大沢真理の発言 (国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会)

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○参考人(大沢真理君) それでは、意見を述べさせていただきます。
 今日は、このような機会を頂戴いたしましたことに厚く御礼申し上げます。
 目次が最初のページに簡単に書いてございますが、大きく分けて二つの部分でございます。(資料映写)
 一番目、最初が、そもそも経済成長しているのかどうか、していないということになるわけですけれども、なぜ成長しないのかということを若干データに基づいて述べてまいります。それから、後半部分では、日本は相対的貧困率がOECD諸国の中で有数の高さ、貧困率の高い国でございますが、その原因としては、政府による所得再分配機能が低いことにも原因があるということを申し述べてまいります。
 まず、国内総生産の推移でございます。これは季節調整をした名目と実質の額でございます。青が実質、赤が名目でございまして、この期間の全てにわたって実質の方が上に出ていると。デフレーターは二〇〇五年ということでございますけれども、デフレの影響としてこのようなことになっております。
 御承知のように、安倍政権成立いたしまして、二〇一三年の当初からでございますけれども、なかなか期待されるような経済成長の実績を上げておりません。そこがまず第一点でございます。今後の目標としてはGDP総額六百兆円を目指すということも言われておりますけれども、なかなか名目で五百兆円の辺りでとどまっておりまして、あと百兆円どうやって増やすのかという大問題を抱えております。
 それから、GDPの中では、今日ではサービス経済の比重が高いわけですけれども、元は物づくり、鉱工業生産というところにあるとすれば、その鉱工業生産指数はどうなっているかと見ますと、二〇一〇年の水準を超えることが難しい状況でございます。岩手県や宮城県では復興特需があるはずでございますけれども、一時期を除いて全国よりも低いという実態にございます。
 それから、いかなる要因によって経済成長しているのかしていないのかというのを需要項目別に見たグラフがこれでございます。年率換算で実質季節調整系列で寄与度を見たものでございます。
 御覧いただきますと、ここ数年、二〇一〇年くらいから直近にかけて、やはり成長を引っ張っているのは民間最終消費支出でございます。赤いグラフが上に出ていれば、黒の折れ線グラフ、GDP成長率も上に出る、民間最終消費支出が振るわなければマイナス成長となると。これをもう少し遡りますと、例えば小泉政権の時期などでは、純輸出が経済成長への寄与度が高いという時期がございました。もっと遡って、いわゆる高度経済成長期、これはもう民間最終消費支出が成長を引っ張っておりましたので、近年の状況はやはり民間最終消費が頼りだというものになっております。
 では、民間最終消費はなぜ振るわないのかと。これは月別の実質消費支出、二人以上世帯について見ております。前の年の同じ月に比べた増減率でございます。
 見られるように、安倍政権になりましてから、なかなか上の方にはグラフが伸びていない、マイナスが続いているわけでございます。直近の三月もマイナスの幅が大きくなっております。このように、家計消費が低下をしていては経済成長しないのが道理というものでございます。
 では、なぜ消費は湿ったままなのかということですが、一番明らかな原因は実質賃金の低下にございます。これは月別実質賃金指数で、二〇一〇年の平均を一〇〇とした推移を見てございます。決まって支給する給与、これには非正規、パートを含んでいます。超過勤務手当、いわゆる残業手当を含みますが、ボーナスは含んでおりません。五人以上事業所の産業計で見たものでございます。
 見ていただけるように、二〇一三年の七月からほぼつるべ落としと言ってよい状況に実質賃金低下いたしまして、二〇一五年になってからはもみ合いの状態でございます。もみ合いになっているというのは、二〇一三年、二〇一四年は物価が上がっておりましたので、実質賃金は、名目が上がらなければ実質で下がると。ここのところは物価がまた上がらなくなりました。貴調査会のテーマでございますデフレ脱却ということに関して言えば、再びデフレ状態に戻ったかの感がございます。このように実質賃金が低下をしては、消費の不調というのはこれもまた道理と考えます。
 次に、雇用はどうなっているのかでございます。正規の雇用者数を棒グラフ、それから非正規の比率を赤い折れ線グラフで示しております。
 二〇一三年以来、雇用の増加は非正規が中心で、正規は低下基調にございます。四半期ごとに見ておりますので、上下動があることがお分かりいただけるかと思います。一―三月に正社員というものは減ります、これは定年退職等の影響。そして、四月は新卒、正社員採用があるので、四月―六月期というのは増えるという変動がありつつも、非正規の比率が高まってきているということが見て取れるかと思います。
 では、非正規でも働く人の総数が増えて、国民全体、働く人全体としての収入が増えているならばよいではないかという議論も時々聞くわけでございます。そこで、雇用者報酬総額というものを実質と名目の両方で取ってみました。
 御覧いただけるように、実質というのは、二〇一〇年から一二年ぐらいにかけては実質雇用者報酬総額は伸びておりましたが、その後、二〇一三年から低下しております。直近の一年半くらいでやや上昇はしておりますけれども、まだ二〇一三年、二〇一二年当時のレベルを満たしておりません。赤いグラフの名目だけ見て雇用者報酬総額が増えているという議論は、デフレ脱却を目指し安定した物価上昇を目指すという政策目的に照らせば、実質と名目の両方を見る必要があり、実質でも雇用者報酬の総額は増えていない。
 更に問題なのが緑のグラフでございます。雇用者報酬総額という数値には、雇主が負担している社会保障負担が入っております。社会保険料率は次第に上がっておりますから、雇用者報酬総額の中での働く人の取り分、名目現金給与を見ると傾向的に下がっており、近年でもなかなか上昇基調にはございません。これの実質も取れればいいんですけれども、今日はここまでということでございます。
 国際比較するとどうなのかと。これは労働時間当たり雇用者報酬の伸びを九五年を一〇〇として見ております。労働時間当たりというところが一つのポイントでございます。
 例えばドイツのような国は、リーマン・ショックの経済危機というのを雇用を減らさず労働時間を減らすことで乗り切ってまいりました。なので一人当たり雇用者報酬で取ってしまうと減るわけですが、労働時間当たりで取れば、要するに実質時給というんでしょうか、ドイツも伸びているということが分かります。独り日本だけが低下をしておりまして、残念ながらデータが二〇一三年の初めで切れておりますけれども、先ほど申し上げたように、安倍政権では更に実質賃金が低下しているということに注意する必要があります。
 さて、貧困率の問題です。
 このグラフは、年齢階級別にG5とスウェーデンを取りまして、相対的貧困率を取っております。今、国際比較をできる直近の時点というのが二〇〇九年になります。
 そこで比較をしますと、日本のグラフ、赤で示しておりますけれども、アメリカと並んでOECDワーストクラスにございます。分配も劣化したわけですけれども、つまり雇用が非正規化し実質賃金が低下するという意味で分配は劣化してきているわけですけれども、さらに再分配が逆回転をしていることが痛いというお話をこれから申し上げます。日本は、中高年のところではアメリカよりも貧困率が高くなっているということに御注意いただきたいと思います。
 日本の経年変化でございます。かつて、一九八〇年代の貧困というのは高齢者の問題だったということが分かります。最近にかけては、前期高齢者の貧困率はかなり低下いたしました。年金制度の成熟を物語っております。しかし、子供から中年層で貧困率が上昇してまいりまして、子供の貧困というのが大きな政策課題になっているところでございます。
 しかしながら、同時に注意していただきたいのが、十八歳から二十五歳のところの貧困率は更に深刻であると。日本の十八歳から二十五歳というのは親と住んでいる比率が高うございます。先ほど、前のグラフ御覧いただきますと、アメリカもそうなんですけど、スウェーデンのような高齢者のところでは貧困率を抑えている国でも、若者のところは貧困率は高いです。これは親の世帯から自立をしているということを反映していますが、日本の場合は、親の家からなかなか出られないのに、なおかつ若者の貧困率が高いという問題がございます。
 次に、ちょっとデータは古いんですけれども、現役人口にとって政府による所得再分配がどのくらい貧困率を削減するのかと。政府が所得再分配をしないと、例えば十人のうちの四人が貧困だったとする。所得というか、税金を取り、社会保険料を取り、そして社会保障給付をした結果、つまり所得再分配をした結果として貧困者が四人から二人に減れば、五〇%削減をしたというふうな取り方になります。これを現役人口に取って、世帯類型を分けて比べております。
 そうしますと、日本のグラフは、唯一ここでマイナスにグラフが出ているわけでございます。この青いグラフは成人全員が就業する世帯、つまり夫婦共稼ぎ、あるいは親子共稼ぎ、一人親で働いている、単身者で働いているという世帯にとっては、政府の所得再分配による貧困削減率がマイナス八%近くなっております。政府が所得再分配しなければ貧困にならなかったはずの人たちが貧困になっているということを意味しております。OECD諸国の中で最も貧困削減効果の低い税・社会保障制度を日本は持っているということと同時に、マイナスになっているというのはとにかくこの時点のこのデータでは日本だけでございます。
 その後、日本国内でより精密なデータを使った分析も行われておりますが、やはり政府による所得再分配後、貧困率がかえって高まるということが慶応大学の研究プロジェクトなどで確認されておりまして、その主な原因は社会保険料負担にあるということも判明しております。
 さて、グラフが細かくなってまいりまして恐縮ですけれども、子供二人いる世帯、それを一人親、それから夫婦のうち一方が働いている片稼ぎ、それから共稼ぎA、共稼ぎBと、そして参考までに単身者ということで純負担率を見ています。
 純負担は、所得課税と社会保障拠出に対して現金給付を控除したもの、これが税込み収入に占める比率になっております。世帯の税込み収入は平均賃金に対する比率ですから、一人親の六七%というのは平均賃金の六七%を稼いでいるということになります。ちなみに、フルタイムに近く働いていて、労働者の社会保険を適用されているということがこの国際比較データの前提でございますので、日本でいえば国民健康保険であるとか基礎年金の第一号被保険者であるとかといったケースはここには含まれておりません。一人親ということでいえば比較的恵まれたケースになります。日本の国民生活基礎調査や母子世帯等実態調査によれば、日本の一人親世帯の八割は平均賃金の六七%に満たない収入になっておりますので、比較的恵まれた一人親世帯であるということを見ていただきたいと思います。
 日本、スウェーデン、オーストラリア、ドイツというふうに比べております。特徴は、日本は低所得の世帯、これは一人親世帯というふうに設定されていますけれども、の負担は高く、高所得のところの負担は相対的に低いと。つまり、制度の全体として累進性が低いというところが一つのポイントでございます。
 もう一つが、この時点で純負担率が大きく下がっております。単身者のグラフが下がっていないことと、それからバックデータを見ますと、これは明らかに子ども手当が導入された効果になっております。低所得の子供がいる世帯ほど純負担率が大きく下がり、グラフの間もばらけていると。つまり、子ども手当という制度は非常にめり張りの利いた低所得者に対するてこ入れの制度であったということが分かります。
 もう一つ見ていただきたいのがオーストラリアのグラフでございます。グラフ、一人親にとってはマイナスになっております。つまり、税も社会保険料も全く払わなくていいだけでなく、現金給付を受けているということでマイナスの純負担になっております。
 このグラフには出ておりませんが、アメリカやイギリスでもそういった一人親世帯にとってはマイナスの純負担が見られます。そうしたマイナスの純負担をもたらしている政策手段というのは、オーストラリアに関しては直接の現金給付、児童手当でございます。イギリスやアメリカの場合には、現金給付とそれから給付付き税額控除の合わせ技になっております。
 これは、直近の二〇一四年の純負担率を子供二人の世帯で、その中から一人親で子供二人、それから夫婦のうち片方が働いている世帯、やはり子供二人、比較のために単身者の世帯を取り出して、横軸には税込み賃金収入の平均賃金対比で五〇%から二五〇%を見たものです。
 このグラフが示しているのは、まずグラフの勾配ですね、こういう、傾きが制度の累進性を表します。つまり、低所得の人の負担が軽く、そして、給付が比較的低所得の人に厚いということをこのグラフの傾きが示すわけでございます。そして、イギリスとオーストラリアは、低所得のところで大きくマイナスの方にグラフが伸びているということが見ていただけるかと思います。日本のグラフの特徴は、傾きがほとんどない、ほとんど累進性を持たない制度になっているというところにございます。
 それから、この範囲の所得のレベルを通じて、一貫して一人親よりも片稼ぎ世帯の負担が低くなっております。ドイツもそうです。一方、イギリスとオーストラリアは、一人親と夫婦のうち一人が働いている片稼ぎ世帯、子供が二人いるという前提の中では負担は全く同一でございます。オーストラリアが低い方で現金給付が増えるので、青いグラフが下に更に出ます。
 日本とドイツのこのような、要は、片稼ぎ世帯で子供が二人いますと一人の稼ぎで三人扶養している、一人親世帯で子供が二人いると一人の稼ぎで二人を扶養している、この扶養の負担を考えれば赤いグラフが下でもいいのではないかという考え方もあろうと思いますが、そういう考え方を取らないイギリス、オーストラリアのような国もございます。
 日本のこの一人親の方が負担が重くなるというのは、配偶者控除制度の効果でございます。ドイツの場合には、夫婦の所得を合算した上で二で割ることができるという二分二乗制度のために、夫婦で片稼ぎの世帯が負担が一貫して軽くなっているというものでございます。
 最後に、国民の生活と信頼のために必要なことを大ざっぱに申し上げさせていただきます。
 まずは、正社員と非正規労働者の待遇の格差を解消する必要がございます。その効果は、結婚したい人が結婚できるようになり、子供を産み育てたい人の希望も実現しやすくなると。政府の輝くパッケージは、非正規の処遇改善をうたっていらっしゃいますが、格差解消まで踏み込む必要がございます。今、官邸ではその検討をなさっているようですので、大いにその結果に期待したいと思います。それから、所得再分配機能を強化する必要があります。その手段としては、直接の現金給付、それから給付付き税額控除、そして高所得者に応分の負担を求める上で、配偶者控除の廃止はその手段となり得ます。それから、学校教育への財政支出を増やすこと。
 結論として、貧困を解消すれば社会全体の質が良くなり、災害や経済危機に対しても強靱になりますし、経済成長のボトムアップも期待できるということを申し上げて、私の意見陳述を終わります。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 大沢真理

speaker_id: 31015

日付: 2016-02-10

院: 参議院

会議名: 国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会