桜井昌司の発言 (法務委員会)
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○参考人(桜井昌司君) 布川事件という冤罪事件を体験しました桜井と申します。衆議院の法務委員会に続きまして、参議院の方にもお呼びいただきまして、ありがとうございます。
昨年の六月の当時と私たちの危機感は全く違います。今、小池先生がおっしゃったように、今市事件の結果は、五十年前の私たちと同じように、この刑訴法改正の部分可視化によってますます冤罪をつくるものという確信になりました。今日は、鹿児島の志布志事件の川畑幸夫さん、そして栃木の足利の菅家利和さん、東京で築地警察署公妨事件、冤罪事件の二本松進さんが同じ危機感を持ってこの会場に来ています。
先日、私たち冤罪被害者は法務委員会の皆さんに文書をお届けしましたけれども、お読みいただいたでしょうか。私たち、あの事件に名を連ねました東電OL殺人事件のゴビンダさん、志布志事件の藤山さん、袴田事件の袴田秀子さん、そして氷見事件の柳原さん、痴漢冤罪事件の矢田部さん、石田さん、そして、新しく冤罪の仲間となったといいますか、大阪東住吉事件の青木さん、あるいは鹿児島のレイプ事件、天文館レイプ事件の岩元さん、全てが同じようにこの刑事訴訟法の一部改正に危機感を持っています。
私たちが反対しますのは、簡単なんですね。委員の皆さんやそして国民の多くの皆さんと違うのは、私たちは体験として警察の悪辣さを知っているということなんですね。河津先生、大澤先生のお話を聞いて、五十年前が懐かしいなと思いましたね。私も警察は信じていました。多分、ここにいらっしゃる川畑さんも菅家さんも二本松さんも同じだったと思います。こういう冤罪にならないと、警察がどんなひどいことをするということが分からないんですね。残念ながら、警察は証拠を捏造します。証拠を改ざんします。
平岡義博さんという科学者がいらっしゃいます。科捜研に勤めていらっしゃいまして、今は退職して、日本でも始まりましたイノセンス・プロジェクトの一員として活動されています。この方が「法律家のための科学捜査ガイド」という本を書きました。科捜研に勤める者が警察からどんな圧力を受けて科学的事実をねじ曲げてしまうのか、率直に書かれています。
元北海道警の原田宏二さんは「警察捜査の正体」として、本を書かれました。警察が真実を離れて、正義を離れて、どんなあくどいことをするかということを御自身の体験に重ねて書かれているんですね。
私は、このような警察に全面可視化を義務付けるのではなくて、捜査官の裁量によって録画しなくてもよいというような可視化法案を与えて、まともな可視化すると思えないんですよ。あり得ません。
今、小池先生がおっしゃったように、今市事件では、裁判員の方が何か映像を見て、動揺しているとか泣いているとか笑っているとか、そういう映像が非常に犯人として理解できたとおっしゃっていますけれども、無実の人が取調べを受けて、その苦痛に負けて人殺しの罪を認めるんですよ。その意に反した殺人事件の自白をするのに泣かないはずないじゃないですか。動揺しないはずないじゃないですか。当然のことなんです。そのような映像を見て、なぜ犯人と確信できるんでしょうか。
事の本質は、その動揺するに至った、泣くに至ったその取調べそのものだと思うのに、それが映像されない、今度のような一部可視化法案で本当に冤罪が防げるんでしょうか。私たちは、全くそう思われる委員の方たちの心根が理解できません。
先日、ここでも仁比さんが、法務省にいられる検察官の林眞琴さんという方に、布川事件の録音テープがあるから聞いてみたらとおっしゃってくださいましたね。そうしたら、何か林さんは、プライバシーだとか言って出さないとかおっしゃっていましたね。私たち、本当に何聞いてくださっても、今更プライバシーなんてありませんので、是非議員の皆さん、聞いていただきたいんですよね。菅家さんも多分、聞かれて困るようなプライバシーないと思います、今更。
私の自白テープと言われるものを聞いていただければ分かりますけど、私、当時二十歳でしたけれども、警察におまえが犯人だ、おまえと杉山だ、見た人がある、認めないと死刑だ、朝から晩まで責められて、うそ発見器に掛けられて心が折れました。そして、心ならずもやったとうその自白をしてしまいました。
うその自白をするんですから、それは明るい声じゃしゃべれないですよね、もちろん。淡々と暗い声でしゃべっていますよ。私自身が聞いても、あの録音テープを聞くと、これなかなか迫真性があるなと思うんですよね。多分、今委員の皆さんがお聞きになっても、あれ、桜井ってこれ犯人じゃないか、もしかしたら誤解されるかもしれません。そういう中身ができるんですね、誰でも。それに今度は映像が付いて、その泣いたり動揺したりというそこに至る映像が撮られなくて、果たして本当に冤罪が防げるんでしょうか。犯人だとだまされなくて済むんでしょうか。
私、今市事件のあの裁判員の方たちのコメントを聞くまでは、この裁判員制度というものに期待しましたし、一部とはいえ録画することによって真相を分かってくれる人がいるんじゃないかと期待しましたけど、全く無駄だということが分かりました。残念ながら、河津先生や大澤先生がおっしゃるような第一歩にはなりません。その第一歩は、多分たくさんの冤罪事件がつくられる第一歩になるだろうと私たちは確信しています。
可視化の問題というのは、検察庁ではなくて警察が問題です。警察が殴ったり蹴ったり脅したりうそを言ったり、身体的、精神的に苦痛を与えてうその自白をさせるわけですけれども、その苦痛を映像にしないで、なぜ犯人として自白できるのか、あるいは犯人として語れるのかは明らかにできないと思うんですよね。検察庁の可視化というのは、私たち余り問題にしていません。警察が全てを可視化されれば、冤罪は格段に防げるだろうと思っています。そのことを是非委員の皆さんには御理解くださって、是非是非私たちの録音を聞いていただきたいと思います。どんなに一部可視化というものが危険か、お分かりいただけると思います。
費用とかいろんな面があってといいますか、現実性があってと先ほど大澤先生もおっしゃっていましたけれども、冤罪の苦痛と困難、苦難というのは、罪の重さではありません。痴漢冤罪事件、僅かな微罪でも人生が狂ったり家庭が崩壊したり、本当に人生そのものを失ったりするんですね。私たちは、決して重い事件だけが冤罪仲間じゃないですし、苦しんでいると思っていません。私たちは全ての冤罪事件を可視化してほしいと思っています。
先日のこちらの審議会の議事録を拝見しましたら、可視化に掛かる機械の費用とか、何人かの方が質問なさっていましたけれども、衆議院でも申し上げましたけれども、可視化の問題というのは、全てをまず現実的に始めようとしたらICレコーダーでもいいわけですよね。アメリカでは既にボディーカメラの装着というものまで進んでいます。なぜ日本では全面可視化すら実現できないんでしょうか。警察の言うがままに、あるいは検察の言うがままに、こんな不完全な一部可視化になってしまうんでしょうか。私は、委員の皆さんに、是非冤罪をなくすために、全面可視化となる方向に示したこの法案の改正、修正、必ず必ずしていただきたいと願っています。
私たちは、この一部可視化の代わりのように、引換えのようにして他人を冤罪に引き込む司法取引には全く反対です。これも一定の、何というんですか、方向性が期待できる、あるいは偽証があると大澤先生おっしゃいましたけど、検察官が偽証として捉えるのは、裁判で問題になるのは、きっとあの人が犯人だよといったのが、いや違うよといったケースしかないんですよね。検察官に迎合したのを否定したときにしかこの偽証罪は使われないんですよ。今までもそうじゃないですか。たくさんの冤罪事件の中で、たまたま真相を告白しようとした警察官がどんな苦難な生活を送ったか、静岡県の事件で、先生方、御存じないでしょうか。
私たちは、残念ながら、警察の悪辣さを知ってしまったために警察を信用するという気持ちになれません。警察官の立会いで盗聴を防ぐなどという、このような修正ができ上がること自体信じられません。
そして、この司法取引の修正が、検察官がと書いてあるんですね。司法警察員はないんですけど、これはどうしてなんでしょうか。司法取引が警察でつくられて、検察官のところまで行ったらどうなるんでしょうか。
そして、合意のための協議の際に弁護人が常時関与することとしたということが一定の歯止めになるとおっしゃいましたけれども、取調べそのものに立ち会えるんでしょうか。弁護士のいないところで検察官と調べられる者が一定の合意の話をして、さあ、その後、弁護士さんが来てくださいといって、果たして冤罪を防ぐ司法取引は防げるんでしょうか。全く夢物語のようにしか私たちは思えません。
この法廷で、やっぱり仁比さんが戦後における冤罪事件の統計をと言ったら、林眞琴検察官じゃなくて、あの人、刑事局長ですかね、あの方は、統計を取っていませんとおっしゃいましたね。冤罪事件をつくっている、つくってしまったという認識は法務省にあるんでしょうか。警察にあるんでしょうか。検察庁にあるんでしょうか。
裁判所は、立法府である国会が冤罪事件の検証や検討をしようとすると、司法への干渉であるなどと言ってかたくなに拒否されます。そうなんでしょうか。三権分立の立法府として、国民の代表として、警察や検察、裁判所を監視されることは皆さんの重要な職責の一つじゃないんでしょうか。今まで何件もの死刑事件、無期事件、たくさんの冤罪仲間が苦しんできたのに、立法府では一度たりともその検証をしたことがありません。これが国民の代表の立法府の姿なんでしょうか。私たちは非常に暗たんたる思いでいます。どれだけ多くの仲間が冤罪に苦しんだら、冤罪をなくす手だてを国会の方たちは考えてくださるんでしょうか。どれだけ国民が冤罪に苦しんだら、立法府は民主主義の最高の立場として冤罪を防ぐ法律を作ってくださるんでしょうか。
私たち冤罪者は、ただ冤罪をなくしてほしいと願っているだけなんです。良識の府と言われる参議院、どうか強行採決などなさらないで、問題点を十分審議くださって、私たちの、冤罪者の思いに応える法律にしていただきたいと思います。心から心から心からお願いしまして、私の発言とさせていただきます。
ありがとうございました。