関英昭の発言 (農林水産委員会)

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○参考人(関英昭君) おはようございます。青山学院を定年退職しました関でございます。座って意見を述べさせていただきます。
 お配りした資料を御覧ください。私の意見については三段落からできております。ローマ数字のⅠ、Ⅱ、Ⅲになります。
 ローマ数字のⅠは、団体法における協同組合の位置付け、総論になります。ローマ数字のⅡは、今回の農協法改正の問題点と意見ということで、気になった点だけをそこに記しました。ローマ数字のⅢは、それを受けて簡単ですがまとめです。
 ローマ数字のⅠから御説明いたします。
 団体法における協同組合の位置付けですが、憲法二十一条は結社の自由を認めております。この結社の自由はいろいろ意見ございますが、私は研究をしている者として、特にドイツ法を研究している者として、次の三冊を中心に勉強しています。一冊は、皆さん御存じのギールケのドイツ団体法論です。それから二番目は、イェーリングの権利のための闘争です。三番目が、今日ここで中心としてお話ししたいと思っていますテンニースのゲマインシャフトとゲゼルシャフトです。
 ギールケは極めて重要なことを話しています。団体法論の出だしは、人の人たるゆえんは、人と人の結び付きにあると言っています。つまり、人間は一人では生きられない。結社を、あるいは結び付きを持たなければ生きられない。結び付きを持つということの中に、特にその後だんだん法人論と関わってくると思います。結び付くことで個人の能力は格段に拡大します。
 イェーリングは、権利のための闘争の書き出しで、法の目的は平和であると言っています。それに至る手段は闘争である。いろんな含みがありますので、それだけにしておきます。
 三番目のテンニースですが、もうこの本については御存じの方が多いと思いますけれども、このテンニースのゲマインシャフトとゲゼルシャフトにつきましては、今日お配りしてある概念一覧表と比較しながら御覧いただきたいと思います。要約してお話しします。
 これは極めて重要な概念分析表です。
 ①、テンニースは、社会の動き、これを団体と言ってもいいんですが、をゲマインシャフトとゲゼルシャフトに二分し、それを人間の意思と関連させて分析します。この人間の意思と関連させるという点が極めて重要です。
 ②、ゲマインシャフトは、生まれながらにして持っている意思、これを先天的あるいは遺伝的意思と言ってもいいと思いますが、と結び付いた団体です。この意思のことを本質意思と呼んでいます。場合によっては、この本質意思は次の選択意思と比較して、選択できない意思と言い換えた方が分かりやすいと思います。例えば家族がそうです。あるいは村落共同体、地域共同体がそれに当たります。
 ③、ゲゼルシャフトは、他方、一定の目的を持った行動に向けられた意思と結び付いた団体のことです。この意思を選択意思と呼びます。例えば、典型的には株式会社がこれに当たります。地方自治体やあるいは国家等がそうだと言われています。この選択意思については、言葉は選択意思と単純ですが、極めて重要な内容を持っていますので、時間があればそれを御説明いたします。
 ④、特に重要となるのは、今申し上げたように、団体形成における選択意思です。そこでは人間の思惟が重要な意味を持っています。つまり、自分で考え、自分で意思決定し、自分の意思で行動する、自分の意思で団体をつくるという、あるいは参加するという意味を持ちます。
 テンニースは、社会の変化を当初ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへ発展すると考えていました。しかし、一九一二年のその改訂版で、ゲマインシャフト的経済原理がゲゼルシャフト的生活原理に適合するような形で、ゲノッセンシャフト、協同組合が登場してきたと補遺で書いております。一九二二年版の改訂版ではさらに、ゲマインシャフトの精神がゲゼルシャフトの身体、肉体と合体したとまで書いています。このことから、協同組合はゲマインシャフト的性格とゲゼルシャフト的性格の両方を有する人的結合体であると理解することができます。
 これは三つの意味を持っています。第一に、協同組合は株式会社のように利己心や打算といった合理性、効率性をも持っています。しかし、第二に、協同組合は家族や共同体のように親切、良心、誠実、正直といった人間的価値を持っています。第三に、協同組合は、それゆえに株式会社や他の団体と同様、選択意思に基づいて形成された人的結合体である。すなわち一定の目的を持った人の結合体であると言うことができます。
 こういう前提で概念一覧表を少し御覧ください。ゲマインシャフトは左側、ゲゼルシャフトは右側にあります。その下に本質意思と選択意思とあります。その選択意思の下をずうっと見ていきますと、利己心、虚栄心、打算、所有欲、貨幣欲、貨殖欲、支配欲、名誉欲とあります。パンドラの箱ではありませんが、現代の世の中に渦巻いている欲がこれです、ゲゼルシャフトです。しかし、ゲゼルシャフト全てがいい悪いということではありません。経済の発展には極めて重要な団体組織です。
 ゲマインシャフトを御覧ください。これに関して、皆さんの家庭を意識しながら、イメージしながら、その本質意思の下をずうっと見ていきますと、気分、正直、実直、気立て、親切、良心、誠実です。
 このゲマインシャフトの左側に、これらは三つのゲマインシャフトに分類しています。血のゲマインシャフト、血族です。大事なのは、我が国で大事なのは次です。場所のゲマインシャフトです。地域です。三番目に、精神のゲマインシャフトはあります。これがゲマインシャフトです。
 そこで、レジュメにお戻りください。ローマ数字のⅡ、今回の農協法改正、これが何を意味するかということをローマ数字のⅠの総論で申し上げたことを前提にお聞きください。第一にこの農協法改正の諸点は、私は法律の分類の仕方に従い総論と各論に分けました。
 (1)の総論は、①、目的規定についてです。
 改正案の七条は営利目的規定を削除しましたが、この理由は一体何でしょうか。私が考えることをそこに書きました。結局、生協法や森林組合法等で、組合員に最大の奉仕をすることを目的とし、営利を目的としてその事業を行ってはならないという従来の農協法の条文とどう整合性を持つのでしょうか。従来の農協法はそのような規定を持っていましたが、それを削除するということは生協法等とどういう整合性を持つかということです。
 二番目、これが今回の改正でかなり重要な点を持っていると思います。協同組合というのは営利目的団体かということです。
 この点については、農業協同組合員だけでなく協同組合陣営でかなり混乱している部分があります。協同組合は営利団体や非営利団体や、どちらかということで議論が錯綜しています。そこで、法律上の営利目的概念を少し説明させていただきます。それが総論になります。
 法律上の営利目的の定義は、会社が上げた利益を株主に分配することを主たる目的とすること、このように理解されています。この定義は、会社は収益を上げることという部分と、獲得した収益を構成員たる株主に分配することという、この二つから成り立っています。株式会社の場合はそれが主たる目的です。会社がもうけるだけでは営利とは言いません。株主に分配することが主たる目的なんです。
 最近の大企業、グローバル企業の傾向は特にこの傾向が著しくなっていますが、以前の我が国の株式会社の営利概念は、どちらかというと、この株主に分配することが主たる目的というのが少し薄かったと思います。むしろ、会社の収益の分配は労働者にも分配することを意識していました。最近は、労働者に分配するよりも株主。株主というよりも今は投資家と言っていいです。株主は投資家になってしまいました。本来の社団的な意味の株主ではなくて、どちらかといえば、先ほどのテンニースの言葉に従うと、利己心、所有欲、貨幣欲、貨殖欲に基づいた投資家あるいは投機家が主たる株主となっています。社団法理からいうと、ちょっと残念な状態です。
 それが②で一番言いたいことですが、そうすると、二番目のアスタリスク、改正法が営利目的規定を削除したのは一体どこに真意があるんでしょうか。協同組合はゲマインシャフトとゲゼルシャフトの両方の精神を持っている。これが協同組合の最大の特色です。つまり、正直、あるいは親切、思いやりというようなゲマインシャフトの精神と利益追求という精神を持っている団体は、協同組合だけです。それゆえに、協同組合の本質論の分析は難しいんです。
 各論に入ります。
 各論は、さらに、組織法の一つの分類である定款、組合員、資本、機関というふうに通常分けますが、ここでは組合員、それから機関、それと組織変更の三点についてだけ簡単に申し上げます。
 組合員の利用につき、改正案の十条の二は、「組合は、前条の事業を行うに当たつては、組合員に対しその利用を強制してはならない。」と規定しますが、この規定の意味、特に利用を強制してはならないとは何を意味するのか、私には分かりません。
 なぜなら、協同組合は世界の基本ルールであるICA原則に基づいて行動しています。国際協同組合の約束事がこの原則ですが、協同組合は組合員による自発的な組織であり、組合員が管理する民主的な組織であると規定します。とすれば、組合が組合員に強制するということはあってはならないことで、連合会が会員農協に事業利用を強制するケースを仮に想定しているとすれば、それは協同組合自身が改善すべき事柄です。
 機関のところでは、理事の資格についてやはり私なりに疑問を持っています。先ほど伊藤参考人も若干述べておられましたが、女性の委員あるいは年齢構成というようなこの改正案では提案をされていますが、私はこのような機関構成に対する法の強制というのはいかがなものかと思っています。例えば、会社法で取締役の資格を制約していますか。ありません。むしろ、取締役は株主であってはならないと言っています。能力ある人は会社を経営しなさいという前提です。
 ちょっと飛びます。
 四番目の、四ページになります、各論の三です。組織変更について簡単にお話しします。
 今回、改正案は、株式会社への組織変更、②、一般社団法人への組織変更、③、生協への組織変更、五ページに入って、医療法人への組織変更を規定しています。これがなぜ法による組織変更の規定なのか、私にはちょっと分かりません。それとは異なり、⑤の農協の新設分割の規定が新しく入りました。これは評価できると思います。ただし、会社法と比較しますと、新設分割だけでなく、場合によっては合併を含んだ吸収分割もあってもいいと私は思っています。
 急ぎ足ですが、まとめます。
 ローマ数字のⅢです。(1)、農協法改正案の目的が、農協陣営から批判されるように、JA全中や農協組織の解体、ちょっと極端かもしれませんが、解体にあるとすれば、それはこれまで維持されてきた農協法の精神と相入れないと思います。日本の総合農協は、世界の協同組合制度の中でも極めて有効な形態として評価されてきました。とりわけ、アジア諸国では、日本の農協制度を手本にしようという動きがあります。通常の農協の組合事業のほか、信用、共済、医療、福祉、介護等の事業活動が地域社会に果たしている役割と責任は極めて重要です。最近では、再生可能エネルギーへの分野が期待されています。
 (2)、戦前の産業組合法の時代を経て、戦後、協同組合陣営全体は重要な社会的資本としてそれなりに定着してきました。日本の協同組合が果たしてきた特筆すべき社会的役割として、私は次のように思っています。
 協同組合は、社会におけるセーフティーネット機能を果たしてきました。特に、ヨーロッパ、アメリカではNPOやあるいはそれなりの団体が、チャリティー等がセーフティーネットの機能を果たしていますが、我が国では、残念ながら、法人法定主義の関係で、一般法人を設立することは不可能でした。そこで、協同組合陣営が極めて重要な福祉、慈善事業に及ぶようなセーフティーネット機能を果たしてきたと思っております。
 私は、ドイツにいた関係で、ドイツの教会は極めてそのような役割を果たしていることを付記しておきます。
 (3)、国は、協同組合組織が重要な社会的資本であることを認識し、協同組合の自由な活動を促進、推進できるように協同組合憲章を策定し、イタリアや韓国に見られるような社会的協同組合や協同組合基本法を制定することを希望してやみません。
 最後に、ラインホールド・ニーバーの祈りの言葉というのがあります。私が帰属していた大学はプロテスタント系の大学ですが、そこに、変えることのできないものを受け入れる冷静さ、変えることができるものを変える勇気、変えることのできないものと変えることのできるものを見分ける知恵、これが一番重要です。変えてはいけないものは変えてはいけないということです。これを見分ける、区別する知恵が必要です。
 どうもありがとうございました。

発言情報

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発言者: 関英昭

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日付: 2015-08-25

院: 参議院

会議名: 農林水産委員会