梅林宏道の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(梅林宏道君) 梅林宏道と申します。貴重な発言の機会をいただきまして、ありがとうございます。
お手元にレジュメをお配りしてありますけれども、二つの話題について意見を述べさせていただきます。グローバルな核軍縮の現状、それと密接に関係して日本の核兵器依存政策の転換の必要性という問題であります。
まず、グローバルな核軍縮の現状でありますが、何よりも核軍縮が現在停滞しているというのが大きな特徴であります。二〇一五年のNPT再検討会議が合意文書なしに終わったということが一つ象徴的な出来事でありますけれども、実際にはもっと実質的なところでその停滞が存在をしていると。
まず第一に、核弾頭数の削減が停滞をしているということを申し上げたいと思います。
お手元に図表一をお配りしてあります。それを見ていただきますように、現在、一万五千七百発の核弾頭が地球上にあると。その九四%をアメリカとロシアが保有しています。ところが、図二を見ていただきますと分かりますように、米ロの配備戦略核弾頭数というのは削減が止まって飽和状態になって、二〇一〇年頃以後ほとんど削減が進行していないという現実があります。
二〇一八年までに配備戦略核弾頭を千五百五十発まで減らせるというのが新START条約で米ロが義務付けられていることでありますけれども、実際にはその水準は既に現実に達成されている。にもかかわらず、その次どうするかということについての見通しがほとんど立っていないということであります。それはグラフを見ていただければ非常に分かりやすいと思います。米ロの関係の悪化ということがその背景にあるということは、皆さんも想像していただけるとおりであろうかと思います。
第二に、その米ロが実際には核兵器の近代化に巨額の投資をしているという現実があります。
アメリカにおいては、今後十年に核兵器の維持と近代化に三千五百億ドルを費やそうとしています。これは冷戦期をはるかに超える投資であります。一方、ロシアにおいては、ソ連崩壊後の遅れを取り戻すために野心的な近代化がうたわれてきましたけれども、その結果が今顕著に現れているという状況であります。
詳細は省略いたしますが、レジュメに具体例をアメリカ、ロシアに関して掲げておきました。いずれも二〇二〇年代半ば頃まで、次世代核兵器の建造計画に現在邁進をしているというのがアメリカとロシアの現状であります。近い将来、NPT条約第六条義務に忠実にそれを履行しようという意思が見られないというふうに現状を評価せざるを得ないということであります。
さらに、第三の問題があります。
それは、NPT上の核兵器国、五つの国連安保理の常任理事国でありますけれども、これが共同意思をどのように形成をしているか、核軍縮を達成するというためのどのような話合いが進行しているかということであります。
二〇〇九年以来、NPT条約の履行に関してこのP5は会議を重ねております。これは一つの前進であります。しかし、現在、五か国が核兵器の削減について協議をするという段階には達していません。はるか手前の状態にとどまっているというのが現状です。
フランスは約三百発の弾頭を有していて、アメリカ、ロシアに次ぐ数を有しております。中国は二百六十発ということで、その次の多数の保有国でありますけれども、それぞれアメリカ、ロシアとの差が非常に大きいということで、まず米ロが自分たちの水準に近いところまで削減をせよと、五か国の話合いというのはその後であるという立場を取っています。
私の見解では、米ロが五百発まで減らせるという状況が一つのメルクマールになろうというふうに思っています。
オバマ大統領は二〇一三年のベルリン演説で、千発まで減らしても現在アメリカの安全は保障されるという次の削減の目標を提言いたしました。ロシアはこれに応えておりません。同じ頃、一方、アメリカの軍のこの問題に関係してきたジェームス・カートライト米軍統合副議長、元ですね、は五百発までアメリカの安全を損なうことなく減らせることは可能だという提案をいたしました。これはNGOの報告書の中で行ったものであります。
五百発というのが実現すれば、非常に新しい段階が出てくるだろうというふうに思っています。核抑止論に基づいて必要核弾頭数というのが計算されているわけですけれども、五か国が共通に削減の議論のテーブルに着くとしますと、相互不信が徐々に解消されていくという非常な貴重なテーブルになると思うんですね。そういう意味で、そこを一つのメルクマールとして考える必要があるんではないかと思います。
そういう中で、現在、この状況をどうやって打開しようかという国際的な核軍縮の議論が進行しています。マルチの核軍縮外交、新しい展開の状態にあるというふうに考えます。
先ほど来、話にありましたけれども、二〇一〇年のNPT再検討会議最終文書は初めて人道性の問題を取り上げました。これは初めてなんです。その文言は、核兵器のいかなる使用も壊滅的人道上の結末をもたらすことに深い懸念を表明し、全ての加盟国がいかなるときにも、国際人道法を含め、適用可能な国際法を遵守する必要性を再確認するというものであります。
NPTで初めて登場したこの人道上の結末に対する議論が、その後三つの主催国によって国際会議を開催する運びとなりました。ノルウェー、メキシコ、オーストリアがその三つの国であります。そこにおいては、これまで、日本における被爆経験も含めまして、様々に出てきた核兵器の人道上の諸問題をファクトとしてもう一度整理をしようと、政治的な議論をする前にもう一度ファクトを押さえようという趣旨の会議であります。
そこで現れてきた、改めて認識された核兵器の人道上の結末を踏まえて、当然のことながら法的な禁止ということをそろそろ議論しなければならないというふうにマルチの議論が進行している、しかしそれには非常な抵抗も同時に起こっているというのが現時点だろうというふうに思います。
昨年の十二月七日、国連総会において、メキシコ、アイルランド、オーストリアなどが主導して総会決議、多国間核軍縮交渉を前進させるというものが採択されました。
そこで、公開作業部会を設置して、核軍縮の法的側面の議論をやろうじゃないかということが決定されました。その公開作業部会のマンデート、任務は、核兵器のない世界の達成と維持のために締結される必要のある具体的で効果的な法的措置、法的条項及び規範について実質的に議論するという内容であります。ジュネーブの国連本部において、二月と五月、八月、計十五労働日の限度でこの公開作業部会が開かれようとしているというのが現状であります。
これは小さな始まりでありますけれども、初めて核軍縮について法的枠組みを議論をするという場となります。画期的な新しいマルチの場が生まれているということになります。
しかし、非常に情勢は複雑です。この決議の採択は、賛成百三十八、反対十二、棄権三十四で採択されました。圧倒的多数の賛成があったわけですけれども、P5全てが反対をいたしました。バルト三国、ハンガリー、ポーランド、チェコなどNATOに加盟した東欧諸国の多くは反対をいたしました。カナダ、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギーなどNATO加盟の西側諸国、それから、オーストラリア、日本、韓国というアジア太平洋のアメリカの同盟国は棄権票を投じました。インド、パキスタンも棄権であります。
ここに非常に分岐といいますか、の構造がはっきりとしたということになります。核兵器保有あるいはそれに依存をした安全保障政策を取っている国対核兵器に依存をしない国という分岐がこの公開作業部会をめぐって現れているということです。
それで、日本が是非とも積極的な役割をここで果たしていただきたいわけですけれども、そのためには日本の核兵器政策の転換が求められているということを申し上げたいと思います。
これは時代の要請であるというふうに捉えます。核軍縮外交が停滞をしていて、何とかここを突破しなければならないということでマルチの外交の積み重ねがありました。やっと実現をした法的枠組みを議論する場というものがあります。そこに日本がどういう役割を果たし得るかということが問われています。戦時使用された核兵器の人道上の結末を体験した唯一の国日本が核兵器依存政策のためにここで役割を果たせないというジレンマにあるとしたら、そのジレンマを解消する安保政策に進むということを考えるべきであろうというふうに思います。
日本が核抑止力に依存しない安全保障政策を求める時代的要求というのは、北東アジアを眺めた場合にもあるというふうに考えます。北朝鮮が核兵器開発を合理化している論理をやはり根本から批判しなければならない。北東アジアの安定的な非核化というのは必要なことです。そのためには、核兵器国である米国や中国ではなくて、核兵器に依存しない地域、国家、日本、韓国等がリーダーシップを取るような、そういう構想が必要であります。そのためにも日本の政策の転換が求められているというふうに思います。この決断は事務レベルではとてもできる決断ではなくて、まさに政治レベルのリーダーシップが必要になっている、そういう局面であろうというふうに思います。
非核兵器地帯という選択肢があるということを次に申し上げたいと思います。
一九六四年の中国の核実験以来、日本の安全保障に係る核兵器政策というのは、核武装か、核の傘すなわち核抑止力に依存するかという、そういう二者択一の議論で支配されてきたと思います。日本は強い反核の世論の中で、一九六八年に非核三原則と核の傘という政策を採択いたしました。一方で、グローバルな核軍縮に努力をするという政策の柱を立てました。
しかし、非核兵器地帯を設立するという、核武装か核の傘かということのどちらでもない、核兵器に依存しないもう一つの安全保障政策の選択肢があります。非核兵器地帯というのは、一九六七年にラテンアメリカで初めて成立して、現在まで五つの地帯が国際条約によって実現している実績のある制度であります。
図表三を見ていただいて分かりますように、現在、地球上には五つの非核兵器地帯で、南半球の陸地はほとんど非核兵器地帯になっているということが分かります。
この地帯というのは、三つの要素を全ての地帯で持っていると。一つは、核兵器がないという当然のことでありますが、もう一つは、その地帯に対して核攻撃も攻撃の威嚇もしないという消極的な安全の保証を与える、そういう保証をすべき地帯であるということであります。三つ目は、その条約の遵守、検証を保証するような制度を確立すると。こういう三つの要素を備えて非核兵器地帯というものが国連の一つの安全保障の考え方としても実績があるということであります。
北東アジアでそれをどうするかということについて、私は長崎大学に在任中に具体的な提案をする努力をいたしました。それは、3プラス3と呼ばれる六か国条約を構想するものです。その最初の3は、三つの地帯内国家、日本、韓国、北朝鮮が非核国になる、後の3というのは、その周辺の核兵器国、アメリカ、ロシア、中国が地帯への消極的な安全の保証をする、そういう義務を負うような六か国条約であります。
これによって関係国はウイン・ウインの利益を得ることができます。日本は中国、ロシアの核の脅威から自由になります。北朝鮮はアメリカの核の脅威から自由になります。アメリカと韓国は北朝鮮の核開発を抑え込むことができます。中国は日本の核武装の懸念を払拭できます。そのような構想に向かうということは、日本が被爆国としての立場を据えつつ、国際的な核不拡散・軍縮に堂々と再登場する、そういう基礎になるというふうに考えます。
どうやってそれを実現するかということに関して、著名な国際政治学者であるアメリカの大統領特別補佐官も務めましたモートン・ハルペリン博士が二〇一一年に包括的協定というアイデアを出しました。このアイデアを基礎にして私たちは包括的な枠組み協定というものを構想いたしました。
非常に現実的だというふうに私たちは考えておりますけれども、四つの章から成る協定であります。第一章、第二章、第三章、第四章をお手元のレジュメに書きましたけれども、この地域の安全保障の根幹に横たわっている困難を同時解決するためのセットにしたアプローチというのがこの特徴であります。そのアプローチの一つとして北東アジア非核兵器地帯ができるという構想であります。
北朝鮮を関与させる可能性があるのかという疑問が必ず当然の疑問としてあると思いますが、割と、情勢をフォローしておりますけれども、その可能性は十分にあるというふうに私自身は考えています。昨年の一月には、北朝鮮は、核実験を中止するということと米韓合同軍事演習を中止するということをバーターでテーブルにのせて議論をしたいということを提案いたしました。昨年の十月、国連総会において北朝鮮は、朝鮮戦争の停戦協定を平和協定に変えるという交渉を、国連七十周年、今こそそれをやるべきだということで、その用意があるということを演説をいたしました。そのような手掛かりが十分にあるという認識であります。
御清聴ありがとうございました。