2016-11-25
参議院
内田聖子
環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会公聴会
内田聖子の発言 (環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会公聴会)
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○公述人(内田聖子君) 私は、アジア太平洋資料センターと申しますNPO団体で代表をしております内田と申します。
私たちの組織は日本に基盤を置く国際NGOですが、八〇年代以降の新自由主義の促進や自由貿易、投資の自由化の推進がもたらした負の側面について、途上国、先進国の市民社会とともに調査研究や発信、政策提言を続けてきました。TPP以前のWTOですとか多国間投資協定、現在ではRCEPやTiSA、新サービス貿易協定等々のメガFTAにも着目をしております。
今TPPが直面している状況というのは、まさに過去三十年の自由貿易推進の歴史の失敗を如実に表していると指摘したいと思います。その意味で、私たちは今まさに、今後の国際貿易の在り方、これを大転換を迫られているという歴史的な岐路に立っている、まずこの大きな認識が必要かと思います。
TPPだけではなく、アメリカとEUの自由貿易協定、TTIP、それからRCEPも、そしてTiSAも、非常に交渉は難航し、進んでおりません。日本とEUの経済連携協定も同じです。
これは、例えば先日のイギリスのEU離脱ですとか、つい最近のアメリカの選挙の結果、トランプ氏が選ばれる、こういうところにも人々の政治的な意思として、自由貿易のやり方、ルール、フォーマットそのものがもう立ち行かないと、これを示している一つの証左であろうというふうに思っております。
今日はTPPの中身の問題点を十分に指摘をしたいと思っておりますが、やはりその前に重要な点を申し上げたいと思います。それは、なぜ今この国会の中でTPP協定、関連法案が粛々と議論され続けているのかという点です。既に衆議院の段階からもそうでしたが、日本が急いでTPPをこの国会の中で批准をするという合理的な理由は既にありません。
私のレジュメ等々見ていただきたいんですが、外的な要因としては、アメリカの大統領選の結果であるとか、それからオバマ大統領の残存期間、レームダック、ここでの承認というのもほぼ可能性はゼロです。伴いまして、幾つかの国では、この大統領選の結果を踏まえ、当面は状況を静観するというような態度を取り始めた国もあります。
今日、マレーシアのムスタパ大臣が出した声明というのも資料として付けておりますが、ここには、第六番目には、マレーシアは米国の次期政権の下でのTPPの行方を見極めていく、米国がTPPを批准しないと決定した場合、ほかの加盟国とともに次の方針について議論する。つまり、静観する、急がないという方針です。という外的な要因というのは幾つかあります。
ただ、これ、アメリカがどうとか、ほかの国がどうとか、そういうことで国会が左右されていいのかという論もあると思います。そのとおりと思います。
では、日本の国会でどうなのかということは、四月の国会も含めて、そして九月からの国会も含めて、この衆参の審議、私もできる限り見ておりますが、この審議を通じて見えてきた様々な問題があると思います。
一つは、TPPというのは大変膨大な領域をカバーする協定です。協定文だけでも八千ページ以上のページ数、それから分野も二十一分野にも至ります。この国会で、やはり農業の関税問題が中心になっておりまして、十分に全ての分野が熟議されたとは到底思えません。
それから、メリットがあるというようなこともいま一つ具体的ではなく、そして国民に行き渡るようなメリットがどこにあるのかという点が十分にまだ明らかになっておりません。
そして、問題点の方は野党の議員の方が次々と質問されておりますが、これは秘密交渉で、交渉のプロセスは今も開示されない、話せないという壁にぶつかって、十分にその経過が分からないものですから議論が深まらないんですね。
そして四点目は、やはりこの審議を通じて、TPPに入る、批准するかどうかという以前に、既に今の日本政府の例えば食の安心、安全に関する規制の状況だとかというのは非常に問題があるということが次々と指摘されてもおります。というように、とてもこのような議論の進行状況では、いいも悪いも国民的な理解を得られていないというふうに思います。
そして五点目としては、さきの衆議院のTPP特別委員会では強行採決というものが行われました。これは国民から見ても到底受け入れられない非民主的な決定だったと思っております。そして、こうした状況を受けて、世論は日に日にTPPについて疑念と不安を高めております。審議をすればするほど不安が高まる、分からないという方が多くなっている。そして、慎重審議を求める声というものも各種の世論調査で増えております。
そして最後に、トランプ氏の百日計画の発言、つい先日ありました。これを受けて、レジュメの七番に書きましたが、安倍首相自身が成長戦略を練り直さなければいけない事態にも至ったというような報道もあるほどです。これは確かにそうなんだろうと思います。アメリカの決定に日本も影響せざるを得ませんから、成長戦略全体を練り直さざるを得ないというところまで来ているわけです。
つまり、これまでは、TPPで成長するとか海外の成長を取り込むとかグローバルマーケット、いろんなことが言われていましたが、TPPは成長戦略の柱として位置付けられていました。その柱が発効するかどうかがほぼ絶望視をされているという中で何もなかったかのように批准を進めていいのかということが、これは私だけではなくて多くの国民の方が思っていると思います。ひょっとすると、政府・与党の議員の皆さんの中にも、なぜ今これをやるのかとどこかで思っていらっしゃる方がいるのではないでしょうか。
次の項で申しますが、ですから、私は批准というプロセスを一旦停止するしかないと思っております。これは承認のプロセスを全て破棄せよということではなくて、マレーシアが取った態度のように、一度立ち止まって静観をする、相手の出方を見ると。アメリカの市民、国民でさえ、今、新大統領に対してはこういうふうに言っています。シー・アンド・ウエートです。黙って見詰めて次の体制を取ろうと。アメリカの国民ですらそう言っているという状況の中で、どうして日本が国会で審議を進めるのかという問題です。
ですから、私はまず、今、参議院で公聴会を今日開いていただいているわけなんですけれども、やはり即座にこの審議を止めるということを御提案したいというのが一番の今日の強い思いです。
なぜそういうことを言うかというと、このTPPの発効がほぼ絶望視されていく中で、実は既に日本の中では様々な形で予算が執行されていたり、それからTPP発効を見据えて、つまりTPPを前提として様々な対策、それから例えば中小企業に対する投資をどんどん海外でやろうというような推進が各地で行われて、実際にそれを実行している企業さんなんかもあるわけです。あるいは、農家さんで、私全国歩いていろんな方聞くんですけれども、TPPが発効してしまえばもう農業続けられないと、TPPに背中を押されて農業やめましたという方も多数おられます。等々、これ実はもう影響というのは既に実際上起こっていてということを鑑みますと、これ以上こうした影響、TPPが発効するからという名の下に、これ以上の規制緩和や一人一人の方の生業や人生の選択にまで関わっているという事態を放置することはできないと思っております。
予算に関しては、東京新聞が一昨日報道いたしましたが、既にTPP対策大綱という下に予算が組まれています、一兆千九百六億円。このうち二〇一五年のものは既に執行されておりますし、二〇一六年のものも相当程度執行されているというふうに聞いています。
他国はどうなのかといいますと、ニュージーランドやオーストラリア、それからアメリカは当然そうですが、発効もしていない、それから批准もしていないという状態の中でTPP対策の予算を組んで執行しているような国などはありません。当然だと思います。その意味で、日本は極めて異様な、異常な状況をこの間つくってきたと言わざるを得ないと思います。
そして、いろいろと言いたいこともあるんですが端折っていきますけれども、日米並行協議の問題を私はやはりこのTPP発効が絶望視される中で非常に重要な危機として感じております。
御存じのとおり、日米並行協議というのは、日本が交渉に正式参加する前の二〇一三年四月にアメリカとの間で始めた交渉です。これは日本が参加するための前払あるいは入場料としてアメリカからの要求に相当程度応じた一方的で片務的な交渉だということは、これはTPPを推進している有識者の方でさえこのような御指摘をしております。
対象となる分野は非常に多岐にわたっております。自動車から、それから食の安心、安全、急送便、知財、投資等々、非常に多岐です。ところが、この全容はいま一つ明らかになっておりません。政府の公表している文書というのは手に入れておりますが、基本的には全部が開示されていないんだろうと思っております。
問題は、これが既に日本国内においては幾つかの分野では実現されてしまっているということです。私のレジュメの四ページ目辺りにいろいろと書いておりますが、例えば保険分野では、アフラックという米国の外資系企業が、かんぽ生命の新規参入を認めないということを決定して、そして日本の郵便局のネットワークを使って販売できるというようなことも実際に行われております。それから、食の安心、安全に関しても、既に規制緩和というのが、これ、ここに挙げているのは米国の要求ですけれども、進んでおります。
そして、その全容が分からない中で私たちもいろいろと調べているんですけれども、一つ大変気になる記述が、この「ドキュメントTPP交渉」という、これは日米の交渉それからTPPに関わった朝日新聞の鯨岡仁さんという方が最近出された本ですけれども、日米並行協議についてこのように書いております。二〇一三年に始まった並行協議、途中端折りますけれども、アメリカではカトラーさんというUSTR代表代行が来て、それから日本では外務省の経済外交担当の森さんという方が交渉していたんですが、ちょっとくだりを読みます。
カトラーは、日本側の外務省経済外交担当大使、森健良に要求リストを差し出した。その内容は、米韓FTAに盛り込まれたものに似た、法外なものであった。日本側は、TPP交渉に入る前の事前協議で、米国の自動車の関税撤廃をTPP交渉で最も遅いものとそろえるという条件をのまされた等々。いろいろと続くんですけれども、そして一番重要なのはこの一文です。しかも、カトラーは丁寧に、日本の法改正リストまでつくり、森に手渡したというふうに書いてあります。
こういう事実を国民は少なくとも聞いておりません。国会議員の方々も、こういうリストを作られて、法律の改正リストを突き付けられたということを御存じなのかどうか私は分かりません。ですが、こういうところにまでTPPと並行する協議の中でかなり攻められてきているという事実があります。
もう時間がないのでやめますけれども、この日米並行協議というのはそもそもTPPと並行して始まったものであり、政府の見解としては、日米並行協議はTPPが成立しなければ無効となる、意味を成さない、これが従来の説明でした。つまり、既に、TPP発効してもいない、批准もしていない中で、実際上私たちの社会というのは変えられてきているわけですね。あるいは、水面下でいろいろなことが攻められているわけですね。
発効しなかったら、じゃ、どうなるのか。それは当然、何もなかった状態に戻していただかなければ困りますという話になっていきます。この辺りが全く不明瞭でよく分からないという領域なんですね。ですから、TPPの行方がどうなるか分かりませんけれども、私は冷静に、発効しないときにこれらの責任をどういうふうに取るのか、そして原状復帰をどういうふうにして、そして次の体制にどうやって臨むのかということこそが、今、日本政府、与野党を問わず取り組むべきことであろうと思っております。
その他、中小企業へのメリットがTPPではやはりなく、むしろ打撃になるというお話もしたいと思っておりましたし、それからISD条項、これが大変私どもも懸念している分野であります。こういうお話もしたいんですが、時間になりましたので、できれば後の御質問でいただければ、詳細を御説明したいと思います。
最後に、私のレジュメの最後の部分をちょっと見ていただきたいと思うんですけれども、冒頭に申しました、今何が問われているのかという点です。
今ほど、各国、いろんな地域でこの貿易や投資というのが主要な政治課題になっているという時代はないと思います。非常に、アメリカを見れば分かるように、政治的な課題に貿易がなると。これはなぜかというと、これは冒頭申し上げたように、この三十年の自由貿易の歴史というものが、確かに大企業は多大な利益を得ています。租税回避等しながら肥え太っていったということがあります。しかし、問題は、それが人々に還元をされないということ。とりわけ日本では、賃金は九七年度以降上がっておりません。企業はもうけるんですが、人々は豊かになっていないと。格差が広がっている、あるいは地域間格差というのも広がっています。大都市に集中しているんですね、投資も、利益を蓄積していくのも。これは世界の各地で起こっている現象です。
このことの矛盾が露呈しているのがアメリカでの選挙の結果であります。たくさんの報道にありましたが、アメリカの地方都市で地域が荒廃して、仕事を失って、ラストベルトと言われているところですね、白人の労働者の人が絶望をしてトランプさんに投票すると。これはコミュニティーももうぼろぼろですよ。仕事もない。私はこの光景を、日本の報道を見ると、もしかしたら日本の近未来を表しているんじゃないかというような恐怖すら思います。
ですから、今どういう貿易が必要かという意味で問われているのは……