2016-11-25
参議院
萩原伸次郎
環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会公聴会
萩原伸次郎の発言 (環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会公聴会)
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○公述人(萩原伸次郎君) 横浜国立大学の萩原でございます。
去る十一月八日の米国の大統領選挙で、共和党大統領候補ドナルド・トランプ氏が次期大統領に選出されました。環太平洋経済連携協定から離脱するという、これが明らかになりました。一月二十日に就任式がありますが、そのときに発表するということですので、最も重要な政策課題というふうにしているわけであります。
また、オバマ政権は、十一月八日から翌年新政権までの連邦議会、一般にレームダックセッションと言われていますが、そこでのTPPの批准を強く要請しておりましたが、下院議長のポール・ライアン氏あるいはマコネル上院の院内総務、こういう方の賛成を得られず、オバマ大統領もTPP批准を諦めたということでございます。
したがいまして、昨年の十月五日に大筋合意を得ましたTPP協定は発効できないということになります。米国は原署名国GDPのほぼ六〇・三%を占めますので、米国が協定から離脱しますと発効条件の八五%以上というものに達しませんので、この協定は成立いたしません。歴史的なごみ箱に入れられたと、こういう表現もされているわけであります。
したがいまして、この国会でのTPP審議の意義というのは基本的に私は崩壊しているというふうに考えますが、政府・与党はあくまで今国会で成立をということでございますので、一国民の立場からこのTPP協定について意見を述べさせていただきたいと思います。
経済政策というのは、国民大多数の経済繁栄と安定を目的に策定されると私は考えております。経済利害というのは当然ながら経済的立場によって異なります。ですから、その政策実施によっていかなる人が利益を獲得し、いかなる人が不利益を被るのか、それを比較考量して、一部の人々のみが利益を得る、あるいは多くの人が利益を得ないという政策は採用すべきではありません。よく国益という言葉が言われますが、それは立場の違いによって異なるわけでございまして、政策を実行していく人たちは大局的立場から判断することが求められているわけであります。
トランプ次期米国大統領がTPP離脱表明をしたというのは、雇用の喪失、賃金下落という事態を招くTPPは米国の政策として間違っていると、そういう判断を下したからであります。代わって、トランプ次期大統領は、米国は公平な二国間貿易協定を進めると明言いたしました。この貿易政策というのは我が国に対してどういう影響があるかというのは、今日のテーマではございませんので差し控えます。本日は、現在、政府・与党が成立を急いでおりますTPP協定、これが対象になるわけでありまして、そもそもこのTPPというのは何なのかということをやはりきちんと押さえることが私は必要だというふうに思います。
言うまでもなく、このTPP協定というのは三十章から成る膨大なものでありまして、内閣官房のTPP政府対策本部がおまとめになりましたTPP協定の意義というのを読みますと、その本質がよく見えてまいります。二十一世紀型の新たなルールを構築する、TPPは、物の関税だけでなく、サービス、投資の自由化を進め、さらに知的財産、電子商取引、国有企業の規律、環境など、幅広い二十一世紀型のルールを構築するものと、これが一つ。それから、成長著しいアジア太平洋地域に大きなバリューチェーンをつくり出す、域内の人、物、資本、情報の往来が活発化し、この地域を世界で最も豊かな地域にすると。これは根本公述人が述べられたことと重なるわけでございますが。
ここから見えてくることは、TPP協定によって、海外進出を図る多国籍企業は国境を越える統合を円滑にいたしまして、国内市場を開放する継ぎ目のないバリューチェーン、まあサプライチェーンといいますが、そういうものを形成して、生産の効率性を高め、企業利益をグローバルに高めるということになっていきます。
TPPを推進する方は、自由貿易というのは、生産性を高め、イノベーションを引き起こす、そして輸出増大による高賃金職の創出につながると、こういうふうに言うわけでありますが、こうした貿易効果というのは既に過去のものになっております。企業が原材料から完成品まで国内において行って輸出を増加していると、こういう時代の話でございまして、確かに日本の高度成長時代は自由貿易は輸出の増進、雇用の増進につながりました。しかし、今日の多国籍企業の時代では、国境を越えて企業は利潤追求のための効率的なバリューチェーン、サプライチェーンを形成しますから、自由貿易の促進というのは必ずしも雇用の増大にはつながりません。
現在、米国のAFL・CIO、TPP批准反対を主張しておりますし、次期大統領ドナルド・トランプ氏がその声に耳を傾け、TPP離脱を行おうとしている背景、これは、一九九四年の北米自由貿易協定によって米国内の雇用が失われ、一九九〇年代の後半、IT革命による景気高揚にもかかわらず労働賃金の上昇にはつながらなかった、こういう苦い経験を踏まえて、TPPはそのアジア太平洋版であると言っていることが重要なポイントになってきます。
TPP協定が多国籍企業本位の国際連携協定であるということを示す事実は事欠くことがございませんけれども、例えば第三章の原産地規則及び原産地手続を定めた箇所を検討しますと、それが非常に明らかになります。ここでは、輸入される産品につきまして、関税の撤廃、引下げの関税上の特恵待遇の対象となるTPP域内の原産品として認められるための要件、そして特恵待遇を受けるための証明手続というのが定められておりますが、そして、国境を越えるバリューチェーンの観点からこの箇所の規定を見てみますと、複数の締約国におきまして、付加価値、加工工程の足し上げによって原産地を説明する、つまり完全累積制度ということでございまして、これは明確に多国籍企業が国境を越えるバリューチェーンを形成する、それを促進するということになります。
なぜかと申しますと、一般の原産地規則というのは付加価値方式でありますから、当然、当該国の付加価値のみが輸出の場合にカウントされるわけでございますが、累積制度を取りますと、当該国のみならず、輸入してくる先の生産された部品、中間財の付加価値も原産品としてカウントされますから、コストダウンのバリューチェーンというのを締約国内で自由に形成するということができるようになります。
したがいまして、自由貿易による輸出促進が雇用を増大させるというふうによく言われますけれども、必ずしもそうなる保証はどこにもないということであります。多国籍企業にしてみれば、賃金が高ければ、そうした地域を避けまして、締約国内のどこでも自由に企業活動ができる、他企業との取引も可能になるという、そういうものでございます。
第九章の投資におきましても、さらに、TPP協定は多国籍企業が締約国内のどこでも自由に企業活動ができるように様々な仕掛けを用意しているということがございます。投資しようとする締約国とそうでない他の国を差別してはいけませんし、一旦企業が設立されればその国の企業と同じように処遇すべきであるというそういう、外資系企業では差別してはならないとか、あるいはローカルコンテントの要求、技術移転の要求をしてはならないとか、様々なことがそこで定められております。
つまり、効率的なバリューチェーンを形成するということがこのTPPの目的であるということになりますので、言わばそうした様々な現地の企業の要望といいますか、そういうものが無視されて、多国籍企業本位の言わばサプライチェーン、バリューチェーンが形成されるということが大変大きな問題でございます。
そして、特にISDSという、これはよく言われていますので、ここで時間も限られていますので申し上げることを差し控えますけれども、そういう問題もございます。
そして、言うまでもなく、このTPP協定の大変大きな問題は、農産物におけるところの関税が、確かに一部では守られておりますけれども、それが中長期的には限りなくゼロに近づくという、そういうことが大変大きな問題になっているわけでございます。
これは、一般的に農業の問題であるというふうに考えられております。確かにそのとおりでありまして、こうした関税撤廃であるとか無関税枠が拡大していくということは、言わば日本の農業に壊滅的な打撃を与えるということと同時に、食料の自給率が低下する、あるいはそれに伴って地域経済の崩壊というものが引き起こされるという可能性が出てくるわけでございます。
TPPを推進する方は、関税撤廃による輸入製品の価格が低下して消費者が恩恵を被るというようなことを主張されますが、締約国から安い農産品や食品が日本に大量に入ってくるということになりますと、確実に日本の賃金は低下の傾向をたどるということになります。賃金は基本的に生活費から成り立っているということを忘れてはならないということであります。農産物の約八割が無関税で日本に入ってくるということになりますと、当然、食料品価格の低下と生活費の低下と賃金削減、こういうような事態になってきますと、日本経済のデフレと言われる状況、これは解消するどころか、より深刻な事態になるということが懸念されるわけであります。
更なる賃金低下、内需の落ち込み、デフレの進行と、これは魔のスパイラルと言われておりますが、こうした事態がTPPによって引き起こされるという可能性を否定することはできません。日本銀行が必死になって金融緩和政策をして、デフレを要するに物価上昇という方に持っていこうという政策を取っていますが、実体経済が停滞している以上、それはなかなか難しいということを考えなければなりません。
したがいまして、安倍首相も、賃金を上げる、日本経済を活性化したいというふうにおっしゃっているわけですから、そういう安倍首相の考えを実現するということを考えれば、まさにこのTPPから離脱することこそが、日本のそうした賃金、そして経済、地域の底上げということになる、それをやはり是非考えていただきたいということでございます。
したがいまして、多国籍企業、あるいは海外進出を図ろうとする一部の中小企業の利益には確かに私はTPPはなると思います。これはまさにそのとおりであります。しかし、TPP協定は、多くの労働者、それから農業者、それから中小企業の方、消費者、地域住民、そういう言わば層との矛盾というのを大変深くするということになります。したがいまして、私は、今国会でこのTPP協定を批准するということに対して反対いたしたいということが私の結論でございます。
以上です。