磯谷文明の発言 (厚生労働委員会)

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○参考人(磯谷文明君) 磯谷でございます。
 本日は、発言の機会を与えていただきまして誠にありがとうございます。
 最初に少しだけ自己紹介をさせていただきますと、私は二十三年目の弁護士でございまして、都内で開業をしております。長く児童虐待問題に取り組んでまいりまして、主に児童相談所の法的な支援をしてまいりました。今回の法改正に関しましては、基礎となる報告書を作成した専門委員会の委員を務めさせていただきました。
 本日は、改正案の評価とその運用、とりわけ児童相談所と弁護士の関わり、さらに残された課題について所見を述べさせていただきます。
 最初に、改正案の中で最も評価している点は、児童福祉法の理念として子供の権利が盛り込まれた点です。理念は私たちに即効性のある武器を与えてくれるわけではありませんが、法解釈や実務にじわじわと影響してくるものと考えております。
 一方、専門委員会の報告書には体罰禁止も盛り込むべきと述べていましたが、端的な形でそれが盛り込まれなかったことは残念であります。
 私としては、懲戒権は民法事項ではありますけれども、民法とは別に、児童福祉の観点から体罰を禁止するということは法制度上何ら問題ないのではないかと考えておりますし、仮に、児童福祉法にストレートに体罰を禁止する規定を置かなくても、例えば国や地方公共団体に対し体罰に頼らない子育てを推進することを義務付ける規定を置くという方法もあったのではないかと思います。いずれにしましても、一歩一歩で結構ですので、家庭での体罰がなくなる方向で進んでいければと思っております。
 子供の権利に関する新しい展開として、児童福祉審議会に子供の権利擁護の役割を持たせることになった点も重要だと思います。
 条文だけ読んでもぴんとこないんですけれども、法律施行後は、児童福祉審議会は子供たちからの苦情を受け付けるようになると伺っております。児童福祉に限定はされますが、いわゆるオンブズマン的な役割も担えるとしたらとてもすばらしいことだと思います。この点、各地の弁護士会には子供の権利擁護に取り組んできた実績があります。児童福祉審議会がこの分野で弁護士会と連携することも考えていただければと思います。
 弁護士との関わりについて申し上げますと、今回、児童相談所における弁護士の配置又はそれに準ずる措置が定められたということは画期的だと考えております。
 児童相談所は、児童福祉法二十八条の申立てなどの裁判のほか、様々な法律問題に直面しており、弁護士によるサポートが欠かせないと言えると思います。実は、厚生労働省の調査によれば、全ての児童相談所は既に弁護士と何らかの形で連携をしています。ですから、今回の弁護士配置の定めは、現在ある児童相談所と弁護士との関わりを一層深めることが期待されます。
 この画期的な弁護士配置ですが、運用に当たっては二点お願いしたいということがございます。
 第一点は、地域の実情に照らして柔軟な運用をしていただきたいという点です。
 先ほど述べましたとおり、既に全ての児童相談所は何らかの形で弁護士と連携をしています。例えば、私が関わっております東京都を例に挙げますと、制度的な弁護士の関与は平成十三年頃に始まり、平成十六年から非常勤弁護士制度を導入しています。これは、都内十一の児童相談所に非常勤弁護士を一人ずつ配置をするというものです。
 しかし、特徴的なのはそれだけではありません。この非常勤弁護士に加え、各児童相談所に原則二名の副担当を配置しています。副担当のうち、一名はベテランの弁護士、もう一名は若手の弁護士です。ベテランの弁護士は非常勤弁護士をサポートしまして、若手の弁護士は非常勤弁護士と一緒に会議に出るなどして、いずれ非常勤弁護士を担っていくことになります。非常勤弁護士はおおむね三年から四年で交代をしてもらっています。ですから、非常勤弁護士の仕組みの中で次の担い手を育てているということになり、児童相談所をサポートできる弁護士の層を厚くしているのです。
 また、もう一つ御紹介したいのは、非常勤弁護士や副担当が定期的に会合を持ち、また、クローズドのメーリングリストを活用するなどしてお互いに相談し合える仕組みを持っているということです。一人の経験というのは所詮知れています。また、一人でやっていると悩むこともあります。そういったことを総勢四十名弱の仲間たちが共有して助け合うということになります。
 このように、弁護士と児童相談所との連携の歴史を持っているのはほかの地域にもあり、活発なところとしては大阪や愛知、神奈川などがあります。
 私がお願いしたい一つ目は、こういう地域の取組を否定するのではなく、それぞれの地域の育んできた関係を尊重して、実情に合わせて発展させていただきたいということです。全国一律こうあるべきというのはちょっと違うのではないかなというふうに思っております。
 二つ目のお願いは、児童相談所に配置された弁護士を独りぼっちにしないということです。つまり、児童相談所に配置された弁護士が地域の弁護士会や虐待問題に取り組む弁護士のグループとの関わりが十分に持てるようにしていただきたいということです。
 特に、常勤弁護士を採用するということになりますと、ほとんどは若手で経験の乏しい弁護士になると思われます。そういう弁護士に対しては、やはりほかの弁護士によるサポートが欠かせません。そして、常勤弁護士が業務に慣れてほかの弁護士によるサポートが要らなくなった場合には、今度は逆にほかの弁護士たちを教えてほしいのです。そうでないと、常勤弁護士の輩出は単発で終わってしまい、後が育ちません。
 このように、児童相談所に配置された常勤弁護士が地域の弁護士会などとの関わりを維持できるかどうかは、実は児童相談所の所長さんなど管理職の方の考え方に大きく依存します。所長さんが常勤弁護士が外の会合に出ていくことに良い顔をしなかったり、児童相談所の現場で生じている問題を外の弁護士に話すことについて消極的であれば、若い常勤の弁護士はほかの弁護士たちと関わり続けることは難しいでしょう。児童相談所の方々には、是非、配置された弁護士が外の弁護士とも関わり続けることができるように配慮をしてほしいということを思っております。
 弁護士配置については、私は、まず、まだ非常勤弁護士を配置していない児童相談所については非常勤弁護士を配置すること、既に非常勤弁護士を配置している児童相談所については、出勤日数を増やしたり非常勤弁護士の人数を増やすなどして、より関与の度合いを深めることを第一段階の目標として考えるべきではないかと思っています。
 今後の課題のお話に移ってまいりたいと思いますが、以前から主張しておりましたが、今回もまた盛り込まれなかったものに児童相談所の調査権限の問題があります。
 現在、児童相談所が第三者に情報提供を求めても、第三者には応答義務がありません。現行の児童虐待防止法十三条の三には地方公共団体の機関に対して情報提供を求める規定はありますが、あくまでも情報提供ができるとされているにすぎません。今回、十三条の三が改正されて、情報提供できるものが地方公共団体の機関から児童の医療、福祉、教育に関係する機関や者に拡大されますが、本質的にできる規定であることは変わりがありません。また、例えばアパートの管理会社などは医療にも福祉にも教育にも関係がありませんので、改正後の十三条の四の対象にもならないものと思われます。
 今後、司法関与についても議論がなされるようですが、仮に児童相談所が裁判所に申立てをする機会が増えるのであれば、児童相談所が裁判所を納得させられるだけの証拠を集めることが不可欠になります。刑事訴訟法百九十七条二項は公務所又は公私の団体に対する照会を定めており、報告を求められた公務所や団体には報告義務があると解されています。是非、児童相談所の調査権限に関して更なる議論がなされることを期待しております。
 これも以前から強調させていただいているところですが、児童相談所の介入機能と支援機能の分化についても引き続き検討していただきたい論点です。
 モデル的には、児童虐待が発見されて通告を受け、介入し、その後に支援をしていくという流れで語られるんですが、実際の現場は、長く支援をしていく中で、これ以上子供を家庭に置いておけないということで介入を決断するということも少なくありません。
 そういった場合に特に問題になるんですが、担当する児童福祉司が心理的に巻き込まれてしまっていて適切な判断ができないということであります。一人の児童福祉司が介入も支援もするというのは無理があると感じておりますが、単に児童相談所の中で担当を分ければ済むのか、それとも介入と支援を別の組織とした方がよいのかという問題もあって、この点、更なる議論が必要だとは思っております。
 児童福祉法改正案の三十三条の九の二では、「国は、要保護児童の保護に係る事例の分析その他要保護児童の健全な育成に資する調査及び研究を推進するもの」とされています。この調査研究に関して是非実施をしていただきたいのは、子供の死の全数調査であります。外国ではチャイルド・デス・レビューと呼ばれているもので、虐待かどうかを問わず子供の死を残らず調査して、予防できたはずの死を見付け出し、今後の対応に生かすというものです。
 日本小児科学会の調査によれば、年間、全国で推計約三百五十人の子供たちが虐待で亡くなった可能性があるということでした。私は、国の死亡事例等の検証を行う専門委員会の委員も務めておりますが、そこでは、親子心中を含めて、虐待死はこのところ年間百名を下回っています。とすると、二倍以上の子供たちの死が虐待の疑いが残るまま放置されているということになります。
 日本子ども虐待防止学会では、平成二十五年の信州大会において、五年以内に子供の死の全数調査を制度化することを目指して取り組むと宣言をいたしました。法改正が成立しましたら、この点につきましても是非一歩を踏み出していただきたいと考えております。
 最後に、児童虐待防止対策の要は人材であります。特に、法的権限を持つ児童相談所の児童福祉司さんたちの数を増やし、専門性を向上することです。専門委員会でもこの点は一致して最重要課題と考えておりました。
 そのための一つのアイデアが児童福祉司の国家資格化でした。国家資格化は容易だとは思っておりません。しかし、現場を見ていますと、例えば保健師さんは、同じ公務員とはいっても、自分たちは保健の専門家であるという自負をお持ちです。だからこそ、保健師はどうあるべきとか、地域保健はどうあるべきというような問題意識を持ちやすいように思います。これに対し、児童福祉司さんは、人事異動でその職を離れてしまうと全く別の仕事をするジェネラリストであるように思います。しかし、子供の幸せを専門とする者としてそれではいけません。困難はあっても、是非国家資格化を目指すべきだと考えております。
 今回の改正法案が速やかに成立し施行されることを期待しつつ、私の意見陳述を終わらせていただきます。
 どうもありがとうございました。

発言情報

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発言者: 磯谷文明

speaker_id: 24593

日付: 2016-05-26

院: 参議院

会議名: 厚生労働委員会