岩村正彦の発言 (厚生労働委員会)
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○岩村参考人 岩村と申します。
東京大学大学院法学政治学研究科の教授として、社会保障法、労働法を研究しております。
本日は、参考人としてお呼びいただき、まことにありがとうございます。
今回は、労働政策審議会の委員としまして、法案策定の議論に参画してきた雇用保険法を中心に意見を述べさせていただきたいと存じます。
雇用保険は、社会保険方式によって、失業という事態に直面した方々の生活の安定を図りつつ、再就職に向けた支援を行うということを最も基本的な目的としております。
雇用保険が対象といたします失業は、その発生状況が雇用情勢に非常に大きく左右されるものでございます。ですので、長期的な見通しに立ちつつ、しかし、その時々の雇用情勢に適切に対応して、失業している方々のための適切なセーフティーネットとなるよう設計し、運用をしていくということが肝要と考えております。
雇用保険制度のあり方を検討する際には、失業している方々が働く希望を持ち、再就職して活躍していただけるにはどうすればよいかという観点とともに、失業期間中の生活の安定という点は十分なのかという観点が求められるところでございます。労働政策審議会、具体的には雇用保険部会で法案策定のための議論をしてまいりましたけれども、こうした観点は委員の間で共有されているというふうに考えております。
まず、今回の改正につきましては、リーマン・ショック時には雇用危機がありましたけれども、現在では雇用情勢が大きく改善しているという状況にあります。こうした状況と昨年の改正後の状況とを踏まえて、給付、負担の両面をどうすべきかということを議論してまいりました。
まず、失業した際の保障を提供する給付についてでございますが、リーマン・ショック時に創設された暫定措置が本年度末に期限を迎えます。この扱いにつきましては、雇用保険部会では、現在でも一定の支給実績があることから、終了すべきではないという意見がありましたが、他方で、給付日数の拡充によって就職活動時期が後ろ倒しになるといった弊害があるため、このまま終了すべきという意見もありました。
これらの意見や、暫定措置が難しい雇用環境下で設けられたものであるということを踏まえて議論をいたしました結果、暫定措置については一旦終了した上で、雇用のセーフティーネットとして求められる手当てとして、若年層の給付日数の拡充、雇用情勢が悪い地域に居住する方々の給付日数延長の五年間実施などを行うべきという結論に至ったところでございます。
これらの措置は、失業している全ての方々の給付日数を単純に延ばすというものではございません。これまでの検討で明らかになっている給付が持つ効果等を勘案しまして、雇用のセーフティーネットとして必要な部分に限定して措置をしたものでございます。したがって、雇用保険の目的である失業中の生活の安定、早期再就職の促進という観点からも妥当な結論であると考えております。
次に、教育訓練給付に関しましては、今回の法案では、専門実践教育訓練給付の拡充を行うこととしております。少子高齢化が進む中で、労働者の職業能力の開発、向上が必要という時代背景を踏まえますと、教育訓練を支援することは必要であり、妥当な施策と考えております。
続いて、雇用保険の財政について御意見を申し上げたいと思います。
雇用保険の制度を考えるに当たりましては、財政の観点からのみ論じるというのは適切とは言えません。しかしながら他方で、雇用保険というのは公的な社会保険制度でございまして、その健全な運営というものが常に求められております。したがいまして、財政面にも着目して議論をするということはやはり必要でございます。財政面では、今回の法案では、雇用保険料率の時限的な引き下げを行うこととしております。
雇用保険の財政に関しましては、積立金が多額に上っているという御指摘も多々いただいているところではございます。
私が考えまするに、雇用保険の積立金には二つの意義がございます。一つは、当該の年度に支給される給付の原資となるということでございます。積立金の意義にはもう一つございまして、実はこちらが非常に重要でございます。それは、雇用情勢が悪化し失業がふえたときに、雇用保険料を引き上げずに給付を安定的に支給するための原資となるということでございます。
したがいまして、積立金を十分に持っておくということは大変重要でございますし、そもそも積立金は、企業と労働者の方々から失業に備えるための保険料として徴収したものを積み立てているというものでございますので、この観点からしましても、ほかの用途に使うということは許容されないものというふうに考えております。
そうはいっても、現在、積立金が一定額に上っていることも事実でございますので、先ほど御説明しましたような給付面での必要な手当てを行っても財政的に安定運営が見込まれるということを大前提としつつ、保険料率をさらに千分の二引き下げまして、労使の負担軽減を行うということといたしました。このため、この保険料率の引き下げは三年間に限定した措置ということになっております。
あわせて、国庫負担につきましても、過去、雇用保険料率とあわせて一定程度軽減してきた例があるということに鑑みまして、その軽減を行うということはやむを得ないという結論に至ったところでございます。
ただし、部会におきましては、公労使の三者から一致して、今回の措置は国庫負担を速やかに本則に戻すべきであるという考え方を変更するものではなく、国庫負担の引き下げは三年間に厳に限定すべきであるとの強い意見が示されたということを強調しておきたいと存じます。
雇用情勢は国の経済政策、雇用政策によっても変動するものでございまして、その意味で、国庫負担というのは国の責任を体現しているものと考えております。ですので、本則に定められているとおりに国も負担をするのが本来の姿だというふうに考えているところでございます。
最後に、まとめますと、雇用保険制度については、経済情勢、雇用情勢に応じて適切にその時々の必要な措置を講じていくことが肝要と考えております。また、実施した措置の効果も把握、検証し、可能な限り、それによって得られた実証的なデータに基づいて議論をしていくということが必要であると考えております。
最後になりますが、労働政策は、何よりも労使において議論を尽くし、その合意を得て行うということが、労働政策の実効性を確保する観点からも最も重要なことであるというふうに私は考えております。今回の今御審議をいただいている雇用保険法の改正法案というものも、まさに労使が議論を尽くして合意に達し、それをベースとしてつくられたものでございます。この点につき、ぜひ御理解を頂戴いたしたく、お願い申し上げる次第でございます。
以上でございます。ありがとうございました。(拍手)