荒幡克己の発言 (環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会)

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○参考人(荒幡克己君) 御紹介いただきました岐阜大学の荒幡でございます。座らせていただきます。
 初めに、本日このような場で発言の機会を与えていただきましたこと、深く感謝申し上げる次第です。
 私は、農業経済学、特にその中でも水田農業を中心に研究をしております。本日は、このような視点からの見方に限られますが、少しでも御審議のお役に立てるような知見を提供できればと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
 お手元には三枚ほどの資料を用意しております。一枚目は全体の発言要旨、二枚目以降がそのバックデータ等でございます。一枚目に示しました順序に沿って御説明させていただきます。
 まず初めに、世界の農産物貿易の現状について見ていきます。二枚目のグラフがそのバックデータです。これは、世界の農産物貿易の動向として、ある国が同じものを輸入もすれば輸出もするという双方向の貿易がどれだけ進んできたかを表す指数でございます。これは、例えば日本がパソコンを輸出する、その一方で同じ金額だけ輸入もするということになりますと一・〇になります。輸出ばかりで一切輸入しない、この場合はゼロでございます。半分だけ輸入すれば〇・五ということで、資料のバックデータの縦軸の数字が、〇・七が一番上に来ておりますが、その数字でございます。
 この双方向の貿易は、工業製品では既にかなり前から当たり前のように行われております。例えば、日本が自動車をアメリカに輸出して、アメリカも同様に日本に輸出するということが行われてきたわけでございます。
 ところが、農産物では必ずしも当たり前ではなかったわけであります。このグラフの最初の一九七〇年代の数字を見ますと、大変低くなっております。これはそのことを表しております。しかし、ここに表しました農産物、すなわちタマネギ、トマト、オレンジ、牛肉、豚肉、チーズ、それから米、いずれの品目も、牛肉だけはBSEの件がありましたのでちょっと変則的な動きがありますが、それ以外はいずれも数字が上昇、右上がりになっております。
 この双方向の貿易の例として、例えばアメリカは、御承知のように、今回のTPP交渉では日本に強く牛肉の輸入、すなわちアメリカにとっての輸出を迫ったわけでございますが、そのアメリカは、オーストラリアから大量にコンビーフ用の低品位の牛肉を輸入しております。
 では、なぜ農産物でも双方向の貿易が進んだのか。それは、食文化の交流、それから食品市場での高品質と低品質の製品の差別化、これが進んで、それに応じて生産分担も進んだからであります。
 それでは、今後、自動車の貿易のように、つまり工業製品の貿易のようになっていくかということでございますが、注意しなければならない点がございます。製造業の品目も含めて全ての品目でこの指数を計測しますと、大体〇・六ぐらいになります。グラフの数字で確認していただくと分かるんですが、〇・六辺りのところに来ます。つまり、これと比較しますと、農産物ないしは食料では、ここに示した中では最も高いチーズでも〇・五五程度で、ほかの品目は〇・三とか低い数字でございます。ちなみに米は〇・一五程度であります。製造業と相当な違いがあるということでございます。
 いかに双方向の貿易が進んだとはいえ、自然条件に左右されるのが農業でございます。したがいまして、レジュメの方に書いておりますが、工業製品と同様に双方向貿易、つまり輸出もする、輸入もするということが増加する傾向にはあるんですが、しかし同じ水準にはならないという、この両面性を理解することが重要であると私は考えております。
 こうしたことも踏まえながら、今回御提案されているTPP協定の承認と関連法案の是非につきまして私の姿勢をお示しいたしますと、レジュメの方にも書いてございますが、今後、長期的に見て農産物でも一層の貿易拡大は避けられないという認識に立てば、関税等の国境措置を選択的、重点的に維持しつつも、短期的影響を回避した上で、品目に応じて可能なものは長期的、漸進的にそれらを削減する、その一方で、国内対策を競争力強化に重点を置いて実施する、輸出振興もまた同時に推進していくということは、方向としては妥当と考えます。
 私は、交渉結果と国内対策をセットとして見るならば賛成の立場に立つものであります。ただし、そこで重要なことは、あくまで適切かつ十分な国内対策の充実が前提であります。
 そこで、以下では、国内対策の具備すべき要件を三点ほど述べたいと思います。なお、国内対策といってもいわゆる産業政策の部分と地域社会政策としての部分がございますが、以下では産業政策の方に、しかもその中でも競争力強化という論点に絞って述べさせていただきます。
 第一に、既に述べましたように、今回の交渉結果は、国境措置における削減までの期間を十分に長く確保したということが高く評価できる点でございます。これは農業という産業分野の特質として極めて重要であります。どんなにバイテク等によって新品種開発の速度が速まっても、現場では作物は生産者は一年に一回しか試すことができないというのは今も昔も変わらないわけでございます。そこで、国内対策もまたこれに対応して、是非とも息の長い取組としていただきたいと考えております。
 思い起こしますと、二十年前ですね、約二十年前に、ガット・ウルグアイ・ラウンドの締結後、関税猶予の例外措置で五年後に再交渉というような話がありましたので、五年後までに対策をという、非常にそういうフレーズが当時の政府の文書の各所に見受けられました。このためもあってちょっと短期間という雰囲気があったわけでございますが、今回は是非とも、そうではなく、息の長い本腰を入れた競争力強化の対策を継続してほしいと考えております。
 第二に、競争力強化といいますと、農業分野を専門とする方以外ではどうしても、商工業分野での単純なシナリオ、すなわち市場原理に従い厳しい環境にさらせば、中小規模の競争力の弱い経営が淘汰され、強い大規模だけが生き残り、競争力が強化されるというシナリオを描きがちであります。しかし、これは農業ではうまくいかないわけであります。
 二枚目の下の表はこのことを示すデータです。一番左は、畜産、園芸等を全て含めた全営農類型の指標です。この場合、集約的経営もありますので、面積を指標として表すことは不適切です。そこで、保有労働力を尺度として、専従者がいるかいないかによって分類しております。右の二つの指標は、水田作経営に絞った指標であり、規模によって数字を見ております。
 いずれのデータでも、いわゆる大規模経営ないし専業経営は農業では財務体質が弱い、小規模兼業農家の方がかえって財務体質が強いという、商工業とは皮肉にも逆の関係になっているわけでございます。このため、単純なやり方ではなくて、単純なやり方をやりますと、大規模農家の方が打撃を受け、小規模安定兼業農家だけが生き残るという、競争力強化の視点からは望ましくない方向に変化してしまうわけでございます。したがって、そうではない、大規模にターゲットを絞って強化策を講ずるということが重要でございます。
 第三に、日本産農産物は高品質という過信は禁物という点を指摘したいと思います。
 一般に、競争力は、価格競争力と非価格競争力、これは品質であるとかブランドであるとかでございますが、この二つから構成されます。確かに贈答品などでは高くても売れるという状況はありますが、今後一層の輸出増加を図ろうとするならば、その下の中間層の日常の食料消費として日本からの輸出を拡大することが不可欠であります。
 その場合、例えば米を例に取りますと、海外では、私がデータにより計測しましたところ、かなり価格に反応しておりますし、また業界紙を見ても、実際に卸で輸出を手掛ける業者の方が指摘していることでございます。価格に反応しているんだということですね。したがって、是非、価格競争力の方を高めていく、こちらの方をやってほしいというわけでございますが。
 そこでポイントとなるのはコストダウンであります。コストダウンで重要なことは、日本が幾らコストダウンしても、それ以上の速度で海外が進めば競争力は劣化するわけでございます。
 三枚目の上に示しましたグラフ、これは日米の米生産費の比較でございます。為替レートの影響を取り除いております。折れ線が上昇すれば日米のコスト倍率が高まり、日本米が割高になる。つまり、競争力が劣化したということであります。下降すれば競争力が挽回できたということであります。
 これを見ますと、四十年間トータルとしては日本の米の競争力は残念ながら劣化したわけでございます。この間、日本の稲作では相当努力いたしまして労働時間の大幅短縮とかが実現しているわけでございますが、それよりもアメリカがもっとコストダウンしたということであります。元々広大な国土を有するアメリカに日本が作付け規模等で劣っていることは事実でありますが、せめて差を広げられないようにしたいと思うわけでありますが、現実にはそうではなかったわけであります。これは日本人として残念なことですが、事実であります。
 ここで私が特に強調したいことは、常に世界を見て競争力を磨いていく必要があるということでございます。コストダウンの手法としては、直まき、あるいはほかにも幾つかございますが、他品種の組合せによる作付け分散を図るとか、こういうことも是非やっていただきたいと思います。
 ところで、今御覧いただきましたグラフの一番下の折れ線でございますが、これはもし日本がアメリカと同じぐらい単収が増加したならば実現したであろうコスト比率です。すなわち、アメリカが単収が増加したにもかかわらず、日本ではその間余り増加しなかった。よって、生産物当たりのコストでは劣化したわけであります。
 実際、世界の農業では単収増加が進んでおります。例えば米を例に取りますと、アメリカ・カリフォルニアでは、最近十五年間で玄米換算で毎年十四・八キロの増加を記録しております。この間、日本は五百三十キロ程度で、余り増えていないわけでございます。こうしたこともあって、大変残念な結果なんですが、世界の稲作ランキングで見ますと、単収ではちょっと下がってしまったということでございます。
 この単収が余り上がらないという現象は、日本国内の市場だけを見ると、消費者はおいしい米が欲しい、高品質の米が欲しい、需給は過剰ぎみであると。高い単収を狙うと過剰在庫を招いて、かえって生産者は所得減も危惧されるということで、余り高単収を狙わないということは妥当な行動であります。しかし、一たび目を海外に転じますと、ほかとの違いが分かるわけでございます。
 ただ、御存じの方も多いと思いますが、かつて日本では米作日本一表彰事業がございました。ここでは、いわゆる一トン取り、最高は千五十二キロという秋田県の工藤さんの記録がございますが、これだけの潜在的な技術が日本にはあるわけでございますので、当面は過剰生産をすると価格低下が危惧されるのですが、長期的には是非高単収を狙っていただいて、コストダウンを図ってほしいと思うわけでございます。
 以上をもちまして私の意見陳述を終わります。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 荒幡克己

speaker_id: 23887

日付: 2016-11-18

院: 参議院

会議名: 環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会