渡邊頼純の発言 (環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会)
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○渡邊参考人 委員長、どうもありがとうございます。
慶應義塾大学の渡邊頼純でございます。
きょうは、こういう非常に重要な会議にお呼びくださいまして、まことにありがとうございます。
私の方からも、時間が限られておりますので、十五分ぐらいを頂戴いたしまして、TPPの評価、そしてその意義についてお話を申し上げたいと思います。
お手元の資料の一枚目、少し図式がございますけれども、これは何を申し上げたいかと申しますと、世界は、ヨーロッパではEUを中心に一つの経済圏がございます。
それから、大西洋を渡りましてアメリカに行きますと、北米には北米自由貿易地域、NAFTAがございます。そして、中米には中米自由貿易地域というのもございます。さらには、南アメリカ大陸に参りますと、メルコスール、南米共同市場、ブラジル、アルゼンチン等が入っております。そして、アンデスを渡って太平洋側に行きますと太平洋同盟という、これは、メキシコ、コロンビア、チリ、そしてペルー、こういった四カ国が南米におきまして太平洋同盟というのを結んでおります。
そして、太平洋を渡りますと、東アジアにおきましてはRCEP、包括的な経済連携の枠組みが、ASEAN十カ国とさらに日中韓三カ国、そこに豪州、ニュージー、そしてインドを入れた全部で十六カ国の枠組みができております。
こういうふうに、各地域、欧州地域、米州地域、アジア地域、それぞれ非常に地域統合が活発に行われている、そういう現状がございます。
そういう中で、特に、地域と地域を結ぶ地域間協力の枠組みとして、おなじみのAPECがございます。このAPEC、そして、そのAPECの成功を見て、ヨーロッパがアジアとやはりそういう経済協力の関係を結びたいということで、一九九六年からASEMができております。一九八九年からスタートしたAPEC、一九九六年からスタートしたASEM、そして、それに加えて、アメリカとEUとの間でも、トランスアトランティックの経済関係というのがございます。トランスアトランティック・エコノミック・カウンシルなんて呼んでおります。
非常に興味深いのは、こういう地域間の協力の枠組みから、今では、APECからTPPが出てまいりました。そして、ASEMの枠組みの中からは、日本とEUのEPAが現在交渉中でございます。間もなくその終結を迎えるのではないかと言われております。そして、アメリカとEUとの間では、トランスアトランティックというのがございまして、これは、TTIP、ティーティップと呼んでおります。
このように、地域間の協力の枠組みが、近年では非常に深いFTAの関係を結ぼうとしている、これが非常に重要なことでございます。
なかんずく我が国日本にとりましては、TPPを通じてアメリカとFTAをやる、そして、日・EUのバイでEUとFTAをやる、そして、RCEPや日中韓の三国間のFTAで、中国や韓国、ASEANともFTAのネットワークを拡充していくというふうに、戦後日本を考えますときに、これほど通商政策というものが、日本がある意味イニシアチブをとって、日本の国益に沿った形で通商体制を組めるというのは、やはり歴史の中で非常にユニークなところに今日日本は来ているということを改めて申し上げたいと思います。
次の、資料の三ページでございますが、そこに若干歴史的な経緯というのを追っております。
昨年十月の五日、ないしは日本時間ですと十月の六日になりますが、TPPの大筋合意ができております。この大筋合意、二〇一五年という年は、まず戦後七十年ということで、戦後七十年にして初めて、アジア太平洋地域に貿易と投資の新たな枠組みができたということは非常によかったと思います。
もう一つ、日本がガットに入りましたのが一九五五年でございます。日本が貿易の自由化に向けて歩み出した、その一九五五年から六十年の記念の年にTPPはまとまっております。
そして、次も重要でございます。プラザ合意、これは一九八五年の九月でございます。そこから三十年。何でこの三十年が重要かといいますと、まさにその三十年の間に、日本を中心としたアジア地域における生産ネットワーク、バリューチェーンができたからでございます。
そして、当初はFTAはございませんでした。EPAもございませんでした。日本はこの十年から十五年の間に、このFTA、EPAをいわば網のように、ネットのようにかけて、まさにセーフティーネットとしてこの地域にかけて、プラザ合意以来の日本からの海外直接投資、そして海外直接投資で得られた生産ネットワークというものをより強固なものにするためにこのTPPができたと言って決して過言ではないと思います。
そしてその次は、WTO設立から二十年ということでございます。残念ながら、WTOは二十年たちましたが、ドーハ・ラウンドという交渉は停滞しております。ですから、いわばその真空状態を抜けるためにTPPという大きな合意が得られた、こういうふうに考えていいと思います。
最後に、日・メキシコのEPA発効から十年でございます。私ども、この時期に、外務省の経済局の参事官としまして、この日・メキシコEPAの首席交渉官を務めさせていただきました。
この日・メキシコのEPAというのは、実は、日本にとって二番目の経済連携協定でございます。シンガポールに次いで二件目。しかしながら、真の意味で、農産品が絡んだEPAという意味ではこれが初めてでございます。当時は、豚肉がやはり非常に重要なイシューでございました。食の安全も含めて、この豚肉のイシューがあったわけでございますが、これを日本は乗り越えて、日・メキシコのEPAをまさに二〇〇五年に発効させているわけでございます。
そういうふうに考えてまいりますと、TPPが昨年合意に至ったということはいかに我が国にとって重要であるかということがおわかりいただけるかと思います。
一枚めくっていただきますと、TPPアトランタ合意の評価ということで、高いレベルの自由化、これはもう一〇〇%に近い自由化が工業品関税ではなし得たということでございます。
そして次に、新たな通商ルールというふうに書いてございますが、特に国有企業に対する規制、あるいは競争原理の導入ということが図られた、これも非常に大きなことでございます。さらには、WTOで交渉しようとしてなかなかできなかった労働あるいは環境についても一定の規律ができたということも重要でございます。
それからもう一つ挙げますと、政府調達協定、こちらも、実は、WTOの政府調達協定に入っていたTPPの加盟国というのは、我が国を含めましてアメリカとカナダとシンガポール、この四カ国しかございませんでした。近年ニュージーランドが入りましたので、十二分の五カ国が現在ではWTOの政府調達協定の署名国ということになりますが、東南アジアで申しますと、マレーシアやベトナムはこういったWTOの政府調達協定の署名国ではございません。したがいまして、これまではWTOの政府調達協定の義務に服さなかったわけでございますが、今後はTPPの政府調達チャプターの義務を負うということになります。一部ではございますけれども、政府調達市場を開放できたというのも大きなメリットだと思います。
ビジネスに優しいルールというのが三つ目でございます。
これは、特に原産地。日本の生産ネットワークは必ずしも、いつも二〇%、三〇%という高い付加価値をASEAN諸国でつけているわけではありません。場合によっては、五%しかない、一〇%しか付加価値をつけていないかもしれない。そういうものであっても、TPPのメンバー国である限りは、それを全部積み上げていって、累積の原則、原産地を累積ルールでもって確定していくということができた。この完全累積制度の導入ができたというのは、日本の生産ネットワークをまさにシームレスにつないでいく上で極めて重要ということになるわけでございます。
そのほかにも、中小企業への配慮でありますとか、最速で六時間で貨物を引き取ることができるというようなこと、これも非常に大きかったと思います。
それからまた、食の安全という本日のテーマで申しますと、先ほど既に御説明がございましたように、WTOの植物、動物の検疫をめぐりますSPS協定、これを再確認いたしまして、偽装された保護主義というものを抑えつつも食の安全を確保するということが実現できたわけでございます。
そこで問われておりますのは、手続の透明性、あるいは説明責任がちゃんと果たされているかということだろうと思いますが、これについては、WTOのSPSが発効してもう既に二十年たっておりますが、我が国はこれまでチャレンジされたことはありません。我が国からSPSについてチャレンジしたことはあります。
ですから、そういう意味では、SPSのルールが再度アジア太平洋地域で確認をされたというのは、日本の食の安全にとっても、それは輸入の局面においても輸出の局面においても、極めて意義が深かった、そのように考えております。
一枚めくっていただきますと、日本にとってのメリットということで御説明を申し上げております。
日本にとっては究極の貿易のパートナーたるアメリカとの究極のFTAとしてのTPP、間接的にアメリカと、TPPをもって日米の自由貿易取り決めができたというふうに申し上げていいのではないか。それはまた、中国の勃興が著しい中、日米の経済安保ということ、政治、軍事面での日米安保に加えて、経済面での安保ができたというのは非常によかった、そういうふうに考えます。
それから、先ほど申しましたプラザ合意でできた生産ネットワークというものを、FTA、EPAで、これまで日本は十五件のEPAを発効させることによって進めてまいりましたが、TPPでさらに包括的に、包摂した形でこれを実現できたというのもすばらしいことではないかと思っております。
さらに、このページでいいますと一番最後のところ、つまり、日本の農産品の輸出拡大、このために環境が改善された、SPSが確認されたことは、日本が輸入するときもその規律に服することが求められますが、日本が輸出するときも相手国に対して植物検疫衛生措置というものについて要求をしていくことができます。
ですから、そういう意味では、関税撤廃とあわせてSPSのルールが確認されているというのは大きなメリットであろうかと思います。
あと二分ぐらいかと思いますが、少し急ぎます。
日本政府の交渉についての評価でございます。
私どもは、日本はゲームチェンジャーとなったと思います。TPPでは例外なき関税撤廃ということを言われましたが、日本が入ったことによって、この例外というのが限定的にせよ認められることになったということは非常に大きかったと思います。
ですから、確かに日本の痛みである農業、そしてアメリカの痛みあるいはセンシティビティーである自動車、このセンシティビティーとセンシティビティーのトレードオフというのが行われたわけでございますけれども、ただ、先生方にアピールしたいのは、この中で八七%の自動車の部品につきましては関税の即時撤廃がアメリカとの関係においてとれている、これが非常に大きいわけですね。
つまり、アメリカでの生産は現在二百五十万台超でございます。日本からの対米輸出は百八十万台にとどまっております。ですから、実はアメリカでつくっている生産台数の方が多い。そこで必要とされる部品について関税撤廃がとれたというのは非常によかったというふうに思います。
最後でございますけれども、TPP、そういうふうに考えてまいりますと、国際政治経済、インターナショナルポリティカルエコノミーの観点からいってもこれは非常に重要である。特に、中国の台頭、それによって不安定性、不確実性が増してきている世界経済、国際貿易におきまして、まずアジア太平洋、GDPの四割を占めるところでかかるルールができたのは非常によかったと思います。
そして、それにとどまりません。中国のこれからの発展のモデルにつきましても、TPPは一つのモデルあるいはテンプレートというものを示している。中国が中所得国のわなという、大体GDP一人当たり六千ドルというところを超えることができるかどうか、これはまさに中国の近代化、なかんずく国営企業の改革というところにその真価が問われているわけでございます。
そういうときに、TPPの特に国営企業に対する規律の問題のところで、中国がもしこれで受け入れることができるようであれば、中国の発展モデル自体が変わってくる。そういう意味で、中国にとってはTPPは非常にチャレンジングではありますけれども、何とかTPPに中国が入れるような環境を日本も協力をしてつくっていくということが重要であろうと思います。
最後に、日本にとりましては、日本がミドルパワーに終わってしまうのか、それとも、やはりグローバルパワーとしてこれからも活躍を続けるのかというのは、まさにこのTPPにかかっているということがございますので、ぜひこのTPPについての御理解を深めていただければと思います。
以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)