黒木和彰の発言 (法務委員会)

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○黒木参考人 おはようございます。
 本日は、このような発言の機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。
 私は、日弁連の消費者問題対策委員会の委員として、先ほど岡参考人がお話しになりましたけれども、多面的な議論を尽くすためにはいろいろな立場からできるだけ大勢の弁護士で議論することが重要であるとして、全国各層から約六十人弱のバックアップチームをつくって、部会の前日などに、合計すると百二十四回議論したという中にずっと加わっておりました。
 私は、事業者と比べまして情報力でも交渉力でも圧倒的に劣位の立場にいる消費者の立場から、今回の債権法の改正に関与してきました。消費者問題対策委員会では、事務方から配られる資料が来ますと、火曜日にありますので、それを金曜日までにみんなで読み込んで、金曜日に集まることができませんので電話会議で議論をし、その議論の結果を日曜日までにまとめて、バックアップに書面で出すということを百二十四回続けてきたということになります。
 なぜ、この消費者問題対策委員会がこのような情熱を持って今回の債権法改正に加わったのかということを申しますと、それは、今回の債権法改正ではまさに一種の通奏低音として契約格差の問題が意識され、議論されていたからだと思っております。
 本日、私の名前で配らせていただきました資料の一ページ目を見ていただくといいと思いますけれども、私的自治を実現するためには契約は自由に締結できなければなりません。また、その契約に拘束力がなければなりません。
 しかし、現代社会では、圧倒的な事業規模を持つ事業者がその事業規模を背景にして、情報力と交渉力を持たない者との間で契約を締結しているということが多数ございます。この契約条項の中には、一方当事者に過度に有利であったり、あるいは詳細な契約条項を理解していない者からすると不意打ちになってしまっているというような条項が散見されることは間違いありません。
 同時に、日弁連の消費者問題対策委員会では、過度の債務に苦しむ人たちの救済活動を続けております。その大きな原因が保証制度の問題である、保証人保護は重要な問題であると意識されておりました。そこで、日弁連として、債権法を改正するのであれば、保証人の保護のための改正を強く望んでおりました。
 今回の民法の改正は、消費者問題対策委員会といたしましては、以上のように深く審議過程にコミットした中での成案となっておりますので、この法案の成案を強く期待しております。
 同時に、本日資料として配付させていただきました「Q&A 消費者からみた民法改正」という冊子がございます。これにつきましては、議論した中で見送りになった七項目について言及しております。また、その他の論点につきましても、各項目ごとに「残された課題」というものを設けておりまして、今後の実務上あるいは立法上の課題について指摘させていただいております。
 これは去年の四月に上梓させていただきました。まさに法案ができた直後に、上程された直後に作成させていただいたものでありまして、このような形で議論をしていただくことについては本当にうれしい機会であります。ですから、もしもお時間がありましたら御一読いただければありがたいと思っております。
 また、今後、成年年齢の引き下げも検討されているということでございますが、十八歳になりますと、この十八歳以降の人たちというのはやはり類型的な契約弱者となりますので、今後も、消費者保護の観点からは、消費者契約法などの関連法も含めて検討していく課題が出てくるんだろうなと思っているところであります。
 ではまず、具体的な例としての保証人保護について御説明申し上げたいと思います。
 日弁連は、今回の債権法改正に当たりまして、二回にわたって保証人保護制度についての意見書を発表しております。その意見書のうち、二〇一二年のものは私の資料の七ページ以下、二〇一四年のものは十九ページ以下にあります。
 今回の改正内容は、第三者保証人についてはかなり厳格な手続要件を課しているという点で、評価できると考えております。事業に係る債務についての保証契約は、今まで多くの保証人の悲劇を生んできたものであります。
 私の地元で親しくさせていただいて、今回の民法改正について一緒にシンポジウムをさせていただきました中小企業の経営者の方がいらっしゃいます。その方は、事業を営む第三者が事業性の保証人になるということは、一度お願いしてほかの会社の社長さんに保証人になってもらうということを意味するんだ、そうすると、今度はその方からその会社の保証人に自分がなってくれと言われたら断れない、これは、銀行主導で、融通手形をお互い書き合っているのと何も変わらないんだ、こういうふうにおっしゃっていました。まさに第三者保証の問題点を鋭く言い当てた至言であると私は思っております。
 その観点から今回の改正を考えてみたいと思います。今回の改正法案と金融庁の監督指針を対比させた表を私のレジュメの二ページ以下でつくっておりますので、ごらんください。個々の点については、詳細な点は割愛させていただきます。
 第三者保証については、原則として公証人による意思確認、口授を求めている点では、ガイドラインでは意思確認の方法は単なる無方式、無様式の方法でも構いませんので、その点では評価できると思っております。
 また、主たる債務者から保証人に対する虚偽の事実の説明があり、それを債権者が知り、または知り得べき場合には取り消すことができるという規定、これも非常に重要な改正であろうと思っております。
 他方、公証人による公正証書による事実確認と同日に執行証書をつくるということが懸念されているということは御指摘のとおりであります。この点は、よく考えてみますと、本当に保証をするのかということについて保証人が公証人から確認された後、一日ぐらいもう一度考える機会を保証人に与えるということをすればよいのではないかと思いまして、例えば、これを、先立つ日という修正をすることで、この点の疑問が払拭されて懸念が払拭できるのではないかなと私自身は思っております。
 最後に、監督指針との関係で、ぜひとも今後も御検討いただきたい点が、保証履行時における保証人の履行能力を踏まえた対応でございます。これにつきましては、三十四分の三の一番最後のところですけれども、今回の法案にはありません。この点は、日弁連も、繰り返し、比例原則といったような形で何とか改正の中に入れてくれということで立法化を期待した考え方でありますけれども、今回の改正では見送られております。今後は、実務における経営者保証のガイドラインの運用などの実績を踏まえまして、何らかの形で立法化されていくことを強く期待しているところでございます。
 また次に、具体的な例としての定型約款について私の意見を申し述べておきます。
 定型約款の規定も大変重要な改正だと私どもは考えております。
 現行民法には、現代社会において重要な役割を果たしている約款について規定が一切ありません。
 この約款のうち、今回は、かなり限定された約款類型である定型約款について規律を設けることとなりました。この定型約款の規律を手がかりといたしまして、当事者の合意が希薄である約款について、どのような要件で拘束力が認められるのか、一方当事者に有利な内容が含まれている場合、合意の効力がどこまで認められるのか、また、約款提供者が約款を変更しようとしている場合、どのような場合にどこまで変更が可能なのかといった論点について、今後、裁判実務も含めて解釈が行われていくことは有意義だと思っております。
 この定型約款につきましては、実は、法制審議会で平成二十六年八月二十六日に決定された要綱仮案では、「第二十八 定型契約」と書いてあって、「(P)」、日本語がないという状態でありました。そこで、日弁連は、二〇一四年、平成二十六年十一月に会長声明を発表いたしまして、民法の改正案には約款に関する法規範を規定すべきであるということを申し述べました。このような経緯を経まして、今回、定型約款の規定を含む民法改正案が審議されているということは、私どもにとっては大変喜ばしいことであります。
 同時に、定型約款の条項の適用範囲がどうなっているのか、これは単に消費者なのか、消費者と事業者だけなのか、あるいは、交渉力が劣位にある中小事業者との関係でもその適用があるのかないのかといったような点につきまして審議をしていただくことが必要だと思っております。
 それから、事業者には、定型約款の重要部分に関する信義則上の説明義務があります。このような説明義務の存在につきましては、改正民法の施行までの間に周知徹底されていくことが必要であろうと考えております。
 約款使用者に一方的に有利な契約条項、不当条項の押しつけに対しては、みなし合意の除外規定で対応できるということは大きな改正であると考えています。同時に、通常想定しがたいような契約条項の不意打ちに関しましてもみなし合意除外規定で対応できると考えています。この周知徹底も重要な論点であると考えています。
 さらに、定型約款の変更につきましては、変更の可能性の判断基準が抽象的なものとなっております。この変更要件が緩やかに運用されてしまいますと、消費者は契約締結時には同意していない約款条項に広く拘束されることになりますので、約款変更の要件は厳格な運用が必要であるということについても周知徹底される必要がある重要なポイントであると考えております。
 あと、個別的な論点といたしましては、時効、法定利率といった大きな改正がなされております。これにつきましては、私どもも議論の中に加わっておりまして、消費者の観点からいろいろな意見を申しましたが、最終的にこの改正の必要性それ自体は是認できるものです。ただ、社会生活に大きな影響を与えることは間違いありません。そのため、法律成立後、施行までの周知期間において、いろいろな広報などにより国民一般に広く周知していただきたいと期待しております。
 最後に、残された課題につきましてお話をさせていただければと思います。
 この「Q&A 消費者からみた民法改正」では七項目の見送りの論点があるとしておりますけれども、その重要な論点の一つとしまして、暴利行為と取り消し権の原状回復といった点についてお話しさせていただきます。
 まず、暴利行為ですけれども、中間試案から最終的な要綱の取りまとめまで、何度か議論が続けられた重要な論点であります。
 今後我が国が高齢化社会を迎えていく中で、典型的な契約弱者であります高齢者に対して、高齢者などの状況につけ込んで暴利をむさぼるような事案がふえてくることは間違いないのではないかと懸念しております。そのような場合、民事ルールの基本である民法にこの問題を指摘する条項があってもよかったのではないかというのが偽らざる感想であります。今回の改正では、条項の決め方とかさまざまな問題によりまして見送りとなりました。
 ただ、民法の特別法であります消費者契約法の改定作業の中でもこの問題は意識されておりまして、過量取り消し規定が規定されました。ただ、暴利行為はこの類型だけではありません。高齢者の加齢による判断能力の低下につけ込んで高額な商品を買わせる悪徳事業者など、消費者が合理的な判断ができないなと、その状況につけ込む形での不当勧誘についての立法的手当てはやはり必要だと考えております。
 また、取り消し権の原状回復につきましても、基本的なルールが明らかになったということについては前進であると思います。
 ただ、詐欺取り消しの場合、常に原状回復義務を負担するということでは、取り消し権の実効性が担保されません。その意味で、改正消費者契約法で返還義務の特則が規定されたことは前進だと考えています。ただ、同時に、今後、民法の詐欺取り消しや強迫による取り消しについても同様の規定が用意されるべきではないかと考えております。
 最後に、私の今回の民法改正についての意見を申しますけれども、今回の民法改正は、百点かと言われたら、まだそうではありませんが、しかし、重要な改正であると同時に、我々から見ても大きな前進でございます。したがいまして、充実した審議をしていただきますのと同時に、早く国民のために新しいルールを社会に定着させていただきたい、そのように考えております。
 以上でございます。ありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 119205206X01020161122_006

発言者: 黒木和彰

speaker_id: 697

日付: 2016-11-22

院: 衆議院

会議名: 法務委員会