荘林幹太郎の発言 (環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会)

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○荘林参考人 学習院女子大学国際文化交流学部の荘林と申します。
 まず冒頭、本日、このような場で意見を述べさせていただく機会をいただきましたこと、心より御礼申し上げます。
 私自身は、農政における政策目的と政策手法の整合性が重要という観点に大変強い関心を持って勉強してまいりました。したがって、本日は、主として、そのような政策論的な観点から意見を述べさせていただきます。また、そのような性質上、やや概念的な話になるかと存じます。その点を御容赦いただければと思います。
 お手元にお配りしております一枚紙、これの八項目に沿って意見を申し上げます。
 まず、一点目でございます。
 そもそも、自由貿易により農産物の輸入が増大し国内農業生産が低下した場合、多面的機能や食料安全保障のような農産物の価格に反映されない外部性が存在する場合には、国内農業生産に対して適切な支援を行うことは極めて重要なわけでございます。
 私が知る限り、そのことについて最も包括的かつ国際的に議論したのはOECDでございます。私自身、その仕事に大変深いかかわりを持ったわけでございますが、まず最初に、そこでの議論についての私なりの解釈を申し上げるというのが、きょうの流れからはいいのではないかというふうに思います。
 OECDでの議論の大きな結論は、関税を通じた価格支持よりも供給曲線を低下させる効果のあるさまざまな形態の財政による支援の方が、多面的機能あるいは食料安全保障を守る上で効率的あるいは効果的であるということでございます。
 具体的には、二つの側面がございます。
 一つ目は、私ども、経済学の上では総余剰と呼んでいるわけでございますけれども、消費者の余剰、生産者の余剰、それらをトータルした総余剰という概念、これを、関税を通じた価格支持よりも財政を通じた支援の方が大きくすることができるということでございます。
 なお、ここで言う財政支援にはさまざまな形態の財政支援が含まれます。例えば、基幹的な農業水利施設の維持管理に対する支援などもここに含まれるわけでございます。
 関税よりも価格を下げた上で財政支援することが望ましいと考えるもう一つの理由は、支援の負担の逆進性を回避できるということでございます。
 これは、多面的機能に関する多くの社会的需要、これは所得弾力的である可能性があります。すなわち、所得が高い方ほどその需要が高いということでございます。特に環境的な多面的機能については、恐らくそういう傾向が強いというふうに思います。
 一方で、価格支持は、御承知のように、農産物の消費者が、価格を通じて多面的機能の発揮あるいは食料安全保障の確保に貢献するものでございます。価格を通じての場合には、相対的でございますけれども、低所得者層の御負担が大きくなるわけでございます。
 そうしますと、比較的高所得者層の社会的需要が高いものを守るために、低所得者層の方の相対的な負担を増すという可能性があるということから、その懸念のない財政支援の方が、その観点でも望ましいとされるものでございます。
 二つ目に参ります。
 では、財政による支援を行う場合において、政策のシークエンシング、順序づけと私ども呼んでおりますが、これが極めて重要であるということでございます。
 生産性の向上政策を実施する前に財政支援を行うと、生産性の向上が阻害される懸念がございます。それを考えると、仮に財政的な支援を行うとしても、生産性向上対策と一体的に行うこと、少なくとも財政支援が先行するということがないようにする必要があるというふうに考えます。
 また、生産性向上対策を一体的に、あるいは先行して行うことにより、財政支援を行う際の金額を抑制的に運用することが可能になるというメリットもあるわけでございます。
 三つ目に参ります。
 では、その財政的な支援を行う際に大きな問題となるのが、関税引き下げの影響予測に伴う不確実性の存在でございます。それを考えますと、多面的機能や食料安全保障に影響を与える可能性を十分に探知できるように、一般的に自由化は漸進的に、グラデュアルに行うことが望ましいというふうに考えるものでございます。具体的には、関税の段階的な引き下げというのがこのような政策論的な観点に立つと望ましいというふうに思うわけでございます。
 その上で、影響を把握するためのモニタリング体制の確立というのが大変重要であるというふうに考えます。そのモニタリング体制があれば、悪影響を観測すればそこですぐに確実な対策を講じることができるわけでございます。
 四点目。
 以上の議論を踏まえますと、あるいは以上の観点に立ちますと、TPPの品目別のいわゆる勝ち負けよりも、結果として多面的機能や食料安保に影響が及ぶ場合に、漸進的に、グラデュアルに関税が低下する過程で影響を的確に把握するシステムのもとで、それに基づく適切な国内対策をいかに打つかという議論の方がやはり重要ではないかと私自身は考えるところでございます。
 五番目に参ります。
 その際、財政支援を行う場合に、その目的を社会全体で明確に共有することが、政策の安定化のためにやはり何よりも重要なことだと思います。私自身は、個人的には、財政支援の最終的な目的は、やはり多面的機能や食料安全保障の確保というところに帰結するというふうに考えるものでございます。
 仮にそのような目的を持つ財政支援だとすると、その財政支援を、補助というネガティブなイメージを惹起するような捉え方をするのではなくて、多面的機能、あるいは正の外部性と呼んでもいいかもしれません、それらの供給に対する報酬と捉えるべきではないかというふうに考えます。
 このことについては、例えばEUでも、従前は、農家に対するそのようなさまざまな支援を所得支持という説明で行っていたわけですけれども、最近の傾向としては、EUは多面的機能という用語は最近余り使わないのでございますけれども、公共財という用語を使っておりますが、意味するところは私自身はほとんど同じだと考えておりますが、公共財の提供に対する報酬というふうに考える考え方がより一般的になってきているように私自身は思います。
 六番目に参ります。
 今申し上げたように、仮に多面的機能や食料安全保障が最終的な政策目的と考える場合に、それに応じた政策体系の確立、これが、納税者の皆さんの理解を得ること、そしてそれを通じて政策を安定することのために中期的には極めて重要ではないかと思います。
 この点について、具体的には、いかなる経営体も、多面的機能や食料安全保障の観点から、ある種望まれる、必要な常識的な農法というのを採用していただく必要があるというふうに思います。
 これを一般的には、先進諸国では、財政支援の受給条件としてのクロスコンプライアンスと呼称いたします。明確なクロスコンプライアンスを設置する、あるいは緩やかな規制であってもいいのかもしれません。いずれにしろ、それによって幅広く、一律の、ある種の基礎的なレベルというのをそろえる必要があるというふうに思います。そうすることによって、納税者の方たちも、多面的機能や食料安全保障を供給してくださっていることに対して支援をしているんだという理解がきれいに共有されるのではないかというふうに思います。
 また、それに加えて、必要に応じて、クロスコンプライアンス、あるいは今申し上げた一定のライン以上の環境改善、あるいは多面的機能の水準を向上させる農法の改善に対して、環境支払いというものを積極的に適用すべきではないかというふうに思います。
 環境支払いの農業予算に占める割合、我が国は大体〇・一%ぐらいでございます。ほかの先進諸国、OECD諸国は、少ない国でも数%、多い国ですと二〇%ぐらいになっております。そのことを考えても、環境支払いの強化というのが極めて重要だと思います。
 七番目でございます。
 より広い視野に立つとすると、強い農業というものと非農家にとって魅力的な農村景観、環境の実現を結びつけるための政策の強化が極めて重要なのではないかと思います。特に水田地帯では、非農家の方の居住がなければ集落を維持することは難しいわけでございます。非農家の方々が居住を続ける、あるいは新たに居住する重要な大前提条件の一つは、やはり農村ならではの景観や自然環境であるというふうに考えると、この点は一層重要であると思います。
 この点で、特に水田地帯でございますけれども、重要なのは連担化ではないかと思います。御承知のように、連担化は大規模な経営体の効率性を格段に向上させるわけでございます。それに加えて、連担化ができれば、恐らく多面的機能の発揮上もよりよい効果がもたらされると思うわけでございます。
 例えば、同一の経営体の方が三十ヘクタールを連担化して耕していると、ここは学問的な根拠はないのでございますけれども、恐らく景観あるいは自然環境というのはよくなる可能性があるわけでございます。そうすると、連担化を通じて、担い手の方と地域住民、土地所有をしていらっしゃる非農家の地域住民の方たちが、連担化の利益を両方、ウイン・ウインで得られるというふうなこともあるわけでございます。
 これについては、ここ数年来、私自身、滋賀県の彦根市にある、ある集落を随分追っておりまして、そこが理想的なモデルだというふうに考えております。
 最後、八点目でございます。
 これについては、これまでの議論とやや視点が異なるのでございますが、担い手の方の経営費という観点では、担い手にどうしてもコントロールできない部分というのがございます。それは何かというと、基幹的水利施設、上流のダムとか頭首工、基幹的な用水路、これの維持管理、更新のためのコストでございます。これは、担い手個々の方の経営努力ではコントロール不可能なところでございます。
 この点について、先ほど来申し上げておりますさまざまな形態の財政支援という枠組みで検討するというのがやはり大変重要な課題なのではないかと思います。個人的には、基幹的な用排水路施設の更新などの意思決定については、土地改良法の原点に立ち返って、耕作者負担、耕作者原則というのが再度、より吟味される必要があるのではないかというふうに思います。
 いずれにしましても、私自身は、強い農業というものと、田園回帰というふうな言葉に代表されるような、美しい農村で居住してみたい、そこで人生を過ごしてみたいという方たちを両立する方法をいかに見つけるのかというのが、農政の観点の上で大変重要なことだというふうに考えております。
 私の意見陳述は以上でございます。ありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 119204011X00620161021_002

発言者: 荘林幹太郎

speaker_id: 24711

日付: 2016-10-21

院: 衆議院

会議名: 環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会