2015-03-04
参議院
若田部昌澄
国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会
若田部昌澄の発言 (国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会)
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○参考人(若田部昌澄君) 早稲田大学の若田部です。よろしくお願いいたします。本日は、このような場にお招きいただきまして、誠にありがとうございます。
デフレからの脱却と成長戦略ということで、概要をまず最初に述べさせていただきます。(資料映写)
まず最初に、私は、デフレ脱却に関しては、金融政策は効果があったというふうに考えております。ただ、消費税増税が行われたということは非常な足かせでありまして、現状でデフレ脱却を妨げていると言うべきだと思います。
二番目の経済成長ですが、これは国民生活にとって極めて重要でして、しかも可能であるということを申し上げたいと思います。本日は格差の是正については余りお話ししませんが、格差の是正とも両立可能であるということが極めて大事だと思います。
三番目に、非常に重要なのは、ここから先、何をするかというときに、政治的な決断が問われているということです。これから皆さんがどういうような決定をされるかということがこれから先の日本をつくっていくということでございます。
日本経済に必要な三つのRということで、経済政策の基本というのは、景気の安定化、経済成長、所得再分配とよく言われます。つまり、凸凹をならして景気が余り加熱しなく、なおかつ不況にもならないようなものをするというのが景気の安定化、そして、人々の生活水準を上げていくという意味で経済のポテンシャルを上げていくというのが経済成長、そして、その成長の成果というものを人々に分配していくというのが所得再分配ということになります。これを現状の日本経済について必要な三つのRと私は呼んでいるんですが、置き換えるならば、リフレーション、リフォーム、リディストリビューションという三つになるかと思います。この三つをバランスよく達成していくことが今の日本に求められているというふうに申し上げたいと思います。
まず第一次アベノミクス、第一次というのは現状までということでお考えいただきたいんですけれども、あるいは日銀が追加緩和を実施した二〇一四年十月三十一日までというふうにお考えいただきたいんですけれども、私も論理と方向は非常に正しかったというふうに評価しております。特に有効だったのは第一の矢でしたと。ただ、それで実際に緒戦において成功を収めたということは事実だと思います。ただ、消費税増税によって、うまくいっていたものが、これまで一番最初の段階ではアクセルをずっと踏んでいたものが、アクセルとブレーキを同時に踏むようなことが起きてしまって今こういう状況になっているということです。
次の五ページ目はアベノミクスのある種の概念図でございまして、ある種のドミノ倒しというか、をやっているというふうにお考えください。第一の矢ともう一つ第二の矢、つまり大胆な金融緩和と、それと機動的な財政政策によって予想インフレ率を上げていくというのが全ての要になっています。ここが成功すれば、あとは経済学のロジックどおりにぱたぱたとドミノが倒れていくということになります。詳しくは余り説明しませんが、基本的には、消費、投資、輸出、政府支出増加ということを通じて総需要が増加して、デフレギャップの改善、資金需要増加、労働需要増加ということによってインフレ率の上昇、信用創造機能の回復、これは貸出しが増える、そういう状況ですね、あるいは名目賃金が上昇していくというような方向へ持っていくというのがアベノミクスの大体の概念図でした。そして、大体このとおりに進んでいるというふうに言っていいと思います。
ただ、先ほども申し上げましたが、第二の矢を実行したことによって、第二の矢を実行したまではよかったのですが、ここが消費税増税によって全く逆の方向に矢が放たれることになりましたので、予想インフレ率とそして政府支出の増加という部分にまた毀損が生じているということです。このプロセスが理論どおりにいけば大体二年ぐらいで完結するだろうというふうに考えられたのですが、しかし、今ブレーキが掛かってしまいましたので、もう一回再起動が必要という状況になっております。
先ほど来、輸出が増えていないという話が出ていましたが、貿易統計によりますと、直近で発表された一月の貿易統計などでは、前年比で一七%輸出額が増える、輸出数量で見て一一%増えているというようなことが起きています。これは、私はいわゆるJカーブ効果というのが働きつつあるというふうに考えております。Jカーブ効果というのは大体効果が出るまでに二年ぐらい掛かるので、いよいよその効果が出てきているということだと思います。あと、円安が非常に段階的に起きていますので、そのJカーブ効果の発現というか、効果が出てくるのがまた時間的に掛かってしまうということがあります。
設備投資も最近停滞はしておりますけれども、設備投資の停滞は、これは何といってもまだリーマン・ショックの時期までの稼働率を達成していないということが大きいです。これから先も設備投資が非常に重要になると思いますが、現状で設備投資は、まだリーマン・ショックの前の水準にまで稼働率が戻っていないところではこれ以上はやれないという形になっていると思います。
さて、それで、予想インフレ率につきましては、当初上昇していたものが停滞し、下落しているという状況です。ここで上昇したところから停滞して、この青線のブレークイーブンで見るのが一つの見方ですけれども、この停滞が始まったのが大体消費税増税が始まった頃です。そして、最近下がっているのは、これは恐らく原油安というのが大きく関わっていると思います。
ただ、消費者の物価指数の方も下がってきているのは事実でして、予想インフレ率の上下動と軌を一にするような形で実際の物価もちょっと下がりつつあって、現状でデフレからの脱却というのが本当に可能なのかどうかというのも多少危ぶまれているところはあります。
その次は、株価の上昇と円安がもたらされたということなので、これは省略いたします。
いろいろと良い兆候があるというのも幾つか挙げておりますが、こちらも省略させていただきます。
アベノミクスの成果で一番簡単に分かるのは、何といっても雇用が増えているということです。これは就業率で取っております。これは就業者人口、労働人口のうちでどれぐらい就業者がいるかという率で見ていますけれども、アベノミクスが発動された辺りから上昇トレンドへと入っていると。ただ、それでもまだリーマン・ショックのところにまでは至っていないということです。
失業率の低下しているということに加えまして、十ページ目でございますが、自殺率も低下しているということは大変喜ばしいことだと思います。何といっても人命が失われるのが一番経済にとっても社会にとっても悪いことですので、そういったことが失われていることが少なくなったというだけでもアベノミクスは成果があったと言っていいと思います。
ただ、GDPギャップ、需要と供給のギャップを見ますと、アベノミクスで縮小していたのですけれども、消費税増税で拡大するということが起きました。その十二ページのところが最近を見たものですけれども、アベノミクスが始まったところから消費税による駆け込み需要などがあって、それの反動ということですけれども、反動減とはちょっと言い切れないほどに今や消費税増税の効果は出ていると。大体このギャップが概算で十兆円ぐらいあるというふうにお考えください。
〔会長退席、理事森まさこ君着席〕
消費税増税の影響は現状でまだ続いておりまして、これは消費税の導入とそしてその引上げ二回を比較した図ですけれども、消費支出に対して、この最初のところが導入したところ、この点線の部分が前回の引上げ。今回は、ここの図で表されているように、いまだに弱い動きが消費で続いているということになります。
このことによって、よく実質賃金が下がっているということが言われるわけですけれども、消費税増税によって大体二・一%ぐらいの物価がある種人為的に押し上げられているということがございまして、赤線で見たものがその消費税増税の増大分、上昇分というのを外したときの実質賃金の動向というふうなことになっています。多少マイナスのところもありますけれども、もしも消費税なかりせば、恐らく実質賃金は今頃プラスの領域に来ていただろうということです。
そうすると、ここからどうするかということですけれども、私はアベノミクスを再起動すべきだというふうに考えておりまして、ネオアベノミクスという言葉を使っておりますけれども、基本的には三つの矢の方向は正しいと。プラス第四の矢という形で所得再分配政策を加えるというのが望ましいというふうに考えております。
第一の矢は、これは日銀が追加緩和をしたことによって埋め合わせをしました。これ、埋め合わせと申し上げたのは、恐らく日銀は、まあ恐らくというか、日銀は判断の誤りをしたと思います。判断の誤りというのは、消費税増税の影響はないというふうに考えていたのですけれども、実際にはあったと。それを埋め合わせるために追加緩和をしたのが十月三十一日です。ここの部分を更に強化するためには、本日は余り申し上げませんが、日銀がそのインフレ目標を達成するということを政府と日銀が共同でもって強めていく、そういう予想を強めていくということが必要になると思います。それは、日銀法改正というような形で、何らかの法的な形でインフレ目標あるいは雇用の最大化というようなことを法律に明記するというふうなことが必要ではないかというふうに考えています。
第二の矢の部分は、消費税増税の延期を決めたことは非常に良かったわけですし、補正予算で三・一兆円、プラス本予算で九千億ぐらいが増えたというのも良いことではありますけれども、ギャップが十兆円あるところですので、金融政策と合わせたときに、このギャップを埋めるのに十分なのかどうかというのが問題になるかと思います。それから先どういうふうな手段が望ましいのかということについては、私は減税と給付金を中心にした方がよいというふうに考えております。
〔理事森まさこ君退席、会長着席〕
第三の矢、本日の話の後半部分の成長戦略についてはもう少し詳しく述べますが、やはりこれは実効性のある経済成長政策を実行してほしいというふうに思います。
まず最初に、経済成長がなぜ重要かということですけれども、これは、釈迦に説法ではございますが、経済成長は万能薬ではございません。万能薬ではございませんが、様々な問題を解決するのは事実です。例えば貧困、例えば失業率、例えば格差が縮小すると言う人もいます。これは最近話題のトマ・ピケティの「二十一世紀の資本」ですが、彼のロジックに従うと、格差が拡大するというのが、資本の収益率と経済成長率の間に格差があるからだと。そうすると、そのgを上昇させるということは格差を縮小するような方向に行くんだというような論理を立てることができます。あるいは社会保障サービスや財政再建、これも経済成長が必要不可欠の前提です。あるいは環境問題。環境問題は、これから先、例えば温暖化ガスを縮小していくということを考えても技術進歩が必要です。そのためには、経済成長によってそのための研究資金を調達するということが必要になると思います。
景気対策、経済成長が貧困対策だというのはこの図でお示ししていますが、これは最底辺の所得層と、それと所得の中央値、大体真ん中ぐらいで所得を取っている人はどれぐらいかという、経済成長があると最底辺の人はどういうふうになるかというのを示したものです。大体、日本の所得が下がり始めるのは一九九五年ですけれども、そこを境にしまして貧困層の所得というのはどんどん下がっているということが見て取れます。
それと、財政再建につきましては、経済成長をすると財政再建が可能になっていくと。私はそれだけが条件だとは思いませんが、まず何よりも必要条件として必要なのはこの経済成長であるということです。これは、GDPに対する比率で見たプライマリーバランスというものがどういうふうに推移しているかと見てみますが、これは名目GDPについては一年前を取っています。一年前の成長率が高くなるとプライマリーバランスが縮小していくと。つまり、赤字から黒字の方へと向かっていくということが示されています。
それと、経済成長によって財政再建が行われるということは、プライマリーバランスだけではなくて純債務残高でも見て取ることはできます。実は、純債務残高で見たときに、日本の純債務残高が横ばいから下落へと向かった時期がございました。これは小泉政権から第一次安倍政権の頃でした。
次に、経済成長の基本ですけれども、私は基本は三点あると思っております。
資料の二十ページになります。
まず最初に、成長は非常に大事ですけれども、成長政策は非常に難しいということです。だからやらなくていいということでは全くなくて、やるべきなんですけれども、その難しさをまず理解する必要があると思います。
二番目に、成長の要はこれは民間です。政府の仕事というのは、その民間を補助するということになります。インフラの整備も含めて、民間を補助するというのが政府の仕事です。
いずれにせよ時間が掛かります。これは、国会議員の皆さんが議論して法律にして、それが効果が現れるというので、軽く三年から五年というのはすぐにたっていくというようなものだということです。
それと、基本についていろいろとごちゃごちゃと書いてはあるんですけれども、基本的に理論というところに書いたイノベーションと効率化が重要というのに尽きます。基本的に、経済成長の原動力は何か新しいことをするということ、あるいは既存でやっていることの効率を良くすると、この二つに尽きます。そのためには新規参入というのが重要で、あと、都市というのが経済成長のエンジンになります。
私が経済成長を考える上でどういう方向が望ましいのか。仮に日本が経済成長を持続的に維持しようとするならば、望ましいのはオープンな世界だというふうに考えています。オープンというのは、基本的には新規参入者を歓迎するような仕組みです。その新規参入者を歓迎するときに、ルールでもってその政策を決めていくと。ですから、裁量的にやるのではなくてルールでもっていろんなことを決めていくというようなことがあると、日本というのはもっと成長できるだろうというふうに考えております。
成長に関しましては、世上、いろいろな疑問がございます。まず最初に、成長の余地はあるのか。二番目に、人口が減少しているのに成長できるのかという話があります。私は、日本に成長の余地はあると思っています。二番目に、人口の減少で、これは確かにいろいろと悲観的になる可能性もありますが、悲観的になる必要はないというふうに申し上げたいと思います。
一つ、私が楽観的であるのは、日本は、実は政策という面で見ると開発途上国です。どういうことかというと、二十年以上にわたって停滞が続いている中で、世界的に見ると様々な政策がもう既に先進的に実現されています。なので、逆に言うと、日本にとってはキャッチアップの余地があります。ですから、そういう政策で、例えば一か国だけじゃなくていろんな国で成功しているという政策を日本で実行するというだけでもかなりのキャッチアップの余地があるというふうに考えています。
それと、いろいろな変な規制があるということは言われています。これは岩盤規制とかいろいろと言われていますけれども、私はかなり常識の範囲で分かるような規制を潰していけばいいというふうに考えています。
時間の関係で余り詳しくは申し上げませんが、例えば日本の場合、法務省が決めている法令によりまして、外国人の方が日本で飲食業でシェフになるというときに、外国で行われているものをシェフとして入れるのは構わないと。つまり、フランス人のフランス料理のシェフが入ってくるのは構わないけれども、フランス人が日本食を作るシェフに入るのはいかぬというような法令があります。そういったような変な規制がたくさんあるので、そういった規制を個別に潰していくということを考えるだけでいろいろな余地があるというふうに考えています。
それと、人口減少につきましては、一人当たりのGDPの成長率と人口増加率については相関関係がないという図を八田達夫先生という大阪大学の招聘教授の方が述べております。人口増加が成長の決定要因でないというのは二十七ページの図からも明らかです。
潜在成長率の話ですが、私は潜在成長率というのはかなり実績によって左右されていると思います。最近の潜在成長率が下がっているという理由の一つは、資本が増えていないということにも大きく依存しています。なので、投資をしやすい環境になってくればこの部分が増えていくということは考えられるわけですし、規制をいろいろと撤廃することによって更に生産性を増やすということも可能かと思います。
いろいろと格差是正についても用意はしてまいりましたが、こちらは時間がございませんのでちょっと省略します。
最後に、一点だけ、地方経済ということで、御関心もあるということなので申し上げたいと思います。
地方経済につきましては、成長と格差是正の両立ということが重要だと思います。これは、お金を与えるのではなくて、お金を継続的に生み出すエンジンをいかに地方において再構築するかということが必要です。そのときに、成長戦略と同じで、やはり主役は民間にならざるを得ません。しかし、政府には役割があって、いろいろな制度設計ができると思います。そのときには地域間と地域内の移動をむしろ促進する方向が重要です。それと、財源や権限や人間を地方に移転するということが必要だと思います。私は、意思決定構造を改革するということが重要だと思っています。道州制とよく言われていますが、その個々の点は別として、私は意思決定構造改革ということに関しては考慮の余地があるというふうに考えております。
最後に、政治的な決断ということですが、高度成長の前の時期に下村治という経済学者の方が述べたのがこの言葉です。現在の状況は単純に過去の条件によって機械的に決定されているものでもなく、また将来についての希望と夢に従って勝手に形成されるものでもない、過去の実績を背負い、将来の可能性を頭に描きつつ、我々自身が営々として創造し、築き上げるものである、過去は決定された世界であるが、将来は不確定な可能性の世界であり、現在は可能性を現実のものとして創造する世界であると。
恐らく、この言葉が現在でも当てはまると思います。成長ができない、格差是正ができない、デフレ脱却ができないというのではなくて、積極的にその三つのことを実行していくということが大事だと思っています。
御清聴ありがとうございました。