山岸尚之の発言 (環境委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○参考人(山岸尚之君) この度は意見陳述の機会をいただきまして誠にありがとうございます。
私が所属するWWFジャパンという組織は、国際的な環境保護団体であるWWFの日本のオフィスとして一九七一年に設立されました。元々は野生生物の保護などの分野が活動領域でしたけれども、一九八〇年代後半からいわゆる地球温暖化問題、気候変動問題についても活動領域を広げて取り組んでおります。
本日、地球温暖化対策推進法の改正案の審議について意見を述べさせていただくに当たりまして、まず最初に、私が近頃感じている危機感についてお話をさせていただきたいと思います。
私の危機感と申しますのは、昨年十二月に採択されたパリ協定によって生み出された国際的な勢いと国内における雰囲気のギャップについてです。
パリ協定を採択したCOP21そのものが、初日に百五十か国もの首脳を集めた大規模な極めて大きな会議であったことは言うに及びません。そして、その結果として採択されたパリ協定が極めて歴史的な合意であった、全ての国々が実質的に参加する極めて歴史的な合意であったということも皆様御承知のとおりです。そして、先日ニューヨークで行われたパリ協定の署名式では、初日に百七十五か国が署名するという、史上最多の国々がこの協定をもう実行に移していくという意思を示しました。それだけではございません。パリ協定が採択されたCOP21では、世界中のビジネス関係者、それから自治体関係者が参加をしていました。十三年間、私、このCOP、毎年参加をして見てきた者ではあるんですけれども、その私から見ても今回の合意は極めて大きかったですし、そして、そこで感じられた勢いというのも大変なものでした。
その後も勢いは続いております。今年初頭に開催されたダボス会議では、気候変動が大量破壊兵器を抑えて世界最大のリスクとして認識される報告書が出されました。これは、気候変動が持つ長期的な性格や、貧困などのほかの問題を悪化させるという、そういう側面を捉えての評価だったというふうに私は感じております。
また、ビジネス界においては、サイエンス・ベースド・ターゲッツという、気候変動に向けて野心的かつ科学に基づいた目標を持っていきましょうというイニシアチブに既に世界から百六十近い企業が参加をしておりまして、我が国のグローバル企業も含める幾つかの企業が、将来的には排出ゼロを目指しますよということを既に言い始めていて、そういったことももはや珍しくはなくなってきています。
そして、ちょっとお話、筋が変わりますけれども、ハリウッド俳優がアカデミー賞の授賞式でわざわざ気候変動に言及するなど、この雰囲気の広がりというのはもう既に政治経済を超えて発展しています。英語ではこうした勢いのことをモメンタムとよく言います。今週月曜日から折しも国連の気候変動会議がドイツのボンで開催されております。こちらの会議では、パリ協定の細則を作るという本来の目的以上に、それと同等ぐらい、このモメンタムをどうやって維持していくのかということが大きな話題となっています。
この勢い、日本の中では感じておられるでしょうか。この環境委員会の議員の皆様はこの分野の専門家であられますので、恐らく感じていらっしゃると思います。ですが、国会議員の皆様全員、そして日本政府全般、産業界、自治体、そして日本の一般市民がこの国際的な勢いというものを感じているかどうかというと、若干私としては不安を覚えるところではあります。世界は着実に、いわゆる低炭素ではなくて、低炭素のその先、脱炭素を目指して着実に大きな流れが起き始めています。この流れの中で、果たして日本は先頭を切るような姿勢を取れているんでしょうか。
この危機感を持って今回の改正案を拝見しますと、主な改正事項というのが普及啓発と、そして地方公共団体の対策計画の共同実施というところがあります。これら自体はすごく大事なことではあるんですが、決して野心的ではないと正直申し上げて言えると思います。私自身としては、パリ協定を受けて日本がやっていくべきこととしては、以下の五つの宿題が課されているというふうに思っています。
まず第一は、パリ協定で書かれた目的の共有です。
パリ協定では、第二条の目的に、世界の平均気温上昇を二度より十分に低く抑えるということと同時に、一・五度に抑えることに向けて努力を追求していくということが書かれています。また、第四条の一項には、世界の温室効果ガスの排出量を今世紀後半に向けては実質的にゼロにしていくという趣旨のことが書かれています。
現在、このことが日本の法律に書かれたものはありません。国際法にはこれがもう書かれています。日本の法規の中でもこれを反映していくべきではないでしょうか。これがまず第一のポイントです。
第二は、パリ協定に向けて各国が掲げた目標を着実に達成していくということです。
パリ協定の第四条二項には、国別目標を作りなさいということと同時に、その達成に向けた対策を取ることが明確な義務として書かれています。よくパリ協定は自主的なボトムアップの目標で構成されているというふうに表現されますが、これは正確に言うと誤りです。目標を作ること、そして目標達成のための対策を取ることは明確な国際法上の義務です、パリ協定の中では。
この点については、日本は、今まさにこの改正案の審議をしていただいていること、そして先週金曜日に対策計画が閣議決定されたということがありますので、体制自体は徐々にですが整ってきています。しかし、ここにも不安があります。例えば、現在、石炭火力発電所の過剰な増設が懸念されています。今現在建設が計画されている石炭火発からの排出量を考慮すると、二〇三〇年に向けて昨年日本が約束草案の中で掲げた石炭からの排出量というものを超えてしまうという懸念が既に出されています。
しかるに、今回の温対法改正、そして先週の対策計画の中では、引き続き電力事業者の自主的な取組にそれを任せるという内容となっています。最大の排出源である電力部門での努力が怠られれば、たとえ国民が努力したとしても相殺されてしまいます。電力部門を含む大規模な排出源に対する対策としては、アメリカで導入された発電所の排出基準の設定や、同じくアメリカの州レベル若しくはEUで導入された排出量取引制度などが非常に有用です。それらの導入に向けた検討も早急に行うべきだと私は考えます。
第三は、二〇一八年に向けた準備です。
パリ協定の一つの特徴として五年ごとの目標改善の仕組みが導入されたことがあるというのは、先ほど原澤先生からも言及がありました。パリ協定で各国が掲げた目標は、残念ながら二度や一・五度という目標には不十分であるということが既に分かっています。これらを改善していくために、パリ協定では、五年ごとに目標を改善していく仕組みが導入されました。この五年ごとの見直し、改善の仕組みが入ったということは、パリ協定を知る人たちからしてみると最大の特徴と言っても過言ではありません。
実は、この五年ごとの仕組みには二つのレベルがあります。五年ごとに世界規模で進捗確認を行うグローバルストックテーク、そして、各国がそれに基づいて目標を提出していく各国レベルでの目標提出という、世界と各国の二つのレベルがあります。それを図示したのが私の資料の裏面の図表一になります。
そして、実はこの最初の機会、最初の世界全体での進捗確認の機会というのは二〇一八年にやってきます。それを受けて、各国は二〇一九年から二〇二〇年の間に目標を再提出するという作業が必要になってきています。このタイミングを生かして、今既に不十分と分かっている世界各国の目標、これは日本も含めてです、これが見直されて再度提出される、この機会に向けて我々は準備をしていかなければいけない、これが第三の宿題だというふうに考えております。
第四は、国際協力の在り方です。
本改正案でも国際協力についての言及が加筆されております。先ほど言及させていただいた国内での石炭偏重の背景には、国際的に日本の石炭技術を売り出していこうという意図もあると考えられます。しかし、先日私どものヨーロッパのオフィスが研究機関に委託して出した報告書によりますと、たとえ世界全体で今建設計画にある千四百ギガワットの石炭火力発電所全てを、日本が推進するようないわゆる高効率の石炭火発になったとしても、二度未満に抑えるような排出量削減とはならないという結果が出ました。私の資料の裏面の図表二では、その具体的な数字を報告書から抜粋してあります。
二度のシナリオの下で電力部門全体に許される排出というのは、二〇三〇年時点で六十三億トン、二〇四〇年時点で十九億トンです。そして、千四百ギガワットが全て高効率なものであったとした場合、その排出量は五十億トンです。つまるところ、今のまま世界にある石炭火発の増設計画をそのままにしてしまうと、二〇三〇年時点で電力部門全体に対して許される排出量の八割を石炭が食い潰し、二〇四〇年には明らかに過剰の排出となるということが既に分かっているんです。
高効率化そのものがいつでも駄目だというわけではありません。しかし、私たちが真に重視するべきは、石炭火発をいかに減らして再エネに切り替えていくのかということだと考えております。
第五は、長期的な戦略の策定です。
パリ協定では、各国に二〇三〇年といった中期での目標に加えて、例えば二〇五〇年までといった長期での戦略を策定することも要請があります。そして、その策定、提出の期限として二〇二〇年が示されております。
先日、先日といいますか昨日ですね、開催されましたG7環境大臣会合では、そのコミュニケにおいて、この二〇二〇年という期限内にできる限り早く戦略を策定、提出することが合意されました。もし日本がこの分野において先頭を切る覚悟があるのであれば、この長期戦略、計画もしっかりとした内容にならなければなりません。日本は現在、二〇五〇年に向けて八〇%削減という長期目標を持っています。問題は、ここに至る道筋をきっちり描くということだというふうに考えています。
最後に、今回の審議の対象ではありませんが、パリ協定の批准についても意見を述べさせていただきます。
アメリカと中国という二大大国、二大排出大国が批准の意図を既に明確にしています。日本がパリ協定の以前の交渉のときから、これらの国々の参加が必須であるということをずっと言っていました。これらの国々の参加はもうほぼ確定的です。では、何を待つんでしょうか。もしこの分野において日本が先頭を切って世界のモメンタム形成に貢献するというのであれば、いや、来年まで待ちましょうというのではなくて、是非今からでも批准について検討をお願いしたいというふうに思います。
パリ協定の宿題、そして脱炭素化への道のりというのは決して容易ではありません。しかし、できない理由ばかりをあげつらってこの国の歩みを止めるより、できる理由を探して実施していく、そしてそれを応援するような地球温暖化対策推進法の改正を是非お願いいたしたいと思います。
これをもって私の意見とさせていただきます。どうもありがとうございました。