荒井達夫の発言 (憲法審査会)
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○参考人(荒井達夫君) 皆さん、こんにちは。千葉経済大学の荒井でございます。
本日は参考人としてお招きいただき、ありがとうございます。実は私、一年ちょっと前まで本審査会の首席調査員をしておりまして、会長の斜め後ろに座っておりました。今日はよろしくお願いします。
昭和五十八年に人事院に入って給与局と職員局に勤務し、その後、参議院に出向して法制局、労働、総務、行政監視の各委員会の調査室に勤務し、そして憲法審査会事務局を最後に一昨年の十二月末退職しました。この間、一貫して行政の組織、人事の問題に取り組み、官僚機構と行政監視に関わる仕事を数多く担当してまいりました。特に、行政監視委員会では、山下栄一委員長時代に一年間に三十二か所もの行政の現場視察が行われ、常に委員長に同行したことや、末松信介委員長時代に原発事故に関する参考人質疑と検察不祥事に関する最高検察庁視察を、そういう重大事案を担当したことが今でも鮮明な記憶として残っております。
行政監視とは、簡単に言えば公務員の働きぶりを見張ることであり、我が国の官僚機構がどういう状態にあるか、その特徴を知らなければなりません。お手元に配付した資料で、「公務員とは」と「問題の本質は「行政の組織・人事」にある」と図示したものがありますが、それらが私の基本の認識であります。
議院内閣制の下で、いわゆるキャリアシステムを原因とする縦割り行政と天下りが国家行政を大きくゆがめ、官僚機構の自己改善能力を著しく低下させている。各省ごとに一人の事務次官をつくり出すために職員が生涯を懸けて競争するキャリアシステムは、出世意欲という私益追求が不可避的に国家レベルでの反公益となってしまう宿命を持つ人事の仕組みである。もちろん、出世意欲が悪いのではなく、システムに根本的欠陥があるのです。
官僚機構による情報操作のすさまじさは特筆に値します。弱い内閣では官僚による政府の支配となり、強い内閣では官僚は政治家に迎合し、政府との共生を図る。国民に対し直接責任を持たない巨大な権力機構である官僚機構が公共の利益に反する無責任な行政をつくり出してしまう。日本の行政監視のポイントはここにあると私は考えています。
東日本大震災復興予算の流用問題では、十九兆円にも及ぶ復興予算の相当部分が霞が関の主導により被災地とは関係のない事業に使われていることが明らかとなり、国民の激しい怒りを買うこととなりました。ジャーナリストの福場ひとみさんは、その著書「国家のシロアリ 復興予算流用の真相」の中で、組織における働きアリが国家にとってはシロアリと化してしまうのがこの国の現実である、実務者である官僚が政策決定の要を独占していくこの国において、政治家も国民も往々にして事業の存続や拡大のための道具と化してしまうと述べておられます。我が国の行政は歴史的に官僚依存、官僚主導であり、復興予算の流用問題は、それが官僚支配と言えるほどの状況に至っていることを示していると言えます。
お金の問題だけではありません。足利事件や村木厚子さん事件などの冤罪事件では、まさに公務員の働きぶりが問題の核心であり、人権を保障するための行政の組織、人事の在り方を見直す必要から国会の行政統制の在り方が問われています。これこそ参議院の行政監視機能が期待される問題ではないかと私は思います。
そこで、本日のテーマですが、「二院制」のうち、参議院と衆議院の関係(参議院として重視すべき役割)についてということですので、私は、参議院の行政監視機能を中心に、国会の行政統制について自分の意見と経験をお伝えしたいと思います。
実は、この分野、特に参議院の行政監視機能に関しては見るべき学問研究がありません。そもそも行政監視とは何かという基本の議論さえもまともに行われておらず、私は参議院在職中、関係議員の皆さんと勉強しながら、私たちが議論の最先端にいるのだから自分たちで行政監視システムをつくるしかないと力説しておりました。
昨年九月に東京法令出版から「論点 日本の政治」という日本政治の新しいタイプの教科書が発売されまして、その中に、「国政をどうチェックするか—行政の監視」という項目があるのですが、私の論文、「行政監視とは何か」が参考文献として挙げられています。執筆者は駿河台大学の成田憲彦先生ですが、成田先生によりますと、行政監視については国会に関する専門文献でも余りページを割いているものはなく、荒井の論文が行政監視の本質にまで踏み込んで書いていたので参考文献とされたとのお話でした。
行政監視とは何か。私はこう考えています。行政権の行使について国会に対し責任を負っている内閣が法律を誠実に執行するという憲法上の義務に違反していないかどうかを国会が常時注意して見ることであると。行政とは法律の執行のことであり、したがって、行政の監視とは法律の執行を監視することであります。また、監視とは、有斐閣の法律用語辞典によれば、特定の人、機関等の行為が義務に違反しないか等について常時注意して見ることと説明されています。さらに、憲法上、内閣は行政権の行使について国会に対し連帯して責任を負っており、その仕事の第一が法律を誠実に執行することと規定されているからであります。
では、行政監視はどういう観点で行うべきか。私は、公共の利益、すなわち全国民に共通する社会一般の利益の実現という観点で行うべきと考えています。憲法は、主権在民の原理に基づき公務員を全体の奉仕者とし、公務員法は、公務員は公共の利益のために勤務しなければならないと規定しているからであります。主権は国民全体にあり、公務員である政府と官僚機構が国民全体の共通利益の実現を目指して働いているかどうか、これが行政監視の基本の観点であると私は考えます。配付資料の「公務員とは」で図示した内容を実現するための国会の活動であると説明してもよいと思います。
なお、このような行政監視の観点に関する私の発想の原点は、哲学者で早稲田大学教授の竹田青嗣氏の思想にあります。その著書、「哲学ってなんだ」で書かれているルソーの社会契約説の解説で、御本人は異端と言われていると言っておられるのですが、私は三十数年に及ぶ公務員としての経験から竹田説が完全に正しいと考えています。
行政監視についてはこのような研究の現状でありますので、特に参議院の行政監視機能については、学者に頼ることなく、参議院議員の皆さんがまさに先生となって、職員とともに理論と制度をつくり上げていってほしいと心から願っております。
それでは、レジュメの説明に入らせていただきます。
「行政統制の視点と論点」というレジュメを御覧ください。
まず、行政統制の視点ですが、国民主権に基づく議院内閣制の下、国会は国権の最高機関として政府と官僚機構が法を誠実に執行するよう見張る立場にあり、良識の府である参議院は、公共の利益、イコール全国民に共通する社会一般の利益の実現を超党派で目指すよう努力すべきである。特に、行政の組織、人事に対する統制問題意識が重要であり、政府と官僚機構をつくる衆議院、それを監視する参議院という新たな視点から国会の行政統制を見直すべきであるということであります。
次に、行政統制の論点ですが、七点挙げております。一、いわゆる政治的美称説の再検討、二、参議院の役割、行政監視機能と憲法保障機能の検討、三、参議院の憲法保障機能と議会拒否権制度の研究、四、行政監視と予算、決算の審議の在り方の見直し、五、国民主権に基づく新たな行政監視システムの構築、六、国会長期経済推計機関の設置、七、国会同意人事の仕組みの見直し、以上ですが、これらのうちで私が関係議員と詰めた議論をしてきました事項について補足の説明をいたします。
「行政監視と予算・決算の審議の在り方について」というレジュメを御覧ください。
ポイントは、衆参共に予算委員会と決算委員会を統合して新たに財政委員会を創設し、各院に附置する機関として、行政監視調査局を参議院に、会計検査院を衆議院に置くというところにあります。時間の関係で以下、読み上げる形になりますが、お許しください。
一、行政監視は参議院が中心という考えを徹底すべきである。理由、行政監視は本質的に政府と官僚機構の活動に対する監視であり、強い第三者的立場が求められるが、政府をつくり出す主体である衆議院には本来ふさわしくない機能と言える。行政監視の中心である行政の組織、人事についての調査には長期間を要するため、議員の任期が長く、解散もない参議院が適している。議院内閣制の下で官僚支配が著しい我が国では、とりわけ官僚機構に対する国会の常時監視が必要であり、正常な内閣主導の行政を実現するためにも参議院の行政監視機能の充実強化が望まれる。
二、衆議院は予算、参議院は決算という考えを徹底すべきでない。理由、予算審議と決算審議は本来一連一体のものとして行われるべきである。衆議院は予算、参議院は決算を徹底すれば、どちらも中途半端で無責任なものになり、適切な国会の統制は期待できない。衆議院が不十分な決算審議のまま予算審議を行ってよいはずはなく、参議院の決算審議も衆参それぞれの特徴に応じた審議をする前提で内容を考えるべきである。
三、予算委員会と決算委員会を統合して財政委員会を創設すべきである。理由、決算審議の目的は予算審議へのフィードバックであり、予算審議、決算審議のどちらも税金の使い方の議論である。税金がどう使われたのか、今後どう使うのかの議論は連続しており、一連一体のものとして審議しなければ国会によるチェックは有効に機能しない。予算審議は決算の目を持っていないと、省庁割拠主義による予算の争奪戦の黙認になってしまい、公共の利益の実現につながらないことは、復興予算の流用の問題で明らかである。
なお、憲法学者の西修先生はこの指摘を著書「憲法改正の論点」の中で採用されました。国会の実務で生まれた考えが学説として取り入れられたという極めて珍しい例であり、西先生の柔軟な思考に感謝しております。
四、衆参両院の特徴に応じ、衆議院財政委員会では次年度予算に直結する短期的事項に重点を置き、参議院財政委員会では数年度にわたり長期的検討を要する事項、例えば年金制度、特別会計制度等に重点を置いた審議を行うべきである。理由、衆議院は議員の任期が短く、解散もあり、参議院はその逆である。予算は衆議院先議、予算議決に関する衆議院優越の制度もある。衆議院において決算の目を持って次年度予算に直結する短期的事項について審議を行うことの重要性は、復興予算の流用の問題で明らかである。年金制度、特別会計制度等は、行政の組織、人事の問題が絡み、数年度にわたる長期的検討を要することから、議員の任期が長く解散もない参議院に適している。
五、参議院に行政監視調査局、衆議院に会計検査院を置くべきである。理由、国会の行政統制が弱い最大の原因は、長期継続的に行政の実態調査を行うマンパワーがないことである。
第百七十七回国会、末松信介参議院行政監視委員長は、国民主権に基づく新たな行政監視システムを構築するため、総務省行政評価局の行政評価・監視機能と会計検査院の会計検査機能とを国会に移管し、参議院に行政監視調査局を、衆議院に会計検査院を設置することを提案、中島忠能元人事院総裁がその趣旨に賛同する意見を述べている。これらの機関の中心的機能が行政を統制することであるため、立法府の機関として設置することが適切である。二院制に基づき衆参両院の特徴を反映する仕組みとすることで、各院がその特徴を自覚し、責任を持って国会運営を行うことになるとの考えである。
「行政監視と予算・決算の審議の在り方について」は以上であります。
今日、参議院の「行政監視機能の強化は二院制支持者の共通認識となっていますが、それに対する一つの答えになるのではないかと思います。この案は憲法改正を要しませんので、比較的に速やかな実現が期待できます。また、山下栄一行政監視委員長が力を注がれた行政の現場視察は、その効果の高さから、参議院を挙げて直ちに実施すべきと思います。国会が行政の現場を常に関心を持って見守ることは、現場の職員に良い意味での緊張感をもたらし、法律の誠実な執行の確保に大きく貢献するという効果があります。
ところで、議院内閣制の下、二院制を支持して両院の役割機能の違いを明確化するという考え方の対極に、議院内閣制のまま一院制を採用するという考え方もあると思います。しかし、議院内閣制で一院制の場合、政府と官僚機構をつくる院しかありませんから、強い第三者的立場が求められる行政監視は不可能です。せいぜい上下の位置関係となる行政監督しかあり得ず、これでは官僚支配行政からの脱却は不可能と私は考えています。
一院制を採用するというのであれば、議院内閣制はやめて大統領制にする以外にないと考えます。大統領制であれば選挙で国民が行政首長を直接選ぶことになりますので、官僚支配の問題は起きません。この点は、米国在住のロビイストで「ライジング・ジャパン」の著者であるポール室山氏に指摘されて気が付きました。十分な選挙期間を経て行政首長を選ぶ大統領制であれば、候補者と選挙民の双方に民主主義教育の重要な機会を提供することができる、そして、大統領は国民の強い支持の下で行政首長として強いリーダーシップを発揮することが可能であり、官僚人事を完全に掌握するため官僚支配行政は起きる余地がないとのことであり、なるほどと深く納得いたしました。官僚支配行政からの脱却のために大統領制が優れていることは明らかと私は考えています。
参議院在職中、私は、行政監視に関心のある議員の皆さんと長い時間を掛けて議論をしてきました。間違いなく公共の利益の実現を目指す党派を超えた真摯な議論だったと思います。そして、誰が行政監視委員長になるかが決定的に重要でした。特に、山下栄一議員と末松信介議員が行政監視委員長を務められた時代、参議院の行政監視機能に関する調査研究が大きく進展しました。お二人には心から敬意を表します。あの時代がなければ行政監視に関する今日の議論は存在せず、私は今ここにおりませんでした。
公共の利益の実現のために、主権者である国民に代わって国権の最高機関である国会が政府と官僚機構の活動を法の誠実な執行の確保の観点から常時注意して見ること、これが日本国憲法の下での行政監視である、参議院の職員と行政監視委員長との議論の中で作り出された考え方です。このことを確認して、私の意見陳述を終わることにしたいと思います。
御清聴ありがとうございました。