島崎謙治の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(島崎謙治君) 私は、政策研究大学院大学の島崎と申します。本日は、このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
私は、社会保障政策の研究、教育に携わっておりますが、最近は医療政策の比重が大きくなっております。それにもかかわらず、本日、児童扶養手当法の改正法案の審議に当たりまして参考人としてお招きいただきましたのは、恐らく二つの理由があるというふうに思っております。一つは、平成二十五年五月に設置されましたひとり親家庭への支援施策の在り方に関する専門委員会に委員として参画したことでございます。そしてもう一つは、平成十九年十月に養育費相談支援センターが開設されましたけれども、私はこのセンターが開設されて以来、今日に至るまでその運営委員として関わってまいりました。本日は、そのような立場から、一人親家庭をめぐる諸問題につきまして、お手元にお配りしておりますレジュメに沿いまして、日頃思っていることを申し述べさせていただきたいと存じます。
第一は、今般の児童扶養手当法の一部改正法案についてでございます。
今般の改正法案の主な内容は児童扶養手当の多子加算の増額でございますけれども、この点については、児童部会の専門委員会におきましても、参考人として参画された一人親家庭の支援団体の方々から加算額の引上げを求める意見が強く出されました。財源との兼ね合いがございますので、専門委員会の中間まとめではお手元のレジュメに記したような記述にとどまっておりますが、もとより今般の改正法案に異論があるわけではございません。というよりも、児童扶養手当の多子加算額は長らく据え置かれてきたわけでございますけれども、必要な財源を確保し、この度加算額の引上げにこぎ着けられましたことについて敬意を表したく存じます。
第二は、養育費の確保についてでございます。
この問題についてまず指摘をしておきたいことは、ほかの国、諸外国では協議離婚は一般的ではなく、特に有子離婚の場合は養育費の取決めについて裁判所若しくはこれに準ずる公的な機関が関与するのが通例だということでございます。私が承知しております限り、未成年の子供がいても届出だけで離婚を認めている国は日本以外にはございません。
これは、ちなみに、西欧諸国に限ったことではございません。例えば、韓国では協議離婚と裁判離婚が併存しておりますけれども、二〇〇七年の民法改正によりまして協議離婚制度が大幅に変わりました。具体的に申し上げますと、未成年の子がいる場合には三か月の熟慮期間を経ることが求められるとともに、養育費や面会交流等について取決めをしないと離婚できないというふうに改められたわけでございます。
誤解がないように申し上げますと、私は、だから日本の離婚法制も諸外国と同じようにすべきだという、そういう主張をするつもりはございません。これは、法あるいは法制度が社会実態や国民意識のどの程度先までリードするのかという問題と関わります。現状に引きずられ過ぎてはいけませんけれども、しっかり足固めをせずに理念だけ先行いたしますと、実効が伴わず上滑りしてしまうという問題を抱えます。
したがいまして、私は、平成二十四年に施行されました民法改正によって離婚届出書の様式に養育費及び面会交流の取決めの有無についてチェック欄が設けられたことを踏まえ、まず、その記載状況や当事者の意識等について十分な分析を行った上で、実務のフィージビリティーを含めまして実効性の高い方策を検討するというステップを踏むことが必要かつ現実的だと考えております。
けれども、同時に強調したいことは、養育費の支払の履行が現状で約二割にとどまっている実態を放置してよいと私は考えているわけではないことであります。その理由は、離婚したとしても子に対する扶養義務は非監護親も負っており、それが履行されない結果、私的な扶養義務を公的給付が代替することは許されないということもさることながら、養育費の支払は経済的にも精神的にも子供の養育や福祉にとって必要不可欠だからでございます。
子供は親の所有物ではなく、独立した人格です。離婚に至る事情は様々であることを承知の上で申し上げれば、離婚に当たって養育費をしっかり取り決め、その履行を行うことは子に対する親の責務であり、身勝手は許されないと思います。あらゆる機会を捉えてそのことの啓発を行うとともに、離婚に至る前からの相談支援の充実等を図ることが必要であると考えております。
第三は、面会交流の相談支援についてでございます。
先ほど申し上げましたとおり、養育費相談支援センターは平成十九年に開設されましたけれども、その相談内容の推移を見てみますと、設立当初は養育費の取決めの手続などに関する一般的な相談が多かったのでございます。しかし、最近は複雑な相談事例が増加しております。それに加えましてもう一つ特徴的なことは、平成二十四年度から面会交流が絡んだ相談事例が増えていることであります。これは明らかに平成二十四年に施行された民法改正の影響だというふうにも考えられます。
私は、面会交流を促進することに賛成です。ただし、面会交流につきましては、法律的にもまた実務の面でも詰めるべき点がまだ多く残されているように思います。
例えば、面会交流というのは一体誰の誰に対するいかなる性質の権利なのかといった点であります。これにつきましては、面会交流というのは子の監護のために適正な措置を求める権利であるという考え方が通説化しているというふうに思いますが、面会交流が子の利益、福祉のためのものであるとすれば、子供が双方の親のはざまで葛藤するという事態は何としても避けなければなりません。また、面会交流と養育費の支払は法的には別の問題であり交換条件ではないといっても、例えば養育費も払わないのに面会交流は認めたくないという感情が生じることもまた事実であります。
少なくとも言えることは、養育費は言わば無色透明な金銭の問題であるのに対しまして、面会交流は双方の親及び子供の三者が関わる継続的な人間関係をめぐる問題だということです。このため、養育費と面会交流とでは紛争の性格は相当異なりますし、必要となる相談支援の技術、スキルや子の葛藤の防止など配慮すべき事項なども大きく異なることに留意すべきだというふうに思っております。
いずれにせよ、面会交流の相談支援は片手間で行うことができるような性格の仕事ではございません。面会交流を進めるためには、その前提として、家庭裁判所と民間のADR機関との役割分担、専門的な相談支援者の確保、養成等につきまして本腰を入れた取組が必要不可欠であると考えております。
第四は、一人親家庭の相談支援体制の在り方についてでございます。
離婚の前後では、親権や財産分与、養育費や面会交流の取決めだけではなく、仕事や住まいの確保、子供の教育など数多くの課題を抱え、かつそれらを短期間に決定、処理することが迫られます。また、離婚や一人親家庭の問題は個別性が強く、親や子供が病気や障害を抱えている場合にはその対応が必要になりますし、いわゆるDV事案ではシェルター機能の確保など特別な配慮を要するケースが少なくありません。したがいまして、総合性、専門性、即時性の三つを兼ね備えた相談支援体制の構築が求められます。
しかし、残念ながら現実はそうなっておりません。例えば、平成二十三年度全国母子世帯等調査によりますと、一人親家庭の相談ニーズは高く、相談相手がいると答えた者の比率も高いのでございますが、相談相手の内訳を見ると、親族や知人、隣人を挙げた方が多数を占めております。そして、相談相手として公的機関を挙げましたのは、母子世帯では二・四%、父子世帯でも三・六%と極めて少数にとどまっております。もちろん、中には明石市のように頑張っておられる自治体もありますので、全てがそうだということを申し上げるつもりはございませんが、厳しい言い方をすれば、公的機関は知られていないか頼りにされていないのでございます。関係者はこのことを真摯に受け止める必要があると私は思います。
それでは、どうすればよいのかということでありますが、まず、国だけではなく各自治体に一人親家庭の問題にもっと目を向けていただきたいと思っております。ここで私がなぜ各自治体と言っているのかといえば、児童扶養手当の支給事務は法定受託事務でございますが、一人親家庭の相談支援業務などは自治事務であります。自治体行政の中で一人親家庭の問題に対する政策のプライオリティーが高まらない限り、国が旗を振っても施策は空回りする結果に終わってしまいます。ただし同時に、自治体の予算、人員の制約が厳しいという現実も見据えなければなりません。また、子供の養育に関する相談ニーズがあるのは、何も離婚を考えておられる家庭や一人親家庭に限ったことではございません。例えば、障害を持ったお子さんをお持ちの方もおられますし、お子さんが引きこもりで悩んでいる家庭も少なくありません。
こうした点を踏まえれば、総合性、専門性、即時性を備えた子ども家庭支援センターを各市町村に置き、その中の一つとして一人親家庭の相談支援機能を位置付ける方が効果的、効率的だというふうに考えております。比喩的に言えば、八ケ岳の広い裾野、つまり一般施策がベースにあって、その峰の一つとして一人親家庭の相談支援機能、また別の峰の一つが障害児に関する相談支援機能、また、これもあくまで例示でございますけれども、また別の一つの峰が引きこもり児童に対する相談機能と、そういったイメージで捉えていただければよろしいかと存じます。
最後に、結論を述べ、締めくくりたいと存じます。
児童扶養手当は、経済的に厳しい状況にある一人親家庭にとりまして大切な給付であることは改めて申し上げるまでもございません。しかし、一人親家庭の生活の安定と自立を図るためには、就労支援、教育支援、住宅支援など様々な分野の支援が必要です。また、養育費や面会交流につきましては、行政と司法、裁判所との役割分担と連携を欠かすわけにまいりません。さらに、今申し上げましたように、国が努力するのは当然でありますが、あわせて、自治体におけるこの問題に対する政策の優先順位が高くならなければ施策の実効性は上がらないと思います。
率直に申し上げまして、一人親家庭の支援は最も難しい政策分野の一つだというふうに思います。しかし、難しいからといって手をこまねくことは許されません。難しいからこそ、未来を担う子供の福祉のために、関係者が手を携えて施策を前に進めていただくことを念願しております。
私の意見は以上のとおりでございます。御清聴どうもありがとうございました。