日野愛郎の発言 (国の統治機構に関する調査会)
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○参考人(日野愛郎君) この度は、国の統治機構に関する調査会という重要な会にお招きいただきまして、大変光栄に存じております。
私がいただきましたテーマは、二院制議会における両院の在り方、そして衆参両院の在り方を踏まえた選挙制度でございます。望ましい選挙制度を論じることは大変難しいことでございまして、ましてや選挙を熟知されている先生方の前でお話しすると、何か参考になることを申し上げられるかは大変不安ではありますが、せっかくの機会ですので少し考えてきたことをお話しさせていただきます。
一般に選挙制度を論じる際に、例えば一票の較差でありますとか、得票と議席はどの程度比例しているか、こういう比例性の基準といったような様々な基準があります。ただ、一票の較差等々の問題ですけれども、その国の実情によって、そして両院の位置付けによってそれらの基準をどう評価するかということ自体が変わってくるかと思います。
したがいまして、本日のお話としまして、まずは両院の位置付けについてお話をした上で、初めてその後に望ましい選挙制度という順で、二段構成でお話を進めてまいります。お配りしておりますレジュメに沿ってお話を進めてまいります。
まず、衆参両院の在り方でございますが、これは御案内のとおりですけれども、憲法には衆議院の優越の根拠となる条項がございます。レジュメにも挙げていますが、三分の二以上の多数で再可決ができるという憲法第五十九条二項から始まって、予算先議権は衆院にある、六十条ですけれども、さらに二項では、参院において議決がない場合には三十日の自然成立という条項がございます。これは六十一条の条約の承認に関しても同じことが当てはまります。このように法案に関する衆院の優越というものがまず規定されていると。
さらには、内閣総理大臣の指名、これは六十七条二項ですけれども、十日以内に参議院で指名の議決がないときというのは、これは衆院の議決が当てはまるという条項もありますし、不信任案の決議に関して、これは六十九条ですけれども、衆議院にしかこれは認められていないということで、法案、内閣総理大臣の指名、いずれにおいてもこれは衆議院の優越が前提となっているというふうに考えられるわけです。
一方、参議院の特徴に参りますが、参議院の特徴は、これは委員会制度が充実しているということであります。具体的には、次の三つの活動、決算、行政監視、調査会に象徴されているものですけれども、決算委員会の活動、これは国会法の第四十一条三項十四号で規定されている内容でございますが、御案内のとおり、参議院は衆議院に先んじて決算の早期提出並びに審査の充実に取り組んできました。これは歴代議長の下での参議院改革協議会を中心に積み重ねられてきた参議院の独自性であると思われます。
実際に、二〇〇三年以降ですけれども、例外はありますけれども、従来の翌年の一月に提出されていた決算というのが、原則として同年の十一月に提出ということが実現しております。その年度が終わって、その同じ年に決算が提出されるようになったのは、このような参議院独自の取組の下での、今あるものはその成果によってあることだというふうに認識しております。
順番、先に調査会の存在についてお話をしますけれども、調査会の先生方を前にして言うまでもありませんが、これも参議院の改革協議会の提言によって一九八六年に新設されたものです。これまで三年置きにずっと重ねられてきたことですけれども、調査会を基に、例えば高齢社会対策基本法案、これは九五年に成立しているものですが、等々三本の法律案が実際に提出され成立に至っているという経緯がございます。
同じように、これも調査会の第四期のものであったと記憶しておりますが、その中間報告によって行政監視委員会というものを設置するということで、国会法が改正されて実際に、一九九八年以来、行政監視委員会というものが設置されていると。これらの参議院の特徴は、いずれも委員会制度が充実しているということを表しているというふうに思われます。
以上の点を踏まえまして、少し衆参両院の在り方ということを整理しておきたいと思います。
まず、衆議院というのは、これは内閣総理大臣の指名ですとか、予算審議において参議院に優越している、これは憲法の規定上読み取れるところ、理解できるところであります。したがって、衆議院というのは、内閣を構成し、国を運営していくということを主眼に置いた院であると言えます。与党、野党に分かれて、どちらが国政を担うのかということを争う対決型の院として捉え直すことができると思います。当然のことながら、解散がありますので、国会活動は政局にも大きく左右されるところでございます。
一方、参議院は、解散がなく、半期三年、任期六年をベースに個別の政策にじっくり取り組むことができる。調査会などの独自の委員会制度もございますし、省庁の縦割りではなく、テーマごとに機動的な法案策定ということに取り組むことができる院でもある。また、参議院においては、法案提出における会派の機関承認が必要ないという点においても、自由に立法活動ができる環境にあるというふうに理解できると思います。
少しこれは政治学的な言葉になりますけれども、これは先週の調査会において飯尾先生も使っていたので大丈夫だと思って使うところでございますが、衆議院は、いわゆる対決型の、これアリーナ型というふうに言いますけれども、与野党が闘技場で対決し合っているようなイメージですが、アリーナ型の院であるというふうに考えられます。どちらが内閣を担うのか、政権を担うのかということを対決し合う、そういうアリーナ型の院である。
一方で、参議院は、これは政策立案型といいましょうか合意型といいましょうか、変換型議会という類型の名前で言われていますけれども、社会のニーズをどのように法案に変換していくか、超党派であったり、修正を重ねて最終的に法案を練っていくという、そういう変換型の院であるというふうにも捉えることができると思います。
よくこれはイギリスがアリーナ型でアメリカが変換型というふうに言われるんですけれども、アメリカが変換型議会であり得る背景としては、行政府を担う大統領の存在があります。立法府とは別に行政府を担う大統領がいると。一方、日本では議院内閣制を採用しておりますので、イギリスと同じようにアリーナ型として立法府と行政府が融合している、こういう政治体制を取っているわけです。
したがって、参議院の政策立案機能というものを重視することによって、二院制の下で立法府としての機能を補完していくということも一つの道筋であろうというふうに思われます。衆議院の方が政権を担うという意味ではアリーナ型であり、それゆえ多少立法機能活動が制限される、解散もありますし政局にも左右され得るということを考えると、解散がない参議院というのは、その意味において、立法機能を更に今まで以上に重視していくということが一つの道筋として考えられるだろうということであります。
その点でいうと、予算の先議権、これ衆議院にあるわけですけれども、決算は参議院を中心にという役割分担も、これは両院の二院制の下で捉え直すことができるのではないかと思います。両院というのは言わば抑制と補完の関係にありまして、衆議院がアクセルであれば参議院がブレーキという、そういった補完関係にもあるというふうに捉えられるかと思います。
三として衆参の在り方の明確化ということで、議決不一致時の対応でありますとか、行政監視機能、政策立案機能の充実若しくは参院先議の可能性、それから内閣総理大臣の指名や問責決議について記しておりますけれども、これはちょっと時間の関係で、後に時間が許せば少し丁寧にお話しさせていただければと思います。
続きまして、今の両院の、衆参の在り方を踏まえて、では、衆議院、参議院でどのような選挙制度が望ましいのか、これ大変難しい問題ではございますが、今の話を前提に少し更に話を進めていきたいと思います。
まず、衆議院の選挙制度でございますが、これは内閣を構成するための選挙、いわゆる政権選択選挙であるということが考えられますので、政党本位の選挙制度が望ましいであろうと。これは、言うまでもなく一九九四年の政治改革関連法案によって実現してきた選挙制度でありますが、これは事前にお配りさせていただきました参考資料にも書いてあることでございますけれども、その後二十年たって、様々な実証研究というものが積み重ねられてきています。
その実証研究の成果を、これは様々な先生が積み重ねてきたものをまとめたものですけれども、その知見として明らかになっていることを少しまとめてみますと、これは、選挙の後に必ず、明るい選挙推進協会によって全国調査、世論調査を行っているものを見ていくと、投票の基準として、政党を重く見て投票したか、候補者を重く見て投票したかということを毎回聞いております。グラフを見ていくと、政党を重く見て投票を決めたという有権者が、やはり一九九六年の改革以降現在に至るまで一〇%から二〇%増加しているということが明らかになっております。
そして、投票行動の分析を見ますと、候補者の要因というものは、これ依然として一定の影響力を持っているわけではありますが、その影響力は相対的にですけれども低下しつつあると。一方で、政党評価の影響力というものが増加する傾向にあり、そして、政策投票とか争点投票と言いますけれども、そのような影響力は必ずしも増加しているとは言えないと。
選挙制度改革は、政策本位、政党本位ということで言ってきましたので、政党本位という面では一定程度成果が実際に実証的に見てもあったのではないかということが言えると思いますが、必ずしも政策投票、政策本位に本当の意味でなっているかというところは実証分析の結果から確たることは言えないという状況かと思います。
一方で、議員の部会の出席ですとか委員会の発言というものを全てこれ統計的に比較をしていきますと、実際に選挙制度改革以前よりも以降の方が立法活動は活性化しているということもデータによって裏付けられています。その意味においては、政策重視ということが以前よりは少し強まっているということは実証研究の中では言われております。一定程度、その意味においては、選挙制度改革がもくろんだものが、実際に現時点においてある程度は達成しているというふうに見る向きもあろうかと思います。
政権選択を可能とする選挙制度というと、これはまさに、小選挙区制ということはその一つで今なされてきたわけですし、小選挙区比例代表並立制という形でなされてきたわけですけれども、実際に政権交代がこれ二度実現していますので、言うまでもなく、その意味においては政権交代が可能な選挙制度であると言うことはできるかと思います。
ただ、小選挙区制度というのは、理想としてはやはり二大政党制の下で運用されるのが望ましい、これはかねてから言われてきていることでございますが。日本が二大政党化するかどうかということを、実際にこれは政党数といいますか政党の数と政党の規模を加味した指標がありまして、それを見ていくと、九三年のときは、これは有効政党数と呼んでいるものですけれども、四以上ありました。これが、現在は二から二・五の間に落ちてきています。その意味においては政党の数は減っている。しかしながら、皆さん御存じのとおり二党制にはなっていないわけでありまして、現在の日本は多党制であると。
そのような状況の下で小選挙区を行うとどういうことが起こるかと。これは心理的な効果ということでよく言われるところでありますけれども、心理的効果というのは、まずは政党、政治家に対しての選挙制度、小選挙区が持っている効果というものがあります。それはまさに候補者調整でありまして、小選挙区においては候補者調整をしないと中小政党は議席を取ることができないということがありますので、候補者調整が必要になると。そうすると有権者の選択肢が狭められる。これは、選挙区によっては、例えば自民党、公明党、若しくは前回の選挙であれば民主党と維新の党といったような形で候補者調整が行われてきたと思いますけれども、自分の支持する政党の候補者が自分の選挙区で立候補していないというような状況、これは有権者の選択肢が狭められていると。
有権者に対しての心理的な効果でいうと、今お話ししたように一定程度死票が出ますので、一般的には満足感そして投票率が低下するというふうに言われています。私も、世界各国、いろんな国で選挙制度がありますので、多数代表制と比例代表制、投票率比べてみたことがあるんですけれども、多数代表制三百九の選挙、これは二〇一三年の段階ですけれども、投票率の平均が六九・五%、これは義務投票制などは除いたものですけれども、であるのに対して、比例代表制は三百六十二選挙の平均が七三・二%と、三、四%程度比例代表制の方が投票率は高くなっているという状況にあります。
ヨーロッパの世論調査データで、これは国際比較ができるようなしっかりとした世論調査データで、三万以上のサンプルを基に、民主主義、これは選挙制度ではなくてデモクラシー、民主主義に対する満足度ということで、十点満点で聞いておりますけれども、多数代表制の諸国は四・六七、比例代表制諸国が五・二九と、統計的にも満足度が高いという結果が出ています。
それでは、比例代表制の下で政権交代可能な選挙制度はないのかという疑問につながるわけですが、これは日本と同様の時期である一九九三年に比例代表並立制に移行したイタリアの例が少し参考になるかと思います。
ほぼ同じ時期に小選挙区比例代表並立制を導入したイタリアですけれども、二〇〇五年に制度変更していまして、プレミアム付き、まずは小選挙区を廃止して比例代表制にしました。比例代表制というのは、かねてより、投票が終わってみないとどの政党とどの政党が連立を組むか分からないという意味においてアカウンタビリティーがないというようなことが批判としてあったかと思いますが、それをある種、その問題点を解決するという意図であると私は理解しておりますけれども、プレミアム付きの比例代表制というものを導入しました。
これは、比例代表選挙の結果、第一党が過半数に満たない場合は、六百十七議席ある中で三百四十議席まで議席を与えると。これは五五%強の議席率になるわけですけれども、必ずしも、五五%以上を第一党が取っていればそのままもちろん取りますけれども、満たない場合は一定程度安定した政権運営ができる五五%を自動的に与えるという制度を導入しました。選挙戦の前に事前にこれは左右の陣営に分かれて、将来というか、その選挙後の首相候補を決めた上で選挙戦を戦うと。これも選挙法に定められたところでありますけれども、そのような選挙制度に移行しました。
そうすると、事前の連立協定ということが必要になってくるわけですが、これも事前にお届けしました私の過去に書いたもので少し述べているところでもありますが、事前に連立協定をやはり、政策協定ですね、しっかりとすり合わせをしておくことが重要になってくるということにもつながってまいります。
なぜ五五%なのかというところに明確な根拠がないということで、これ違憲判決をイタリアでは受けまして、その後、今また別の選挙制度ということになっているわけですけれども、これは必ずしも、プレミアム付きが変更したというよりも、実際に、これ二〇一三年であったと記憶しておりますが、三つぐらいのある意味コアリション、連立が出てきた場合に完全に五五%を与えられないというような状況が出てきたという政治的な要因もありまして、今、三七%以上を取っていないともう一回、二回投票制をするというようなことで改められているというふうに理解しておりますが、そのような選挙制度が例えばあると。
ギリシャでも、これは三百議席中の五十議席が多数派のボーナスとして与えられるというようなことでプレミアム付きということがなされています。これは、一つの試みとしては、比例代表制の下で政権交代が可能な選挙制度ということなのであろうというふうに思います。
一方で、イタリアでは小選挙区制が廃止されていますので、日本の実情に合わせて考えると、ドイツの併用制のような、小選挙区は残しておいて、小選挙区の得票の度合い、小選挙区の結果を、最終的に比例代表の議席配分の後に誰が議席を得るのかというときに小選挙区の結果を生かすというようなことも組み合わせて考えることも可能かと思います。
総じて、日本が今後二大政党化するのであれば、これは現行の小選挙区がよいと思われますが、多党制の状況が続くようであれば、政権交代可能な比例代表制を模索するということも一案かと思われます。
続きまして、参議院の選挙制度に話を移してまいりますが、これは、先ほどの両院の在り方を踏まえますと、立法府を構成するための選挙でありますので、いわゆる政権を監視するという役割もありますし、政策立案選挙であるということが言えると思います。
そうしますと、望ましい選挙制度というのはやはり人物本位の選挙制度。これは、二〇〇〇年に可決した非拘束名簿式の比例代表制、二〇〇一年の参議院選から実際に実施されているものというのはこのような意図、背景があって導入されたものというふうに理解しておりますけれども、政策立案を促す選挙制度というのはどういうものがあるかということで考えていくと、一つは人物本位、比例代表制の下で人物本位というと非拘束名簿式で現行のものをということになるわけでありますが、その中で、一方で、やはり政党の判断で、政策能力がたけている、政策立案能力が高く、そのような活動をされてきている人を、例えば政党の判断で拘束名簿式としてそのような候補者を上位に付けるということもできるような選挙制度、これは私は変動型拘束名簿式というふうに呼んでいるんですけれども、変動型の拘束名簿式の比例代表制。これはベルギーが参考になると思われまして、どういうことをやっているかといいますと、まずは政党のクローズドリスト、拘束名簿式のリストがあります。有権者は、政党に丸をするか、そのリストに掲げられている候補者に丸をするか、日本の今の現在の比例代表制、参議院のものと似たようなものですけれども、その得票が多かった人に関しては順位を上げることができる、こういう意味で変動型の拘束名簿式選挙制度というものがあります。
これは、選挙区における当該政党の得票を獲得議席プラス一で割ったもの、これは当選基数と呼びますけれども、それに達した候補者は自動的に当選すると。達していない場合は、その政党の得票から順に足していって、その当選基数満たした人が当選するというようなことをやっています。政党の得票がなくなった場合は、単純に票数の多い人から当選するというようなことでやっていまして、基本的には政党のその順位順になるんですけれども、やはり有権者によって、この人は当選させたいということで票が十分集まった人に関してはその順位を変えて当選することは可能であると、ある種の折衷案でありますけれども、そういうことが一九一九年よりずっと行われてきています。
政党じゃなくても、この場合、個人でも比例代表選挙に立候補することができるような仕組みづくり、これは一定の政策目的を持った候補者であるとか、一定の運動を重ねてきていて一人でもそういう意味では立候補できると、全国規模の得票を基に当選することができるような可能な仕組みも必要になると思われますし、全体としてこれはメディアの取組も含まれると思うんですけれども、法案を議員立法等で通していくという活動をしっかりと認知していくと、そういう取組も必要であろうというふうに思います。
例えば、法案の提出者の名前、これはアメリカなんかは名前が法案に付いていますけれども、非公式にでもメディア等でそういうものを使うでありますとか、選挙公報等の選挙キャンペーンのときに、どういう立法をしてきたのか、なかなか一人のお名前を挙げるということは難しいかと思いますが、そういう取組をやはり可視化していくということも、参院の特徴といいますか政策立案を重視した選挙、議院、ハウスの院としての意義を出す上では必要かもしれません。
一方で、選挙区選挙をどうするかと、この問題は難しいところがありまして、定数は今都道府県で異なっていますので、政党間連合の在り方が都道府県によって異なっているという問題があります。これは憲法の問題もあるかもしれませんが、都道府県ごとに一定の地域代表も視野に入れる、アメリカ、ドイツ等、岩崎先生のお話にもありましたが、そのようなことも一つの視野に入ってくる点かというふうに思います。あるいは、国民代表という点で、これは憲法上の問題はあるかもしれませんが、世代代表制というような議論があることも承知はしております。
総じて、選挙制度の優劣を付けるということは大変難しいことでございますけれども、参議院に関しては政策立案を促すような選挙制度が望ましいと考えているということを申し添えて、私の意見陳述を終えさせていただきます。
ありがとうございました。