小池振一郎の発言 (法務委員会)

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○参考人(小池振一郎君) 弁護士の小池と申します。
 このような機会をいただきまして、ありがとうございます。
 私は、日弁連の中で監獄法改正等、様々な活動をしてまいりました。主に刑事関連の委員会で活動してきましたけれども、今回は、この法案につきましては日弁連とは反対の立場で意見を述べさせていただきたいと思います。
 先日、今市の事件判決がありましたけれども、これは各方面に衝撃を与えました。商標法違反という別件逮捕から始まった事件ですが、その別件起訴された日に検事取調べで初めて自白したと、殺害を自白したと言われております。しかし、その過程は録画されていません。それまでに警察での取調べがあったと思われますが、録画されていません。その後も、殺していないと言ったら平手打ちをされて、額を壁にぶつけてけがをしたと、こういう場面が警察の取調べであったようですけれども、これも録画されていません。殺してごめんなさいと五十回言わされたとか、自白すれば刑が軽くなると、こう言って取り調べられた場面は録画されていません。被告人は、死刑になるよりも、少しでも軽い罰を受けるという選択をして自白をしたものと思われます。
 別件逮捕から本件殺人での起訴まで五か月間ずっと代用監獄に収容され、取り調べられています。起訴後も一か月半たってようやく拘置所に移されました。
 裁判員裁判の法廷では取調べの録画が再生されました。約八十時間の警察、検察の取調べ録画を七時間余りに編集したものです。判決は被告人に無期懲役を言い渡しました。客観的事実のみからは被告人の犯人性を認定することはできないと断定し、自白供述をよりどころにして犯人性を認定しています。判決後の記者会見で裁判員が、録音、録画がなければ判断できなかった、録画を見なければ違う結論になったかもしれないと正直に述べています。自白の重要な部分で客観的事実と矛盾するところが随所にあったようですけれども、客観的証拠ではなくて、取調べの録画で有罪の心証を取ったわけです。
 判決は、自白は実際に体験しなければ語れない具体性に富んでいるとして自白供述の信用性を認めていますが、これは大体常套文句ですね。犯人でないと分からないとされる事実も、裏で捜査官が教えれば難なく具体的な供述はできるのです。さらに、捜査官に迎合するために想像をたくましくして一生懸命創作することもしょっちゅうあります。隣の桜井さんは、自らそういう形で想像しながら自白供述をしたというふうに聞いております。
 パソコン事件では、逮捕された無実の四人のうち二人が自白しました。今回の法案作成のきっかけとなった郵便不正事件では、調べられた十人のうち、村木さんを含めて十人調べられているんですが、そのうちの五人が村木さんの関与を認めているんです。全て真っ赤なうそなんですね。約五〇%、半分が、無実であるにもかかわらず、自白を強要されれば、あるいは捜査官の筋書に沿った供述を強要されれば、その場の苦しさから逃れようとして半分の人が大体取調べ官に迎合した供述をする、それほど取調べはきついものだということを認識していただきたいというふうに思います。
 取調べで屈服させて人格を丸ごと支配し、代用監獄で二十四時間監視し、そして自白を強要する、そこは録画しないで、想像も交えながら身ぶり手ぶりで具体的に言われたとおりの供述をする場面は録画する、そして、その部分だけが証拠提出されて、裁判員たちがその録画で、うん、なるほど、身ぶり手ぶりで真実性があるということで、そこで心証を取る、これはたまったものではありません。ビデオが視聴覚に訴える力は圧倒的に強いものです。捜査側に都合のいいところだけ一部録画されていると分かっていても影響されます。
 今市判決は、七時間余りの録画を見て有罪としたのです。取調べの録画がこのような使われ方をしていいのでしょうか。法案が成立するとどうなるかと。今市のこのような事態が改善されるのでしょうか。
 まず、商標法違反というものは裁判員裁判の対象事件ではありませんから、法案が成立しても録画の対象にはなりません。別件逮捕による取調べは録画なしで行われます。本件の殺人での取調べは法案では原則録画しなければならないという建前になっています。しかし、自白を強要する場面は実は録画しないで、屈服させた後、犯行内容を淡々と語る場面を録画して自白調書を取るおそれがないと言えるでしょうか。
 法案では、その自白調書を証拠請求し任意性が争われると、その取調べの録画を証拠申請しなければなりません。そうしなければ自白調書の証拠請求が却下されます。しかし、その自白調書というのは、調書が作成されたときの取調べの録画だけを証拠請求すればいいんです。最初から最後まで、何日も、百日も掛かるその取調べの、今市でいうとそういうぐらい取り調べられているんですが、その全部の録画がなくても、当該の自白調書、その一つの回の午前中なら午前中、午後なら午後だけかもしれません、その取調べのときの自白調書を証拠申請するときにはそのときの録画だけ申請すればいいと。まさにこれでは尻抜けということになるのではないでしょうか。
 法案の建前は、そうはいっても、全過程可視化を原則としておりますから、録画する義務は一応あるわけです。しかし、自白に至るまでの録画がなくてもペナルティーがないんですね、それを録画しなくても。ペナルティーがないわけです。
 先日のここでの討論で政府答弁がありました。そういった場合には懲戒の対象になる、全過程録画しない場合には懲戒の対象になるという政府答弁がありましたけれども、これは対象になるというだけであって、実際に懲戒するかどうかは疑わしいし、刑事訴訟法の手続でも何でもないわけです。これでは全過程可視化義務付けといっても名ばかりで、実際は部分可視化を容認するという抜け穴だらけだということが言えると思います。
 それから、法案では全過程可視化の例外規定を幾つも設けています。可視化すれば自白が得られそうにないというふうに取調べ官が認めた場合には録音、録画しなくていいという例外規定なのです。これが活用されますと、要するに、自白しそうにないときは録画しない、自白しそうなときは録画するという、単に仕分するだけであって、例外規定でも何でもないというふうに思います。
 このような形で取調べ官が例外規定に当たるというふうな形で録画しなかったというふうになれば、今度はそのときの自白調書を証拠申請しても、録画がなくてもオーケーということになるわけです。法案は部分可視化を容認する役割を果たしています。
 今市事件のように、自白に至るまでは録画しないで犯行内容や心境を語らせる場面を録画して、その部分録画が証拠として採用され、裁判の心証がそこで取られるということは、法廷ではなくて、弁護人の立会いもない密室での取調べの録画で裁判の心証が取られるということであります。これはおよそ公判中心主義とは言えません。公判中心主義の裁判とは言えません。
 したがって、元々この取調べの録音、録画というものは、これは公訴事実を直接証明するための実質証拠として採用されることには疑問がありました。余り提出されませんでした。ところが、昨年の二月十二日、最高検依命通知で、録音、録画を有罪立証の実質証拠として検討するようにとの方針を出しました。
 法案は、自白調書を証拠申請する以上、その任意性が争われれば、そのときの録音、録画を証拠申請しなければならないとされていますから、一応義務として録音、録画が証拠申請されることになるわけです。ビデオ録画の恐ろしさというものは先ほど指摘したとおりなんですけれども、自白調書の任意性判断という名の下で、義務としてビデオ録画が堂々と証拠採用される。これがどんどんどんどん増えていくということになれば、事実上、これで裁判員たち、裁判官も含めて心証を取ることになりますので、実質的証拠として機能するだろうと思います。
 法案は、今市事件のやり方を更に前に推し進める役割を果たします。捜査段階ではなくて公判廷で心証を取る近代刑事司法にしようということで裁判員裁判が始まったはずなのに、法案は、ビデオ録画を法廷に次々と証拠提出することによって公判中心主義の破壊に道を開くものであり、捜査段階の取調べに依存する方向への逆戻りになるわけであります。それを促進していることになると思います。
 先ほどの最高検依命通知は、法制審答申が出された後、法案が国会に提出される直前に出されました。ビデオ録画が裁判員裁判でこのように任意性立証のためだけでなく実質証拠としても使えると、そういう方向がどんどん進んでいけば、本当にこの刑事司法というものはどうなるかということで、大変なことになるだろうと思います。
 恐らく、この法案を推進してきた人たちも、ビデオ録画がこのような形で使用されるとは想定していなかったんではないでしょうか。全過程可視化が現実に実現することが前提でこの法案を推進してきたと思いますが、実際には抜け穴だらけのこの法案が成立しても、むしろ悪くなるだけだというふうに思います。一歩前進どころか、むしろ改悪になるというふうに言わざるを得ません。
 次に、司法取引です。
 余り時間がなくなりましたのではしょりますけれども、これまでも司法取引は事実上ありました。司法取引が合法化されれば、不起訴になるという確実な保証が得られますから、他人について捜査官の期待に沿うように供述しようというインセンティブがより強く働くでしょう。冤罪が格段に増えると思います。会社や労働組合の団体が狙われます。下っ端を捕まえて司法取引してトップを捕まえるということがこのシステムでできるわけです。
 弁護人の同意が必要だとされていますけれども、弁護人は、その共犯者の事件について、何が真相かということについても、そのターゲットとされる事件については証拠開示されませんから、真相が分からないわけです。弁護人は依頼者の利益のために取引に応じざるを得ず、その依頼者が言っていることはどうかなと思っても、不本意ながら冤罪に加担するおそれが出てきます。
 自らが有利な取扱いを受けるために他人を罪に陥れる危険がこの司法取引制度には内在していると言わざるを得ません。法案で司法取引を合法化することになりますと、事実上、今まで行われていた裏取引というものも無感覚になって、ますます増えるということになると思います。
 アメリカでは合法とされている司法取引ですけれども、実際は裏取引で行われるというケースが八〇%ぐらいあると言われています。司法取引というのは表と裏で相乗作用を起こし、密告社会をつくっていくことになりかねません。
 終わりに、刑事訴訟法というものは国の根幹に関わる法律です。政局やメンツに左右されず。強行採決するような性格の法律ではありません。そんなことをすれば世界中の恥さらしになると思います。今市事件をきっかけにこのビデオ部分録画の危険性というものが明らかになった以上、改めてこの法案を一から見直すべきだというふうに思います。
 以上です。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 小池振一郎

speaker_id: 31563

日付: 2016-04-19

院: 参議院

会議名: 法務委員会