河合正弘の発言 (財政金融委員会)
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○参考人(河合正弘君) 東京大学の河合でございます。
本日は、アジアインフラ投資銀行につきまして十五分ほどお話をさせていただきたいと思います。日本にとりましてどのような選択をしたらいいのかということを念頭に置きながらお話しさせていただきたいと思います。
大きな二枚紙を資料として配付させていただいております。
皆様御存じかと思いますが、五十七か国がアジアインフラ投資銀行の創設メンバーの候補国として確定されました。これは四月のことであります。英語ではプロスペクティブ・ファウンディング・メンバーズと呼んでいます。プロスペクティブということは、最終的に、設立協定が六月に決まるわけですけれども、それにサインするかどうかを考えることができるということで、それにサインすれば創設メンバーになるということであります。サインしなければ、当然のことながらAIIBには参加しないということになります。
日本の選択としましては、三月末までに手を挙げなかったということで、この設立協定の交渉のプロセスには参加しなかったということでございます。したがいまして、六月に設立協定ができるときに、五十七か国、恐らくそのかなりの部分が署名すると思いますけれども、当然のことながら、日本がその時点で署名したいともし思ったときにどういう形を取るのかということは、今の時点では余りはっきりしていません。
今年中の設立を目指していまして、資本金は一千億ドル、当初は五百億ドルの想定だったわけですが、加盟国が増えたということで一千億ドル。そして、出資比率ですとか議決権の比率といいますのは、各国の経済規模、具体的にはGDPに応じて決まると。そして、中国が最大の出資国になり、最大の議決権シェアを持つ。本部が北京に置かれるということはもう既に去年決まっています。そして、設立協定ができてから初代の総裁ポストが決まるということですけれども、恐らく、金立群さんが初代の総裁になるのではないかと思われます。
中国の主導でAIIBの設立が進んでいるわけですけれども、中国はなぜAIIBを設立しようとしているのかということで、四点ほど考えてみることができるかと思います。
中国は、既存の国際金融秩序に対して不満を持っていると。IMF改革、これは二〇一〇年に決定されたことですけれども、それは二〇一五年になっても改革が進んでいないと。その改革によってIMFの全体の資金規模が拡大すると同時に、出資比率と議決権を先進国から途上国の方に少しシフトしていくと。そして、中国の出資比率や議決権が高まるわけですけれども、それがまだ実現されていない。そして、IMFだけではなくてほかの国際金融機関におきましても、世界銀行ですとかADB、アジア開発銀行などでも自分たちが資本を出したい、ほかの国が出さなくても自分たちが出して出資比率を高めたい、そして発言権を高めたいと思っても、それがなかなかできない仕組みになっているということで不満を持っている。
第二には、中国は世界第二の経済大国になったわけですけれども、その過程で、自国で猛烈なインフラ投資をして経済発展をしてきたわけですが、インフラの分野では非常に自分たちは得意だと考えていまして、アジアにおけるインフラ構築でリーダーシップを取りたいということ。世界第二の経済大国になったのだから、自分たちが運営できる、マネージできる国際機関を欲しいということがあるかと思います。
そして第三は、国内経済要因ですけれども、中国経済が徐々に減速をしてきていると。そして、インフラ投資、これはリーマン・ショック後、猛烈なインフラ投資が行われて中国経済と世界経済をある意味で支えたわけですけれども、それはいろんな形で問題をつくり出してきているということで、インフラ投資もこれからはそれほど活発には進まないということで、国内での過剰生産物を輸出したい、あるいはインフラビジネスを輸出したいということ、そして海外資源も確保したいという国内経済の要因というものも考えられるかと思います。
そして、アジアにおきます二つのシルクロード構想ですが、一帯一路政策で中国自身の対外政策、外交政策を補完するものとしてAIIBが位置付けられる可能性があると。
次に、AIIBにつきましてどのような問題点が挙げられるのかということをお話しさせていただきますが、まず第一の問題は、一体どういうビジョンを持ってAIIBをつくるのかということがなかなかはっきりしません。これは、私自身もAIIBの関係者、金立群氏を含む関係者や中国の財政部の人たちといろんな形でお話をさせていただいてきているわけですけれども、一体どういうアジアをつくりたいと思ってAIIBを設立しようとしているのかという質問をしても、答えが返ってきません。インフラを建設することが重要だ、インフラを通じて国際協力をしていくことが重要だという返事は返ってくるんですけれども、インフラを造って国際協力をして、それでどういうアジアにしたいのかということが見えないわけです。
世界銀行やADBは貧困削減ということを目的に掲げています。貧困のない世界をつくろうというのが世界銀行の考え方でありますし、ADBも貧困のないアジアをつくると。AIIBはそれが分からない。貧困削減は自分たちの目的とはしない、貧困削減はADBや世界銀行の役割であるというふうに考えています。そこが分からないというところであります。
第二番目は、ガバナンスの問題、組織運営の問題です。ガバナンスの面で決定的に重要なのは、出資比率がどうなるのか、そして議決権比率がどうなるのか、そして理事会というのは一体どのように機能するのか、どういう権限を持つのかということが重要なことになります。
新聞等で若干情報は流れているんですけれども、実際にどういうことになっているのかはよく分かりませんが、四ページ目に表四としまして、AIIBにおける出資比率と議決権比率の推計を私なりにさせていただきました。アジア域内諸国として三十七か国、域外諸国として二十か国が挙げられています。そして、ここでは域内諸国は七五%の出資比率を持つ、そして域外諸国は二五%を持つという想定で計算をしています。議決権比率も、同じように七五と二五ということで計算させていただいています。
それで、これはGDPの計算によるんですけれども、GDPも、市場レートでのドル換算したGDPを使うのか、それとも購買力平価で換算したGDPを使うのかということで、この五十七か国の間で意見が分かれていたようです。インドは、できるだけ購買力平価で使いたいという意見を言っていました。インドの場合は、購買力平価にしますとGDPは市場レートよりもはるかに大きなGDPになりますので、インドは購買力平価でやりたいということで主張していたようです。
どうも決まったのは、市場為替レートで換算したGDPを六割用いる、そして購買力平価で換算したGDPを四割のウエートで用いるというふうにしたようです。当初は三つのオプションがありまして、市場レートのみでやるというのが一つの考え方と、両方を五〇%、五〇%のウエートでやるというのと、六〇、四〇でやるというのがあったようでして、六〇、四〇でやるということに決めたようです。それによりますと、今、現状五十七か国、中国は三〇%弱になります。そして、インドが八%台、ロシア六・五、韓国三・七等々となります。
ここで注目したいのは、域外国はどう頑張っても二五%以上にはなれません、その中で決まりますので。欧州は大体二〇・五%ぐらいとなります。ですから、欧州と例えばオーストラリアなどを足しても中国には追い付かないということで、今のところ、相当やはり中国の発言権が高いということになります。
仮に日本が参加したとしたらどうなるんだろうという計算をやってみました。日本が参加した場合は、先ほどの計算ですと一〇・六%ぐらいになります。そして、中国のウエートは二四・六%と、かなり下がります。欧州が二〇%台ですので、日本と欧州を合わせますと三〇%以上になりまして、中国を上回ることができます。
ですから、一つ考えてよいのは、日本が参加するとすれば、欧州と組めば中国よりも比率を上回ることができる、オーストラリアなどもそれに加わればもう少し高い比率になると。
ただ、一つ注意しなくてはいけませんのは、日本が入った場合でも先進国が多数派にはなれないということなんですね。日本一〇、欧州二〇で三〇、オーストラリア等が入って三五ぐらいにはなりますけれども、途上国が基本的に強い力を持つということで、やはりこのAIIBは途上国中心による国際金融機関だということになります。
理事会ですけれども、これは北京へ常設はしないということ。十二名になるわけですけれども、これで重要な決定権限をどこまでこの理事会が持てるかということになりますと、若干不透明なところがあります。重要な融資の決定については、これは総裁に委ねる、決定は総裁に委ねるということが可能になるわけですけれども、これは七五%以上の賛成があれば可能になるということですので、ここら辺が不透明なところが出てくる可能性があります。
融資基準ですとか融資政策ということで、環境基準ですとか、インフラを造るときに周辺の住民に対するインパクトをどう考えるかといったような問題について、恐らく国際的なベストプラクティスにはよらないことになるであろうと思われます。
対外債務の持続可能性につきましても、これは麻生大臣等がよく指摘されますが、ある一国にたくさんのお金をAIIBが貸し過ぎてしまうと、その国の対外債務の返済能力に疑問が出てくる可能性があるので、それはしっかりやりましょうということで、これは他の国際金融機関との協調が非常に必要になるということかと思います。
時間がちょっとなくなってきましたが、AIIBの評価ですが、アジアにおけるインフラ需要は非常に膨大なものがありますので、AIIBの役割は当然あると。そして、これは基本的に、新興国や途上国自身が自分たちで銀行をつくって自分たちでファイナンスしてやっていこうというもので、自助努力の表れでありますので、それ自体としては悪い考え方ではないであろうと。
ただ、そこで問題は、中国がここに入ってくるということで、中国の意図といいますか、それが必ずしも明確でない。中国は自分たちの拡大する経済力や金融力を国際公共財の目的のために使おうとしているのか、それとも中国は自分たちの政治的あるいは地政学的な目的を実現させるためにAIIBを使うのかということで、分からないところがあります。そして、融資基準ですとか融資政策などの点で世銀やADBなどの既存の国際機関の役割に挑戦するということがあり得ると。
ちょっと時間がなくなってきましたので、まとめさせていただきたいのですが、日本が決めるときにはどういうことを決めたらいいのか、どういうことを基準に決めるべきかということですけれども、基本的に、AIIBは一体どういう理念、ビジョンを持っているのかということが最も重要ではないかと思います。
中国はAIIBを通じて国際公共財を提供したいと思っているのか、そしてそれによってアジア地域の繁栄と安定を本当に目指しているのか、あるいは地政学的な経済圏拡大など自国本位の経済外交政策を追求しようとするのかといったことが非常に重要かと思います。そのことがガバナンスですとか理事会の役割とかいうところに影響を与えてくるだろうと。中国が建設的な役割を果たそうとするのであれば、理事会もより透明性の高いものになるでありましょうし、ガバナンスの面でも、中国が独り占めして何でもかんでもやっていこうということにはならないかもしれない。逆の場合はそうなる可能性があるということでございます。
結局、中国の意図をやはり日本としてはちゃんと見極めていく必要があるということで、これは首脳同士がやはりじっくりと話していかないといけないのではないか。そして、両国の財務大臣もちゃんと話をするということ、こういう機会は今まで持たれていませんでしたから、日本がある意味で決められなかったと……