スティーブン・ギブンズの発言 (法務委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(スティーブン・ギブンズ君) ありがとうございます。
 スティーブン・ギブンズです。アメリカ出身ですが、今まで人生の半分は日本に住んでいます。一九八二年にハーバード・ロースクールを卒業し、アメリカの弁護士資格を取得しました。その後、長い間、ニューヨーク、それから東京で企業の国際取引業務を中心にやってきました。十年前から、もう一つの仕事として日本の幾つかの大学でアメリカ法を教えています。現在は、上智大学法学部専任教授としてアメリカのロースクール教育の基礎となる科目を教えています。担当している科目は、アメリカ憲法全般、そして言論の自由を保障する米国憲法修正第一条の専門的な授業を含みます。
 今日は、アメリカ憲法、特に修正第一条の視点から日本のヘイトスピーチ法案についてコメントします。もちろん、日本はアメリカ憲法とアメリカ最高裁判所の判決に従う必要はありません。しかし、皆様も御存じのとおり、アメリカの歴史、アメリカの憲法の歴史は、人種差別と平等及び言論の自由の理念と深く関わっており、少なくとも参考材料になると思います。
 まず、結論からいいますと、仮にヘイトスピーチ法案をアメリカ最高裁判所の判断に委ねることになったとしたら、法案第三条第一項の特定の者について、その者の人種等を理由とする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動を禁じる条文及び同条第二項の不特定の者について人種等共通の属性を理由とする不当な差別的言動を禁じる条文は、アメリカ憲法修正第一条に抵触して違憲とされることは明確です。実際、アメリカが人種差別撤廃条約に加盟したときには、一つの条件として条約のヘイトスピーチ関連の条項を除外しました。
 アメリカ憲法修正第一条は何かといいますと、その根本的な考え方は、国家が国民にいわゆる正しい思想や発言を押し付けること、逆に、国家が不適切とされている思想、発言を禁じ、処罰することは憲法上できないというものです。修正第一条は、ヨーロッパの絶対君主制や宗教迫害から逃げるために大西洋を渡った建国の父たちの基本的な価値観を反映していると言えます。
 この原則によって、幾ら過激であっても思想の表現、例えばナチス風にユダヤ人をやじるデモ、クークラックスクランの十字架燃やし大会、同性愛者は罪人であると叫ぶキリスト教原理主義者のパレードを行う権利は、全て憲法上保障されています。このことは数多くの最高裁判決に見ることができます。もちろん、多くの人はこのような行いに対して強い嫌悪感を感じます。私自身も、道端で在日特権を許さない市民の会のうるさいデモを見ると嫌な気持ちになりますし、街宣車もやめてほしいと思うことはしばしばあります。
 蛇足ながら、更に申し上げますと、不用品回収トラック、駅前での議員のメガホン演説、騒音選挙カー、ニューアルバムの広告トラックを全面的に廃止できないかと思うこともありますが、残念ながら言論の自由の裏面は、聞きたくない情報も耳や目に入る不都合と不快です。
 法案第三条第一項及び同条第二項は、先ほど述べたとおり、アメリカ憲法修正第一条に抵触して違憲となると考えますが、それらの規定に表れている問題点として、二つほど申し上げます。
 一つは、条文には非常に曖昧な主観的な解釈によって意味が大きく異なる文言が含まれています。侮辱という文言は刑法で使用されていて、その意味が明確化されていると聞いていますが、その他の嫌がらせ、迷惑、不当、その他の差別的言動などが挙げられます。どのような発言、どこまで言っていいのかは極めて不明確です。
 もう一つは、条文に曖昧な文言が含まれていることと関係しますが、重要な政治社会問題に関して活発な、そして率直な議論ができなくなったりすることも容易に想像できます。移民問題、慰安婦問題、教科書問題、観光客マナー問題、率直な議論ができないと、日本の国民は大きく損をすると思います。
 また、法案第三条のような禁止規定が仮に設けられたとしても、この規定は実際のところ救済を定めていないものだと理解しています。ということは、仮に誰かが条文に引っかかる差別的言動を行ったとしても、警察も被害者も法的には何もできないような結果になります。先ほど述べたような、曖昧で率直な議論ができなくなることは大きな問題ですが、救済のない禁止規定を設けることにどれほどの意味があるのか疑問を感じます。
 以上です。ありがとうございます。

発言情報

speech_id: 119015206X00420160322_006

発言者: スティーブン・ギブンズ

speaker_id: 20281

日付: 2016-03-22

院: 参議院

会議名: 法務委員会