環につながっていくんだろうと思っております。
 それから、別の角度から日銀の金融緩和の評価をしてみたいと思うんですけれども、期待というルートではなくて実体経済を通じたルートというのは、一つ考えられますのは、日銀から民間の金融機関に大量のマネーを出すということで、この赤い線で示されていますマネタリーベースというものが急速に上昇しておりますけれども、それがうまく経済全体にどこまで回ってきているのかということでいいますと、この青い線というのがマネーストック、従来、マネーサプライと呼ばれていたものですけれども、厳密に数字で見ますと、もちろん従来と比べてやや上昇してきているということは間違いありません。最近地銀などでも貸出しが増えてきているところですね。変化が見られることは事実でありますけれども、この赤い線の上昇幅と比べた青い線の上昇幅というのは目で確認できるほど大きいという形ではないということでございます。
 それから、他方で、異次元緩和の結果として生じた円安によって副作用的なものも実は起きているということでありまして、それが貿易収支の赤字拡大ということでございます。これは昨年一年間の貿易収支を見たものでありますけれども、先ほど小峰参考人からも御説明ありましたけれども、数量ベースの効果が余り出ずに価格サイドの効果が大きく出て、昨年一年間では一兆九千億という金額のマイナスだったわけですけれども、一昨年は実は四兆六千億円ぐらいの貿易赤字拡大の結果になっておりまして、結論的に申し上げますと、金融緩和に過度に依存してデフレ脱却を目指しますと副作用がそれに伴って大きく出てくるということかと思っております。
 ただ、最近の経済情勢は、昨年秋以降、幸いにも景気回復基調に戻ってきているということでありまして、今年もそれなりの経済成長が実現できるだろうと、一%台の後半辺りの経済成長が見込めると思っておりますが、その最大の要因は原油価格の低下という形で、試算の内容は詳しく御説明いたしませんが、円安によるデメリットを原油価格の低下によるメリットが相殺して余りあるような状況になってきているということであります。企業業績にも原油価格の低下が大きなプラスになってくるだろうということでございます。
 さて、デフレ脱却に向けて極めて重要なことは、基本的に、経済の好循環、企業業績が増えてそれが賃上げにつながり個人消費の拡大につながっていくということなんですが、もちろん、名目賃金が上がるだけでは十分ではなくて、物価上昇率を差し引いた実質賃金がプラスになっていくということが重要だろうということであります。
 そして、その実質賃金がプラスになるためには、当たり前のことでありますけれども、毎年のようになされるベースアップというのが着実に毎年行われ、それが、更に伸び率が徐々に高まっていくということが必要でございます。
 それから、こういった動きは足下でも現れておりますが、パートタイマーなどの特に非正規雇用、賃金水準が低い非正規雇用が正規雇用にどんどん転換していくといったような動き、それから、時間給にして正規と非正規の差があるわけでありますけれども、これを、同じ仕事をしているのであれば同じ時間給を払っていくような動きに持っていくということが必要かなと思っております。
 そして、四番目に挙げましたのは、二%インフレ目標というのは期待を高めるためには重要な目標設定だったというふうに思っておりますが、名目の賃金が十分に上がってこない段階で物価上昇を更にどんどん目指していくということはむしろ去年の経験からも明らかにマイナスであったわけでありまして、そういう意味では、マイルドなインフレといいますか、二%物価目標を急ぐ必要はないということだろうというふうに思っております。
 さて、地方経済あるいは地方創生というテーマでお話し申し上げたいと思いますけれども、アベノミクスの効果が地方に隅々まで行き渡っていないという指摘がございます。これ、経済学の用語で言うと、トリクルダウン効果が非常に小さいというふうに言われております。
 特に、アベノミクスのプラス効果というのは円安や株高を通じて大企業とか大都市圏中心に現れているという形になっておりますけれども、地方の方はどちらかというと中小企業が大きくて、円安が進めば進むほどデメリットを受ける企業が大きい。それから、株高は、金融資産をたくさん持っている高齢層などは大都市圏に数の上ではかなり多くいらっしゃるということで、株高のメリットも大都市圏の方が大きいと。さらには、中小企業の方が賃上げ幅がどうしても小さくなるということで、賃金の面でも中小、地方の方が厳しくなると。
 それから、輸出数量が伸び悩んできているということ。これも、大企業の工場での稼働率がなかなか上がらないということで、中小下請企業への仕事がそれほど増えないという原因につながっておりまして、このトリクルダウン効果というのを高めていく必要があるんですが、これは、なかなか政策的に高めていくのはそう簡単ではございません。
 ただ、最近では、白物家電とか、一部の業界で生産拠点の国内回帰の動きも見られてきているとか、輸出数量そのものもこの一月に入ってちょっと伸びが高まる兆しが出てきているとか、これから先、ちょっとトリクルダウン効果がやや強まっていく兆しも見られ始めたところでありまして、全く効果が行き渡っていないということではないんじゃないかと思います。それから、円安の方も、実は外国人観光客の増加という効果を通じて地方経済にもプラス効果を与えているというふうに思っておりまして、そういう意味ではもう少し時間が掛かるという側面もありますが、徐々に浸透していくという方向性かと思っております。
 ただ、難しいのはやはり人口という要因でありまして、少子高齢化に加えて人口が減少している、特に地方圏から大都市圏に人口が流出しているという状況の中で、アベノミクスの中で地方創生ということを新しいテーマとして掲げ、それを推進しようとされてきているということで、これは非常に重要な取組だろうというふうに思っております。
 いろんな戦略が今実施されつつあるというふうに認識しておりますが、基本的には、そういう人口減少、流出というところで悩まされているところをどうやって再生させるかという部分は、地方に持っている資源を最大限活用して、いろんなものを輸出して外から稼いでくるというのが戦略の一つになろうかと思います。観光もそうですし、食や農業、農産物もそうですし、コンテンツなどもそうかと思いますけれども、そういったものの輸出をどんどんサポートしていくということが重要かと思います。
 それから、あと、十万人地方から大都市圏へ人口移動があるというお話ですけれども、これについても、方向性自体はこういうことをやっていかないといけないというふうに思いますが、なかなか思ったとおりに十万人移動を食い止めるというのは簡単なことではないんだろうと思います。
 そういう意味では、ちょっとここで③、④で書かせていただいておりますが、まず、地方で仕事をつくるというのが大事だろうと思います。これには当然、地方の中小企業に新しい技術開発や製品開発をどんどん進めていって、地方の中小企業のパワーを強くしていくということが必要ですし、それから地方発で新しいベンチャーが生まれてくるような環境整備が必要だということでございまして、それに加えて、実は、地方に住んでいる方が地方にいながら大都市圏から仕事をもらってやるという新しい、インターネットを使ったクラウドソーシングという働き方が徐々に浸透し始めておりまして、こういったところを強化していくということも重要なんじゃないかと思っております。
 ちょっと長くなってしまいまして恐縮でございます。お時間がなくなってきましたが、日本の中長期的な問題は、デフレ脱却できたとしても潜在成長力を引き上げていかないと持続的な成長が難しいということで、足下は〇・五%まで低下しております。これは成長戦略によって引き上げていくということが最大の目標でありまして、今現在の成長戦略、私なりの評価をちょっと右側に一覧表でまとめさせていただきました。
 効果が全然出ていないとか成長戦略が実行されていないとかいう批判も耳にしますけれども、実際、成長戦略の実行という意味では、この二年間で四十本以上の関連法案が成立しておりますので、私は一定の進捗があるというふうに思っております。
 それから、効果についても、例えば電力・エネルギー、農業、再生医療といった一部分野でいろんな企業の新規参入、新しい取組というものも目立ってきておりまして、そういう意味では、こういったことをより広い分野で、日本全国で広げていくということが重要なんだろうと思っております。
 あと、法人実効税率あるいは岩盤規制改革などで一部課題が残っておるかと思います。それから、TPPなどでも、まだ締結していないということでありますので、こういったところを急いでやっていく必要があるのかなというふうに思っております。
 ちょっとお時間が迫ってまいりましたので、残りはちょっと省略させていただきます。
 どうもありがとうございました。

発言情報

speech_id: 118914332X00220150304_005

発言者: 湯元健治

speaker_id: 18883

日付: 2015-03-04

院: 参議院

会議名: 国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会