鳥畑与一の発言 (内閣委員会)

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○参考人(鳥畑与一君) 静岡大学の鳥畑です。よろしくお願いいたします。
 お手元の資料、全部で三枚ありますが、文書を読ませていただきます。中の資料等については一つ一つ説明をいたしませんので、御容赦をお願いいたします。
 この度は、参考人として本法案に対する意見発言の機会をいただき、ありがとうございます。
 衆議院内閣委員会等での質疑では、刑法百八十五条等で禁じられた賭博の違法性の阻却要件として八要件が議論されました。そこでは、国際観光や地域振興、そして財政に資することが統合型リゾート、IRの公共性を担保するものとして答弁されていました。
 私は、IRの収益エンジンとして組み込まれたカジノをIR型カジノと呼んでおりますが、このIR型カジノの経済的効果なるものが刑法の違法性を阻却するものであるかという観点から、甚だ浅学ではありますが意見を述べさせていただきます。
 現在、IR型カジノについて、投資額や収益からの経済効果のみが一面的に強調されています。しかし、米国議会国家ギャンブル影響度調査以降、ギャンブル収益は代替効果、共食いを伴うものであり、かつ、多くの社会的コストを発生させることが共通認識として確立されています。
 ギャンブルの経済的特質については、ノーベル経済学賞受賞者であるポール・サミュエルソンは「経済学」で、新しい価値を生み出さない所得の移転でしかなく、所得格差を拡大すると指摘しています。フィラデルフィア連銀のアラン・マラハは「カジノ・ギャンブル導入の経済的・社会的影響」で、カジノの経済的効果としては、地域外からギャンブル収益をもたらす目的地効果、それから州外に流れているギャンブル収益を取り戻す奪還効果、そして地域内での消費を奪う、単なる置き換えであるという代替効果、それから地域外の資本によることによって利益が地域外に流出する効果を指摘しつつ、純粋な経済的効果や財政に与える影響は、これらを総合的に評価するほか、社会的コストを加味する必要があるとしています。
   〔委員長退席、理事相原久美子君着席〕
 現在、米国各州では、新たにカジノを合法化する際にはカジノ設置に伴う経済的効果と社会的コストの総合的評価を行うことが一般化していますが、そこでは、カジノは経済的効果のみをもたらすものではないことが明らかになっています。
 例えば、カジノ推進派のダグラス・ウォーカーですら、「カジノ産業の本質」で、住民がギャンブルにより多く支出するようになれば他の財やサービスの支出が減る可能性もあるとして全米各州の調査を行ったところ、カジノが州の税収にプラスの影響を及ぼすことは確認できなかった、どうやらカジノは州の税収に対して何の影響も与えないか、ややマイナスの影響を与えるようだ、ギャンブル産業を合法化したり拡大したりすれば州政府収入にプラスの効果があるという言い分は成り立たないと述べています。
 カジノの純粋な経済効果はその立地や規模に左右されるため、一般論として結論できませんが、ニューハンプシャー州では、カジノ合法化するか否かの議論に当たって、超党派の調査委員会で地域別の経済効果と社会的コストの計量的評価を試みた結果、地域によっては経済的効果を社会的コストが上回ると結論しました。この結果、ニューハンプシャー州ではカジノ合法化の議会での否決が続いています。
 IR型カジノでは、一兆円規模の投資と巨大なIR施設運営を支える数千億規模の収益が実現するとされています。例えば、関西経済同友会の構想では、毎年約五千数百億円、約五十億ドルの収益が想定されています。かつてカジノ単体の構想が基本であったお台場カジノの収益予想は約三百億円、これと比較して、IR型カジノに衣替えすることで桁違いのカジノ収益が実現するとされるわけですが、それは現実的な推計なのでしょうか。
   〔理事相原久美子君退席、委員長着席〕
 IR型カジノのモデルでもあるラスベガス・ストリップ地区の大型二十三カジノのカジノ収益合計は約五十三億ドルで、平均二・三億ドルでしかありません。アメリカ大手カジノ企業MGMのラスベガスを中心とする米国内十二カジノの収益合計は約二十七億ドル、平均二・二億ドルです。
 ところが、マカオのMGMチャイナだけで最盛期三十三億ドルの収益となります。なぜ一桁多いカジノ収益が実現するのか。その秘密は、二十一億ドルを占める中国富裕層、VIPからの収益です。スロットマシンを中心にミドルクラスや高齢者をマーケットとする限り、数百億円のカジノ収益というのが米国の現実です。そして、ラスベガスですら赤字なのです。
 ところが、日本では中国富裕層を相手に荒稼ぎをしているマカオやシンガポールよりも高収益を上げることができるというその根拠は何なのでしょうか。普通の外国人観光客にちょっとカジノに寄ってもらうだけでマカオ、シンガポールよりも更に大きなカジノ収益を実現できると想定するのは極めて困難ではないでしょうか。
 提案者は、日本国内ではIR型カジノ数を制限するので過当競争にはならないとしますが、肝腎のアジアのVIP市場におけるIR型カジノ数を日本はコントロールできません。マカオのカジノ収益がVIP収益減少によって最盛期から四割減少したように、アジアのVIP市場が縮小局面に突入している中、韓国のリゾートワールド済州を始め複数のIR型カジノの参入が予定されています。そこに周回遅れの日本が日本にしかないIRの魅力を強調しても、肝腎のカジノは世界中どこでも同じカジノです。米国アトランティックシティーのカジノ産業は、周辺州のカジノ合法化によって最盛期の収益六十五億ドルから一五年には三十五億ドルにほぼ半減し、十二カジノ中五軒が経営破綻に追い込まれていますが、日本も同じ運命をたどる危険性が高いと考えます。
 提案者は、シンガポールにおけるギャンブル依存症対策の成功を大前提にして、日本でIR型カジノをオープンさせてもギャンブル依存症の発生を最小限に抑制できるとしています。カジノ収益を基にパチンコ等の既存ギャンブル依存症対策を講じることでギャンブル依存者の総数も減少できるとしています。
 確かに、シンガポールのNCPGの二〇一四年調査によれば、ギャンブル依存症率は、一一年調査時の二・六%から〇・七%に大きく低下しています。しかし、データを子細に見れば、カジノ参加率が七%から二%に大きく減少しています。住民数に置き換えると、二十六・五万人から七・七万人への減少となります。一方で、自己排除制度でカジノ入場禁止措置を講じた人数は三十二万人へと大きく増大しています。入場回数を基準にした規制を行っているとも仄聞しております。実際、カジノの入場料収入も大きく減少しています。
 NCPGは、ギャンブルは決して豊かにしてくれない、莫大な借金だけが残るだけだといった啓蒙ビデオの制作など、ギャンブルの危険性を徹底的に教育する活動も行っています。シンガポールのギャンブル依存症対策は市民にカジノをさせない政策であり、市民がカジノに行かなくなったから依存症率が低下しているのではないでしょうか。
 さらに、上記調査の回答率が大きく減少しており、隠す病気と言われるギャンブル依存者が回答していない可能性も考えられます。ギャンブル依存症は時間を掛けて顕在化してくるとされており、二〇一〇年オープンのカジノの負の影響を現時点で評価するのは早過ぎます。
 それでも、自己破産数が二〇一一年の五千二百三十二件から一四年には七千八百九十一件へ、そして犯罪件数も二〇一三年以降増加傾向に転じ、とりわけ詐欺、横領、コマーシャルクライムが二〇一二年の三千五百七件から一五年には八千三百二十九件に異常な増大を示しています。現に、NCPG自身が現時点で成功したと結論できないこと、カジノに通う十名のうち四名が依存症になる可能性があると言われていると、常習者における依存症の危険性を述べていることは重要です。
 米国の一九九九年と二〇一三年のギャンブル依存症率の比較を行ったウェルテ等による研究によれば、責任あるギャンブルに基づく様々な取組にもかかわらず依存症率は減少していません。カジノに通いやすい環境にある住民の依存症率が高いことも改めて確認されています。カジノのギャンブルが他の既存のギャンブルよりも依存症率を誘発する危険性が高いことが明らかにされており、カジノ収益でギャンブル依存症対策を取れば問題ないという姿勢は、日本のギャンブル依存症問題を一層深刻化させると考えます。
 提案者は、IRの中でカジノの占める面積はほんの一部でしかなく、あくまで家族みんなが楽しめる統合型リゾートであると言います。しかし、それは家族ぐるみでギャンブルに誘引する仕組みとも言えます。例えばラスベガスでは、ギャンブル目的の初訪問客は一%ですが、リピーターでは一二%に増大します。平均三泊四日の滞在中に七三%がギャンブルを経験することで、より多くの客がギャンブル常習者への道をたどることになります。IR型カジノは、家族ぐるみで来訪させ、お父さんもお母さんもギャンブルを経験させることで、ギャンブル依存症になる可能性を国民全体に広げる施設だと考えます。
 しかも、シンガポールのIRで収益の八割をカジノ収益が占めるように、巨額投資の回収と他部門の赤字の補填を行いつつ二〇%以上とも言われる高い投資収益率を実現するために、毎年数千億円のカジノ収益実現が求められる収益エンジンとしてのカジノなのです。シンガポール政府は市民のカジノ参加率を二%に減少させましたが、大阪の夢洲構想では八二%が国内客とされるように、国内収益中心のIR型カジノではシンガポール型規制は不可能であり、逆に国民全体をギャンブル漬けにしていく極めて強い経済的衝動を持つカジノというのがIR型カジノの本質だと考えます。
 外国観光客、とりわけ中国富裕層が獲得できず、国内客比率が高まるほど、国内における購買力の移転でしかなくなり、日本経済におけるマクロ的プラスは期待できません。ましてや、二〇一二年以来百四十八億ドルを株主に利益還元したと誇るラスベガス・サンズ等の外資がIR型カジノの運営を担った場合は、漏出効果、利益流出でマクロ経済的にもマイナスとなります。その上、ギャンブルで所得や貯蓄を失うことによる経済的困難者の増大等を通じた貧困格差を一層促進することになります。また、周辺地域のマネーがIRに吸い込まれることで、地域間の経済的格差や地域経済社会の破壊が進んでいくことになります。
 IR型カジノの本質は、ギャンブル収益による他部門の赤字補填に見るように、コンプと呼ばれる価格サービスを行う点にあります。ギャンブル収益のない既存の商店街やレストラン、ホテルなどは、不平等な競争を強いられ、淘汰されていく危険性が高まります。犯罪誘発などの社会的被害が地域社会に負わされていく危険性も高まっていきます。
 さらに、高齢者がギャンブルを通じて老後の生活資金を失う危険性が高まります。米国では、カジノ収益の六割前後がギャンブル依存症者によると言われるように、客を依存症状態に誘導することで高収益を上げるカジノビジネスにおいて、賭けに負けたあなたが悪いという自己責任論で片付けることは許されません。IR型カジノは、通常のカジノよりも地域経済を破壊する危険性の高い施設と考えます。
 かつてチュニカの奇跡と呼ばれたミシシッピ州のチュニカも、地元カジノの破綻でチュニカの奇跡は終わったとされています。アトランティックシティーも衰退が進んでいます。米国アトランティック誌、二〇一四年八月七日付けですが、地域経済を破綻させるいい方法、それはカジノを造ることと表現したような事例が顕在化しています。巨額投資のみが先行し、期待される収益が実現しないことで経営破綻に追い込まれたリゾート開発の繰り返しになる危険性が高いと考えます。国際観光数等も、IRなしでもシンガポール以上に増大しています。IR型カジノに刑法の賭博罪の罪を阻却する公益性があるとは思えません。
 本法案では、シンガポールのNCPGのようなギャンブル依存症対策の専門機関設置を義務付ける条文がありません。また、カジノ設置の経済的効果のみならず社会的コストの調査や、最終的には住民投票などで受入れ地域の意思を尊重させる条文もありません。基本法と実施法を分離することで重要な欠陥を先送りすることは、国会の国民の未来に対する責任放棄であると訴えて、私の意見を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 鳥畑与一

speaker_id: 6120

日付: 2016-12-12

院: 参議院

会議名: 内閣委員会