磯田宏の発言 (環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会)

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○参考人(磯田宏君) 御紹介いただいた磯田でございます。
 事前にお二方の参考人の先生方と打合せをしたわけでは全くございませんが、私のこれから申し述べさせていただく意見陳述は、かなり角度を変えた形になっております。
 お二方の先生はそれぞれの視点から、現行の協定としてある意味確定している部分、そして関税率表として確定している部分、これを前提にして御意見を陳述されました。私は、実はそれにとどまらない内容がこの協定には盛り込まれている、組み込まれているということを申し上げたいというふうに思います。
 お手元にお配りした表題のように、農林水産業等への影響に関わって承認・協定発効後への不透明要素・リスクが著しく大きい、こういうTPP協定の国会承認には反対するというのが私の結論的意見でございます。
 大きく四つの理由から申し上げますけれども、一番目は、農産物等の市場開放は、最終テキストとしてこの場でも審議されている協定及び関税率表だけでは済まない危険性が著しく高いということでございます。
 すなわち、農産物等について、協定の現行規定、関税率表以上の市場開放を協議するメカニズムが幾重にも組み込まれており、その協議の主体、範囲、権限、協議結果の取扱いについて不透明要素が著しく多いということでございます。そのために、国会に提出されている承認案だけを審議して承認を決するのはリスクが多過ぎると考えざるを得ないわけでございます。
 二番目に、具体的に申しますと、第二章で物品の貿易に関する小委員会というのがございまして、関税撤廃時期繰上げ、その他の貿易促進及び非関税障壁へ対処する、また、農業貿易に関する小委員会が農産品貿易その他の事項を促進しとされ、また、発効後七年以降、五か国いずれかの要請による市場アクセス増大目的での関税、関税割当て及びセーフガード適用に関する協議を義務付けられ、さらに二十七章で関税撤廃時期繰上げによる修正をTPP委員会の任務に挙げているわけでございます。
 つまり、農産物等について少なくとも四重の追加的市場アクセス増大協議メカニズムがビルトインされていると。したがって、承認案だけの農産物市場開放では済まされない危険が極めて多いというふうに私は認識しているところでございます。
 二番目の理由でございます。農産物・食品の安全性確保、規格、基準、表示、適合性評価手法でも、追加的協議メカニズムによって発効後の規制措置等の確保が著しく不透明化するというふうに認識しております。
 第七章、衛生植物検疫措置、いわゆるSPSでございますが、これはそれ自体としても重大な問題を有しておりますが、加えて、そこでも設立されるSPS小委員会の目的が、この章で定める規定の実施促進、相互に関心を有するSPS上の事項検討、SPSに関する連絡・協力促進と著しく抽象的に規定されているため、無限定に広範囲な輸出国側の関心事項等が協議される危険をはらんでいるというふうに考えております。
 また、第八章、貿易の技術的障害、略称TBTにつきましても、それ自体が幾つかの無視できない問題をはらんでいるわけでありますけれども、例えば、強制規格・任意規格・適合性評価手続作成に他国の者を参加させ、意見提出させ、それを考慮する義務であったりとか、他国の適合性評価の相互承認促進や国際規格への調和の促進だったりとか、食品規格委員会、FAO、WHOによって設立されている食品規格委員会の基準ですら、効果的でない、適当でないというふうに判断されればラベル記載を要求できないということなどがそれらであります。
 それに加えて、ここでも設立されるTBT小委員会が、第八章の実施・運用の監視、規定による義務に関する潜在的な改正・解釈の特定、規定での将来の活動における優先分野の決定と新たな分野別活動の提案検討、附属書、ここには大変我々にとって重要な問題が書かれているわけですけれども、その規定を強化、改善し、それら分野の調和を勧告することまでが任務とされている。これまた著しく広範囲でありまして、国民生活の安全、安心に不可欠な農産物・食品、医薬品等の安全基準、規格、表示、それらへの適合性評価について、日本の規制、基準の緩和や他国のものの承認や調和などが一層進められる危惧を抱かざるを得ないわけでございます。
 三点目の理由は、政府調達における国産のあるいは地域産の農林水産物利用が更に妨げられる危険も高まるというふうに考えております。
 そもそもが、第十五章、政府調達でもって、外国等の供給者に対して、それが物品、サービスを他の締約国から調達していることに基づいて差別することを禁じておりますし、調達に際しての技術仕様、スペックに関して、特定の産地、生産者、供給者を要件にすることも、さらにそれに言及することさえ禁じられているわけでございます。したがって、市場開放対象の政府調達として附属書で日本国政府が示しているものについては、もう現時点で国産、地域産農林水産物等の利用を課すことは実質的に禁止されているというふうに理解されるわけでございます。
 加えて、これらについても、政府調達小委員会が追加的な交渉によって対象機関と範囲の拡大及び基準額の改定、これは当然引下げが旨となるわけですけれども、そのための交渉をすると定められているわけでございます。日本政府は、対象機関として、中央政府の省庁、各種独法、地方機関、地方政府としては都道府県と指定都市を挙げているわけでございまして、また対象範囲の除外としては、地方政府の食料・飲料提供サービス、すなわち学校給食等でございますけれども、その他若干のものを除外としており、基準額についても定めておるわけですが、これらが追加交渉の対象になると。
 したがって、対象機関の一般市町村等への拡大、対象範囲として地方自治体の学校給食サービス等の除外の解消、基準額の引下げへ向けた追加的交渉が義務付けられているわけでございます。そうなれば、日本政府と地方自治体が公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律や食育基本法の趣旨に沿って進めてきている国産材、地域産材を利用した公共建築や地産地消型学校給食の促進などは、その存立基盤を縮小、喪失する危険にさらされ、したがって地域の農林水産業と地域経済に一層の打撃を与えることにつながるということが十分に考えられ得るわけでございます。
 四点目でございますけれども、これは実はアメリカの側の問題でございます。
 御案内のように、アメリカの通商促進権限法が制定されておるわけでございますけれども、その中に、大統領による確認過程というものが定められております。それは、アメリカがそのアメリカ自身の国内法上の手続の一環として、一方的に事実上の追加交渉、再交渉に相当することを可能にする規定があるということでございます。大統領が、他の署名国が協定の義務を遵守する準備を完了したかどうかの確認を行い、それを議会へ報告する義務があるというのがそれでございます。
 やや具体的に申しますと、当該協定発効予定日の三十日前までに、大統領が、他の署名国が当該協定諸規定の義務を履行するのに必要な諸手段を取り終えたかどうかを確認し、取り終えたことを議会に書面で通知することを義務付けているわけでございます。この場合、注意を要するのは、当該協定諸規定の義務が何かという解釈は当然アメリカ側による解釈になると、また、それを履行するのに必要な諸手段の解釈も同様と考えるしかないわけでございます。日本側の解釈が入る余地はございません。すると、他の署名国が承認、批准、国内手続を終えた後であっても、アメリカ大統領が、実質的に議会とも密接な連絡を保ちながら、義務の履行に必要な諸手段を取り終えていないというふうに判断すれば、その是正を求めてくる。つまりは、実質的な追加交渉、再交渉がなされ得る法規定になっているというふうに私は判断しております。
 アメリカのこのTPA法における大統領確認、議会通知が終わってから初めてアメリカの国内法上の手続が完了するとの解釈に立てば、論理的には、この確認過程はアメリカ側の判断で無限に設定できることにもなりかねません。また、いずれにせよ、当該規定はアメリカが最後に国内法上の手続を終えることを想定しております。後出しじゃんけんでございます。したがって、アメリカに比べて早期に国内法上の手続を終えた国ほどこの確認過程に長期間さらされることになるというふうになろうかと思います。
 このような片務的で、アメリカに特権的な事実上の追加交渉、再交渉の実権を与えるメカニズムが存在する限り、TPP協定、実はこのTPA法はTPP協定のためだけに作られた法律じゃございませんからその他も含めてでございますけれども、その承認その他の国内法上の手続を少なくともアメリカに先んじて行うことは得策でないというふうに考えるわけでございます。
 以上を踏まえまして、最後に結論でございますけれども、この時点でTPP協定の承認その他の国内法上の手続をすることは著しく不利であるというふうに認識しております。
 以上のように、生きている協定ゆえに有する追加的協議・交渉・開放メカニズム、すなわちTPP委員会、各種小委員会、各種作業部会、特定国間協議、そしてアメリカTPA法の大統領確認過程、さらに、今触れることはできませんでしたけれども、投資家国家間紛争解決、いわゆるISDSにおける仲裁廷、こういったものの構成、参加主体とその適格性基準、協議・追加交渉の範囲、権限、判断基準、協議等の結果の法的位置付けなどが明確になって初めて本協定の将来に向けた実質的体系としての全体像が明らかになってくるものと考えられます。
 したがって、それらがつまびらかにならない限り承認審議を深めることは極めて困難であり、もし現在の承認案でそれらを明らかにすることが不可能なら、そうした諸点が明確化するようにむしろ協定そのものを改定すべきであると、ですらあるというふうに考えるところであります。
 以上をもって、私の冒頭の意見陳述とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 磯田宏

speaker_id: 16864

日付: 2016-11-18

院: 参議院

会議名: 環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会